吉田直樹(よしだなおき)
スクウェア・エニックス 取締役 第5ビジネス・ディビジョン ディビジョンエグゼクティブ。『ドラゴンクエスト』初のアーケードタイトルである『ドラゴンクエストモンスターバトルロード』シリーズのゲームデザインとディレクションを担当。2010年12月に『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。
2019年3月23日~3月24日の2日間、幕張メッセで開催された『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の大規模ファンイベント“ファンフェスティバル 2019 in Tokyo”。この日に行われた基調講演で、次期拡張パッケージ『漆黒のヴィランズ』の新情報が多数明らかになったが、それによって新たな謎が生じたのも確かな事実だ。そうした疑問を晴らすべく、吉田直樹プロデューサー兼ディレクターにメディア合同インタビューを実施。『漆黒のヴィランズ』のさらなる魅力を、短時間ながら聞くことができた。
──まずは、ファンフェス1日目を終えた感想をお願いします。
吉田これほど大規模なイベントなので、導線や待機列などで多少ミスがあったようですが、何とか無事に初日を終えられました。これから修正に向けてスタッフと話そうと思っていますが、まずは大きな事故やトラブルが発生せずに終われたので、正直ホッとしているところです。僕としても、今回3つ目となるファンフェスの基調講演をやり遂げられて安堵しています。
今後も、『漆黒のヴィランズ』発売後に中国と韓国の公演が控えているのですが、グローバル版の発売前の基調講演を無事に終えられたので、とりあえず僕の仕事は50パーセントくらい終わったのかなと。ちょっとだけ気が楽になりました。
会場を埋め尽くしてくださった光の戦士の皆さんには、感謝の言葉しかありません。遅い時間まで立ちっぱなしだったので、足が棒のようになってしまったかもしれませんが、最後まで元気にピアノライブを観てくださって……本当にうれしく思います。
──『FFXIV』を追い続けている我々からすると、E3 2005で発表された次世代MMO(大規模多人数同時参加型オンライン)RPGの技術デモの映像が、クリスタリウムの街の外観と類似しているなという印象を受けました。このあたりも、旧『FFXIV』の改修の一環という位置づけなのでしょうか?
吉田じつは、あそこまで早く気づかれるとは思っていませんでした。
──一瞬で気づきました(笑)。
吉田あ、そうですか。ずっと追ってらっしゃるからやはり……(苦笑)。
──ここでこれを使うのかと。
吉田ぜひ、明日(2019年3月24日)の開発パネルをご覧いただきたくてですね……。おかしいな……「そうだったのか!」みたいになるはずだったのですが(苦笑)。明日の開発パネルは、新生『FFXIV』からずっと皆さんの冒険世界を作ってきたふたりが、かなりおもしろいセッションを行うので、その中でクリスタリウムがどのような街で、どのように作られていくのかといったところにフォーカスを当ててお話ししようと思っています。(E3 2005の映像の)謎がシンクロした方は、ぜひご覧いただきたいです。
──そちらを見てくださいというわけですね(笑)。
吉田そうですね。大部分はそれでわかると思います(笑)。これ以上お話しすると、開発パネルのオチが全部出てしまうので……。
──新ジョブの踊り子が発表されましたが、主要パラメータは何でしょうか?
吉田レンジ系DPSですから……。
──DEXですか?
