“Amazon Game Developers Day”の基調講演に見るアマゾンの今後のゲーム開発戦略、スクウェア・エニックスの橋本氏も高く評価するクラウドサービスの存在感

2018年12月4日に“Amazon Game Developers Day”が開催。ここではその基調講演の模様をお届けしよう。アマゾンというとECサイトの印象が強いが、じつはゲーム開発を支援する企業でもあったのだ。

クラウドの分野で大きな強み

 年の瀬も押し迫った2018年12月4日、東京・目黒にてアマゾン ウェブ サービス ジャパン主催による“Amazon Game Developers Day”が行われた。本イベントは、Amazonが提供するゲーム業界向けサービスなどを紹介することを目的に企画されたもの。同社がこの手のエンジニア向けのカンファレンスを開催するのは初めてということもあり、募集後早々に聴講者が定員数に達するなど、注目度の高さがうかがえた。ちなみに、アマゾン ウェブ サービス(AWS)はAmazonが提供するクラウドサービスのことだ。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン主催による開発者向けのセッション。早々に定員数に達するなど、大盛況だった。

 まるまる1日にわたって、都合15のセッションが行われた“Amazon Game Developers Day”。開幕を飾るべく基調講演として行われたのは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン 事業開発本部 Head of Japan BD, Gameの山本恵美子氏による“Game Tech ゲームグローバル市場での成功へのお手伝い”。「Amazonがいかにゲームにコミットしているかをお伝えしたい」と口火を切った山本氏は、まずは“Amazon Game Tech”について言及。“Amazon Game Tech”は、ゲーム開発者がAmazonのゲームサービスを利用しようとする際の支援サービス。ゲーム開発からビジネスの成功まで、幅広いレンジでサポートしてくれる。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 事業開発本部 Head of Japan BD, Gameの山本恵美子氏。20年以上にわたりゲーム業界を見続けてきた。

今年のGDC 2018で発表されたという“Amazon Game Tech”。言っていれば、「Amazonが本気でゲーム開発を支援します」という宣言のようなものか。

 ちなみに、Amazonのゲームサービスで、とくに定評があるのがクラウドの分野で、世界のゲーム企業Top25の90%がAWSのクラウドサービスを利用しているというから驚きだ。おなじみ『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)』にもAWSのクラウドは活用されており、300万同時接続を達成したという。ゲーム開発者のみで構築および運営できる点も利用者としては利便性が高かったようだ。『PUBG』を影で支えたのが、AWSのクラウドサービスだったと言える。

 なお、AWSのクラウドサービスは『フォートナイト』でも使われており、1億5000万人(!)規模のプレイヤーイベントが実施できるという点などが、AWS使用の決め手となったようだ。

『PUBG』や『フォートナイト』で使われているというAWSのクラウド。そのスケールメリットが最大の魅力か。

 ここで、国内メーカーにおけるAWSの導入事例を紹介すべく登壇したのが、グリー 開発本部 インフラストラクチャ部 ディベロップメントオペレーションズグループ シニアマネージャーの大久保将氏。事業方針の転換やサーバーの老朽化などの要因から、大小50にもおよぶ既存のサーバーを1年かけて一気にAWSのクラウドサーバーに移行したというグリーでは(移行には大きな痛みを伴ったそうだが)、平均で39.1%のサーバー費を削減。それは金額にて年間3億8000万円にも達するという。「運用コストや管理コストが大きく減少して、エンジニアのモチベーションも向上しました」(大久保氏)という。運用上からも、柔軟性や安全性、拡張性などで大きな成果が見られたという。

グリー 開発本部 インフラストラクチャ部 ディベロップメントオペレーションズグループ シニアマネージャーの大久保将氏。

AWSへの移行は大きなメリットがあったと語るグリー大久保氏。

クラウド移行により、縦型組織でプロジェクトマネージメントを、横串組織で高度技術課題に対応したという。インフラが組織編制にも影響を及ぼすということで興味深い。

移行にあたっては、事前準備などもしっかりと行ったよう。グリーはまとめて移行したそうだが、「一気に移行する必要はなかったかな」と大久保氏。

流通施策、開発支援のパートナーとして

 講演を終えた大久保氏のあとを受けて、再び登壇した山本氏は、Amazonの誇るストアを改めて紹介。「数億種類の品揃えの総合オンラインストアです。モバイルで3856万、デスクトップで1734万のユニークビジターがおり、日常生活に欠かせないさまざまなサービスを展開しています」と、その有用性をアピールした。

