鯉沼久史氏(こいぬまひさし)
コーエーテクモゲームス代表取締役社長。『戦国無双』と『戦国無双2』でディレクターを務め、『戦国無双3』以降はプロデューサーとしてシリーズを統括。他社とのコラボレーション作品も手掛ける。
戦場に群がる敵を片っ端からなぎ倒す、一騎当千の爽快感が魅力の『無双』シリーズ。その中にあって、『真・三國無双』と並んで、シリーズの柱となっているのが『戦国無双』だ。
その第1作が発売されたのは、いまからおよそ15年前のこと。以降、ナンバリングは『4』を数え、また派生タイトルも多数発売。押しも押されもせぬ、コーエーテクモゲームスの人気シリーズとなった。
本記事では、鯉沼久史プロデューサーのインタビューで、その道のりを追う。
※インタビュー実施時期:2019年2月上旬
“4人協力オンラインアクション”から『戦国無双』への突然の転進
――『戦国無双』シリーズは、第1作の発売から15年が経ちましたが、初代『戦国無双』の企画が始まったのはいつごろなのでしょうか?
鯉沼 『真・三國無双2 猛将伝』の発売後ですね。具体的には、2002年の秋から年末にかけての時期だったと思います。じつはそのころ、私は『無双』シリーズとはまったく関係のないところで“4人のヒーローがオンライン協力プレイで巨大な敵に挑むバトルもの”の企画を走らせていました。
社内の予算会議も通っていたのですが、当時はまだオンラインゲームの市場規模も小さく「時期尚早」という声も出てきて、代わりに「ユーザーからのニーズが高いものを作ってみよう」と企画されたのが、『戦国無双』でした。
――当時コーエーと言えば『三國志』と『信長の野望』のイメージでしたし、戦国時代版の『無双』を作ってほしいという声は必然でしたよね。そこで、『真・三國無双2 猛将伝』に携わった鯉沼さんに白羽の矢が立ったと?
鯉沼 『決戦』シリーズの後、『真・三國無双』で助っ人プログラマーとして関わったのが縁で「鯉沼ならもともとω-Forceチームだし、やりかたもわかっているから大丈夫だろう」と『真・三國無双2 猛将伝』を任されることになったのですが、当時はω-Forceも複数タイトルを動かせるほどの人員的な余裕はなく、いっしょに開発をしてきた人から新人まで、新たにメンバーを募るところから始めました。
――今回のためにご用意いただいた秘蔵の資料がありますが、それによると初回のボイス収録が“2003年7月1日”となっています。企画の立ち上げから考えるとすごい早さですね。
(編注:鯉沼氏によると、以下の資料は『戦国無双』と『戦国無双2』のものが混ざっているとのこと)
鯉沼 シナリオチームが台本作りをがんばってくれました。ただ、発売日から逆算すると、そのくらいの時期に収録していないと間に合わないんですよ。ゲーム内のイベントは、声に合わせてCGムービーなどを作るというやりかたをしていたので。一方で音声チームには「絵(ムービー)ができてから収録をしたい」と言われていたのですが(笑)。
――かなり分厚い台本ですが、ト書き(セリフのあいだに書かれる説明や指示出しの文のこと)がとても細かく書かれていますね。
鯉沼 まだ絵ができていないうえに、新規タイトルですから見本になるものもないので、演者さんになるべく正確なイメージ作りをしてもらえるようにかなり細かく書きました。台本用のミーティングも、毎日のように重ねながら担当には何度も何度もリテイクをしてもらった記憶があります。
――台本作りの際、『真・三國無双』や『信長の野望』と共有したところ、反対に意識して差別化したところはありましたか?
