開発者自身が往年の名作を振り返る、GDCの名物企画とも言うべき“Classic Game Postmortem(クラシック・ポストモーテム)”。GDC 2019会期3日目の2019年3月20日(現地時間)には、『レミングス』をテーマにした、“Classic Game Postmortem: 'Lemmings'”が行われた。登壇者は当時プログラマーを努めたマイク・デイリー氏(Ogre Games創業者)が務めた。

『レミングス』誕生秘話を開発者みずからが語る、幅広いユーザーから愛されたのには理由がある【GDC 2019】_17

 ご存じでない方のために説明しておくと、『レミングス』とは、イギリスのゲームソフト会社、DMA Designが開発したアクションパズル。プレイヤーは、天井から落ちてくるレミングたちにいろいろな指令を与えながら、出口まで導いていくことになる。1991年に PsygnosisからAmiga向けにリリースされて以降、数々のハードで展開されてきた名作だ。

 本稿では、コモドール64からハイエンドPC向けまで、ゲーム開発歴30年間のキャリアを誇るというマイク・デイリー氏が語った『レミングス』の開発経緯を語るお話から、とくに印象的だったものを再構成して、“デイリー氏の語り”という体裁でお届けしよう。

『レミングス』誕生のきっかけは?

 そもそも『レミングス』を開発したDMA Designは、コンピュータークラブとか『ダンジョンズ&ドラゴンズ』仲間で作られたスタジオだったんだ。設立当初は部屋もふたつだけの小さなオフィスだったな。

 すべての始まりは、デイブ(デイブ・ジョーンズ氏)が、『スター・ウォーズ』のAT-AT ウォーカーみたいなキャラクターのアニメーションを作ったことに端を発している。そいつを巡って、頭の大きさの比率でいろいろと揉めたんだ。「こっちのほうがいい」みたいな主張が、スタッフのあいだからつぎつぎと出されて、最終的には休み時間に私が作ったアニメーションがチームに大受けした。それは、小人がいろいろな方法で倒されるというアニメーションだったんだけど、全員一致で「こういうのは楽しいな!」ということになった。倒しかたはいろいろあったんだ。この倒されっぷりの満足感が高かったので、「ゲームにしようぜ!」という流れになったんだね。

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当時のオフィスとメンバーの写真。
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たしかにスター・ウォーズ』のAT-AT ウォーカーみたいなキャラクター。

レミングスの動きが完璧

 その後、レミングたちのアニメーションが改良されて、あの特徴的な動きが生まれた。それまでと基本的には同じキャラクターなのに、完成した動きには“ふわふわと弾む感覚”がある。ほんのわずかな違いが、命を吹き込んだんだ。

 使用する色は当時の技術的な制約から4色に抑えた。高速で描画できることを優先したんだ。というのも、とにかくたくさん出現させることが大事だったから。

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 作業自体もすばやく進められた。DMA Designは1989年8月に設立された会社なんだけど、1ヵ月でアニメーションをつけて、そのわずか1ヵ月後には仮組が終わっていたな。

 デイブはそのとき自分のゲームで、『沙羅曼蛇』の地形を這うミサイルの動きを再現しようとしていたんだけど、それが結果的にレミングスの動きに採用された。

 作ったデモでは、2フレームで100レミングスをアニメーションさせた。当時としては驚異的な数字だったと思う。しかも、アニメーション担当の仕事がとにかく完璧で、足が地面から浮かなかったんだ。いまどきのゲームでも、あれを完璧にやるのは難しいのに、当時のあの制約の中でやったのは、本当にすごいことだったと思う。

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デイリー氏が好きなタイプのステージは……

 ステージは、当時としては巨大な60x160だった。ステージデザインもみんなでやっていたんだけど、自分は“たくさんのことを同時にやらせる”のが好きだった。2ヵ所でほぼ同時に操作しないと、レミングたちがボロボロと倒れていってしまうような……。

 もうひとつ好きだったのが、“ヒーローレミング”式のステージ。これはどういうことかというと、1体のレミングが先導してすべての道を切り拓いていって、残りはその後ろからついていくという方法。クリアーしたときの爽快感がたまらないんだ。

