“特別な作品”にふさわしい“特別な曲”はいかに生まれたのか?

 『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(以下、『スマブラSP』)のメインテーマ“命の灯火”。その雄壮なメロディーと、ボーカルの美しい歌声に魅了された人は多いだろう。そこで、この曲を手掛けた作曲家の坂本英城氏と、歌唱した古賀英里奈さんに直撃! 楽曲にまつわる秘話などを詳しく伺った。ディレクター・桜井政博氏からのメッセージも必見!

坂本英城氏(さかもとひでき)

サウンド制作会社ノイジークローク代表取締役CEO。ゲームサウンドを中心に数多くの楽曲を手掛け、『スマブラ』シリーズは前作『スマブラfor』より楽曲制作に参加。『スマブラSP』ではメインテーマの作曲や複数の楽曲の編曲を手掛ける。

古賀英里奈さん(こがえりな)

福岡生まれの18歳。幼少期より劇団やテレビCMソングなどで活躍。2016年には声優グランプリ優勝。翌2017年にはテレビ番組『THEカラオケ★バトル』で決勝に進出するなど一躍有名に。『スマブラSP』ではメインテーマの歌唱担当として大抜擢された。

オーディションで見た宝石に坂本氏が惚れ込みアプローチ

――坂本さんと古賀さんは、今回のお仕事の前からお知り合いだったそうですね。

坂本2016年の秋に、福岡で“声優スタジアム”という声優のオーディションがあり、僕がその審査員をやっていたんです。そのときのグランプリが、彼女でした。

――そこで、古賀さんが歌ったんですね。

坂本本来は声優のオーディションで、演技の審査なのに、彼女は最後にギターを持ち出して、「1曲歌っていいですか?」と。聴いてみたら抜群に上手で、審査員一同、衝撃でイスから落ちそうになりまして(笑)。それでコンタクトを取ったのが最初ですね。いつか自分の仕事で、この歌声がはまる曲があれば、絶対にプッシュしようと思っていました。

――『スマブラSP』が、まさにその機会に。

坂本ディレクターの桜井さんが求めておられたボーカル像にピッタリでしたから。なにより若いですし、色もついていません。ですので、絶対に古賀さんしかいない、と思いました。

――古賀さんは決定の連絡を受けたとき、どんな感想を持たれましたか? 

古賀じつは最初は、坂本さんから「お仕事をいっしょにできませんか?」というお誘いをいただいて、どんな仕事なのか曲なのかもわからないまま、東京に行くことになったんです。

坂本オフィスに向かう道中、「どんなゲームをやるの?」と聞いたら、「『スマブラ』が好きです」という答えで……密かに「このあと楽しくなるな」と(笑)。しかも使用キャラはカービィだというので、「早く桜井さんに会わせてあげたい!」と思ったのを覚えています。

――では、桜井さんとお会いしたところで、突然、お仕事の内容が『スマブラ』のメインテーマだと知らされたんですね。

古賀まさか自分がそんな世界中で愛されているこの作品に関われるとは思っていなかったので、本当に驚きました。打ち合わせには母と行ったのですが、私の兄がずっと『スマブラ』シリーズを遊んでいたことを母も知っていたので、ふたりで顔を見合わせて「えー!」って(笑)。

――最初の打ち合わせでは、桜井さんからはどんなお話をされましたか? 

古賀そのときは“灯火の星”のストーリーや、操作のしかたなど、内容に関するだいたいのお話をうかがいました。でも恥ずかしながら、“カービィ好き”と豪語していたのですけど、桜井さんの存在を知らなくて……。

――ああ、カービィは大好きでも、作っている人のことは知らなかったんですね。

古賀家に帰って、いただいた名刺で名前を検索して、「すごい人に会ったんだ!」って(笑)。それからいっぱい情報を調べました。

号泣するほどうれしかった担当決定、しかしそこからの苦労も……

――つぎに、坂本さんがメインテーマを担当することが決まった経緯を教えてください。

坂本桜井さんから、『スマブラSP』に参加している音楽家に、「メインテーマを手掛けたい方は立候補してほしい」という話があったので、「これは絶対やりたい!」と手を挙げました。その後コンペで決めることになり、まず第一稿を提出したのですが……。

――評価はいかがでしたか?

