近年、“地方創生”の掛け声とともに、地方都市活性化に向けての取り組みが積極的に行われているのはご存じの通り。各自治体による趣向を凝らしたプロジェクトは、耳目を集めるところとなっているが、ゲームユーザーにとって見逃せない取り組みがひとつ。宮崎県小林市が“シムシティ課”を設立。エレクトロニック・アーツのスマートフォン向けアプリ『シムシティ ビルドイット』を活用して、若い世代に新たな街作りを考えてもらおうというのだ。

 その詳細は、以下のリリース記事をご参照してもらうとして、このバーチャル組織である“シムシティ課”の職員は、小林市職員と宮崎県立小林秀峰高校の有志により結成され、9月下旬からワークショップがスタート。約3カ月をかけて、『シムシティ ビルドイット』を用いての“理想の小林市”が練り込まれてきたという。

 活動の最終成果は12月14日に行われるようなのだが、そのプレゼンを間近に控えた12月11日に、“シムシティ課”の学生を代表して小林秀峰高校の学生さんふたり、池田瑠奈さんと稲田萌乃さんが三菱地所を訪問。“まちづくりのプロ”である同社の社員に、アドバイスをもらうという主旨での学習会が催された。

宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_01

 学習会では、まずは瀧口尚志先生が登壇。小林市は宮崎県の南西部に位置し、人口45222人を擁する自然に恵まれた土地であると、同市の魅力が語られた。

宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_02
小林秀峰高校の瀧口尚志先生。
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_03
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_04

 引き続いて登壇した“シムシティ課”の設立に携わった職員は、そんな魅力的な街である小林市ではあるが、大学などがないために、進学、就職の18歳というタイミングで多くの若者が街を離れてしまうという現状の問題点に触れたうえで、「『シムシティ ビルドイット』をとおして未来の小林市を、“これから”を生きる高校生に考えてもらいたい」との想いを込めて、“シムシティ課”を設立したという経緯を口にした。

 その活動は、31名の学生さんが8班に分かれて、“東京の女子高生”や“小林市で工場を経営する人。”、“小林市に住む高校生”など決められたコンセプトに則って理想のまちづくりをするというもの。そのうえで、自分たちで作った理想の小林市と比べて実際の小林市には何が足りないのかを考え、その課題を解決するアイデアを市長に提案するのだという。

宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_05
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_06
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_07

 今回、三菱地所に訪れた池田瑠奈さんと稲田萌乃さんは、“富裕層の中国人”をコンセプトに理想のまちづくりをしたメンバー4人のうちのおふたり。「仕事の息抜きや気分転換だけでなく、便利さも求める海外の人」というテーマを設定した池田さんと稲田さんは、都会と田舎が“共存する”街をコンセプトに、都市部と田舎を橋でつないで自由に行き来できるという構造の街を提案。「小林市には気分転換ができるような公園が少ない」との気付きから、“理想のまちづくり”では、公園もふんだんに設けられているという。

宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_11
池田瑠奈さん(右)と稲田萌乃さん(左)。
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_08
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_12

 “都会の便利さ”と“自然の癒やし”をあわせ持つ都市として企画された池田さん・稲田さんチームの都市。理想のまちづくりを通して小林市の問題点として、「シンボルがない」、「交通機関が少ない」、「テレビ番組が2局しかない」、「24時間営業のお店が少ない」、「外国人向けの看板が少ない」など、50個(!)ほど考えたという。そのうえで、英語表記がないと海外の人に寄り添った情報が少ないという課題を見つけた池田さん・稲田さんのチームは、その課題を解決するために、ガイドマップを作成することを提案するという。しかも、ただのガイドマップではなくて、小林市に住んでいる海外の人に小林市のいいところを聞いて、それを英語化するのだという。

宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_09
都会と田舎を橋でつないで行き来が可能にしたとのこと。
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_10
都会と言えば……ということで高層ビルを作ったり、競技場を作ったり、ホテルを作ったという。

 池田さん・稲田さんと三菱地所の社員とのディスカッションでは、学生さんから都会のよさと田舎のよさについて問われたスタッフさんは「都会はテクノロジーや新しい動きをどんどん捕まえることができるのに対して、田舎は自然がいっぱいある。平日は都会で働いて休日は田舎で過ごすという選択肢も可能になるのでは」と返答。一方で、「都会はすぐに変わってしまうが、田舎は変わらない光景があるのがよさかな」といった意見も聞かれた。

 また、「何をいちばんに考えてまちづくりをすればよいのか?」という、まちづくりのプロの本質をつくかのような質問では、「誰かどういう生活をしてこの街を使うのかといったことを自分のこととして想像力を膨らませながら作ることが、ひとつの大切なことだと思っています。あとは楽しくありたい」といったコメントが聞かれた。

宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_13
プロからの率直かつ真摯な
意見が語られた。学生さんにとっては、身となり糧となるものだったのでは。

 さらに、プレゼン時に触れた“海外の人に寄り添った情報が少ない”という小林市の課題に関連しての、「海外の人にもっと来てもらうためにはどうすればいいのか?」との問いには、「いままで海外の人を呼ぶには、テーマパークを作るといった感じで、こちらが全部楽しみかたを用意して、そこに来て楽しんでもらうというのが主流でした。でも、これからの時代はそうではありません。楽しみかたは人次第なんですね。決められた1日の過ごしかたをする必要はぜんぜんなくて、どう楽しむかはその人たち次第。どう楽しむかの要素がそれぞれの場所によって違うわけです。小林市に無理やりテーマパークを作っても仕方なくて、いま何があるかというのを素直に伝えればいいんです。みんなが心を動かされるものを数多く発信すればいいんです」と、記者も思わず「なるほど……」と漏らしてしまうようなお返事。

 さらには、プレゼンで学生さんが提案事項として掲げたガイドマップに対しては、「ガイドマップは受け取ってもらわないと伝わないけど、そのためは来てもらわないとダメで、その手前として、いかに情報を発信するかが大切で、いまの時代はSNSです。そこでいかに魅力をどれだけ発信するかが大事かなと思います」という的確なアドバイスも。

 最後に登壇したのは、小林市のPR大使(こばやしPR大使)でもある三菱地所の村上孝憲氏。村上氏は、「日本全国には1800の市町村があるのですが、地域の課題はすごく似ていて、小林市でいろいろと考えたことは、ほかの地域にも活かせるのではないかと、ひとつには思っています。でも、小林市にしかないものもやはりあります。そういうものを大事にしていってほしいなと思います」と語り、勉強会を締めくくった。

 ゲームが地方創生に貢献して、さらには学生さんたちの学習にもつながる……なんとなくうれしい気持ちになりながら、取材先を後にした記者なのでした。

宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_14
“こばやしPR大使”にして三菱地所に所属する村上孝憲氏。
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_15
小林秀峰高校の学生さんと三菱地所の皆さん。こういった取り組みが明日につながっていくのだと、率直に実感します。
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_17
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_16
宮崎県小林市“シムシティ課”の学生が、学習の成果をまちづくりのプロに報告、『シムシティ』がリアルな街作りに活かされる!?_18
勉強会のあとは、三菱地所本社の近辺(大手町)を散策。村上氏から池田さんと稲田さんに、同地の建築物の説明が行われた。端で聞いていると、「ああ、そうなんだ」と思わされることもあり、建築の奥の深さに改めて気付かされることしきり。