 さらに山本氏は、Amazonのゲーム関連のサービスに言及。ひとつめが、Amazonが近年注力する高性能AIアシスタント“Alexa(アレクサ)”で、現在急速に普及している同システムは、米国においてはゲームでも使用されているという。ふたつめはおなじみTwitch。“世界最大のゲームコミュニティープラットフォーム”と謳われるTwitchだが、1年間に3350億分視聴され、220万ストリーマーを擁し、180億のチャットが送信されるという、華々しい実績が開示された。

米国では、“Alexa”がゲームプレイなどをサポート。時代は変わるなあ……。

Twitchの実績が紹介。スケールが大きすぎで正直ピンとこない(笑)。

 基調講演の最後に、シークレットゲストとして登壇したのは、スクウェア・エニックスの取締役 第3ビジネス・ディビジョン ディビジョン・エグゼクティブ 橋本真司氏。山本氏が前職に在籍していたころから、20年以上の付き合いになるという橋本氏は、「目黒ゆかりということで呼ばれたんだと思います(アマゾンジャパンが本社を構える目黒には、以前スクウェア・エニックスもオフィスを構えていた)」と軽やかに挨拶したあとで、「私がいまここにいるということは、『キングダムハーツ III』がマスターアップしたということです。それでいまここにいられるんです。『キングダム ハーツ III』 は2019年1月25日に発売されるのでよろしくお願いします!」と、進捗報告&ちゃっかり自社タイトルをPRして、聴講者を笑わせた。

スクウェア・エニックス橋本真司氏。さすがトークで会場を大いに沸かせた。

 Amazonの流通の大切なパートナーとして登壇した橋本氏は、『ファイナルファンタジーXV』のリリース時などでAmazon限定の特典を用意したことなどに触れつつ、「世界でのチャンネルは圧倒的」、「Amazonのカスタマーレビューの星の数をどきどきして見ながらやっています」、「日本にいながらにして、世界の販売状況がわかる。情報網は世界でもダントツ」などと、Amazonの影響力の高さに対する感嘆の言葉を口にした。「Amazonは流通ですが、ユーザーに近い立ち位置。レビューも掲載しているので、ひとつの指標になるのではないでしょうか」(橋本氏)とのことだ。

 一方で、ゲーム開発での連携に関しては、プロジェクトごとの関わりになると説明した橋本氏は、『ファイナルファンタジーXV ポケットエディション』のバックエンドでAWSを使用していることを明らかにし、「『ファイナルファンタジーXV ポケットエディション』は全世界150カ国で300万ダウンロードを記録しています。マスターを用意すればワールドワイドで低い敷居で提供できる」とコメントした。

 スクウェア・エニックスでは『ファイナルファンタジーXV』のPC版のマルチプレイサーバーでもAWSを使っているとのこと。海外展開も行っているスクウェア・エニックスでは、個々のタイトルごとにひとつひとつ自前でサーバーを構築するよりは、AWSと連携したほうが確実に効率的なようだ。

最後に橋本氏は、「今後クラウドが世界的に普及していきます。いろいろなインフラが2020年に向けて変わっていこうとしています。コンテンツビルダーとして、今後日本だけではなくて、タイトーやアイドスも含めた“4社連合”で、世界に向けて展開していきたいと思っています」と、流通面、ゲーム開発面ともに、大切なパートナーであることを強調して講演を締めくくった。

 グローバルなオンラインストアに加え、AWSを通してゲーム開発の分野にもアプローチしているアマゾン。ことにクラウドサービスで大きな実績を持つ同社は、今後さらに大きな存在感を発揮していくことになるのではないかと予想される基調講演だった。