坂本「サビを直し、なおかつオーケストラっぽい感じに」と指示を受けました。ですが、そのサビのメロディーがとにかく思い浮かばなくて……本当に苦しみました。桜井さんから言われたのは、「1回聴いたら忘れないものにしてほしい」。言葉としては簡単ですが、ものすごくたいへんなことです(苦笑)。
 日夜苦しみましたが、ある日まさに天啓のように、夜中にガバッと目が覚めて、メロディーが浮かんだんですね。あわててPCに書き留めて、「目が覚めてから聴いてみても、いいものだと感じられたらこれでいこう」と。そうしてできたのが、いまのサビなんです。

――まさに曲が降りてきたんですね。作曲にあたり、心掛けたことはありますか?

坂本メインテーマは、メニュー画面用やバトル用など、いろいろなアレンジがなされることになります。ですので、どんなアレンジでも適応できる曲にしようという考えはありました。
 あとは、ボーカルありの前提で作る曲ではありますが、皆さんがいちばん多く聴くのは、メニュー画面の曲だと思います。ですので、最初にメニュー画面でバンと聴いたときに映えるメロディーでなければいけないと思って、編曲よりはメロディーを、すごく考え抜いて作った記憶があります。

――実際、本当に頭に残る、一度聴いたら忘れないメロディーになっていますね。

坂本でも編曲に対してはいろいろなご意見をいただいて、かなり直しました。最初はもっと派手なオーケストラで作ったのですが、「ストーリー上、出だしはすごく静かなものにしたい」という指示があり、結果的に最初の厚みや音符の数の、だいたい半分くらいまで削った覚えがあります。修正しながら、「こんなに削っていいの?」と不安になったくらい(笑)。

――桜井さんの中には明確なイメージがあったということでしょうね。

坂本そうですね。桜井さんは何よりも「お客さんが喜ぶかどうか」をいちばん大事にされているので、その観点から楽曲へのご意見はたくさんいただくことがあり、もしかしたらそういった桜井さんの指示を「きびしい!」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。ですが僕にとってはとても共感できる考えかたでしたので、「とことん同調しよう」と思いました。
 それに桜井さんは、きびしいぶん、最終的にオーケーを出したものに対しては責任を持って称賛してくれるんです。そんなふうにしてくれると、やはりクリエイターとしてはうれしくてやる気も出ますし、本当にすばらしいディレクションだと感じました。

――編曲まですべてが完成したあとに、ようやく正式決定、となったのでしょうか?

坂本正式決定となったのは、編曲に手を入れる前でした。その結果待ちの時間は、本当に地獄でしたね(苦笑)。決まるか決まらないかは、僕の作曲家人生もですが、ノイジークロークにとってもすごく大きいことでしたから。
 桜井さんご自身から、「今回は坂本さんにお願いすることにします」と、その一文だけ太字になったメールが届いたときは、ボロボロ涙が出て崩れ落ちました。仕事が決まって泣いたのは初めてで、それくらいうれしかったです。

――そうしてできあがった曲を聴いて、古賀さんはどのように感じましたか? 古賀兄が『スマブラ』シリーズを遊んでいたので、その音楽も聴いていましたが、今回も「音が響き渡る感じが「やっぱり『スマブラ』っぽいな」と思ったのが第一印象です。

坂本歌詞については、最初、プロの作詞家さんに頼むという話だったんですよ。そこを「絶対に桜井さんに書いてほしい」と思って僕がご本人にお願いしたところ、「それはどうなんでしょう……」とのお返事でした。でもつぎの打ち合わせで、桜井さんが「詞ができました」と。早っ! と思いました (笑)。

――日常ではあまり使わない言葉もあったりして、けっこう難しい歌詞ですよね。

古賀難しかったですね。やっぱり言葉が難しくて、何度も辞書を開きました(笑)。

――歌い手としても難しい曲でしたか?

古賀そうですね。キーを決めるときに、最後のロングトーンのところで合わせるなら少し低いほうがいいなと思ったのですが、そこに合わせると、Bメロあたりの、いちばん低いところが出ないようになったり……。そこがすごくたいへんでした。

歌い手が発表され古賀さんの周囲も賑やかに?

