2013年に第1回目が京都で開催されるや、日本のインディーゲームシーンに多大な影響を与えてきた、BitSummit。今年行われたBitSummit Volume 6は、過去最高となる10740人を記録するなど、その存在感は高まるばかりだが、2019年に行われる7回目の開催概要が明らかにされた。ここでは、BitSummitを主催する、日本インディペンデント・ゲーム協会(JIGA)のメンバーに、意気込みを聞いた。
富永彰一氏(とみながしょういち)
キュー・ゲームス クリエイティブディレクター
小清水史氏(こしみずひさし)
ピグミースタジオ 代表取締役
村上雅彦氏(むらかみまさひこ)
スケルトンクルースタジオ 代表取締役
ベン・ジャッド氏
デジタルデベロップメントマネジメント
パートナー、DDM Japan EVP
ジョン・デイビス氏
BlackSheep 代表取締役
安定してきたBitSummit、まさに唯一無二のイベントに
――まずは、2018年5月に行われたBitSummit Volume 6の手応えからお教えください。
富永とくにこれまでと大きく変わったなと感じているのは、パブリッシャーさんの参加が多くなったことです。個人的にはパブリッシャーというよりは、音楽業界でいうところの“レーベル”のほうがニュアンス的には近いのかなと個人的には思っているのですが、クリエイターに近い立ち位置にある関係の出展社がすごく増えたと思います。これは、業界の構造自体が変わってきているということかもしれません。
一方で、クリエイターさんの作品性というか、多様性がでてきた。個人の感性に則った叙情的なメッセージの込められたものだったり、突飛でシュールなものだったり……。いろいろなタイプの作品が出てきたなと。このあたりがバラバラにではなくて、同時進行で進化していくのかなと勝手に思ったりもします。
――いわゆる“レーベル”が増えたことに関しては、どのように捉えているのですか?
富永僕自身はすごくポジティブです。そもそもBitSummitが始まったときは、自分たちの作ったタイトルをお披露目する場所もあまりなかったんです。「僕たちはこんなタイトルを作っているので応援してください」ということで、BitSummitを立ち上げたという側面もあるので、サポートしてくれる存在が増えたのは、僕にとってはとてもうれしいことです。
村上海外のいろいろな人たちとパートナーを組んでやっていくというのは、ここ数年来の僕の大きなテーマとして変わっていなくて、それは着実に進化していると思っています。さらには、“学生さんといっしょに取り組みたい”というのも僕の希望なのですが、学校単位ではなくて、学生さん個人が積極的に参加してくれているのも好ましく思っています。
――ああ、学生さんがBitSummitに自主的に参加してくれているのですね。
村上後は、興味深く思うのは新世代の台頭です。これまでのインディーゲームは、かつてファミコンなどでゲームに触れて回顧的にインディーゲームを作るというケースも見られたのですが、最近はインディーゲーム自体が初めてのゲーム体験という人も増えてきている。だから、作るものがあまり囚われていないという感じがします。僕たちが作るとなると、どうしても思い出などをなんとなく紐づけてしまうのですが、まったく関係なく、「ゲームって、これでいいんでしょう?」というパターンが出てきたなというのは感じました。僕らだと、「これってゲームと呼べるのかな?」と疑問に思うようなタイトルでも、ちゃんとゲームに落とし込んでくるというか。突き抜けた発想のタイトルが多くて、見ていて楽しかったですね。
ジョン私は、ここ6年くらいのあいだ、いろいろな立場からインディーゲームデベロッパーと良好な関係が築けるように取り組んできました。その成果はでてきているのかなと手応えを感じています。そんな点も踏まえてひとつ誇れるのは、「BitSummitにはほかのショウでは決して味わえないような雰囲気がある」と、よく言われることです。要するに、“BitSummit”というブランドが確立してきているということは実感します。
――唯一無二のイベントになってきているということですね。
ジョンそのことを私が端的に実感させられるのが、会期初日の夜に開催されるパーティーです。数100人を超えるインディーゲームクリエイターが鴨川に集まって、気軽にコミュニケーションを取るんですよ。そこで仲よくなって、パブリッシャーを見つけたり、その後のコラボレーションに結びついたりなんてこともあります。ふつうの開発会社だったら気軽にコラボということにはならないんでしょうけど、インディーゲームクリエイターだからこそのざっくばらんさがある。まさに、BitSummitの雰囲気を象徴しているかのような催しです。こうした手作り感やインディーコミュニティーの親密な雰囲気は、今後BitSummitが拡大していくとしても、なくしてほしくない点です。