吉田そうなってくるのだろうなと思います。何しろ、装備は(レンジ系DPSで)コンパチですので。
──とすると、忍者も含めて4つのジョブの主要パラメータがDEXになってきます。たとえば、忍者の数値をSTRに移すみたいなことはあるのでしょうか。
吉田まぁ……うん(苦笑)。これ以上のお話は、5月中旬(に実施予定のプロデューサーレターLIVEでの発表)になります。
──まだ何もおっしゃってないですよ(笑)。
吉田バトルシステムに絡むものは、ひとつのシステム変更だけをお話ししても、たぶん理解できないはずです。新生を迎えてから丸6年間運営を続けてきた結果、いろんなシステムが連鎖してつながっています。たとえば、一部を変えるにしても、バトルシステムに詳しい方であれば「それなら別の場所に対しての影響はどうなるんだ」という部分に考えが及ぶはずです。いまの段階でピンポイントに一部だけをお話ししてしまうと、いまのネット社会では雰囲気や誤解が定着してしまうので、理由やほかの要件を後からいくら説明しても、なかなかそうした部分が書き換わってくれなかったりします。
5月に行われるプロデューサーレターLIVEのタイミングで、バトルシステムに関わる変更箇所や各ジョブ/ロールのイメージを詳細にお話しします。当然、取材陣の皆さんにもメディアツアーなどで実際に実機に触れていただく機会も作るつもりです。そのときのインタビューで、すべてをお話ししていこうかなと思いますので、すみませんがそれまでお待ちいただけると助かります。
──踊り子がレンジ系DPSであることに驚いた人は多いと思います。タンクのガンブレイカーが先に発表されたことで、「つぎはヒーラーだろう」と予測した人も少なからずいたのではないのかなと。『漆黒のヴィランズ』で、タンクとレンジ系DPSの追加を決めた理由はお聞かせください。
吉田ヒーラー案も、なかったわけではないです。それは、べつに踊り子をヒーラーにするという意味ではありません。『FFXIV』の拡張パッケージの制作に着手する際に、僕らはまずゲーム体験の構築を最優先に考えるので、そもそもどのロールにジョブを足すのかというところから着手します。
タンクの追加は、「STとMTというふたつの役割が存在するのに対して、奇数であるいまの3ジョブの状態はバランスが悪いな」という理由から、早い段階から決めていました。これは完全に仮のお話ですが、MTが2ジョブ、STに2ジョブという分けかたをするにしても、3ジョブのままではMT枠かST枠のどちらかに役割が固定されてしまいます。また仮に、どちらの役目も果たせるバランスを目指したとしても、ちょっとした違いや有利不利で、どうしても“MT向き”や“ST向き”みたいになってくるはず。そうすると、奇数の場合は“2対1”という関係性が生まれやすいので、4ジョブにしてしまったほうがバランスを取りやすいだろうというところが実装の理由としては大きいです。
あと、ルックスの面でもガンブレードという象徴的な発明(オリジナル)武器を足すことで、オンラインタイプの『FF』になかなか食指が動かなかった人にも訴求しやすいだろう……そういう狙いから、ガンブレイカーはわりとすぐに決まりました。そのうえで、どのロールにジョブをもうひとつ足そうかと考えたときに、最後まで残ったアイデアは、単純に現在2枠しかないレンジ系DPSを足すという案と、4ジョブ目としてのヒーラーを追加する案のふたつでした。
皆さんご存じの通り、3つのヒーラーのバランスは最後まで苦労しているところです。フェアリーが存在するぶん、どうしても学者の性能が飛び抜けてしまう部分にいまでも苦慮しています。この問題を解消すべく、『漆黒のヴィランズ』に向けて大きくバランスを取り直すにしても、いま4ジョブ目を足したとして、はたしてその後の調整をやり切れるのかという疑問が残ります。加えて、ピュアヒーラーとバリアヒーラーという違いはあるものの、MTとSTのような役割の差は現時点で存在しません。であれば、ヒーラーに関しては3つのジョブ間のバランスを取ることに集中。そのうえで、現在ふたつのジョブしかないレンジ系DPSにもうひとつ足して、ロールごとのジョブの数をきれいにそろえたほうがいいのではないかと考えました。だとすれば、レンジ系DPSのジョブは何が最適か……そうしたところから候補を絞っていった結果、踊り子に決まった感じです。
──『FFXIV』のプレイヤーの多くは、『FFXI』の踊り子のイメージに引っ張られているのかなとも思うのですが、双方はけっこう近いところにあるのですか? それとも、まったく別の設計ですか?
