『ドラゴンクエスト』シリーズを生んだ堀井雄二氏のシナリオ執筆方法と歴代作品ごとの制作テーマが明らかに!【CEDEC+KYUSHU 2018】

2018年12月1日に、福岡市・九州産業大学1号館にてCEDEC+KYUSHU 2018が開催された。開幕を飾る基調講演には、『ドラゴンクエスト』シリーズの生みの親として知られる堀井雄二氏が登壇して講演を行った。

朝から立ち見も出るほどのかつてない人気講演に!

 2018年12月1日に、福岡市・九州産業大学1号館にて国内最大のコンピュータ エンターテインメント開発者向けカンファレンスCEDECの地方開催版となるCEDEC+KYUSHU 2018が開催された。今年で4回目となる、九州で活躍するゲームクリエイターやゲームクリエイター志望の学生が集うCEDEC+KYUSHU 2018だが、基調講演には『ドラゴンクエスト』シリーズを手掛けてきた堀井雄二氏が登壇。“『ドラゴンクエスト』32年の歩み”と題して、レベルファイブ代表取締役社長/CEO日野晃博氏がモデレーターを務める講演が行われた。

 国民的RPG『ドラゴンクエスト』の生みの親である堀井氏初の九州での講演ということもあって、会場となった九州産業大学1号館のホールには多くのゲームクリエイターやゲーム制作を目指す学生が詰めかけ、整理券も早々に配布終了となるほどの大人気講演に。堀井氏が『ドラゴンクエスト』の歴代シリーズ作品の制作を振り返りながら、独自のコンセプトを持ってゲームデザインやシナリオ制作を進めてきた手法について説明していくという、非常に貴重な講演となった。また、ともに開発に携わった経験を持つ日野氏からも、シリーズのこれからなどについて活発な(きわどい?)質問も飛び出すこととなった。長年多くのプレイヤーに愛され続ける物語と世界を生み出すためのヒミツがつまった、エキサイティングな講演のもようを詳しくお伝えしていこう。

会場は超満員となり、立ち見も出るほどの盛況ぶり。整理券配布も早々に締め切られた。

「僕が子どものころはゲームクリエイターという肩書がなかったんですよ」と、プロフィールを見て堀井氏がひと言。

歴代『ドラゴンクエスト』作品の制作テーマとは

 講演では『ドラゴンクエスト』シリーズの歴史を振り返りながら、各作品をどのような考えで制作していったのかについて語られた。

ロト3部作

「これまであまり話してこなかったけれど」と切り出した堀井氏は、初代『ドラゴンクエスト』を手掛ける以前に、たったひとりで制作したPC用のアドベンチャーゲーム『軽井沢誘拐案内』について語り始めた。開発中にロールプレイングゲーム(RPG)と呼ばれる、まったく新しいジャンルに触れたことがきっかけとなり、『軽井沢誘拐案内』の終盤にRPG風のゲーム性を取り入れたと語る堀井氏。RPGはまだ海外のPC用ゲームが主流だった時代に、これを日本人にもわかりやすい形にすればヒットするのではないかと考えた堀井氏は、ファミリーコンピューターの普及のタイミングでRPGを作れないかどうか考えていたのだという。

 だが当時はカートリッジに保存できるデータ容量の問題から、「ファミコンでRPGはムリだ」と言われていた。しかし、堀井氏は「できない」と言われると燃えるタイプで、なんとしてもファミコンの限られた容量のなかでRPGを作ろうと決意。武器の種類や会話テキストを端的に表現するなど、徹底的に工夫を凝らした。

 とくに、まだ世の中になじみのないRPGの遊びをプレイヤーに理解してもらうために、チュートリアルも兼ねて物語の冒頭では「プレイヤーを8×8マスの王様の部屋に閉じ込める」というアイデアを考え出したのだそうだ。王様との会話から始まる物語は、プレイヤーが試行錯誤していく中で遊び方を学べるように、との考えから産まれたものだったのだ。