鯉沼 『真・三國無双』との差別化はかなり意識していました。「テーマを三国志から戦国時代に変えただけでうまくいくのか?」という懸念は社内でも出ていて、第1作を出す際にもっとも心を砕いたところでもあります。
たとえば『真・三國無双』のキャラクターはリアルアニメ調というか、武将としてのイメージをそこまで崩さないようにしていますが、『戦国無双』ではあえて“キャラクター性”を濃くしようとしました。それがある意味コーエーらしくないキャラクターデザインにつながったと思います。
――とくに石川五右衛門やくのいち、お市などのキャラクターデザインは奇抜でした。
鯉沼 一方で、あえて揃えたものもあります。それは、“信長の顔”なんです。シブサワ・コウ(『信長の野望』の生みの親)の方針のひとつに「会社の“顔”である信長は、どのタイトルでも同じイメージで作るべし」というものがあります。最近だと『仁王』を見ていただけるとわかると思います。細部のアレンジはしているのですが、骨格や雰囲気などは近いはずです。
――確かに、武田信玄や上杉謙信は作品によって違いますが、信長だけは同じですね。
鯉沼 正直「信玄や謙信はいいのか……」と思いましたが(笑)。じつはその掟を知らなくて、最初に『戦国無双』で作った信長のデザインは、現在とは違うものでした。まさに“第六天魔王”のイメージそのままに、悪魔のような顔つきで禍々しいオーラをまとっていたんですよ。ですが、“魔王らしさ”は残しつつも、姿は人間に落ち着くことになりました。
――そうして従来のイメージを覆した『戦国無双』ですが、『2』ではまた大きくキャラクターのテイストが変わっています。
鯉沼 もともと『戦国無双』はシリーズ化するつもりで作ったものではありませんでした。キャラクターのインパクトだけでやっても長続きしないのはわかっていたのですが、当初は1作だけのつもりだったので、それでもいいか、と。
それが多くの方に買っていただいて、会社からも次回作を期待されて初めて「つぎ、どうしようか……」と考えることになったわけです。その結果、「『1』ははっちゃけすぎたから、『2』では少し正統派に戻そう」と(笑)。
――ぶっちゃけましたね!(笑)
鯉沼 『1』が売れてくれたおかげで予算もだいぶ増えたので、オープニングを豪華にしたり、キャラクターを増やしたりといったことができました。そのついでに、既存の武将たちも強烈なキャラクター性だけで勝負させるのではなく、シナリオなどドラマ性を強化して、そちらを見てもらうように軌道修正しています。
『2』からは将来を見据えて、まずシナリオを組み立ててから各キャラクターにどうやって演じさせるかを考えるという手法を取っているので、印象も変わったと思いますね。
――そのシナリオについてもうかがいたいのですが、『4』にいたるまで、作品ごとに扱う時代やテーマが大きく変わっていますね。
鯉沼 それぞれの作品について説明をすると、『1』では信長時代を、その『猛将伝』では秀吉時代をメインに描いています。そして『2』では関ヶ原の戦いを中心に組み立てているのですが、困ったことにそこで戦国時代は終わってしまうんです(笑)。
というわけで『3』はもう少し各地方にフォーカスして“関東三国志”などを取り上げましたし、関ヶ原の戦いでもトップではなく配下たちに焦点を当てた物語にしました。形としては『1』と『2』の集大成のようなものになっていますね。『4』はまたアプローチを変えて、これまで取り上げてこられなかった地方をピックアップしつつ、最後に関ヶ原でまとめています。
――『4』では、全国をほぼ網羅することになりましたよね。
鯉沼 天下統一にあまり関わらない地方を取り上げるのは、最終目的が天下統一という物語を作るうえではけっこう難度が高いんですよ。そういう事情もあって、地方編と全国編の二段構えの構成にしたというわけです。
――こうして並べてみると『5』ではいったいどうなるんだと期待も高まりますが……。
鯉沼 『4』が出てからついに5年が経ってしまいましたからね……。もちろん、何も考えていないわけではなく、構想を練っては壊し、練っては壊しということは続けています。できればガラッと変えたいんです。ただ、まだお話できる段階にまではいたっていないので、いまのところは皆のジャマにならないように、コソコソと企画を進めているところです。
――社長なのにコソコソと?(笑)
鯉沼 社長だからこそ「やるぞ」と言ったら皆が動き出さざるを得なくなってしまうんですよ。そうすると、ほかの案件にも影響が出てしまうので、気を遣っています(笑)。
脈々と受け継がれる“イズム”と制作体制にも表れる独自性
――続いてアクションについてもうかがいたいと思います。毎回、どんなところに気を付けて開発を進めているのでしょうか?
