さて、2019年3月1日公開予定の映画『移動都市/モータル・エンジン』。復讐に生きる少女と、移動する都市・ロンドンを巡る壮大な世界観を描いた映画として期待も高まる同作。豪華声優陣が起用されることも話題のひとつとなる本作だが、この度、吹き替え版を担当する主人公ヘスター・ショウ役の石川由依さんと、トム・ナッツワーシー役の島崎信長さん(※崎はたつさき)に、お話しをうかがう機会を得た。おふたりの『移動都市/モータル・エンジン』にかける思いは?

 『移動都市/モータル・エンジン』とは……最終戦争後に荒廃した世界で、人類は“移動都市”を創り出し、ほかの小さな都市を捕食して生活しており、その中でも、ロンドンは巨大な移動都市に成長し地上を支配しようとしていた。そんな中、殺された母親の復讐を果たすために、ロンドンに忍び込んだひとりの少女・へスター・ショウ(ヘラ・ヒルマー、声:石川由依)は、トム・ナッツワーシー(ロバート・シーアン、声:島崎信長)とともに、ロンドンに隠された真実を知り、人類の運命をかけた戦いに身を投じることとなる。

『移動都市/モータル・エンジン』吹き替え版を担当する石川由依さんと島崎信長さんに聞く、キーワードは「前向きに抗う」_03

――まず、壮大な世界観の『移動都市/モータル・エンジン』についてのご感想をうかがいたいと思います。

石川まず都市が移動するという壮大な世界観とアクションに圧倒されました。それに加えて、ファンタジーの世界というのが、自分の心に刺さって、わくわくが止まらないような作品ですね。主人公のへスターは、自分の母親をヴァレンタイン(サディアス・ヴァレンタイン)に殺されてしまったという復讐心で、ひたすら突き進んでいく過程でトムと出会います。ふたりがどうなるのか、へスターの過去やさまざまな人間模様なども交錯するので、冒険はもちろんのこと、いろいろなところに見どころがある作品に仕上がっていると思います。

島崎壮大なスケールの話です。僕もファンタジーとかSFが大好きなので、好きな人にはたまらないモノになっていると思います。こだわりが随所に見られる本作ですが、娯楽大作としてわかりやすい部分だけではなくて、それぞれの詳細な人間関係の変化や成長、個人のバックボーンといった人間ドラマも深くしっかりと描かれていて、エンターテインメントと人間ドラマとのバランス感覚がとてもステキです。
 そのため、それぞれのキャラクターの行動も、なぜそうしたのかが感覚的にわかるんです。複雑な感情とかでも、「ああ、でも人間ってそうしたいことってあるよね」とか「きっとこうだったんじゃないかな」とか思わせてくれるんです。想像がすごく膨らんで、ストンと心に入ってくる、そんな作品ですね。

――おふたりが演じられたキャラクターの魅力だったり、演じる際に心掛けたことなどがあれば教えてください。

石川へスターは、復讐することが第一で、ふつうはくじけてしまうであろう出来事があっても、とにかく屈しない、諦めない、絶対に何が何でも復讐してやるという気持ちが強い子です。ただ、彼女自身は鍛え上げられた子ではなくて、彼女自身の中に、弱い部分だったり、怖がる部分もあると思うんですけど、それに勝る復讐心があるんです。そんな中で、トムと出会って、復讐心だけだったのが、自分の気持ちに余裕ができたり、固まっていた気持ちをいい意味でほぐしてもらったりして、周りの人間関係をちゃんと見られるようになったりします。そういった部分で、すごくゆっくりとではあるのですが、彼女自身の中にも変化があって、成長しているなと感じたキャラクターでした。

島崎トムは、移動都市・ロンドンで、いろいろな都市の裏側や世界の真実などを知らずに育った、ふつうに生きてきた子で、いきなりハードな展開に巻き込まれていったりするんです。彼も、へスターと同じように、折れない、諦めない、しぶとい(笑)、芯が強い子だなと思いましたね。彼の強さは、直接的な戦闘力ではなく、芯が折れないところです。好奇心はあるけど、いい意味での鈍感さも持っているから、察しすぎないところもいい。

――鈍感だから聞けるということはありますよね。

島崎そうなんです。絶対怖くて黙ってしまうような状況でも言葉を発したりする。もちろん、ここぞというときに勇気を出す場面もありますが。彼の適応力の高さは驚異的です。常識の変わるようなことが突きつけられても、ちゃんと自分で見聞きしたことを認識して信じることができる部分がすごいです。だから、最初はロンドンの中では悪く言われている存在のへスターのことも、ちゃんと彼女と相対して、コミュニケーションを取っていくうちに、彼女自身を見て判断するんですよね。自分の固定概念みたいなものにとらわれずに、「こういう人なんだ」ということを受け入れていくというのが彼のすごいところで、おもしろいところだなと思います。僕は、前向きに抗っていく人がすごく好きなんですよ(笑)。

――前向きに抗っていく!