吉田ぜんぜん別です。
──逆に『FFXI』を遊んできた方が、「これを持ってきたんだ」と感じる部分もまったくないと。
吉田『FFXI』に限らず、技の名前やエフェクトに歴代の『FF』テイストを感じてもらえるように作るのが『FFXIV』流でもあります。過去作に登場した踊り子の印象を感じてもらえるような要素をにおわせつつ、『FFXIV』独自のゲーム体験を作るのが我々の理想です。“似ているようで似ていない”が正解ではないでしょうか。
その代表格は、侍ではないのかなと。『FFXIV』では、『FFXI』の武者のようなイメージから、着流しの浪人の侍を作り上げました。その結果、侍としてのイメージやデザインが確立できたと思っています。今回もそういった形で、『FFXIV』ならではの踊り子に仕上げつつ、どこかに懐かしさも感じてもらおうかなとは思っています。
──踊り子のモーションは男女ともに同じと話しておられましたが、双方で違うものにする計画はなかったのですか?
吉田一度でもそれをやってしまうと、「ほかのジョブでもそれをやってほしい」という流れになってしまいます。あとはやはり、メモリー配分の問題ですね。当然ですがジョブアクションに関しては、すべてオンメモリーで即時再生が必須になります。特定ジョブに複数のモーションを常駐させてしまうと、使ってもいないのにすべてのジョブに複数のモーションが用意される形になるため、システムが破綻してしまいます。このあたりはゲームの根幹設計なので、絶対にやらないです。
──つまり男性の踊り子も、色っぽい踊りをすることになると。
吉田ゲーム制作においても、いまジェンダー問題が非常に難しい状況になっています。“踊りを踊ったらセクシー”という固定観念自体がもうマズいと思っています。ですので、今回は“なぜ彼らは踊りを踊るのか”というところが、しっかりとジョブクエストに根差して作られており、彼らが踊らねばならない理由に性別による差はありません。また、それによって味方を鼓舞して敵を倒すという考えかたをしているので、鼓舞するものがセクシーであるかどうかは無関係という位置づけです。
現実に存在している踊りは、すごく古い歴史を持っているがゆえに、“男性はこうあるべき、女性はこうでなければならない”みたいな状況から生まれたダンスがたくさんあります。それらを参考にしすぎると、性別の色合いを含むモーションになってしまうので、最初のサンプル映像を見たときに「それはやめなさい。たいへんな作業になるけど、オリジナルでちゃんと考えていこう」とスタッフに伝えました。一部のステップをほのかに取り入れるのはいいとは思うのですが、動きそのものを踏襲するとプレイ時にジェンダー差が出てしまうのでやめようと伝えた感じです。けっこうたいへんな作業でした……いまのゲームは、いろいろ難しい時代なんです(苦笑)。
──高難度レイドのキャラクターデザイナーに野村哲也さんを起用することが発表されました。野村さんに声を掛けた理由と、場内のファンの反応を見たうえでのいまの感想をお聞かせください。
吉田哲さんは、魅力溢れるキャラクターを描くことと、キャラクターを通して設定や世界観を考えることにかけては天才だと思っています。オンラインの『FF』に、そうしたエッセンスがなかなか入ってこない現実に、いち『FF』ファンとしても忸怩たる思いがありました。哲さんはものすごく多忙な方でもあるので、どこまでやれるのかという問題もあって……。そんな中にあって、『FFXIV』の3周年を記念してイラストを描いていただいたりと、ちょこちょこ仕事をお願いしてはいました。
“希望の園エデン”というタイトルで新しいレイドを作っていくときに、キーになるキャラクターが何人かいるのですが、その中で主軸になるひとりを描いていただきたいという話を、昨年の夏くらいにお伝えしました。その結果、「たぶん大丈夫だよ」というお返事をもらっていたのですが……すごくたいへんな作業だったみたいです(笑)。
ですが、最終的に見事に描き切ってくれました。これは装備にも言えることですが、哲さんならではの色気を『FFXIV』で再現するためにモデリングを調整していくところは、我々にとっても刺激になります。お客様の視点から見たときに、若い世代の『FF』ファンは哲さんの絵になじみが深いので、そうした方々にそこでまた興味を持っていただいて、引き続き『FF』のテーマパークとして楽しんでもらえたらなと。……じつは『FFXI』のスタート当時、一部のキャラクターの絵を哲さんが描いているんですよね。
──そうですよね。シドの絵とか。
吉田『FFXIV』にはそれがまだなかったので、「哲さん、何とかお願いしますよ」と(笑)。快く応じてくれたので、いま作画中のモンスター側も、きっとものすごいデザインが仕上がってくると思います。とはいえ、皆さんがそれに出会えるのは、かなり先になるはずです。僕自身も、すごく楽しみにしています。
──希望の園エデンに関して、具体的にどういうストーリーが展開されるのかといったところがまだ明かされていません。その理由は、『漆黒のヴィランズ』のシナリオと密接に関係しているからなのでしょうか?
