2018年11月21日に稼動開始予定のスクウェア・エニックスとサンライズが贈る新作アーケードゲーム『星と翼のパラドクス』。同作は、ゲームに合わせて可動するインパクト抜群の筺体はもちろんのこと、キャラクターデザインを貞本義行氏、アニメーション制作をサンライズが担当するなど、豪華スタッフ陣が集結していることも話題を呼んでいる作品だ。

 そんなスタッフ陣の中から、サンライズの小形尚弘氏、脚本を担当した加藤陽一氏、世界観考証を担当した関西リョウジ氏にインタビューを実施。『星と翼のパラドクス』のアニメーションやキャラクターがどのようにして作られていったのか、お話を伺った。

 なお、ファミ通.comでは、『星と翼のパラドクス』の特設サイトを公開中。すでに公開している、下記の小松未可子さん&諏訪彩花さんを始めとするキャスト陣へのインタビューのほか、最新情報やスタッフインタビューなど、本作の魅力をたっぷりお届けします。

※『星と翼のパラドクス』ファミ通.com特設サイト

『星と翼のパラドクス』の世界観やアニメーションはどのようにして作られたのかスタッフ陣に訊く_01
写真左から、小形尚弘氏、加藤陽一氏、関西リョウジ氏。

プレイヤーは知らないうちに戦いに参加している

――まず、皆さんがどのように作品に携わっているのか、教えてください。

小形私は、プロデューサーとして、スクウェア・エニックスの門井(信樹)さんと立ち上げから参加しています。担当はアニメーションや世界観などの原作です。ふだんは、『ガンダム』関係のゲームを制作していますが、今回はスクウェア・エニックスさんとタッグを組むということで、そのノウハウを活かしつつ、これまでの作品とは違った雰囲気のほうがいいのかなと思ったので、加藤さんにお声掛けさせていただきました。

加藤そういった経緯で、企画の最初の段階から参加させていただいて、世界観やキャラクター設定のほか、脚本も担当しています。

関西僕は世界観考証という立場で、ある程度、加藤さんが作られたものに対して、途中から舞台やメカの設定などを構築していくという立場でした。

――企画を聞いたときの印象はいかがでしたか。

加藤アーケードゲームはあまり詳しい分野ではありませんでしたが、「カジュアルで、なるべく幅広い方々に遊んでいただけるゲームを作ろう」ということでしたので、すごくワクワクしました。

関西僕もオリジナルロボットものと聞いて参加を楽しみにしていました。最初は、加藤さんの作られていたものからカジュアルな印象を受けたので、その要素を際立たせるために、あえて世界観にはハードなテイストを意識して入れることにしました。

小形最初にお話させていただいたときは、"サラリーマンや学生が帰り道で気軽に遊べるように"というようなコンセプトでしたよね。

加藤企画書にあったキャッチフレーズが"会社帰りに傭兵稼業"だったと思います(笑)。

小形最初の企画書の要素は現在まで残っている部分もありますが、開発を進める中で、もっと現実とゲームの世界をつなげたり、間口を広げたりするには、どうしたらいいのかということを考えました。最終的には、そういったことをタッチパネルやアニメーションPV第2弾のラストカットで表現しています。

加藤より多くの方に遊んでもらうためには、ゲームセンター自体が作品の入り口になっていたほうがいいのではないかという話でしたよね。ですので、ある日、ゲームを遊んだら、じつはそのゲームが遠い星のロボットを動かすためのもので、ゲームを通じて遠い星の女の子と仲よくなっていくという設定を考えました。プレイヤーはゲームを遊んで、つぎの日に職場でふつうに働いているけど、じつは、知らないうちに遠い星の大きな戦争に参加していたという(笑)。

スクウェア・エニックス広報(以下、広報) 当初の計画では、タッチパネルは無かったんです。でも、付けてみたところすごくロボットのコクピット感が増したので、そのまま採用することにして、出撃前のタッチのアイデアが生まれました。