 そうして誕生した『DQ』に続く続編『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』(以下、『DQII』)では、さらに遊びを進化させるために、堀井氏は1作目ではできなかった“パーティープレイ”を導入し、物語の中で“仲間を探す”という、新たな要素を取り入れた。いまでこそ仲間が集まってくるというのはRPGのお約束だが、その見せ方はほとんど『DQII』の時点で完成されているものと話す日野氏。

 『DQII』において、初めて仲間となる“サマルトリアの王子”を、プレイヤー自身に探させることを思いついた堀井氏。しかし、ただ探すだけではおもしろくないので、ようやく出会えたときにサマルトリアの王子から「いやーさがしましたよ」という、シリーズファンにはおなじみのセリフを言わせることで、「いやいや、探していたのはこっちだよ」と思わせる行き違いのシナリオを作ったのだとか。そして、さらにプレイヤーを驚かせるために「ふたり目の仲間であるムーンブルクの王女は犬にしちゃった」(堀井氏)と、意外性を追求することで、『DQII』のテーマである仲間探しが楽しめるような物語へと仕立てていったと話した。

 続く3作目にしてロト3部作の完結編『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』は、『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』(以下、『DQVIII』)と、『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』(以下、『DQIX』)の開発を担当したレベルファイブの日野氏が、ゲームクリエイターを目指すきっかけとなった作品。とくに終盤で1作目の舞台“アレフガルド”が登場するシナリオには衝撃を受けたという。

 アレフガルドを登場させたロト3部作の構想について、どのように組み立てていったのか日野氏も興味津々で質問を投げかけると、堀井氏は最初からきっちりハマるように考えたものではなかったと意外な回答。まず『DQIII』は大容量カートリッジを搭載することになり、長い物語を描けるようになったことが大きかったそうだ。そこで、長大なストーリー展開をおもしろくも、意外性を感じてもらえるようにするために思いついたのが、“過去”へ戻るというものだった。

 「たいていの作品は未来へ向かっていくものばかりだったので、ならばあえて時間を戻してしまおうと思って」と、ここでもプレイヤーをいい意味で裏切ろうという、堀井氏の根底にある気持ちが顔をのぞかせた。『DQIII』は、このアイデアが過去2作品と結びつく完結編として非常にうまくまとまったという。

ちなみに『DQI』と『DQII』のデータ保存形式は“ふっかつのじゅもん”という最大 52文字のパスワードだったが、『DQIII』になってデータのセーブが可能になった。堀井氏は、これでプレイヤーにも喜ばれるだろうと思ったというが、当時は意外にも、「ふっかつのじゅもんのほうが複数のデータを管理できてよかったのに」という意見が多く寄せられて驚いたのだとか。

天空シリーズ3部作

 堀井氏にとっては、三部作の完結編としての物語展開や完成度、そして“ダーマの神殿”で転職する新たなシステムも含めて、『DQIII』には“やり切った感”があったという。それだけに、続く『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』(以下、『DQIV』)の開発では、相当悩んでしまったという。悩んだ結果、これまではプレイヤー自身の分身である主人公の物語を描いてきたが、今度は“脇を固める仲間にも人生がある”という発想で、仲間の物語をオムニバス形式で描いていくというアイデアを生み出した。

 「最初は騎士のおじさんの物語から始まりますからね」と日野氏が話す通り、『DQIV』では各章で仲間たちの物語を体験したのち、最終章で勇者の物語が始まる構成。堀井氏は、とくに3章の商人トルネコにおいて、過去作ではプレイヤーが買い物をしてきた武器屋の役割を逆の視点で、自分でプレイするという仕組みを考えだしたことを振り返った。

 日野氏は、主人公たちの宿敵にあたる“デスピサロ”の物語についても、いまも忘れられないほど切ないものがあると話す。敵ながら哀しい背景を持ったデスピサロの設定について堀井氏は、これも脇を固めるキャラクターたちの物語を描こうという『DQIV』の制作テーマに沿ったもので、「悪役にも物語を描く試みだった」と語った。