鯉沼 基本としては、『無双』シリーズがアクションの入門編であることを意識していて、“ボタン連打だけで進められて、しかも気持ちいい”のがマストだと考えてきました。
――いわゆる“無双アクション”ですよね。ただ、『戦国無双』シリーズではそこに『3』の影技や『4』の神速攻撃のような、特殊なアクションも毎回盛り込まれています。
鯉沼 簡単で気持ちいいアクションと言っても、それだけだと飽きられてしまうし、上級者にとっても“魅せる”プレイができないとおもしろくないですから、歴代のアクションプランナーたちが毎回変わったアクションを考えてくれているんです。『4』の神速攻撃だけは私の提案だったのですが。
――神速攻撃は鯉沼さんの発案でしたか!
鯉沼 最初に案を出したときは“お掃除アクション”という名前でした。目的は“敵のお掃除”だったので……。もっとも、あまりに強くて便利すぎたので、途中でいろいろと調整が入りました。無双武将には効かないとか。それでも、某サイクロン掃除機のような恐るべき吸引力で、敵が消えていくのは気持ちよかったですね(笑)。
――吸引力が変わらないやつですね(笑)。アクションもそうなのですが、『戦国無双』では、武器も本当に個性的ですよね。
鯉沼 それはキャラクターデザインと同じで、『真・三國無双』と差別化するためでした。あちらが王道と呼べるような武器がメインだったので、こちらは反対に、すごい武器をたくさん入れてやろうと(笑)。
――その結果、けん玉や大砲が標準装備として登場することになったと(笑)。
鯉沼 じつはもうひとつの理由として、当時のハードの性能ではキャラクターの同時表示体数などに制限がありすぎて、アクションそのもので差別化させるのが難しかったんです。その代わりに、とにかくおもしろい見た目で変わったアクションが可能な武器を用意しようと。
『3』までは何でもアリで、考えつく限りのユニークな武器を作ってきたのですが、『4』からはハードの性能も追いついてきて、アクションの気持ちよさだけで楽しんでもらえるようになりました。それでもちょっと笑える要素も入れているのは、伝統かもしれません。
――アクションだけではなく、『1』の無限城や『2』の双六、『4』の流浪演武などおまけモードにもかなり力が入れられています。作るのもたいへんかと思いますが……。
鯉沼 おまけモードのおかげで、通常の1.5倍くらい労力がかかっています。ただ、会社にとってはメリットもあるんですよ。
――と、言いますと?
鯉沼 『戦国無双』シリーズでは各モードにプランナーをつけて作らせていますが、おまけモードにはつぎの作品でメインプランナーをやれるような人材をあてるようにしています。とくに最近ではゲーム制作も分業化が進んできて、作品全体を見られるような仕事の経験を積む機会がほとんどありません。
その点、おまけモードは本編から独立したひとつのゲームとして作ることになるので、恰好の試金石になるんです。もちろん、任せるからにはきちんとしたものを作ってもらいますが。
――通常よりも労力をかけるぶん、人材育成にも役立てているんですね。
鯉沼 たとえば、『2』でメインプログラマーを務め、双六モードも作っていた片岡(宏氏)などは、もう少し後に『戦国無双Chronicle(クロニクル) 3』のディレクターを務めていたりします。
――そうやって新たな開発者の方がどんどん出てくるわけですね。
鯉沼 昔は人材育成として小さなチームに入れて移植作品などを担当させ、それを通じて経験を積ませていたのですが、いまは移植も少なくなりましたし、分業化も進んでしまって難しいんです。人材育成をどう進めていくかは、会社としての課題でもあります。
進んで戻ってをくり返し“つぎ”の準備を進める
――音楽も本シリーズの魅力のひとつです。“和楽器テクノ”とも言える独特のBGMが特徴ですが、サウンド制作面でとくにこだわっているところはありますか?