小形キャラクターたちと通じ合える感じを出すにはどうしたらいいのかという話をしている中で、そういったアイデアも出てきたのですよね。

加藤最初は「キャラクターたちが、プレイヤーやこちらの世界のことを見ている感じを出せたらおもしろい」という発想でしたよね。その日の天気に合わせて、キャラクターたちに「そっちは雨が降ってるの?」というようなことを問いかけてきたら、おもしろいんじゃないかとか。

――なるほど。続いて、キャラクターイラストを貞本義行さんが担当されていることも話題となっていますが、イラストを見られたときの印象はいかがでしたか?

加藤キャラクター設定を作っているときには、貞本さんがイラスト担当されるとは決まっていなかったので、すごくうれしかったですし、驚きました。

小形主人公のヒカリは、弊社が作るメカアニメのキャラクターとしても珍しいタイプですが、貞本さんにとっても珍しいことだったようで、「元気で明るい女の子をあまり描いたことがない」というお話をされていました。

――稼動時には、タイプの違う6人キャラクターが登場しますが、各キャラクターはどのようにして考えられていったのでしょうか。

加藤最初は、地球から参加しているプレイヤーとの関係性を考えてキャラクターを配置していきました。ヒカリは「地球から来てくれたヒーローだ」とプレイヤーのことを慕ってくれる主人公的な立ち位置ですね。そこから、「プレイヤーのことをほかにどういうように扱ってくれるキャラクターがおもしろいか?」という、コミュニケーションのバリエーションを意識して考えていきました。

――それぞれハッキリと個性が分かれていますが、思い入れのあるキャラクターはいらっしゃいますか。

小形作っていて楽しかったという意味ではシャーリーですね。

加藤そうですね。"ダベーヌ(※)"という名前を考えた時点でおもしろいなと思いました。

※出身地の訛りで"~~だべ"と話すことがあるシャーリーのことを、イサドラが本名の"シャルロッテ・ダヴェーヌ"にちなんで、からかうように"ダベーヌ"と呼んでいる。

小形田舎出身であることを隠すあまり、逆に出てしまうところがいいですね。そういった意味では、作っていて楽しかったキャラクターです。

加藤都会人ぶって地球人を見下しているけれど、実際は地球よりもずっと辺境のド田舎出身なんですよね(笑)。

小形(笑)。僕は好みで選ぶなら、レイカですね。おふたりは誰ですか?

加藤僕も作るという意味ではシャーリーです。ただ、イサドラも、まだ知らない一面がいっぱいありそうで気になります。

関西僕もシャーリーです(笑)。でも、プレイするならわかりやすいロボットアニメのキャラクターという感じのカズマを選ぶと思います。

――そんなキャラクターたちの魅力がアニメーションPVの中に詰まっているように感じたのですが、制作するうえで意識したことなどはありますか?

小形ゲーム中ではバトルが中心になっているということもあり、なるべく日常シーン入れるように心掛けました。開発初期の段階では、ゲームの設定上必要な部分はある程度、出来上がっていましたが、それ以外の部分でキャラクターたちがどんな生活をしているかという部分までは作り込めていなかったのです。そこで、加藤さんに考えていただいたPVのベース案を演出家の方に渡して、膨らませてもらいました。ですので、僕たちもPVを観て、「こういう方向性なのだな」と再確認できました。

――PVではキャラクターの関係性が伺えるようなシーンもありましたね。

小形ゲームに必要な設定以外の部分は、ゲームとアニメの両方のスタッフで広げていきました。ただ、ヒカリとレイカの関係は、ゲームのディレクターを務める石田さんと、ある程度、話し合って作っていきました。

加藤このふたりに関しては、明確なギャップを作ろうということでしたよね。設定の根幹的な部分は僕たちが考えて、ゲーム開発の皆さんが設定を盛ってくれたような形です。

――アニメーションPVは、菅野よう子さん×chellyさん(EGOIST)による主題歌も流れていましたが、印象はいかがでしたか?