 徹底して主人公の周囲のキャラクターを掘り下げることを目指した『DQIV』。名作と名高い『DQIII』に続き、『DQIV』でも非常にいい評判が得られたが……逆に評判がよかっただけに、5作目はどうしようと再び堀井氏を悩ませることに。そこで、仲間の物語、という発想からさらに進んで、今度は“親子三代の物語”を描こうと思い立ち、『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』に着手したという。

 初のスーパーファミコン用の『ドラゴンクエスト』シリーズ作品として開発されていたこともあり、日野氏は当時初公開された“かいはつちゅうがあらわれた”との表記の戦闘シーンの画面写真を見て相当楽しみにしていたという。

 親子三代の物語を描くという物語上でのテーマのほかに、堀井氏は『DQV』ではプレイヤーに“本当に悩んでもらいたい”と、もうひとつのテーマを掲げていた。それが“天空の花嫁”というサブタイトルにもある、プレイヤーが“結婚相手を選ぶ”という衝撃の展開が生まれた理由だったのだ。

 『DQIV』、『DQV』と続く“天空”シリーズの最後を飾る『ドラゴンクエストVI 幻の大地』(以下、『DQVI』)。堀井氏は、『DQVI』制作にあたって考えたのが、ふたつのマップを行き来する物語で新しい体験を生むことだった。『DQ』シリーズの大ヒットの影響で、RPGはゲームジャンルの花形になっており、当時はさまざまなRPG作品が生まれていた。そうした中での定番の展開が、“ゲーム終盤になって新しいマップへ行く”というものだった。堀井氏はこうした流れを逆手に取って、「ならば最初からふたつのマップを行き来する物語はどうだろうか」と考えたという。さらに、初めに旅する世界がじつは……というどんでん返しの構造にすることで、プレイヤーに驚きを与えられるようにしたのだそうだ。

 『DQVI』には、物語においても“自分探し”というテーマが設けられた。ちょうど当時は社会的に“自分探し”というテーマが流行していたことから、ふたつのマップを行き来しながら本当の自分を探すという独特な世界観を生み出すこととなった。

日野氏が天空シリーズのつながりについて、ロト3部作のような直接のかかわりはあるのかどうかについて質問すると、堀井氏は天空シリーズは“天空城”など共通の要素が登場するくらいで、強いつながりがあるわけではないと回答する場面もあった。

ちなみに、『DQV』の作中では結婚相手を選ぶことになるが、後年にニンテンドーDSでリメイクされた際には、デボラという新しい花嫁候補が追加された。堀井氏によると、じつは結婚周りの描写に手を入れるよりも、新キャラクターを増やす方がコスト的に安かったので踏み切ったのだとか……!

プレイステーションの世界へ

 ハードをプレイステーションに移し、容量や表現力が格段に向上したなかでの制作となった『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』(以下、『DQVII』)。仲間探し、自分探しと描いてきた中で、次は何を探そうか? と悩みぬいた堀井氏は、『DQVI』ではふたつのマップを行き来したのだから、今度はマップ自体を探すゲームはおもしろいのではないだろうか、と考えたという。

 そのアイデアが、『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』(以下、『DQVII』は、“ふしぎな石版”を集めることでマップを集めていく作りにつながったのだった。

 ここで日野氏は、石版を集めていく『DQVII』をいちプレイヤーとしてプレイしていた経験が、後に堀井氏との出会いにつながったとのエピソードを披露。

 すでに社会人としてゲーム制作に取り組んでいた日野氏は当時、石版探しの遊びの困難さについて、密かに不満をいだいていたのだという。オリジナル版では、時間をおいて遊ぶと、石版探しのヒントを忘れて見つけられなくなってしまいがちで、かなり苦労して遊んでいたのだそうだ。