鯉沼 サウンドとCGに関しては、最初にタイトルコンセプトというか共通ワードを起こしてそれを伝えています。ただ、それとは別に『戦国無双』らしいサウンドというのを、歴代のサウンドディレクターたちも意識してくれているようです。使用する楽器などはこちらから指定しているわけではないのですが、毎回、生音を収録した和楽器を取り入れています。
――サウンドディレクターが変わっても、そうした基本的なテイストは同じですよね。
鯉沼 サウンドやCGは、開発チームの中だけではなく、社内の別組織でプレゼンをさせるなどしてブラッシュアップしています。さまざまな人の目や耳を通っているぶん、大きく外れてしまうことなく安定したクオリティーのものが作れているのだと思います。
――あとは今後のことについてなのですが、最近世の中でも話題になっている“VR”を『戦国無双』で活用するということは?
鯉沼 興味はある、というところです。研究対象としてはおもしろいのですが。“酔う”原理がどこにあるのかなど、技術面の問題もあるのでもう少し研究が必要と考えています。
――VRは将来的に検討するものとして、現状決まっているそのほかの予定はありますか?
鯉沼 2月6日の生放送でもお伝えしましたが、“15周年コラボ”と題してさまざまな企画が走り出します。まずはコーエーテクモカフェ&ダイニングでコラボメニューの提供を始めます。第1作が発売された2月11日から3月29日まで実施予定で、特典なども用意しました。
(編注:コラボカフェの内容は下記記事を参照)
それから滋賀県の彦根市で実施される企画展“MITSUNARI 11(ミツナリイレブン)”や、長野県上田市の眞田神社とのコラボレーションですね。じつは、ほかにもさまざまな企画の提案をいただいているのですが、実現可能なものは順次動いているという状況です。
――15年という年月で積み上げたものが、こうして評価されて形になっているんですね。
鯉沼 継続は力なり、とはよく言ったものだと感じています。と言っても『信長の野望』が倍以上の歴史で培い、そして得たものと比べるとまだまだだなと思いますが。
――大河ドラマへのCG技術の提供で、スタッフのクレジットにシブサワ・コウさんの名前が出てきたときは、とてもうれしかったです。
鯉沼 業界全体が盛り上がりましたよね。そういう効果も考えると、積極的に外の業界とコラボレーションするのもいいことだと思います。『信長の野望』は32年かかったと考えると、先はだいぶ長いですが(笑)。
――(笑)。3月14日発売の『戦国無双4 DX』についても、注目点をいただけますか?
鯉沼 プレイステーション4ではすでに『戦国無双4』はリリースさせていただいていましたが、今回最終バージョンということで、ニンテンドースイッチ版ともども、これまでに出したダウンロードコンテンツを収録した形で発売します。
そのほか、同時発売の15周年記念ボックスには、過去タイトルのムービーをまとめた映像集をサウンドトラックと合わせて同梱しています。歴代のBGMを聞きながら、懐かしの映像を楽しんでください。
――それでは、最後にファンの皆さんへ向けてひとことメッセージをお願いします。
鯉沼 つぎのナンバリング作品の情報がなかなか出せずお待たせしていますが、15周年を迎えた『戦国無双』シリーズをこれまで支えてくださいまして、ありがとうございました。15周年記念作品の『戦国無双4 DX』もどうぞよろしくお願いいたします。
現在、1歩進んで半歩下がってをくり返しながら、つぎに向けた準備は進めておりますので、期待しながらお待ちいただければと思います。