2019年2月21日の『逆転裁判123 成歩堂セレクション』(Nintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One版)発売を記念し、『逆転裁判』シリーズの生みの親である巧舟氏にインタビューを実施した。

巧舟(たくみ しゅう)

 『逆転裁判』シリーズの初期三部作の企画、脚本、監督を務める。ファンから“巧節”と呼ばれる独特のセリフ回しと、驚き溢れるトリックがいまもなお多くのプレイヤーを惹きつける。『ゴースト トリック』、『レイトン教授VS逆転裁判』などを手掛けた後、2015年から『大逆転裁判』シリーズ企画、脚本、監督。『逆転裁判』のテレビアニメや舞台の監修も行う。

 2001年10月12日、ゲームボーイアドバンス用に発売されたアドベンチャーゲーム『逆転裁判』。調査して集めた証拠品と法廷での証言を照らし合わせて、ムジュンを見つけ、叩きつける。それまでのアドベンチャーゲームとは一線を画したインタラクティブなゲーム性、まるで格闘ゲームのように派手な演出や衝撃的なシナリオが人気を呼び、現在でも高い人気を誇る。

 その初期3作、『逆転裁判 蘇る逆転』、『逆転裁判2』、『逆転裁判3』をセットにした『逆転裁判123 成歩堂セレクション』が2019年2月21日発売された。それを記念し、シリーズの生みの親である巧舟氏に実施したインタビューを公開しよう。巧氏が語った開発経緯とは……?

コードネームは“サバイバン” 『逆転裁判』誕生秘話

――『逆転裁判』っていいタイトルですよね。

 ありがとうございます。でも、じつはあれ、僕が考えたタイトルではないんですよね。

――やはり決まるまで紆余曲折あったのでしょうか? 開発中は『サバイバン』というタイトル案もあったそうですが……。

 ありましたね(笑)。『サバイバン』は当時、けっこう気に入ってました。初めて聞いたときは意味のわからない語感なんだけど、それがだんだん浸透していって、最終的に『サバイバン』と言えばあのゲーム、と広がってほしいと思っていたんです。イギリスの古いコメディー番組に『モンティ・パイソン』というのがあって、それと同じ発想ですね。“サバイバル”プラス“サイバン”なわけですけれど、周囲から「本当に意味がわからない」と一蹴されてしまって。

 最終的にホワイトボードの前にチームみんなで集まり、いちばん偉い上司のひと言で決まった感じです。「巧、《逆転裁判》って書いてみてくれ」と言われて、実際に書いて字面を見て。

――漢字4文字のタイトルは、インパクトがありますよね。

 僕としては、じつは最初あまりピンと来なかったんですよね。なんと言っても『サバイバン』推しでしたから(笑)。でも、世に出てみると、いいタイトルだと言われましたね。当時、カタカナや英語が多いゲームの中で、漢字4文字というのは目立ってましたし、何より、ゲームがどんな内容なのか、そのおもしろさまで一発で伝わる。すばらしいタイトルだと思います。『サバイバン』じゃないなと(笑)。

 じつは当時、「主人公の名前も変えろ」って言われてたんですよね。“なるほどくん”って、ふざけすぎじゃないかって。タイトルでは譲りましたが、そっちは守り通しました(笑)。

――いまだからかもしれませんが、なるほどくん以外の名前は考えられませんね。ところで、ゲームボーイアドバンス(以下、GBA)で出すことは最初から決まっていたのですか?

 じつは、当初はゲームボーイでという話だったんですよ。まだGBAが発売される前の企画だったので。制作に入る直前、GBAの情報が舞い込んできたんです。最初に見たときは、まだボディーのない基盤がムキ出しの状態でしたけど、ものすごくきれいな液晶に感動しました。「これでゲームを作りたい!」と、みんなテンションが上がりましたね。

――企画が動き出したのはいつごろですか?
 
 『逆転裁判』の最初の企画書を書いたのが、2000年の夏休みでした。それまで『ディノクライシス』、『ディノクライシス2』という恐竜のゲームを作っていたのですが、上司から「つぎは半年やるから好きなものを作れ」と言われたのがきっかけです。「いまこそミステリーのゲームを作る、最初で最後のチャンスだ」と思いました。もともと僕は、ミステリーを作りたくてゲーム会社に入ったんです。じつは就職活動のときは、ミステリー小説に関われるような出版社を第一希望にして回っていたんですけど、幸か不幸かご縁がなかったみたいです(苦笑)。

――当初の企画書はどんな内容だったのでしょうか。

 かなり初期から“弁護士のゲーム”というアイデアはありました。でも、夏休み中に企画書を書いていたら、上司がわざわざ電話をかけてきて「わかりづらいし、弁護士はやめたほうがええんちゃう?」と言われたりして。

――いきなり企画頓挫のピンチ! それでも、電話を無視して企画を進めたわけですよね?