島崎だからこそ、変化や成長があるし、関係性もどんどん変わっていくし、ドラマが生まれるし、というところがありますよね。トムは前向きで、行動力もあるし、好奇心も旺盛だし、それゆえにやらかしちゃうこともあるんですけど、そこも含めて人間味があって、彼が好きです。

『移動都市/モータル・エンジン』吹き替え版を担当する石川由依さんと島崎信長さんに聞く、キーワードは「前向きに抗う」_02

――おふたりは、同じ日に収録されたとのことですが、お互いの演じられた声を聞いて、印象はいかがですか?

石川島崎さんは、トムに似ている(笑)。

――わかります!

島崎そうですか!? だったらうれしいですけど(笑)。

石川性格とかはとりあえず置いといて、トムと雰囲気やぱっと見の印象が「あ、なんかトムと雰囲気が似ているな」と。

島崎本当ですか。やったー! うれしい(笑)。

石川だから、トムとして認識しやすかったというか、声を聞いても「あ、トムだ」とすぐ思える部分はありましたね。

――人生に前向きに抗っていらっしゃるということですね(笑)。

(一同笑)

島崎自分がそういう風にありたいと思っているから、好きで、自分もそうしがちなのかもしれないですね。石川さんは、表面的な雰囲気は、ヘスターには似ていないと思いますね。殺し屋みたいに見えないから(笑)。

石川そうですね。似ていたらちょっと怖いですもんね。憎しみに生きている感じになっちゃいます(笑)。

島崎でも、芯の強さだったり、負けん気や諦めない心とかは、石川さんにもけっこうあるのではないかと。石川さんも、けっこう抗うタイプなのではないかと僕は勝手に思っています。むやみに戦うのではなくて、戦わないといけないときや、大事なことはちゃんと大切にして、抗っている人ではないかなというイメージがあります。

――石川さんは、「違う」という顔をされているような……(笑)。

石川そんなことないですよ! 抗って生きています(笑)

島崎お芝居を見た印象ですが、「こういう表現が出るということは、石川さんの中にも根の部分では同じような芯があるのではないかな」と。「石川さんはすごくへスターに合うだろうな」と、台本を読んだ段階で思っていましたし、実際に収録するときも実感していました。ヘスターは、完全に戦士ではないというのがすごくよかったです。ふつうの人間らしさと言いますか、若さ、未熟さ、青さ、そして女の子らしさ……そういういろいろな部分がしっかりと乗っていて、芯の強さがあるのが、よりピッタリだなと思って、僕は聞いていました。

――石川さんは、芯の強さを持っているキャラクターを演じることが多いですよね。

石川人だけでなく、物事に対しても一途なキャラクターは多いですね。そういう役柄が多いということは、きっと自分自身にも(そういう部分が)あるのかなと思います。実際、芸能のお仕事に携わるようになって長いですが、辞めようと思ったことは一度もないですし、ひとつのことをずっとやり続けるという意味では、自分とヘスターは似ているのかもしれないなと思いました。

――やはり、前向きに抗う方であったと。

石川そうですね、抗っています(笑)。

『移動都市/モータル・エンジン』吹き替え版を担当する石川由依さんと島崎信長さんに聞く、キーワードは「前向きに抗う」_01

――さすが、おふたりとも役柄をすごく把握していらっしゃいますね。型にはまらないキャラクターということで、演じるうえで苦労もひときわだったと思われるのですが、とくに苦労した点や注力したところはありますか?

島崎表現とか気持ちの流れとかは、型にはまらないほうが楽でした。

――そうなんですね。

島崎型にはまってしまうと、細かく見ていくうちに、「ここはつなげるのが難しいな」というときがあったりするんです。大きな流れとして見たときに違和感がなくても、ひとりの人間の行動として細かく見たときに、どうしても違和感が発生することはありますね。(物語として)成立はしますけど、個人の感情としては違う。そういう意味では、この『移動都市/モータル・エンジン』は、しっかりとひとりの人間がそこに生きていて、何を思って、どう行動したか、というのがきっちりと描かれている作品だったので、演じやすかったです。

――トムは、型にはまらずに演じやすいキャラクターだったと。

島崎はい。僕は、ふだんから、型ではなくて、その場で思ったことや感じたことを表現できればいいなと思っているので、とても追いやすい素敵な台本と映像でしたね。

――では、難しかった点はありますか?

島崎息の芝居が難しかったです。この映画は、走るシーンがすごく多かったんですよね。へスターとトムは、走ってボロボロになって息が上がっているところでしゃべったり、必死に逃げて走っていたり……と、細かい息の演技が多かったです。実写だと、肩だって上下しているし、人間として呼吸している部分のシンクロの取りかたが、慣れない部分もあって難しかったです。それでも、極力“型”でやりたくない。息をするのにも、そのときどきで気持ちがきちんとあるので。本人は別に“この秒数で息を吐く”とか思っていないわけですからね(笑)。

(一同笑)

島崎流れがあって、いま緊張して息が上がっていることもあれば、単純に疲れ果てて、はあはあしているときもある。息もセリフもどちらも気持ちのある表現なので、自然に演じるのはなかなか難しかったです。どうしても型で追いがちになってしまう部分を、気持ちを入れようということでがんばりました。

『移動都市/モータル・エンジン』吹き替え版を担当する石川由依さんと島崎信長さんに聞く、キーワードは「前向きに抗う」_05

――なるほど、息のお芝居は大変そうですね。では、石川さんはどうですか?