吉田そうですね。少なくとも原初世界の話ではなく、第一世界で起こるレイドだと思っていただいて構いません。大迷宮バハムート、機工城アレキサンダー、次元の狭間オメガと3つのレイドを制作してきて、今回は「いったん『FF』のベーシックなところに戻ろうか」という話をしています。クラシックな『FF』にちょっと近い、『FF』らしいレイドになるのではないのかなと。現在のところ、4層まで組み上がっています。ギミックに関しても、「はぁ!?」と言ってもらえるようなものをご用意してあるので、皆さんに驚いていただけるはずです。何しろ、ニヤニヤしながら担当スタッフが自慢げに僕に見せに来たレベルなので……よくできていると思います(笑)。
──『漆黒のヴィランズ』では、天候と夜を取り戻すのが目的とのことですが、これは蛮神戦やレイドとは異なる、別の新しいコンテンツになるのでしょうか?
吉田既存のメインストーリーを追いかけていく過程で、「このエリアを開放して夜を取り戻したので、つぎのエリアも!」みたいな形で進んでいくので、エリア攻略型ともいうべき作りです。光の勢力に押し潰されようとしている場所を、クリスタリウムのあるレイクランドを起点に闇の戦士が“闇に塗り替えていく”みたいに思っていてください。シナリオの進行度合いがプレイヤーによって当然変わってきますので、今回は同じエリアにいながら人によって見えかたが違う……といったところに挑戦しています。
──この人のクライアントでは夜だけど、別の人には昼に見えたりすると。
吉田ありえますね。
──個人のストーリー進行の積み重ねによって変わるのですか?
吉田メインシナリオに密接に絡んでいますので、そうなります。けっこう無茶なシステムを作りました。
──第一世界と原初世界のあいだは、行き来できるのでしょうか?
吉田光の戦士は、“超える力”によって可能です。
──(笑)。
吉田非常に便利な設定を考えたものだなと(笑)。超える力がありますので、次元の狭間や並行世界を超えられます。ただ、パッチ3.4の“闇の戦士編”で、第一世界の側からやってきたかつての光の戦士たちが、命を捨てることで原初世界へ……というフックが存在したかと思います。それをしなくて済む要素がひとつ存在するのですが、それもメインシナリオにかなり密接に絡んできます。
単純に超える力だけで世界を超えられるわけではなく、そのパワーをさらに増幅させる何かがある、そんな風にいまは考えておいてください。「光の戦士は1回死ぬんだ!」みたいな展開はとりあえず……安心していただければと(笑)。一度第一世界に行けば、ちゃんとテレポも使えるようになりますし。
──ギルは使うのですか? コストはどれくらいでしょう。
吉田そこは転送網を維持するためにですね……(笑)。第一世界ではギルが流通しているのかとか、いろいろあると思います。ほかにも、アラグ帝国がないということは、アラガントームストーンの扱いはどうなるのかなど、いろんな疑問が浮かんでくると思います。そもそもロウェナがいないかもしれませんし(苦笑)。我々が徹底的に設定を作り、ちゃんと皆さんに納得いただける形にしてありますので、そこはぜひご覧いただきたいです。
ついにアラガンではないトームストーンが出てくるのかどうか……そこもうまく作ってあります。それくらい、異世界と原初世界の双方が体験としてつながるようにしてあります。ほかにも、「リテイナーはどうするんだ!」みたいに、開発はたいへんでしたけどね(笑)。
──新種族のロスガルに関して、吉田さんは「獣人をどうしても入れておきたかった」みたいなニュアンスのお話をされていました。そのあたりをもう少しお聞かせください。
