Nianticの『ポケモンGO』を例に取るまでもなく、現実のマップを取り入れたゲームはここ数年で急速に増えてきた。スマートフォンと地図の相性のよさが、“位置ゲー”や“地図ゲー”と呼ばれるジャンルを生み出したのは必然だったと言えるのかもしれない。
地図という点で、膨大なりソースを持つのが、言うまでなくGoogle マップ。GoogleではGoogle マップにUnityを組み込むことで、ゲームアプリに地図と位置情報を取り込むことに対する敷居を下げてきた。GDC 2019の2日目に行われたGoogle マップ プラットフォーム プロダクトマネージャーのシエナ・チャン氏による“Push the Limits of Real-World Gaming”は、そういった地図や位置情報をゲームに取り込むことの可能性を紹介するセッションだ。ちなみに“Push the Limits”は“限界を押し広げる”くらいの意味だ。
Googleでは、昨年(2018年)からGoogle マップをゲーム用途で使用可能にしたが、その効果は絶大だったようで、「マンハッタンを別のスタイルでペイントしてSF的にしたりファンタジーテイストにしたりすることもできます。開発者は“どう世界を再現するか”を考えずに済み、コンテンツ作りに集中できるんです」(チャン氏)という。Google マップは毎日2500万回もデータ編集が入っているそうで、自身が作るゲーム性に見合った最新の地図を活用できるという点でも利便性は高い。
そして、ゲームでの活用例も増えて、ノウハウもけっこう溜まってきているという。その位置例、もとい一例を挙げると……『ウォーキング・デッド』をモチーフにした『The Walking Dead Our World』。同作では、プレイヤーはゾンビと戦ったり、ときによっては避難したりするわけだが、フィンランドには“ブラブラする自由”が認められているため、私有地にも自由に入っていいらしい。ところが、それをアメリカでやったらえらいことになってしまうのは察しのつくところ(日本でもいい顔はされないような気はする)。つまり、地図上では問題なさそうに見える場所も、地域やその国の文化によって、「プレイアブルな空間が変わる」(チャン氏)。それに対しては、“プレイアブルな空間”のデータをあらかじめ設定しておけば、苦労はかなり軽減されるというわけだ。
また、『ジュラシック・ワールド』のアプリ化となる『Jurassic World アライブ!』では、グラフィックのリアルさを優先したのでマップは狭めに設定したりとか、ミクシイの『モンスターストライク』も位置ゲーの要素を取り入れてゲーム内アイテムの収集に利用し、成功を収めているという。「こういったタイトルで学んだことは、今後のゲーム作りにも生きてくる」とチャン氏。
いずれにせよ、大事なのは、「位置情報がプレイヤーのアクティブさを高めるようにすること」だとチャン氏は言う。『Jurassic World アライブ!』は、配信元であるLuciaのほかのゲームよりも2倍起動されているとのことで、位置情報の要素を効果的に取り入れた成果は抜群。80%のアクティブゲーマーが、位置ゲーのおかげで外出したというデータもあるようだ。
では、「そこまでアクティブに位置情報を駆使しないユーザーに対してはどうすればいいだろうか?」と、チャン氏はあえて問いかける。世の中には、アプリを開いて周囲にあるアイテムを拾うだけ、というプレイスタイルの人も多い。チャン氏が “忙しいサム”として例示した「バス停で待っているときは時間がなくてプレイしない。昼ごはんも同僚とは話が弾まず、無言でご飯を食べる。自宅への帰路でも渋滞でただ外を眺めるだけ。帰宅しても疲れて遊ばない」という人だ。
それに対してチャン氏は、「こういうのは(ライフスタイルに)ゲームが合わせるべきだ」と言う。「朝なら動かなくても遊べるゲームデザイン。昼ご飯時はほかの人と協力して倒すゲームプレイ。帰宅時は、移動時にいろいろな場所を通り過ぎるのので、何かを拾えるように。帰宅後は家でその日の成果を確認しつつじっくりできるようにする」(チャン氏)という具合だ。何が言いたいかというと、ライフスタイルに見合ったゲームデザインを提供することにより、ユニークなゲーム体験を用意できるということ。それも、位置ゲー、地図ゲーだからこそ、ライフスタイルにマッチしたゲームデザインが提供できるということだ。
もう少し例を挙げるならば、位置ゲー、地図ゲーならば環境的属性(草地、水辺、都市など)をデータを活用することもできるし、クライアント側でパス探索ができるので、ゲーム内の敵が、地図に応じて経路を決定することもできる。と、ここで会場で初お披露目されたのが、地図ゲーに対応した『パックマン』。タイトル名もずばり『PAC-MAN GEO』。サンフランシスコの街が『パックマン』のフィールドに早変わりというのは、なんとも刺激的で、『パックマン』の新しい可能性を開きそう。
さらには、位置情報は、新たなレベルのソーシャル・AR体験をもたらしてくれるようだ。位置情報があることで、ゲームにさらに厚みが出るというのだ。たとえば、さきほども触れた『The Walking Dead Our World』では、チャン氏は同僚たちとギルドを組んでいて、彼らに向けて救援信号を出したりして適宜サポートを求めているいう。そういったソーシャル体験が可能なのは、位置情報があってこそ。『The Walking Dead Our World』では、アクティブユーザーの90%がギルドに参加しているというが、その高い比率は位置情報をゲーム性に取り込んでいるからこその一面もあるだろう。そんな効果もあってか、『The Walking Dead Our World』を継続してプレイしているユーザーは、ほかのタイトルよりも1週間で54%も高いという。
ちなみに、『モンスターストライク』は、既存のゲームに位置情報要素を搭載した初のゲームとのこと。「位置情報要素を加えたタイトルは6ヵ月で完成しました。“完全新作”として作っていたら、2年以上はかかっていたと思います」とチャン氏。40%のアクティブユーザーが“モンストポット”使っており、さらに、“モンストポット”の利用者は、使っていないユーザーに比べて、セッションタイムが1日あたり30%増えているという。
既存タイトルに加えることでも大きな効果を発揮する位置情報。位置ゲー、地図ゲーのニーズは、今後高まっていきそうだ。