人気シリーズ最新作、『GOD EATER 3(ゴッドイーター3)』のオープニングテーマ曲を歌っているのは、“楽器を持たないパンクバンド”BiSH。楽曲を手掛けた松隈ケンタ氏、『ゴッドイーター』シリーズIP総合プロデューサーの富澤祐介氏、そしてBiSHのセントチヒロ・チッチさんに、そのテーマ曲についてのお話をうかがった。
富澤祐介氏(とみざわゆうすけ)
バンダイナムコエンターテインメント所属。『ゴッドイーター』シリーズIP総合プロデューサー。
松隈ケンタ氏(まつくまけんた)
作曲家、音楽プロデューサー。BiSH、 EMPiREなど、人気グループのサウンドプロデュースで知られる。
セントチヒロ・チッチ
“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。アニメ『ゴッドイーター』でも歌唱を担当している。
アニメが縁で実現したテーマ曲依頼
――まず、オープニングテーマをBiSHが担当することになった経緯を、富澤さんのほうからお聞かせいただければと思います。
富澤松隈さんと最初にお会いしたのは、2013年ごろだったかな? とある先輩から「非常にいい音楽を作るヤツがいるから」と紹介してもらって、「何か機会があったらやりたいですね」といった話をしていたのですが……。もう、随分昔のことですね。
――そのときは、とくにオファーなどは……?
富澤その時は機会がなく。でも、その後の2015年に、『ゴッドイーター』シリーズが5周年ということで、アニメを作ることになりまして。そのときにアニメの監督から「激アツなロック調の曲が7曲くらい欲しい」と、放映の2ヵ月くらい前に言われまして……。2ヵ月前ですよ!(笑) そんなオファーがあって困っていましたが、ふとそのときに「松隈さんにお願いしたらどうだろう? これはチャンスだな!」と思ったんです。ずっとお願いしたい機会をうかがっていましたし、このタイミングでお願いできるのは松隈さんしかいないと。でも、タイミングがだいぶひどかったので、受けていただけるかどうかはまったくわからなかったんですけどね(笑)。
――そのときは、7曲全部お願いしたのですか?
富澤最終的にそうなりました。すべて作っていただいたうえに、歌まで……(苦笑)。でも、以前にYouTubeでデモ曲を聞かさせていただいていたこともあって、僕の中では、松隈さんはてっきり“歌う人”だと思っていたんです。
松隈氏僕は、仕事がないときに、自分で歌ってYouTubeで発信していたんです。
富澤たまたまそれを見たわけですが、いくら調べてもその1曲しか出てこない。「だけど、これは松隈さんだよな……?」って。
松隈氏“俺が歌っている”という、ただそれだけの情報しかないんですよ。ホームページさえも載っていないという(笑)。あのバンドのファンは、世界で富澤さんひとりだけなんです。
富澤ひとりってことはないでしょうけど……最初かも?
松隈氏それで、「僕の歌がいい」と言ってくださって。最初は「いやだな〜」と思っていたのですが、もうひたすら「いい!」と言ってくださるから、「じゃあ、もうそれに合わせてバンドにしましょう」となったんですよね。
富澤「アニメ版『ゴッドイーター』専用のバンドにしちゃいましょう!」と、ちょっと無茶ぶりではあったんですけど。でも、松隈さんが自分で作って歌われるからこそ、機動力というか、すごくドライブがかかったし、「ぜひやろう」という話にもなりました。バンド名も“GHOST ORACLE DRIVE”、略して“GOD”という、実に『ゴッドイーター』らしい名前も、いっしょに付けさせてもらいました。
――そのアニメの楽曲依頼が、そもそものきっかけというわけですね。
富澤ええ、具体的なお仕事はそこからですね。
――そのときに、チッチさんも参加されたとか?
松隈氏確か5話あたりで、アニメの監督さんから、「女性がいいんじゃないか?」と振られたので、WACKの中で僕がいちばん好きな声の持ち主であるチッチを推薦させてもらいました。アニメの世界観に合うかなと思ったんです。
富澤5話は、主人公がメッタ打ちにされる回なんです。血まみれになり、主人公たちの腹は裂かれるわ、人はメチャメチャにされるわで、とても凄惨なシーンなんですね。そのまま主人公は崖に落ちて、生死不明になって終わるという……。そんな回に合わせる曲ということで、「女性の声で、少しダウナーなトーンの楽曲にしてほしい」という要望があったんです。これには困りました……。とにかく、全編重いんですよ。そこに、まさかのチッチさんという提案をもらい、「ああ、これは何かが始まる予感がする」と思いましたね。
松隈氏GHOST ORACLE DRIVE feat. セントチヒロ・チッチという形で、1曲だけ参加する流れになった、という感じですね。
――それが思いのほかハマって、つぎは『GE3』のテーマ曲に……という感じだったのでしょうか?
