ゲームに負けないイカれたイベントが開催!
2019年2月13日、Nintendo Switch、プレイステーション4向けアクションRPG『ヴィクター・ヴラン オーバーキルエディション』のプロモーション用イベントが、本作の国内発売を手掛ける3goo本社にて行われた。イベントは本作に収録されているDLC(ダウンロードコンテンツ)のひとつ“モーターヘッド”に焦点を当てたもの。このDLCは、伝説のロックバンド・モーターヘッドの楽曲が流れ、メンバーのひとりレミー・キルミスター(故人)が登場するなど異色尽くしの内容だ。そして、イベントのほうも音楽評論家であり、モーターヘッドやレミーと親交のあった“ジャパニーズ メタル・ゴッド”伊藤政則氏を招くという、DLCに負けず劣らず頭のネジが二、三本吹っ飛んだ内容になっている。本記事ではこのイベントの模様をリポートしていこう。
ちなみに、現在絶賛発売中の『ヴィクター・ヴラン オーバーキルエディション』の詳しい内容についてはコチラの記事でチェックしてみてほしい。
「ゲームはぜんぜんやらないけど、人生がゲームだからね」
伊藤政則氏はとくにヘヴィメタルやハードロックに造詣が深く、モーターヘッドについても多くの知識や交流エピソードを持っている。しかし、本人はゲームについてはからっきしということで、まずはDLCのプレイ風景を鑑賞し、ゲーム内に登場するモーターヘッドやレミーのエッセンスに触れてもらった。
ゲームプレイを鑑賞しつつ、伊藤氏はレミーが制作に関わった本作がどのような作品なのかを貪欲に尋ねる。本DLCの制作された経緯は、モーターヘッドのファンだった開発陣がDLCに楽曲を使用したいとバンド側に打診したところ、本作をレミーが気に入って積極的に制作に関わるようになり、現在のモーターヘッドをフィーチャーした内容になったというもの。それを聞くと、自身が関わった別の海外バンドが登場するゲームを思い出しつつ「ゲームがバンドファンに受け入れられ、それ以上にゲームファンにも愛されるのはたいへんなことなんだよね」と、バンドとゲームの親和性やマネジメントの難しさを語る。
プレイが本格的に始まってしばらくは、伊藤氏は本作の主人公ヴィクターがDLCで新登場する武器ギターをかき鳴らして敵を景気よく倒していく様を興味深げに見守っていた。が、ギター使用中は敵が“ヘドバン(ヘッドバンキング)”して行動不能になることがあるというユニークな要素を紹介されると、さっそくロック魂に火がつく。「もっとスピードを上げてガンガン頭を振るくらいの勢いがあったらよかったなぁ~」と、忌憚のない意見をブチかます。それはヴィクターの特殊能力“デーモンパワー”が披露された際も留まることを知らない。モーターヘッドにちなんだデーモンパワー“アイアンフィスト”が発動し、鉄の拳が敵を叩き潰すと、その様子をおもしろがりつつも「俺だったらこうやって(拳を固めて振り回す仕草をしながら)、グワーッと見せるけどね(笑)」と、身振り手振りを交えながら容赦のない意見を述べた。
ゲームの舞台が拠点であるパブに移ると、そこにはDLC制作中にこの世を去ったレミーの姿が。パブ内にはレミーが登場するほか、モーターヘッドのメンバーたちの写真や使用されている楽曲などを鑑賞できる。さらに、パブのカウンターではレミーが本DLCのために描いたという“落書き”を拝むことが可能だ。モーターヘッドのメンバー、フィル・キャンベルによるとレミーは体調が悪化していたにも関わらず、せっせと絵を描き開発陣に 送っていたのだという。伊藤氏はこの落書きがいたく気に入ったようで「落書きのTシャツが欲しいよね。コースターを作って4枚セットでゲームにつけてもいい。レミーファンに限らず、ロックファンってそういうものが欲しいんだよね」と絶賛していた。