吉田『FF』は美男美女が登場するゲームではありますが、『FFX』にもあったように、ルックスの面でもっと強いイメージのキャラクターがいてもいいのではないのかなと。よく引き合いに出していたのが、小説の『グイン・サーガ』だったりします(笑)。やはりファンタジーを作っていくうえで、そうした部分にもスポットライトを当てたいという思いが僕の中にはあります。また、仮にイケメンをこれ以上追加していたとしても、単に耳の形が違うだけになってしまうのでは……という懸念も拭えません。
きっかけのひとつは、ベーシックなウルフマンという落書きのようなアートの公開を契機に、『紅蓮のリベレーター』で人狼族が実装されたことです。とはいえ、いまのパッチ公開のペースを維持したまま種族をこれ以上増やしてしまうと、やはり二の足を踏んでしまいます。何しろ、大量の武具データを作り出すことを考えると、新種族を追加することで開発コストが掛け算で増えていきますので……。現在のワークフローを勘案すると、種族を足せたとしてもあとひとつになるはず。悩みに悩んだ末に、今回はどっちも取りに行くことにしました。そのあたりが、思いとしては強いですね。
──それで、いまのTシャツを着ておられると。
吉田そうです。ライオンを出すよと(笑)。もともと今日の基調講演で発表する予定だったので、ストレートな表現でいいかなと思ってこのTシャツを着ました。今日はライオン気分(笑)。
──ロスガルは頭がすごく特徴的ですが、頭部向けの装備はけっきょくどうなるのですか?
吉田表示されません。
──ほほう。
吉田ヘルメットが作れなくなるので、ロスガルのような顔の長さや各部位のパーツは、これまで『FFXIV』のルールではNGでした。たとえばですが、ヴィエラの耳を付ける位置をもっと横に倒してミコッテと同じ位置にしないと、『FFXIV』の仕様にはハマらないんです。ですが今回は、思い切ったルックスの新種族を作らないと意味がないので、“ヘルムはかぶれなくていい”というルールを最初の段階で僕が決めていました。ですので、どのヘルメットを装備したとしても、基本的にグラフィックスには反映されません。ただ、かぶりものだけは対応してあげたかったので、首を丸ごとすげ替える形にしました。たとえばスノーマンの顔ですとか……あれ、でもスノーマンは顔が開くからどうだったかな……。
──(笑)。たとえば、でぶチョコボヘッドはいかがですか?
吉田かぶれます。
──メガネはどうですか?
吉田メガネ系やサークレット系はダメです。“これはよくてあれはダメ”をやってしまうと、検討の対象になるアイテム量がものすごいことになります。ですので、頭装備のグラフィックスは基本的に表示なしです。頭部を付け替えるだけでいいものは例外的に許可する、という形にしました。
──NPCとして登場するヴィエラがメガネをかけている……みたいなことはありえますか?
吉田「NPCができるのに、なんで自分たちはできないんだ!」という流れになるので……。それをやろうとするスタッフがいたら、僕が止める気がします。もう少し経験を積んで、工数を短縮できるようになれば、その段階で少しずつ対応できる部分があろうかと思います。ですが初期の段階でそれをやるつもりはないです。いまそれを行うと、新種族の追加自体が実現不可能になってしまいます。
──ぜひ期待しています。
吉田そうですよね。小さな丸メガネを置きたいですよね。わかります(笑)。
──ヴィエラとロスガルの実装は、どのあたりのタイミングで決められたのですか?