富澤そこから『GE3』までは4年近くありましたからね。それをきっかけに、『ゴッドイーター オンライン』のテーマ曲など、何度かお付き合いはさせてもらっていたのですが、ナンバリング最新作のテーマ曲まで依頼することになるとは、さすがに当初は見えていなかったです。BiSHもまだデビューして間もなかったですし。
チッチ BiSHがデビューしたのは2015年の3月ですね。
富澤それこそ、アニメで歌ってもらったのが2015年の夏だったので、その直前くらいですか。ちょうど同じくらいのタイミングだったんですかね。そのころからご一緒させていただいているので、個人的にはその後もずっと、BiSHを追いかけさせてもらっています。SNSなどを見ていると、ゲーム業界の人でもBiSHファンは多くて、すごくうらやましがられるんです。やっぱり、アニメやゲームとの親和性がすごく高いんでしょうね。だから、何かいいタイミングがないかなと、ずっと様子を見ていたという状況はありました。そこでちょうど『GE3』の展開に目処が立ち、改めてご相談したところ、「お互いいいタイミングが作れそうなので、気合を入れてご一緒しましょう」というお話にいたったと。開発状況としては、かなり佳境に入った段階でのオファーになりました。
BiSHと同じく最高で、激アツな曲を
――今回はアニメとはまた違って、ゲームのオープニングテーマになりますが、富澤さんからは具体的にどんなコンセプトを提示されたのですか?
富澤今回の『GE3』は、シリーズの中でもとくに重くハードな世界観であることを始めにお伝えしました。今回はかなりシリーズの中でも悲壮感があるというか、いままでよりも一段階ちょっと落ち込んだ世界です。主人公たちは手錠のように腕輪をはめられ、戦うときしか外せないといった、囚人のような扱いになっていて、シリーズの中でもずいぶん違う設定です。そこからいかに、自由の解放に向かっていくかというトーンがかなり特徴的だったので、そのあたりを資料の中でお伝えさせていただきました。
――曲調についてのリクエストは?
富澤BiSHの曲はどれも疾走感のある激アツな楽曲ばかりなのですが、さらにその上を行くアンセムをください! とお願いしましたね(笑)。アニメのときは「この曲のこんな感じのコレ」といった具合に、けっこう具体的だったのですが、今回は作品のイメージからアプローチしていただきたくて。
松隈氏そういった思いも感じましたし、やはりシナリオを読んで、悲壮感からの解放といったような部分がすごいので、そんな感じのテーマで作ったんです。曲調からアレンジから、そのイメージで伝わったということですね。
――チッチさんはゲームのテーマ曲を担当するにあたって、どんな感想でしたか?
チッチ 私は、親がゲーム好きで、小さいころからゲームをしていても怒られないような家庭で育ちました。ですので、ゲームのお仕事はしてみたかったんです。アニメの曲を歌わせてもらったとき、親もすごく喜んでいたのですが、今回BiSHで主題歌をやらせてもらうとなって、私もうれしくて! BiSHとしても初めてのことだったので、何かまた新しい世界に飛び込めた気がしてうれしかったですね。
――前回のアニメはひとりで、今回はBiSHでの参加ということですが、そのあたりについてはいかがでしょう?
チッチ アニメのときは、BiSHが始まってから間もないということもあり、ひとりでお話をいただいて、けっこう身を任せてやっていました。いまはBiSHというものが成立してきたうえでのお仕事なので、BiSHとしても相乗効果といいますか、BiSHという存在が『GE3』に何か影響を与えられたらいいなと思えますし、ひとりのときよりもけっこう力強い気持ちでいます。
――ちなみに、ほかのメンバーの方の反応などはいかがでした?
チッチ アユニとかは、私がひとりで歌った曲がすごく好きみたいで。私がとくにその話をしなかったのに、しばらく経ってから「そういえばあの曲、めっちゃ好きなんだよね」と言われて、「えー、そうだったの!」みたいな……。今回この『GE3』の曲をみんなで歌えるとなって、アユニはすごく喜んでいましたね。
アーティスト陣も大のゲームファン
――『GE』シリーズについては、お仕事のオファーがあって、初めて知った形ですか?
チッチ その前に知ってはいました。『GE』自体は、私の学校でもメチャメチャ有名でしたし。
富澤マジですか! 大体クラスで3、4人くらいが買ってくれることをまずは目指してマーケティングしていました。そのクラスで3人が「オレらはこれがいい」って言ってくれると、ちょうど50万本くらい売れる計算になるんです(笑)。でも、初代『GE』が出たころって、チッチさんは何歳でした?
チッチ 何歳だったろう……? 男の子はけっこうプレイしていました。
富澤若い年齢の方にいちばん刺さればと思って作っていましたし、それをリアルタイムで感じてくれていて、そこからのつながりがあると思うとすごくうれしいですね。
――チッチさんご自身もゲームでよく遊ぶのですか?
