プレイステーション VRのローンチなどにより、“VR元年”と呼ばれた2016年からはや2年。VRコンテンツの開発ノウハウが貯まってきたという理由が大きいのだろうが、最近記者のまわりでも、「このVRタイトルおもしろい」という声が、よく聞こえてくる。たとえば先日行われた東京ゲームショウ2018でもVRコンテンツは花盛りで、「成熟してきたんだなあ」というのが率直な印象だ。東京ゲームショウ2018の会場で試遊させてもらったあまた株式会社の『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』も、そんなVRコンテンツの充実ぶりをうかがわせるタイトルのひとつだ。

 そもそもあまたは、大手ゲーム会社に所属していた高橋宏典氏などが(現・代表取締役社長)2008年に立ち上げた開発スタジオ。設立以降スマートフォン向けアプリなどを開発し、着実にステップアップしてきたが、さらなる新技術への訴求を求めて取り組んだプロジェクトが、VR脱出アドベンチャーゲームの『Last Labyrinth』となる。

 ちなみに、あまたが開発に参画するVRコンテンツとしては、ほかにDeNAとの共同開発による『VoxEl(ボクセル)』がある。記者はこの夏、同作の取材のためにあまたのオフィスを訪れており、「『Last Labyrinth』が契機となって『VoxEl』の開発につながった」というお話を聞いたばかり。ステージ上の謎を解いていく、ステージクリアー型の謎解きとバトルのVRアドベンチャーである『VoxEl』は、謎の少女エルとの協力ぶりが、VRならではのえもいわれぬ感情を沸き立たせてくれる1作。その前に開発がスタートしていたという『Last Labyrinth』ともなれば、気にならぬわけにはいかないだろう。

 プレイするとすぐにわかるのだが、両作はゲームとして同じ構造を持っている。それは、“仮想キャラクターとのコミュニケーション”を体現したソフトであるということ。これは、両作の開発を主導する高橋宏典氏の長年に渡るテーマであり、高橋氏が『どこでもいっしょ』シリーズのディレクター・プロデューサーを務めていたと聞くと、なんとなく膝を打ちたくなるかもしれない。『Last Labyrinth』にしても『VoxEl』にしても、“女の子といっしょに協力してプレイを進めていく”ことになる。

 図らずも……というべきか、必然的にというべきなのか、“仮想キャラクターとのコミュニケーション”とVRというのは極めて相性がいい。『VoxEl』のインタビューで、DeNAのプロデューサーである永田氏が指摘していたとおり、「単純にVRの世界をひとりで冒険するのは孤独過ぎるんですね。それが、仮想のキャラクターがいることで緩和されるわけです。さらにいっしょに冒険をするという体験にすることで、“謎を解く”という行為も、より記憶に残りやすくなります」というわけだ。

 同じ構造を持つ『Last Labyrinth』と『VoxEl』だが、一方で正反対の要素もある。『VoxEl』では相棒のエルが足かせをかけられて自由には動けない状態なのに対して、『Last Labyrinth』は、プレイヤー自身が車椅子に縛り付けられていて身動きできないのだ。そういう意味では、『Last Labyrinth』と『VoxEl』は、(同じコインの表と裏と書くとどちらがどちらなのが議論になりそうなので)姉妹のような存在にあたると言えそうだ。いずれにせよ、それぞれ異なる“制約”が、ふたつのタイトルに違った彩りを与えているのは興味深い。

『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』をプレイして思う、自分の過失で愛しい存在を喪失したとき、人はどう感じるのか?_02
『Last Labyrinth』のヒロイン。彼女の造型が本作の感情移入度を決めるといっても過言ではない。その造型にあたっての苦心ぶりは別の話になるが、相当な試行錯誤があったに違いない。

 というわけで、『Last Labyrinth』である。本作の目的は謎の洋館を脱出すること。ただし、前述の通り『Last Labyrinth』では、プレイヤーは車椅子に縛りつけられており身動きもままならない。自由になるのは頭と指先だけで、プレイヤーは頭に設置されたレーザーポインターで気になる対象を指し示し、少女に指示を出していくことになる。洋館は謎に満ちており、簡単に脱出することはできない。