吉田『紅蓮のリベレーター』の発売後、3ヵ月ほど過ぎたあたりです。その時点でヴィエラは確定しており、「松野さん(松野泰己氏。リターン・トゥ・イヴァリースのスペシャルゲストクリエイター)のプランを出すならそうしましょう」という話をしていたはず。ロスガルも、それくらいのタイミングで決まっていたはずです。
ライオン顔やヒョウ系の顔といった感じで、とくにロスガルは顔のタイプをガラッと変えられるようにしてあるので、かなり早い時期から制作に取り掛かりました。ヴィエラは、ファンフェスのパリ公演が開幕する直前あたりで仕上げています。ロスガルが出来上がったのは、つい最近ですね。
──ララフェルはドワーフという名の蛮族だったという衝撃の事実が明らかになりました。そもそも人類を蛮族と呼んでいたのはガレマール帝国だったはずですが、第一世界にこの国は存在しませんよね。
吉田存在しません。でも、たとえば日本語にも蛮族という単語は存在しますよね。それと同じで、第一世界の標準言語の中に「あいつらは人というよりも野蛮な種族だ」という呼び名があるので、それが蛮族であると思っていてください。少なくとも、ガレマール帝国が名付けた蛮族という言いかたが用いられているわけではありません。“はずれもの”と思われている……そういう理解でいいのではないのかなと。
時代や政治思想によって、どの種族が蛮族と呼ばれるのかは変わってくる……世界設定本のエンサイクロペディアに、そうした伏線が張ってあったりします。時代や世界が変われば、もとは同じエーテルから派生した者たちであっても、ときには蛮族と呼ばれたりもします。たとえばですが、このままガレマール帝国が原初世界のすべてを制圧した場合、ガレアン族以外のすべての種族を蛮族と呼ぶ可能性が出てくるはず。それと同じです。そのときの制圧者や政治思想によって、蛮族の定義が変わると思っていただければと。
──第一世界の蛮族は、蛮神を呼んだりするのでしょうか?
吉田どうでしょう。いずれにせよ、第一世界は分裂が原因である意味壊れてしまっている世界です。クリスタルの力を使って強く願うと、それが神降ろしとなって蛮神が顕現してしまう事象は、ほかの並行世界でも起きている可能性は高いかなと思います。ですが、そのことと、『漆黒のヴィランズ』に蛮神というものが登場するのかどうかは、また別の話です。
──ドワーフは「ラリホー」と言うのでしょうか? また、ふくよかなミコッテがトレーラームービーに登場していましたが、あのような容姿を持つプレイヤーキャラクターを作り上げることは可能ですか?
吉田世界中にはいろんな体型の人がいて然るべきではあります。ですが、コストの都合上、そうしたバリエーションの広がりを現状作れていないのも事実です。今回、思い切ってコストを掛けて、体型が異なる既存の種族を作れないものかという検証作業を始めていて、今回はその一環になります。
そうして生み出されたキャラクターの中には、メインストーリーに絡んでくるタイプもいるので、そのあたりをストレートに見たうえで感想をいただければなと。「ラリホー」に関しては、“言わぬが花”のような気がします。
──最初に映し出された髭を生やしたドワーフは、歴代の『FF』に登場してきたドワーフをイメージしているのですよね。
吉田そうです。ドワーフから仲間であると認めてもらえれば、皆さんがドワーフヘルムをかぶれる日が来ると思います。あれを装備すれば、誰でもそうなるかなと(笑)。
──とすると、ドワーフの蛮族クエストが……?
吉田そうなる可能性は十分あると思います。ほかの蛮族と同様、ドワーフたちはいくつかの派閥に分かれていて、小競り合いをしているようです。僕たちから見れば、子どものケンカみたいなものかもしれません(笑)。それぞれの関係を取り持ってあげたり……みたいなところは、いずれ出てくるかもしれません。
──ララフェルの冒険者がその場所を訪れると、友好的に迎えられたりするのですか?
吉田皆さん、ヒゲもヘルメットも着けてないですよね。
──なるほど(笑)。
吉田「お前はドワーフの掟を捨てたな!」みたいに言われる可能性は、十分にあるかなと。今回は、ひとつの新しい世界というかファンタジーを作っていこうみたいなところもポイントだったりするのではないでしょうか。
──家のサイズがララフェル向けなのも、そうした方針の一環ですか?
吉田『紅蓮のリベレーター』でさまざまなアウラたちの生活を描いたところ、当然ですがエレゼンやミコッテにも同じものが欲しいというお声をいただきました。そこで今回は、世界的に人気のあるララフェルというかドワーフにスポットを当ててみようという話になった感じです。
──ララフェル(ドワーフ)の家に入れないことによって、クエストに進行に支障を来すようなことは?