チッチ ゲームはすごく好きですが、『GE』シリーズはやったことがなくて。それで、アニメの歌を歌ったときに、ゲームをいただいたんですよ。持って帰って実家で弟と遊んだら、もう楽しくって! 実家にはほとんどのゲーム機があるので、『グランド・セフト・オート』シリーズや『キングダム ハーツ』シリーズなども遊びます。RPGが好きですが、中でも『二ノ国』の大ファンです。
――『GE』シリーズについては、プレイする前から「こんなゲームだな」っていうイメージは持たれていましたか?
チッチ とにかく、アクションという印象がめっちゃありました。それで、スピードが速い。動きがビュンビュンビュンって……気持ちいいなという感じでしたね。
富澤そう思って作っています(笑)。いわゆるハンティングゲームというジャンルの中でも、爽快感やスピード感、ジャンプなど、そういう部分を初代『GE』のころから特徴としています。加えて、キャラクターやドラマ性も、ほかの作品以上にがんばろうと思っているので、そこが伝わっているならよかったです。
――松隈さんは、ゲームについてはいかがですか?
松隈氏僕はファミコン世代で、子どものころからずっと遊んでいるゲーマーなのですが、すぐにやめちゃう人なんですよ(笑)。続かなくて、飽きっぽい。なので、『GE』シリーズも、もちろんいただいていたものは全部やるんですけど、盛り上がるところにすらたどり着かないという。本当にこれは残念ですけど、すべてのゲームに対してそうなんですよ。
富澤大人になると、そうなりやすいんですよね。まずは触るんですけど、その先がなかなかきびしい。朝になると、仕事なり、つぎにやるべきことが待っているので、ゲームとの関わりは難しいです。僕自身もそうで、クリアーまでいけるゲームは少なくなってきています。
松隈氏『GE』シリーズは、格闘ゲームのように一発戦って終わり、みたいなものではないですし、どちらかというとRPGに近いですよね。なので、なかなかクリアーまではいけないんです。でも、『実況パワフルプロ野球』だけはメッチャ遊んでいますが(笑)。
ゲームの世界観とBiSHとのつながり
――今回のオファーを受けて、松隈さんはいかがでしたか?
松隈氏僕は小さいころからゲームを遊んできたので、今回のオファー自体、“とてつもないこと、超うれしいこと”でした。ゲームのメインテーマとは、プレイする人全員が震えるような音楽であり、ゲームと音楽はかなり密接に関係していると思っています。ですから、今回はゲームの世界観を崩さないようにするのはもちろん、さらにBiSHと『GE3』をつなげる役割でもあったので、そこをすごく考えながら作りましたね。
――富澤さんは、最初に曲が上がってきたときの、第一印象はどうでした?
富澤エイベックスさんから「これはもう満場一致で、この1曲でご提案します」と言われて……。こちらのハードルもめちゃくちゃ上がるじゃないですか。そう思って聞かせてもらったのですが、もう「素晴らしい! これでいきましょう!」となりました。こちらの思いを本当に正確に、いや、それ以上に汲んでいただいて、「ああ、お願いしてよかったな」という楽曲が上がってきました。そこからのフィードバックは少なかったと思いますね。最終的な調整はありましたが、基本的にはご提案いただいたものをどう90秒バージョンにするかというところで少しやり取りをさせていただいたくらいです。
――作り手側としては、何か大きなテーマがあったりしたのでしょうか?
松隈氏『GE3』の世界観とBiSHの共通点というものを考えたのですが、いずれも抑圧といいますか、何か得体の知れないモンスターから立ち上がろうとしているじゃないですか。「もがき苦しんでいるところから抜け出そうよ」という、そんなテーマで作ったイメージですね。
富澤そういえば、今回ツアーを見させてもらったのですが、鉄格子のシーンがあったりして、ちょうど『GE3』も主人公が鉄格子で囚われているところから始まるんですよ。ビジュアルがバッチリ合っていましたね。
――チッチさんは、曲の印象はいかがでしたか?
チッチ “孤独に戦う戦士”というイメージがすごくて、メンバーの中では、「誰にも知られずにすごく寂しそうに建っているお城みたい」と感じた子もいました。BiSHの中でもいろいろな捉えかたがあったのですが、総じてみんなが思うことは、BiSHにもこういった面があること。BiSHは個々の個性がすごく強く、世界がバラバラなんですよ。その世界を崩さないように、ギリギリのところにいる感じが、曲の歌詞や寂しさもあって「BiSHと『GE3』は似ているね」と、ほかのメンバーも言っていました。
“誰にどこを歌わせるのか”を考えて
――曲作りや収録中に印象的なエピソードがありましたら、ぜひお聞かせください。
チッチ みんなめちゃめちゃ真剣にやっていたから、あまり“おもしろエピソード”はなくて……。収録ではサビのキーがけっこう高く、みんな声が出なくて苦労していましたね。
松隈氏ド頭のAメロは低いんですよ。でもサビは高く、けっこうレンジが広いので、そこは苦戦していましたね。あとは、女の子グループはふつうユニゾンで歌うことが多いのですが、僕らの音楽は全部ひとりずつ歌うんです。なので、6人の声質や持っている世界観だったりを、ストーリーや歌詞とリンクさせながら、“誰にどこを歌わせるのか”ということをけっこう考えました。
――曲作り自体は、難航したのですか?