 部屋にある数少ないヒントを頼りに脱出を図ることになるのだが、非常にもどかしいのが言葉が通じないので少女に明確な意思を伝えられないところ。少女がじっと視線を送り、気になる箇所を指指して判断を仰いでくるので、プレイヤーは首を縦もしくは横に振ることで意思表示をし、少女を導いていくことになる。

『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』をプレイして思う、自分の過失で愛しい存在を喪失したとき、人はどう感じるのか?_03
バディ(相棒)となる少女。怪しい洋館でいっしょに行動できる友がいるとうれしい。

 なるのだが……本作の極めて恐ろしいところは、トライ&エラーがまったく許されていないところ。つまり間違った選択をすると、少女はいきなり無残な目に追いやられてしまうのだ。自分(プレイヤー)の判断を信じ切って行動した大切な“パートナー”を、為す術もなく眼の前で失ってしまうのは、なんとも切なすぎる。ましてや相手はいたいけな少女だけに、その喪失感たるや半端ない。バッドエンドになったときに、思わず「あ、ああっ~~!」と、どこから発したのかわからないようなうめき声を漏らしてしまったのは、あるいは魂の叫びだったのかもしれない。

 “仮想キャラクターとのコミュニケーション”が密になればなるほど、失う対価も大きい。ましてやそれが、さらなる没入感をうながすVRとあっては……。「なんとも残酷な状況を作り出すものだ」と、開発者に恨み節のひとつも言いたくなってしまうのも人情というものだが、それだけプレイヤーの奥深くの心を刺激するのも事実。高橋氏は「仮想世界の中で、仮想キャラクターとどういう関係性を作っていくかが本作の注力ポイントのひとつです。少女がプレイヤーの指示を健気に実行してくれることで、お互いの関係が深まっていく。しかし、プレイヤーが判断を誤ると、少女がひどい目にあい、プレイヤー自身も同じ目にあいます。仮想キャラクターである少女がひどい目にあっているのを見て心が痛むという体験は、想像以上に衝撃を受けます。ふつうのゲームでは実現できない、VRならではの体験を構築できたのではないかと思っています」とのこと。まあ、自分自身死ぬのは自己責任だから仕方ないけど、少女を失うのは辛い……。2度目のプレイでもバッドエンドを迎えたが、喪失感に慣れるということはなかった。

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この子が自分の責任で悲惨な目に遭うとなると……。

 さて、『Last Labyrinth』が初お披露目されたのは東京ゲームショウ2016にて。長蛇の列となるほどの大好評を博した本作だが、今回満を持して再出展。2年あまりをかけて納得がいくまで作り直し、基本のゲームデザインは同じながらも、アセットやモデルのクオリティーは完全にグレードアップを果たしているという。少女の存在感と、没入感の高さは、このブラッシュアップのゆえだからこそだろうか。

 そんな本作は、2019年春の正式配信がついに決定している。対応ハードはプレイステーション VRやVIVE、Oculus Rift、Windows Mixed Reality Headsetという、いわばVRのマルチプラットフォーム。ちなみに、東京ゲームショウ2018で出展されたのは、イベント出展用のショートバージョンで、製品版ではVRプレイの疲労度などを判断して、10分~15分でひと区切りがつくようなゲームプレイを考えているという。さらに、「この世界はループ構造なんです。エンディング的なものを迎えたと思ったらそれで終了というわけではなくて、また最初の部屋に戻ります。そこでゲームプレイを進めていくと、館で展開される謎が変わっているんです」(高橋氏)との気になるコメントも。いずれにせよ、どうやら複数回プレイを想定しているようだ。

 なお、本作は配信に向けて試遊の場所を積極的に設けていくようなので、近くで試遊の機会などあったら、独特の感情を喚起せずにはおかない『Last Labyrinth』を体験してみてはいかがだろうか?

『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』をプレイして思う、自分の過失で愛しい存在を喪失したとき、人はどう感じるのか?_01
あまたの高橋宏典氏。本文でも言及したとおり、高橋氏は『どこでもいっしょ』シリーズのディレクター・プロデューサーを務めている。“仮想キャラクターとのコミュニケーション”が、VRでこういう進化を遂げたかと思うと、極めて興味深い。