吉田そこは大丈夫です。それをやってしまうと「吉田め、幻想薬を買えということか!」という話になってしまいますので(苦笑)。
──ロスガルは、ルガディンよりも身長は高いのでしょうか。
吉田何をもって大きいとするかによります。というのも、ロスガルは猫背なんです。背筋をピンと伸ばせばルガディンよりも高いと思いますが……。筋骨という面ではルガディンよりも一段たくましいので、甲冑系の装備は似合いますよ。いままでにない“ヒーロー感”みたいなところは押し出しやすいはずです。キャラクタークリエイションのバリエーションも人によってまったく変わってきます。現在、キャラクタークリエイションの初期表示のタイプを決めているところなんですが、「これはロスガルっぽくない!」みたいに、ちょっとケンカになっています(笑)。
──ロスガルの素肌が思った以上にツルツルしているなと感じたのですが、キャラクタークリエイションでそうした部分をフサフサに変えたりできるのですか?
吉田描画エンジンを進化させない限り、それは無理ですね。いまの状態でそういう処理を入れたら、たぶん『FFXIV』が動かなくなってしまうはずです。
──“もふもふエンジン”を作るしかないと。
吉田もふもふエンジン自体は第5ビジネスディビジョンにすでにあるのですが、それを『FFXIV』に乗せると、キャラクターを3体表示させた時点でゲームが動かなくなります(笑)。ただ、視線を集めやすいバストアップに関しては、限界までテクスチャーを切り詰めたりして、理想に近づけられるようにしました。実機でお試しいただければ「思っていたよりも作れるな」と感じていただけるはずです。
──今回冒険できる第一世界は、『紅蓮のリベレーター』で追加されたエリア全体と比較してどれくらいの広さになるのでしょうか?
吉田ゲーム全体の冒険ボリュームとして、『紅蓮のリベレーター』を下回ることは絶対にありません。
──むしろ規模で上回ると。
吉田ちょっと大きいのではないでしょうか。もちろん、密度もかなり濃いです。原初世界でいうところの“3国エオルゼア”地域とほぼ対になっているのが、ノルヴラントになります。つまり、エオルゼア地域に相当する名称が、ノルヴラント地域だと思っていただければと。単純にノルヴラントは、原初世界でエオルゼアと呼ばれているエリアくらいの広さがあります。それ以外の場所が光の氾濫ですべて消し飛んでしまっていて、“無の大地”と呼ばれる真っ白な世界が広がっている状態です。その光景も、実際にフィールド上でご覧になれます。
以前の基調講演で、アム・アレーンというマップをご紹介しましたよね。その画像の中に、何かがめくれ上がったような風景があったかと思います。あれは、外から押し寄せてきた光の氾濫が、その場所でギリギリ止まった状態です。あの光景がノルヴラント地域を円状に包み込んでいて、そこから外はすべての属性が失われた、ただの白い大地になっています。
──今回公開された希望の園エデンのイラストは、その白い大地なのですか?
吉田さぁどうでしょう。何しろ、ボスが葉っぱかもしれないので(笑)。
──拡張パッケージが発売されるたびに、空を飛んだり海に潜ったりできるようになりましたが、今回はそういう移動面の進化はないのですか?
吉田今回はないです。その代わり、先ほどお話しした世界を闇に塗り替えていくみたいなところの体験が入っています。あとはもう、単純に無重力くらいしか移動面の進化が残されていないので……(苦笑)。移動方式をこれ以上増やすよりは、あまりジョブに関係なく、たとえば全員でフライングしながら攻略が進めらるコンテンツ……そんな方向に伸ばしていきたいなと漠然と思っています。
──『漆黒ヴィランズ』でプレイヤーに冒険してもらいたい要素の中核は、“世界を作り変えていく”部分なのでしょうか?
吉田そこはいつも通りです。フェイスシステムに代表されるすべての要素がメインシナリオに根差しているので、くり返しにはなりますが、今回も新作RPG1本ぶんのゲーム体験をさらに広げていくつもりです。とくに『漆黒のヴィランズ』は、ふつうのMMORPGではなかなか実装しないような、ひとりで遊ぶことでも世界や物語にドップリと浸ってもらえるよう全力で作っている作品……そういう表現が近いかなと思います。