――レコーディングで、苦労したことなどがあったら教えてください。坂本今回の曲はキーがすごく高いのですが、さらに桜井さんから「最後に転調して半音上げましょう」との要望がありまして。確かにそのほうが最後の盛り上がりが増すのですが、もともと高い音がさらに高くなるので、歌い手としては本当につらい。本番の前にスタジオで練習したのですが、正直なところ、その時点ではぜんぜん声が出ていませんでした。

古賀確か、本番の半年くらい前でしたね。

坂本でも収録直前になったら、最後の高い音が出るようになっていたんですよ。彼女は僕にひと言も言いませんでしたが、絶対にものすごい練習をしたはずです。

古賀「あの音を出さなきゃ!」と、毎日そのことばかり考えて練習していました。音を出すだけならできたのですけど、出すだけではダメで、最後はロングトーンを出し切らないといけないんです。音を出すことよりも、続かせることが本当に難しかったですね。
――そんな試練を乗り越えての、実際のレコーディング本番はいかがでしたか? 坂本最初はR&Bっぽい歌いかただったのですが、桜井さんが、「これではダメ。歌わされている感じや、技巧に走っている感じがします」と。「この曲は言葉を直に伝えたいから、英里奈さんの素のままの歌いかたで歌ってほしい」と指示を受けました。

古賀私は本格的なレコーディングが初めてだったのですが、坂本さんの的確なディレクションもあって、修正することができました。

――初めてとは思えない堂々たる歌声で、古賀さんのお名前が発表されるまでは、ベテラン歌手が歌っていると予想していた人が多かったですね。SNSなどでは、いろいろな歌手の名前が挙がっていましたが……?

古賀見ていました。ずっと心の中で「私なのに……」と思っていて、でも「言っちゃダメだ、言っちゃダメだ!」って(笑)。

――やっぱり“ベテラン感ある歌声”と感じる方が多いようですが、ご本人としてはそういうイメージはあるんですか?

古賀あまり意識して歌っているわけではないのですが……「声にフレッシュさがないね」とは、よく言われることがあります(苦笑)。でもベテランの方と間違えられるのは光栄なことなので、本当にありがたいと思います。

――『命の灯火』を古賀さんが歌っていることが発表されたのは、2018年11月でしたね。

坂本11月28日、古賀さんの18歳の誕生日に公開されたんですよね。

古賀はい、すごくうれしかったです。

坂本桜井さんの粋な計らいで、これ以上ないプレゼントですよね。彼女にとっては一生忘れられない日になったはずです。桜井さんって、そういう気遣いもすごいんですよ(笑)。

――周囲の反響はいかがでしたか?

古賀そのとき“古賀英里奈”がYahoo!の検索ワードの1位になっていたらしくて、友だちからは「これは何事なの?」って(笑)。

――突然お友だちが時の人になっていたら、誰でも驚きますよ(笑)。

古賀学校から帰ってケータイを見たのですが、なんだかTwitterが重たくて、「そういえば今日は発表の日だった」って。発表されるのは夜だと思っていて、お昼に発表されることは予想していなかったので、本当にビックリしました。

――発表されて、ずっとヒミツだったことがようやく話せるようになったわけですよね。

古賀はい。すぐに、LINEの友だち全員に送りました!(笑)

――坂本さんにとっては、メインテーマが発表されたのはE3 2018の映像ですよね。

坂本2018年3月に『スマブラ』新作が制作中であることを発表する動画が公開されましたよね。じつは、そのインクリングの目に『スマブラ』のシンボルが映った場面でも、ちょっとだけメインテーマが使われています。

――えっ、そうだったんですか!

坂本よく聴くと、アカペラでメインテーマが歌われているんです。この時点での歌い手は古賀さんではないのですが。でも、正式に発表されて肩の荷が下りたのは、E3ですね。あれ以降、僕が曲を書いたということが言えるようになりましたから。

――あの発表は本当に盛り上がりましたよね。

坂本E3バージョンのオーケストラ曲も僕の作編曲なので、現地の人たちの反応をどうしても間近で見たくて、ロサンゼルスのE3会場まで見に行きました(笑)。