20年のキャリアを誇る業界の大ベテラン、デジタルサンライズのCEO、アダム・オース氏による講演が“Digging for Fire: Virtual Reality Gaming 2019”だ。“Digging for Fire”とは、”情熱を追い求める“と”鉱脈を追い求める“とふたつの意味合いをかけ合わせたものと思われる。平たく言うと、2019年におけるVRの現状と課題を分析したセッションだ。
なお、VRに関しては明確な数値が公表されていないケースも多く、ときに推測にもとづく数字も含まれており、「数字は正確ではない」と、アダム・オース氏より前置きがされていた。
VRゲームに関しては、『ADR1FT』や『Firewall Zero Hour』などに関わり、現在はRed Pill VRにて、音楽を中心にVRコンテンツを手掛けているというアダム・オース氏は、 “大規模な投資もあったが、まだ技術が期待値に追いつくには時間はかかりそう”と判明した、2016年のいわゆる“VR元年”以降、いまに至るまで進歩を続けてきている状況であると分析。VRヘッドセットの市場は小さいが、売上は年々上がり続けていると続けた。Steamのデータによると、VRヘッドセットは合計で700万台は出ているとのことで、プレイステーション VRの販売が300万台であることが2018年8月にアナウンスされていたので、ハイエンドPCで動くヘッドマウントディスプレイは400万台は販売されているのではないか、と推測した。
ソフトについても、100万ドルを超える売り上げを記録したタイトルも多く、上位数タイトルは1000万ドルを売り上げているという。
こういった華々しい数字を見ると、VRは順調であるようにも見えるが、「まだまだである」とアダム・オース氏はきっぱりと断言する。VRの市場はまだまだ小さく、ほかのゲームとの選択肢の競争になっているというのだ。そこでオース氏は自身のTwitterで、「なぜVRを遊ばないのか?」と2回に渡り問いかけたところ、かなり大きな反響があったという。その結果としては、だいたい同じ理由があがってきており、なぜか総じてみんな怒っていたという。
まずはお金。「自分の可処分所得ではきびしい。既存のゲームに費やす費用に加えて、VRには投資できない」「ハイエンドPCの予算を捻出できない」といった意見があったという。おつぎはケーブル。「ケーブルが多すぎる」「そもそもケーブルが嫌い」などの声が続出したのだとか。そしてコンテンツ。多くの人は、「コンテンツがない」と思っているのだという。「誰もが知っているトリプルAタイトルがない」との意見もあったが、「実際のところは存在する」とオーツ氏は指摘する。つまりはPR不足ということだ。
そしてスペース(場所)。「VRを遊ぶ場所がない」という意見には根強いものがあるが、「プレイステーション VRのオーナーならご存じのとおり、そんなに大したスペースはいりません。つまり、これもPR不足の問題が深刻なんです」とオーツ氏。
とはいえ、そんな不満点を踏まえたうえでオーツ氏は、「VRの現状は明るい」と分析する。「いまのVRはまだ胎児です。先はずっーーーと長いです。最高にスマートでクリエイティブな人たちがコンテンツを作り続けていて、まだ可能性とポテンシャルの表面に触れている段階に過ぎないんです」(オーツ氏)という。クリエイターにとっては、新しく革新的で、実験的なコンテンツを作れる最高の時期だと、オーツ氏は見ている。
実際のところ、開発者にとってVRコンテンツの開発は、大いなる苦労と喜びをともなうものであるようだ。「開発者としては、ゲームを作る際のこれまでの常識をなしにして、すべていちから作り直さないといけない」からだ、それがゆえに新鮮な驚きもあり、まさにそれが醍醐味と言える。
ここでオーツ氏は、デビッド・ボウイの言葉を引用してみせる。「もし、いまやっていることが“安全圏”に収まっているなら、居場所を間違えている。少しわからないことがある場所でもがくことだ。ちょっと地面に足がついてないと感じるくらいが最高にエキサイティングなことができる状況だ」という。まさにVRコンテンツの開発が、この状況に当てはまるというわけだ。
というわけで、最後にオーツ氏は、VR普及に向けての今後の課題をピックアップする。
1.コストを抑える
2.ワイヤレス化を実現する
3.トリプルAコンテンツをリリースする
4. PRの問題を解決する
5. トリプルAタイトルの代替品ではないことを明確にする
6.VRに実際に触ってもらう
果たして、これらの課題をクリアーして、VRにビッグウェーブがくるのか……。ちなみに、オーツ氏が期待を寄せているのがOculus Questとのことで、2019年もVR戦線は熱そうだ。