石川島崎さんがおっしゃったように、息芝居というのがすごく難しかったです。へスターは、とくに、セリフを話すよりも走っていたり、アクションしていたりすることが多いので。復讐するという大きな目的はあるので、わかりやすい部分はありますが、その分感情を表に出しませんし、ミステリアスな部分も多い。怒りにしても、「ここはどういう怒りなのだろうか」というところや、呼吸ひとつ取っても、考えながらセリフに気持ちを込めるのは難しかったです。

――呼吸だけでも、いろいろな表現があるのですね。

石川単純に息芝居といっても、実写の彼女とどうやって呼吸を合わせるのかというのは、先ほど島崎さんがおっしゃったように、型にとらわれたくないけど、うまくいかない部分もあって。「自然に合うといいな」と願いながら……。もう願いですよね(笑)。

島崎そうですね、願っています(笑)。

――本作は、巨大移動都市と移動都市の戦いや人どうしのぶつかり合いなど、ある種殺伐とした世界観だと思うのですが、アフレコ現場どのような雰囲気だったのでしょうか。

島崎ふたりで収録したのですが、すごく和やかな楽しい雰囲気でした。

石川殺伐とはしていなかったですね。

島崎僕の考えですが、緊張感のある中でもリラックスしていたほうが、いいパフォーマンスになるかなと思っています。もちろん、作品やシーンによっては、ピリッとした空気がいいときもありますが、意識してではなく、自然とそうなったというのがすごく好きですね。

――緊張感は必要ですが、変に構えすぎてもいいお芝居はできないということですね。

島崎こんなに大作映画でメインの吹き替えというのは、ほとんど経験がなかったので、じつは最初はドキドキして構えてしまう部分もあったんです。てっきり、石川さんはすごく慣れていらっしゃるんだろうなと勝手に思っていたのですが、ぜんぜんそんなこともなかったようで、お互い最初は「じつは……」と切り出して(笑)、「がんばりましょう!」から始まりました。

――そうだったんですね。

島崎そうなんです。スタッフさんも、すごく優しくて、丁寧に、しっかりと取り組んでくださいました。リラックスした、本当にいい緊張感の中で、和やかに楽しく演じさせていただいた印象です。

――石川さんはいかがでしたか。

石川島崎さん自身は、ほかの作品でもごいっしょさせていただいたことがあり、お芝居も聞いたことがあったので、その点でとても信頼していました。いっしょに収録できるというのは、キャラクターに入り込む意味でもすごく演じやすかったです。島崎さんとは同世代でもあるので、変にくだけすぎもせず、がちがちに緊張するということもなく……という環境で、とても演じやすかったですね。

――いい感じにリラックスできたのですね。

石川そうですね。そして、スタッフさんもすごく優しかったので、自分で納得がいかない部分をもう一度やらせていただけたりもしたので、環境がとても素晴らしかったと思います。

『移動都市/モータル・エンジン』吹き替え版を担当する石川由依さんと島崎信長さんに聞く、キーワードは「前向きに抗う」_04

――ところで、本作はファンタジー好きのユーザーの琴線に触れる作品だと思うのですが、おふたりが子どものころから好きなファンタジー作品はありますか? あるいは、「こういう作品が好きな人はきっと本作を気に入ってくれるのではないか」という作品はありますか?

島崎ピーター・ジャクソンさんが製作を担当しているということで、そのままリンクしてしまうのですが、『ロード・オブ・ザ・リング』ですね。ちょっと当たり前すぎかな……。

石川私は、ジブリ作品はよく見ていたのですが、ジブリ作品が好きな方はわくわくするんじゃないかなと思います。

島崎僕は、やっぱり『ロード・オブ・ザ・リング』で!

(一同笑)

島崎子どものころに、家族ですごく楽しく吹き替え版の映画を観ていたんですよね。中でも『ロード・オブ・ザ・リング』を観るときは少し特別で。

――特別ですか? 気になります。

島崎『ロード・オブ・ザ・リング』を観るとなったら、父親がノンアルコールのカクテルジュースを作ってくれたんですよ。それがすごくおいしくて! 家族みんなで、「わー!」って喜んで飲んで、「映画メチャクチャおもしろい!」と言って観ていました。

――それは、いい思い出ですね。

島崎この2作品に共通しているのは、世界観の作り込みですね。あと、作品内の世界観の“常識”に則って生きている人だからこそ取る行動や言動。たとえば、魔法を見たときに、魔法が当然の世界に生きている人だったら、水道の蛇口を回す感覚で魔法を使いますよね。それをちゃんと“その世界の常識”という感覚で描いていると、“この世界の常識”とは、感覚が違うのがわかっておもしろいです。そういう点で、世界観自体や登場人物などの設定などがしっかりしているので、細部に至るまで楽しめると思います。