松隈氏ぶっちゃけ、曲作りはスパっとできました。曲作りのオファーをいただいたときに、富澤さんとお寿司を食べにいったのですが、「BiSHの『BiSH-星が瞬く夜に-』と『My landscape』と『プロミスザスター』を合体させたような曲を書いて」と言われたんですよ。「無謀なこと言うなぁ」と思いましたね(笑)。こっち側に合わせろといった要求はいっさいなく、そこは自由でよかったのですが、BiSHのいままでの名曲、しかもいちばんいいところを全部って……。曲調もバラバラだし、「うぉー、マジか!」って思いましたけど、『My landscape』感もあり、疾走感もあるような曲に仕上がりました。
――富澤さんは収録には立ち会われたのでしょうか?
富澤今回、収録には立ち会うことはできなかったんです。でも「なるほど、今回はこういうアプローチなんだ」ということを、いま改めてうかがって、納得したところはありますね。僕も、入れ込みすぎるとこちらも指示を出しかねないので、今回はあえてそれはやめようと思いました。松隈さんがバッチリ考えてくれるはずだと思ってお任せしましたし、そういう意味では今回の仕上がりにすごく満足しています。
両者のファンの新しい出会いが生まれれば
――お三方にお聞きしたいのですが、楽曲についてとくに気に入ったフレーズなどはありますか?
チッチ 私は、「別の表現を僕にくれよ」というフレーズがすごく好きです。いまの私たちにすごく合うフレーズで、『GE3』でもこの言葉はすごく象徴的だなと思うんです。BiSHにもいろいろな見られかたとか、いろいろな枠組みにとらわれていた時期がありました。それはすごく息苦しいもので、それを打ち破っていくのがBiSHだと思っているからこそ、このフレーズが私にはすごくグッときて。ライブなどで歌うときも、何か心を削って歌っているような気持ちになります。
松隈氏曲調としてのお気に入りは、久しぶりにストリングスをドバっと入れさせてもらったところでしょうか。加えて、生のドラム、ギター、ベースを使い、バンドアレンジの生っぽい感じはすごく出せたかなと思っています。
富澤いくつか好きなところがあるのですが、チッチさんに先に言われました(笑)。加えて言うなら、「その夢の先まで」というところ。ゲームでは「夢」という言葉はあえて外したのですが、その前の「まだ見ぬ光たち」というところの歌詞からのつながりとして、このフレーズは最初から好きだったんですね。それが何を表現しているかは人それぞれでしょうが、みんな暗いところにいて、これから光のあるところに出ていきたいんです。その前夜みたいな雰囲気が曲全般にあって、そのトーンがすごく気に入っていました。そういう意味では、サビで象徴的なフレーズとして歌っていただいたところが、すごく印象に残っていますね。
――多くのファンが待つこの『GE3』で、オープニング曲がいよいよムービーとともに流れます。最後に、心待ちにしているファンにひと言ずつ、メッセージをいただけますか。
松隈氏この『GE3』という超大作にふさわしい曲を全力作ろうと思い、6人が歌う名曲ができたと思っています。前作を超える過去最高の作品だと思うので、それを盛り上げられるようにがんばりました。ぜひとも、テーマ曲も聞きつつプレイしていただけたらなと思います。
チッチ BiSHは『GE3』のストーリーとすごくリンクする部分があって、心をさらけ出すことができました。テーマ曲の『stereo future』を聞いて何か感じるものがあったら、ほかの曲も聞いてもらったらうれしいなと思います。逆に、私たちのファンの人も、『GE3』に興味を持ってほしいし、新しい出会いが生まれる機会になればいいなと思います。
富澤今回、こういったコラボレーションをご提案させていただいた以上、両方のファンの皆さんに驚きと楽しみを何倍にもしてお届けするのが使命だと思っています。チッチさんの言葉にもあった通り、ふたつがひとつのものになっていく姿がリアルタイムで感じられ、すごくワクワクしながらコラボをプロデュースさせてもらいました。ゲームでは、このオープニング曲が素晴らしいアニメーションとともに楽しめますので、ぜひプレイしての感想をお聞かせいただきたいと思っています。