小形菅野さんらしい楽曲ですばらしかった。タイトルを何度もくり返すような歌詞も、ありがたかったです。

『星と翼のパラドクス』の世界観やアニメーションはどのようにして作られたのかスタッフ陣に訊く_02

ゲーム制作とアニメ制作の差とは?

――制作の中で苦労された部分などはありましたか?

小形僕たちは、どちらかというとアニメーションを作るほうが専門なので、ゲームでどういった表現ができるのか完璧に把握せずに、いろいろなアイデアを出すだけ出していたので、石田さんを困らせていたと思います。そういう意味では、ゲームでできることとできないことをすり合わせる部分がいちばんたいへんだったと思います。

加藤アニメでも、ゲームでも最初に作品を作るために必要なものを考えていきますが、その要素がアニメとゲームとでは違うんですね。だから、アニメ側からすると、「この時点で、そこまで設定を決め込んで作るんだ」と感じたり、制作の方法に違いがあったので、そこはしっかりとコミュニケーションを取りながら、進めていきました。

関西ゲーム内容がロボットに乗って敵を倒すというとてもシンプルなものですから、その人たちの戦う理由といった舞台設定が重要だと思いました。ただ単に星のエネルギーを奪い合うのではなく、星自体が生き物であり、星の血液にあたるものを奪い合う形にすれば、たとえば片方の勢力は星に悪影響のある血を取り除くという目的でエネルギーを回収し、もう片方の勢力は血を取り過ぎると星が死んでしまうので、それを阻止するために戦っているなど、それぞれの目的を違う形で真っ当に示すことができますし、さらに言うなら星の身体の各部位がステージになるわけで、ビジュアル的にもおもしろい見せかたができるのではないかという方向性で世界観を構築しています。

――ここに注目してほしいみたいなポイントはありますか?

小形開発中は没入感をつねに意識していました。タッチパネルや可動筺体という最近のゲームセンターでは、あまり見かけないものが詰まっているので、まずは一度遊んでいただきたいです。

――親愛度が上がるとキャラクターのセリフが変化するという話を聞いたのですが、オススメのセリフを教えてください。

加藤シャーリーの「この地球ヤロウ」ですかね(笑)。

広報 レイカの「最の高です」も印象的だと思います。

加藤確かレイカの代表的なセリフを考えていたときに、最初に思いついたのが「最の低です」でした。それを貞本さんがデザインしたキャラクターがしゃべってくれるというのがうれしくて印象に残っています。

――最後にファンの方にひと言ずつメッセージをお願いします。

関西小学生くらいのときに遊んだATARIの『スター・ウォーズ』というゲームが、筺体に乗り込んでプレイするタイプで、包み込まれている感じや、作品の世界に没頭できる感覚が大好きだったのですが、『星と翼のパラドクス』もすごく近い部分があると思っています。また、対戦ゲームでありつつも、パートナーと仲良くなっていくという要素もありますし、そして、ロボットアニメが好きな人たちにとっては、まさに自分がロボットを操縦している感覚を味わえて、アトラクションのように誰でも楽しめる作品になっているので、ぜひ一度体験してみてください。

加藤キャラクターたちが、プレイヤーの皆さんを作品の世界に誘うガイドになってくれているといいなと思います。戦闘とキャラクターとのコミュニケーションの両方がバランスよく楽しめるものはあまりないと思うので、この作品ならではの世界を楽しんでいただけるとうれしいです。

小形昨今は、オリジナルのロボット作品を立ち上げるということは珍しくなってきていると思いますので、楽しんでいただきたいです。可動筺体を始めとする、ゲームセンターに足を運ばないと体験できない仕掛けをなるべく入れるように意識して作りましたので、何かしらの引っ掛かりを感じている方は、ぜひ一度プレイしてみてください。