ゲームプレイ鑑賞の最後には、伊藤氏によるテープカットならぬ“デーモンパワー投下”を敢行。伊藤氏にコントローラーを操作してもらってアイアンフィストを発動するという催しだ。最初は戸惑っていた伊藤氏もボタンを押すだけだと説明されると、快く了承。敵がいない場所に拳を振り下ろすという微妙に締まらない形にはなったが、見事アイアンフィストの発動に成功した。
ジャパニーズ メタル・ゴッドがモーターヘッドを語り尽くす! 伊藤政則氏インタビュー
ゲームプレイ鑑賞後は、伊藤氏にインタビューを実施。DLCの感想、モーターヘッドやレミーとの思い出など、伊藤氏だからこそ語れる興味深い話を聞いた。
伊藤政則
音楽評論家。数多くの世界的バンドと交流があり、アーティストからは“Masa-Ito”の愛称で親しまれている。テレビ『伊藤政則のROCK CITY』(テレビ神奈川)、『伊藤政則のロックTV!』(BSフジ)、ラジオ『POWER ROCK TODAY』(bayfm)、『ROCKADOM』(FM-FUJI)、『ROCK ON』(FM802)など数多くのレギュラー番組でDJを担当。
ファンにとってもっとも重要な“レミーのリアル”
――ゲームをご覧になってモーターヘッドを感じられる部分はありましたか?
伊藤拠点のパブは、ザ・レインボー(レミー宅の近所にあるレストラン・バー)というか、レミーの世界なんだろうね。ウェスタンっぽい感じも彼らしいよね。レミーは軍事アイテムのコレクターなんだけど、ウェスタンブーツとかも履いてるから。だから拠点のパブは、なんとなく彼らしい感じがあるよね。
――ゲームの中に再現されたレミーはいかがですか?
伊藤小さく映ってる画面しか見られなくて着ているものがよくわからなかったんだけど、南北戦争っぽいレミー後期の衣装みたいで、「あ、レミーだな」と。彼を最初に認識するのはやっぱりこういう服装なんだろうね。こういう再現はけっこうちゃんとしてるよ。
――DLCのストーリーは本編と違って軍事ものっぽい内容になっているんですよ。
伊藤レミーが好きなものをどんどん足していって、うまくマッチしたってことなんだろうね。
――レミーが亡くなったあとに、こういうゲームが世の中に出たことを知って、どう思われましたか?
伊藤レミーは亡くなっちゃったけど、モーターヘッドのファンはまだ世界中にいるからね。レミーはロックンロールの不老不死伝説の象徴のひとりだから、死んじゃいけないんだよ。レミー、オジー・オズボーン(ブラック・サバス)、キース・リチャーズ(ローリング・ストーンズ)は、あんだけ悪いことやって長生きしてるっていう、人類の常識を打ち破ってきた男っていう伝説じゃない。だからレミーが亡くなったと聞いたときの衝撃は、レミーが死んだということよりも音楽業界というか、それを越えたカルチャーとしての死ということをみんな感じたからショックだったんだろうと思うんだけどね。そのレミーが最後にこういうゲームを遺していたのはちょっとビックリ……。昔からレミーは大々的に「ゲーム、ゲーム」って言っていたわけじゃないからね。そういう意味では「どういう内容なんだろう?」というのがファンの心理じゃないかな。
――こういう予期せぬ形で作品が遺されたというのはとてもすごいことですね。
伊藤そうだね。もちろんゲームがどれくらい充実しているかは俺にはわからないけど、彼が亡くなってから新しいものってふつう出てこないわけじゃない。だってさ、レミーがレコーディングしてたままの曲や古い音源があったりもするけど、ゲームは新しいわけだからね。このへんがやっぱりすごいよね。あと落書きってさ、ゲームのために描いたものなの?