 不吉な数字である666を描いたステージも私が作ったね。いいアイデアだと思ったんだけど……後に出た移植作では入ってないことが多いんだよね。なぜだろう?(会場爆笑)。

多くの人に楽しんでもらえたのは、チュートリアル的要素を入れたから

 ステージを作っていく過程では、とにかく限界に挑むような難しいものを心掛けていた。結果的に自分たち以外にはクリアーできないステージが25個もできてしまったんだけど、デイブたちはこれらのステージを複数の構成要素まで分解して、ひとつの要素=1ステージとした。結果、プレイヤーはひとつの要素を理解すれば、そのステージをクリアーできるという状態を作ることができた。そういったステージを序盤に配置することで、プレイヤーは何をすべきか理解できるようにしたんだ。テキストでの説明なんかは入れていないけれど、あれはゲームにおける“チュートリアル”の走りか、それに近いものだったんじゃないかなと思う。

 『レミングス』が多くの人に楽しんでもらえたのは、ここが大きいと思う。最初の7ステージくらいをクリアーするのはそれほど難しくなくて、なおかつ基礎を学べたから。あの辺りのステージの難易度調整はとてもよくできたと思う。

爆破するときの満足感は妥協したくなかった

 さらに、当時としてはなかなか画期的だったのが、レベルエディターが組み込まれていたこと。ブラシを使ってステージレイアウトを調整してプレイ、そしてまた調整というのができていたからこそ、ステージを1ピクセル単位で作り込めたんだ。

 そして爆発エフェクト。当時の技術ではパーティクルシステムなんかはなかったけれど、初期位置からオフセットさせることで実現した。ゲイリーがキレイに仕上げてくれたね。レミングスを爆破するときの満足感については妥協したくなかった。たとえステージをクリアーできなくなっても、時には吹き飛ばしたいというのが人の性だからね。

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移植版も多数手掛けることに……

 その後は移植版もやった。当時は全部いちから作り直すしかなかったなあ。色もハードウェアの制約で変わっているものが多い。ところどころ変な色のやつがあるけれど……。ただ、白黒のゲームボーイ版はすごいと思う。あの制約の中でしっかりと理解可能な状態にしたのはすごい。

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 2Pプレイはみんな好きだったけど、あまり一般的ではなかった。でもとてもおもしろい体験になったと思う。同じ画面で遊んでいるのに、自分のことで忙しくてもうひとりが何をしているかを見る暇がなかったから、もうひとりが叫び始めて「何事?」かと思ったら、そちらのサイドではレミングスが死にまくっている、なんてこともあったなあ……。

 実現しなかったけど、データイーストの人はアーケード版『レミングス』でふたり用を試そうとしていたようだね。ぜひ見てみたかった。

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スーパーファミコン版はスーパースコープに対応!?

 『レミングス2』はスーパーファミコンで出した。スキル(レミングの種類)が一気に増えた。でも2倍に増えてもしっかり成立させられたと思う。もちろんレミングたちが増えたから、ステージを作り直したけれど。マップを広くできたのもとても大きかったね。技術的な飛躍が凄まじかった。スクロールが滑らかになったのもここからだね。

 ただし、スーパーファミコン版の開発は苦労の量で言えばダントツだった。過去最高のバグがあり、解決に3ヵ月かかったんだ。レミングスが地面をすり抜けて途中まで落ちてしまうというもので、理由がまったくわからなかった。けっきょくはハードウェアとの兼ね合いによるバグであることを突き止めたんだけど、あれは悪夢だった。

 あとは……僕は暇だったのかな? スーパースコープを持ってきて、レミングスを撃てるようにした。2作目の移植版ではこれができるようになっている。YouTubeで Super Scope Lemmingsを検索すると動画があると思うけど……。ぶっ放した時の満足感は凄まじかったよ。

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 じつは『レミングス』の博物館もある。死んでもないのに博物館とかすごく変な気分だ。DMA Design初代オフィス跡地の前にレミングスの柱があったりする。これだけ『レミングス』が愛されているのは、うれしいことだ。

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『レミングス』開発当時と同じ構図をいまの姿で再現。なんかいい写真です。