 “好きなものを作る”という約束でしたからね(笑)。夏休みが終わってチームの顔合わせをしました。もともと、若手を育成するのが目的のチームだったので、入社3年以内の若手ばかりが、7人。僕がいちばん年上で当時6年目でした。デザイナーの岩元(辰郎氏。キャラクターデザインを務めた)くんも新人でしたね。7人の内訳は、企画が僕、デザイナーがふたり、プログラマーがふたり、効果音と音楽がひとりずつ。

 企画が僕だけだったので、ゲーム内容を考えて、企画書を書いてから、当然のようにシナリオも書いて、演出もすることになりました。これが『逆転裁判』の作りかたの起源になったわけですね。自分にいちばん合っているやりかただと思います。当初、制作期間は半年で、と言われたのですが、結果的に9月から6月までの10ヵ月で作りました。いま思うと、この短期間でどうやって作ったんだと脅威を感じます(笑)。

――開発チームが7人というのは、当時としてもかなり少ないですよね。

 そうですね。少人数の若手のラインをいろいろ試そうというのが当時のセクションの方針だったんです。でも、さすがに最初に提示された半年で1本開発するという期間設定は無理がありすぎたような気がします(笑)。

――比較として、最近の『大逆転裁判』だと、どれぐらいの人数なのでしょうか?

 メインで動いていたメンバーだけで30人ぐらいでした。当時とは制作規模が違いますからね。当時、GBAは携帯ゲーム機として、機能や容量などにいろいろ制限があったのですが、逆にそれが『逆転裁判』のスタイルを決めた部分もありました。

 たとえば、当時、カラーのイラストは256色で描いていたのですが、「全部カラーにするとデータ量が大きくなりすぎて入りきらないかも」という話になって。でもモノクロなら16色なので、同じ枚数でもデータ量が4分の1になるぞ、ということで、証拠写真や回想をモノクロにしたり。そういう工夫がいろいろありました

――イイ感じの演出の裏にはそんな工夫があったのですね。制作時、巧さんはどこまで担当していたのでしょうか。シナリオと……?

 ひと通りやってますよ。監督なので、絵や音楽のディレクションもします。僕自身のシナリオの仕事は、物語を考えて文章を書いて、ゲーム的な攻略資料を作って、セリフの表示タイミングや速度や間を設定して、そこにキャラの動きを設定して、音楽と効果音を鳴らすタイミングを設定して、フラッシュや画面振動などの効果をつけて、最終調整。

 開発の最初に、そういう細かいタイミングを自由に設定できるツールをプログラマーが用意してくれたんですね。その流れで3作目までやっていました。

――巧さんがずっと担当されていたわけですね。でも、シリーズを重ねるほどにヒットしたわけですから、チームメンバーを増やし、パートによってはバトンタッチするというやりかたもできたのではないですか?

 バトンタッチという発想は当時、なかったですね。チームの規模も、3作目まではそれほど大きくはなりませんでした。プログラムとグラフィックの人数はすこし増えましたが、企画マンを増やそうという話は出ませんでしたね。15年前ということもありますが、制作当時はとにかく日々が濃密すぎて、記憶が飛んでいる部分がけっこうあります。

――忙し過ぎて記憶喪失に(笑)。

 本当に夢中でやってましたね。僕自身『逆転裁判』が、ひとりで書く初めてのシナリオだったので、そもそもどう書いていいかわかっていないところもありました。とにかくミステリーに対する情熱だけをたよりに、まずトリックだけを考えて、とにかく書き始めてみました。

 でも、すぐに壁にブチ当たりました。最初にシナリオができたのは、『逆転姉妹』だったのですが、そこでは、なるほどくんの師匠が殺害されて、逮捕された妹の真宵ちゃんに会いに行くわけですよ。そのとき、自然な流れで「ご両親は?」って尋ねるのですが、そこで手が止まってしまって。

 「あれ。この子の両親ってどうしてるんだろう」と。そこで初めて気づいて、あわてて物語を考えてみたり。そうやって書いていたのですが、“トノサマン”のときに、自分の書いたものを読み返してみたら、ゾッとするほどクオリティーが低くて、最初から書き直すことにしたんです。それ以来、書き始める前にちゃんとプロットを作るようになりましたが、最初はそんな感じでしたね。そんな状態で、よくあれが書けたなと思ったりします。

――トノサマンがきっかけになったのですか。

 そうですね。最初に『逆転裁判』の企画を考え始めたとき、それといっしょに、この物語はどんな世界で、どんな事件を起きるのかを考えていたんです。そして、そのもっとも典型的な事件として最初に思いついたのがトノサマンでした。

 撮影スタジオという浮世離れした事件現場、そこで“正義の味方が悪役を実際に殺害してしまう”という逆転の構図が楽しそうだと思ったんですね。それを一度まとめてから、先に『逆転姉妹』をしっかり書いて、もう一度トノサマンに戻ってきたら、なんだこれは、となっちゃって……。そもそも僕は、ミステリーは得意だったのですが、キャラクターというものに対する感度や理解が弱かったんですね。

――えええ。あれだけ“濃い”キャラクターのオンパレードの『逆転裁判』を作ったのに?

 でも、キャラクターのおかげで天啓を受けたこともありましたね。それは……。

 インタビューの続きは、ただいま発売中の週刊ファミ通2019年3月7日号(2019年2月21日発売)に掲載! キャラクターの生み出しかたやシナリオの作りかたなどについてじっくり話してもらったので、ぜひこちらもチェックしてください。

週刊ファミ通本誌のインタビュー記事用に撮影したものの、インタビューの本文が増えすぎて完全に文字に隠れてしまったかっこいい写真をせっかくなので公開。巧氏の“埋まりっぷり”は、ぜひ週刊ファミ通2019年3月7日号(2019年2月21日発売)でご確認ください。