――はい、体調が悪い中、せっせと描いていたそうです。
伊藤そこらへんだよね。レミーがこのゲームにどこまで関わっていたのかっていうのを探るリアルな材料。レミーのコメントとかはないわけだから、あの絵がいちばん重要なんじゃないかな。もちろん、ゲームの中身にレミーが関わっていることの証拠として。
――レミーの体温を感じますよね。
伊藤そこがいちばん重要じゃない? いまの世の中、若いコは“ロックのマジック”をまったくわかっていないからね。ファンのコたちがよく言うのは、昔は街でモーターヘッドのTシャツを着ている人どうし目が合うとお互いに「おお!」と通じ合うみたいなことがあったんだよね(笑)。でも、いまは量販店で売っているモーターヘッドのTシャツを着ている人に「モーターヘッドのファンなの?」って聞いても、バンド自体を知らないってことが多いらしいよ。つまり、俺が何を言わんとしてるのかっていうと、そういうマジックがそれを知ってる人にしか通用しない世の中で、モーターヘッドにちなんだものが出るというときに、その真贋性というか、“レミーのリアル”がどこにあるのかということが、ロックファンにとっていちばん重要なんだよ。だから、ゲームも好きだけどモーターヘッドも好きだという人はそのリアルなところを知って、「お、マジかよ。じゃあ、コレはやらなきゃな」ってなるっていう。リアルって何かというと、酒場にレミーがいることじゃなくて、このゲームのために描いたという落書きであるとか、そういったものなんだろうね。
いまも昔もアイコンとして生きるレミー
――イメージとはかなり異なりますね。
伊藤1990年代にレミーが日本にコンサートをしに来たときに、大貫憲章さんの弟子がサインをもらいたいって言うんで「殴られるかもしれないぞ」なんつって脅しながら楽屋に連れて行ったんだよ。そうしたらレミーがいちばん奥で着替えてて「おー、こっちこいよ、久しぶりじゃん!」って。サインもらいたいって伝えると「いいよいいよ。ちょっと待ってろ、着替えるから」って(笑)。あまりにいい人だから連れてったヤツが逆にビビっちゃってさ。イメージだと「サインなんてふざけんじゃねー、バカヤロー! 殺してやるぞ!」みたいな感じだから。
(一同爆笑)
伊藤やっぱりモーターヘッドっていうのはブランドだからね。そしてステージに立ったとき彼は“レミー”だからね。そういったアイコンとして彼は生きてきたわけだから、死んでからも「レミー、レミー」って言っているけども、俺に言わせると気づくのが遅すぎるんじゃないかと。死んだいまになってドイツのヴァッケン・オープン・エアフェスティバルに記念写真が撮れるスペースなんか作ったりしてるけど、彼が生きていた30年前にやっといたほうがよかったんじゃないかと。亡くなってから「アイコンだ、アイコンだ」って、お前らわかってないじゃんと。信じないんだよ、俺はそういう人を。もちろん、いま19歳とかだっていうんならわかるよ。でも50歳くらいのヤツが「レミーが」って言ってるのを聞いたことないよと(笑)。モーターヘッド好きで、いま50歳とか60歳のヤツはファンクラブに入っていたとか、そういう実績を見せてみろと。要するに、アイコンの側にいれば自分がロック好きだってことの証になるんだよ。それがレミーであり、モーターヘッドなんだよ。だけど、俺は認めないんだよ、そういうヤツを!
(一同爆笑)
伊藤つまりモーターヘッドやレミーを語るというのは、信念とか哲学のレベルなんだよ。そんなモーターヘッドやレミーがこういうゲームに関わっているというのはとても興味深いと思うよね。レミーの真髄をゲームの中で探し出すことは難しくても、このゲームをひとつの契機にして、レミーという人間、あるいはモーターヘッドというバンド、そしてその背景にあるロックンロールというものはどういうものなのかというところに興味を抱いて、ゲームと音楽ってわりと似たような世界観があるので、そういうところまで興味を広げていってくれる人が少しでも増えれば、レミーが認めたこのゲームが存在する意義があるのかなという気がするね。