2019年2月28日発売のNintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One用ソフト『フォーゴットン・アン』のプレイレビューをお届けする。

さあ、忘却の世界へ

 我々がテレビや映画などで慣れ親しんでいる“アニメ(アニメーション)”は、魂や霊魂を意味するラテン語“アニマ”が語源。本来は動かず、語ることもしない絵に魂を吹き込み、まるで生きているように見せる技法ということで名づけられた。

 そんなアニメのルーツを想起させられる作品が、2019年2月28日発売のNintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One用ソフト『フォーゴットン・アン』。アニメ映画のようなグラフィックが見る者を引きつける幻想的な2Dアドベンチャーだ。

 物語の舞台は人間に忘れられたモノたちがたどり着く世界“フォゴットンランド”。かつては誰かのお気に入りだったぬいぐるみ、ひび割れたランプ、片方だけになってしまった靴下……フォゴットンランドでは、こういったモノたち“フォゴットリング”が、もとの世界に戻る日を夢見ながら、人間のように意志を持ち生活を営んでいる。

 本作の主人公アンは、このフォゴットンランドに暮らす人間の少女。世界の秩序を守る執行官である彼女は、モノたちがもとの世界に戻るための架け橋“イーサブリッジ”の建設に取り組んでいる。物語は、イーサブリッジの完成も間近に迫ったある日、街に響き渡る爆発音で幕を開けることとなる……。

アンの師匠ボンク。彼もアン同様に人間だが、なぜ人間である彼らがモノたちが行きつく世界にいるのだろうか? 謎めいた部分が多いのも本作の魅力のひとつだ。

プレイヤーの没入感を増す手描きアニメの手法

 本作をプレイして最初に目に飛び込んでくるのは、人間に忘れ去られたモノたちがフォゴットンランドにたどり着く様子を描くムービーシーン。哀愁を漂わせたモノが新天地で動き出すまでの一連の流れが、温かくも懐かしさを感じるグラフィックで描かれていく。

 そこから場面は移り、ベッドで寝入るアンが爆発音で目覚める場面から本格的にゲームが始まる。ベッドから起き上がったアンからカメラが引いて、そのままプレイヤーが操作可能になる瞬間は少し感動的。アニメの登場人物をそのまま動かしているような感覚でゲームを遊べるのは、本作ならではの体験だ。本作にはムービーシーンは随所にあるが、ここと同じく映像が変化することなくシームレスにゲームプレイへと移行する。これは物語への没入感を阻害しないための制作陣のこだわりでもあるのだ。これと同様に、本作にはプレイの妨げになるロード画面も極力排除され、ゲームオーバーが存在しないというのも注目すべきポイントだろう。

登場人物は一挙手一投足まで滑らかにアニメーションする。顔のないモノたちが見せてくれる、表情や感情までをも読み取れるような動きは必見だ。
アンのアクションを構成するフレームの数々。総フレーム数はアンだけでも5000枚以上にものぼるというのだから驚きである。

 このような情熱が詰まった本作の開発を手掛けるのは、デンマークの開発スタジオThroughLine Games。クリエイティブ・ディレクターのアルフレッド・グエン氏はアニメーション業界の出身で、過去には短編アニメで表彰を受けたこともあるというのだから、本作のグラフィックの出来栄えにも納得だ。また、彼は日本のアニメからも影響を受けており、とくに『パーフェクトブルー』や『千年女優』などの今敏作品の大ファンだと語っている。本作の開発初期のストーリーボードには『パプリカ』のモノたちがパレードをする場面をオマージュしたシーンが描き込まれていたというエピソードからも、そのファンぶりがうかがえる。

 ちなみに、プレイステーション4版などでは特定の条件を満たすとトロフィー(実績)をアンロックできるのだが、一部のトロフィー名が今敏作品をオマージュしたものになっていることも記しておきたい。

モノたちの世界を駆ける人間の少女

 フォゴットンランドの夜明けに起きた爆発事件は、アンたち執行官を快く思っていない反乱勢力の仕業であることが判明。アンは住民の混乱を治め、犯人を捕まえるために冒険に身を投じる。彼女は逃げた反乱勢力を追って各地に足を伸ばし、さまざまなモノたちと出会ってく。ユニークなモノたちとの会話は本作の楽しみのひとつだが、油断は禁物。なぜなら、アンの行動や言葉によって物語が変化していくからだ。自分の置かれた状況を考えて動き、ときにはモノたちの語る言葉の真偽を見極めて発言を選ぶ……。自分の言動がどのように物語に影響を及ぼすのかを考慮しながらアンを操作していくのは、自分がフォゴットンランドの住民になったような錯覚すら覚えて、なかなか新鮮な感覚だ

職務中のアンは、モノたちにキビしく隙のない態度で接しようとする。だが、ふとしたときに素の部分を見せることがあり、そのギャップがキュートだったりする。
この世界のモノや機械は“アニマ”と呼ばれるエネルギーで動いている。物語中には、反乱勢力の疑いがあるモノからアニマを抜き取るか否かを選択しなければならない場面も訪れるのだ。

道具と知恵を駆使して挑むパズル

 冒険を続けるアンは、動力の切れた工場や暴走する機関車、秘密の入り口がある劇場など、じつにさまざまな場所を訪れる。そういった先々でアンの行く手を阻むのが、パズル要素だ。パズルを解く際は、アニマを操る手袋“アルカ”やジャンプを補助してくれる“ウィング”といった道具が重要。アニマを機械に注入して起動させたり、通常では届かない足場へ移動したりしながら解法を探し出していくこととなる。

 本作のパズルや仕掛けは独特だが、仕組みはシンプルなものが多い。先述のようにゲームオーバーが存在しないので、落ち着いて試行錯誤をくり返せば、いずれは正解へとたどり着けるようになっている。難しすぎず適度に達成感も味わえるパズルの難度設定も、プレイヤーが物語に集中できるようにという配慮なのだろう。

アンが訪れるロケーションも細部まで緻密な描き込みがなされており、非常に魅力的だ。フォゴットンランドのロケーション探訪も冒険の推進力となってくれるだろう。
ボタンひとつでアニマの流れを確認できる“アニマビジョン”を起動できる。この状態でアニマを特定の場所に注入したり、アニマの流れる方向を調整したりして謎を解いていくのだ。
混乱した街中には、まともな道がないことも。そんなときはアクションやウィングを駆使し、建物の上やはるか遠くの足場に飛び移りながら前進していくことになる。
冒険の途中では“思い出の品”が手に入る。これらは眺めるだけでも楽しくなるものばかりで、ついつい集めたくなってしまう要素だ。

 このように『フォーゴット・アン』は、物語性を重視して制作されたアドべンチャーだ。スピーディーでスカッとするようなアクションはないけれど、アニメの世界に入り込んだような感覚でストーリーに没頭できる工夫が随所に施されている。物語が進むほど深まる謎に引き込まれ、行く手を塞ぐパズルに頭を悩ませる。お気に入りの本を1ページずつめくっていくように、じっくり大切に楽しみたい作品だ。