 この話をスクウェア・エニックス(当時エニックス)の担当者に会った際、シリーズへの愛とともにアツくかたったことがきっかけとなって、「そんなに好きならば」と堀井氏と会う機会をセッティングをしてもらうことに。その出会いがそのまま、続く『DQVIII』と『DQIX』でレベルファイブが開発を担当する縁を生んだのだから驚きだ。

レベルファイブ開発タイトル

 堀井氏は日野氏と出会った際に、3Dポリゴンの表現力を目にして「次はフルポリゴンで行こう」と決めたと振り返る。「いま振り返ると、『DQVIII』はオープンワールドRPGのはしりのような部分もあった」と語る堀井氏は、日野氏の「子どもたちがお城を見上げて、お城の大きさや世界の広さ、リアリズムを感じられるような作品にしたい」という提案に強く共感したという。

日野氏が尊敬する堀井氏と初めていっしょに仕事をすることになった『DQVIII』。堀井氏がサブタイトルのネーミングで苦心していたのが印象的だったと振り返った。

 フルポリゴンによる表現という挑戦に続き、これまで据え置き機用ソフトとしてリリースされてきたナンバリング作品を、初めて携帯機のニンテンドーDSで制作するという、これまた大きな挑戦に挑んだのが『DQIX』だった。再びレベルファイブが開発を担当した本作では、日野氏から、従来のコマンド入力式の戦闘ではなく、アクションで制作してみようという提案もあった。しかし、『ドラゴンクエスト』シリーズのナンバリング作品として、最終的にはコマンド式が採用されたという。

 堀井氏が『DQIX』で掲げたのは、ローカル通信でつながる遊びというものだった。携帯機ならではの取り回しのよさを生かした“すれちがい通信”で宝の地図を集める遊びは、シリーズおなじみの経験値をたくさん持った敵“メタルキング”だらけのフロアが登場する“まさゆきの地図”が発見されたことで、地図を求めるプレイヤーが町にくり出していくという社会現象を生んだ。ちなみに、堀井氏によると、“世界一すれちがったゲーム”としてギネス世界記録にも登録されたのだとか!

初のオンライン作品『X』、そしてシナリオが絶賛された最新作『XI』

 歴代『DQ』シリーズの制作を振り返ってきたが、あっという間に現行タイトルとなる『ドラゴンクエストX オンライン』(以下、『DQX』)、そしてナンバリング最新作『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』(以下、『DQXI』)の話題に。オンラインゲーム好きの日野氏もかなり遊びこんだという『DQX』は、シリーズ初のオンライン専用タイトルという、さらに大きなチャレンジを試みた作品。現在もアップデートを重ねながら、大人気のオンラインゲームとして進化を続けている。

 堀井氏は、『DQX』開発においては、導入部分に細心の注意を払っていたという。『DQ』は、これまでネットを介さないオフラインで遊ばれてきたシリーズだけに、まずはひとりで遊ぶパートを十分に体験し、ゲームに慣れてもらってから、オンラインの遊びに切り替えるような仕組みを作った。オンラインでは五つの種族から自分の姿を選んでプレイすることになるが、プレイヤーキャラクターの種族を人間以外にするのは最後まで悩んだ末の決断だったのだとか。

 日野氏は、じつは『DQX』の開発初期にはプロジェクトに関わっており、『DQX』開発のために行われた合宿の中で、後に盟友となる『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクター吉田直樹氏とも初めて知り合い、オンラインゲームについての知見をかなり学ばせてもらう機会になったと振り返った。

 その後、シリーズの開発から離れた日野氏。『DQXI』は、完全にいちプレイヤーとして楽しめた作品で、あまりのシナリオのおもしろさに驚かされたと話す。「堀井さんがおもしろがっていろいろな遊びを詰め込んだのだろうな」(日野氏)と想像しながら遊んだという。堀井氏は『DQXI』は“集大成”がテーマでありつつも、改めてシリーズ1作目を作るような思いだったと話した。それだけに「出し切った感があるので12作目はどうするか悩んでしまっている」(堀井氏)と、再び『DQIII』制作直後のような心境を思わずポロリ。