――和気あいあいとした雰囲気は、BitSummitの魅力ですね。
小清水ゲームは作って終わりというわけではなくて、売るための努力もしないといけないです。そういった意味ではパブリッシャーの存在は非常に大きくて、BitSummitでは当初からデベロッパーとのマッチングにも力を入れてきました。結果としてVolume 6はうまくいったと思っています。2019年は更に多くなる予想で、現段階でも沢山のパブリッシャーが手を挙げてくれています。そして、プラットフォーマーもとてもポジティブです。そういった協力を受けてBitSummitをどのように成長させていけるか……という事をJIGAのメンバーで考えています。
――パブリッシャーやプラットフォーマーが、BitSummitに極めて前向きということですね。
ベンキーワードがふたつあります。ひとつは“安定”。そしてもうひとつが“バランス”です。“安定”というのは、ここ数回は安定して同じ時期に開催できているということ。さらには運営メンバーの固定。実際のところここ3回ほど、BitSummitを運営しているのは、ほぼ同じメンバーなんですね。さらに言えば、その同じメンバーできれいにチームワークが取れている。それぞれ作業分担ができているので、より効率よく運営ができるようになったと思います。
――運営が安定してきて、メンバーどうしがお互いを理解することで、いいチームになってきたのですね。
ベンはい。正直に言って、このメンバーから誰かが抜けしまったら、ダメージは大きいです。逆に言えば、このメンバーがいる限り、BitSummitはきれいに拡大できると思っています。まあ、たまに意見が合わないこともありますが(笑)。
――(笑)。それもご愛嬌ですね。“バランス”というのは?
ベン出展タイトルに関して、私たちは毎年“日本人と外国人のゲームの比率をどうするか”とか、“ゲームらしいゲームにするのか、斬新なゲームにするのか”というバランス調整で頭を悩ませています。その絶妙なミックス加減が、私たちの誇りです。BitSummitには大人数のスタジオから個人レベルまで、有名クリエイターから無名の開発者まで、日本人から海外デベロッパーまで、本当に幅広いクリエイターが集まるイベントになっています。かなりバランスよくイベントを運営できているというところはうれしいです。
――多様性を確保しているということですかねえ。
ベン実際のところ、さっきジョンさんも少し話していた通りで、「いろいろなイベントに参加しましたが、BitSummitは特別だ」と言ってくれるクリエイターさんも多いです。多様性を確保しているバランスのよさが、BitSummitの高評価に結びついているのかなと、個人的には思っています。あとは、対メディアさんで言うと、今年は新規発表タイトルが多かったこともよかったのかな。“新規発表”というのは、イベントの華みたいなもので、これがないとメディアさんにも来ていただけないですからね。2019年も、もっと新規発表を増やしていきたいとは思いました。
――BitSummit Volume 6には、運営に802メディアワークスさんが参加されたのも大きな変化だと思いますが、これについてはどうでしたか?
富永いいところもありましたし、反省点もありました。いいところとしては、気づかれた人は感じられたようですが、音がよくなったんです。さすがは音楽系のイベントを得意としているだけに、餅は餅屋ということで。
村上いままでは、会場のどこにいてもうるさかったのですが、Volume 6ではステージの前だけに音があって、会場を邪魔しなかったですし、もちろん音質もよくなりました。
――わかる人にはわかるんですね。
富永あとは、ステージのさばきかたがプロだったなと。
村上今回、ステージスケジュールは、少しでも遅れたら破綻するように組んでしまったのですが(苦笑)、あれをさばいたのはすごかったですね。
富永ライブとかで修羅場をくぐってきている人がステージ監督を担当していたので、裏方のさばきかたはすごかったらしいです。
小清水ただ、いわゆる音楽系のイベントと、ゲーム系のイベントでは、イベント運営という点では、勝手がぜんぜん違うので、そこは前回が初体験のことばかりだったという事で、相当苦労されたようです。イベントが終わった後で、「自分たちの持てるポテンシャルの20%も出せていません」と、落ち込んでいらっしゃいました。
富永「次回はもっと本領を出しますよ」というメッセージですね(笑)
――運営を802メディアワークスさんに任せることで負担を減らして……というのが当初のお考えでしたがどうでしたか?
小清水コンセプトや監修をJIGAのメンバーが行い、イベント運営そのものを全て任せる。これについては私の考えが少し甘かったですね。いつになっても本部機能は、楽ができないということです(笑)。
村上楽できそうになると、何かしようと入れてしまうので、仕方ないですね。作っている人も一生懸命なので、そこはもう性(サガ)だと思います。