DeNAがVRコンテンツ『VoxEl(ボクセル)』を開発した理由、“仮想キャラクターとのコミュニケーション”を求めて

DeNAがVRコンテンツ『VoxEl(ボクセル)』を開発した。そこには深い意図があるようで……。

ステージクリアー型の謎解きアドベンチャーゲーム『VoxEl(ボクセル)』ができるまで

 いま、ゲーム業界にとって注目の領域のひとつとも言えるVR(バーチャルリアリティー)。日々、注目のコンテンツが生みだされているわけだが、なかには、ちょっと意外なメーカーによる取り組みがあったりして、VRの広がりを実感させられたりする。DeNAも、そんなメーカーのひとつと言えるかもしれない。4月上旬にフランス・ラヴァルで開催された、世界最大規模のAR/VRの展示会“LAVAL VIRTUAL 2018”にVRコンテンツを出展したとの報に接したときは、記者もちょっぴり意外だった。

 そのタイトルは『VoxEl(ボクセル)』。HTC Vive対応のアドベンチャーゲームだ。もともと同作は、 “LAVAL VIRTUAL 2018”の出展に合わせて開発されたプロトタイプ。現状明確な今後の展開は白紙状態ながらも、まずは各種イベントなどでの出展を視野に入れて、今後もブラッシュアップを続けていくという。 DeNAの手掛けるVRコンテンツとは、どのような内容なのか……思わず気になるのも無理からぬところだが、今回DeNAのご厚意により、そんな『VoxEl』を体験する機会を得た。

 『VoxEl』は、ステージクリアー型の謎解きアドベンチャーゲーム。プレイヤーは足を鎖で繋がれた謎の少女エルとともに、フィールド上のギミックを解き明かしてゲームを進めていくことになる。ゲームのプレイ感触は、まさに歯応えのある謎解きアドベンチャーをVR空間で楽しむといった印象で、プレイヤーは画面上にあるヒントを随時読み解きながらプレイを進めていくことになる。たとえば、谷にはばまれて進めない場所に対して、谷底から伸びている柱の赤色に光る箇所に火のエレメントを当てると動力が蘇り、レールが回転して橋になるといった具合だ。記者は往年の名作『MYST』を連想してしまったのだが、こうした謎解きタイプのアドベンチャーをVR空間で楽しむのは新鮮。どうやらこの手のタイプのゲームはVR空間にフィットしているようで、プレイしていてぐいぐいと引き込まれる。美麗なグラフィックも没入感を促してくれる(グラフィックはメチャクチャ美麗!)。

ギミックを駆使して謎を解いていく。

 そして、何といっても魅力的なのがヒロイン(的存在)のエル。本作では、プレイヤーはエルと協力しながら謎を解いていくことになるのだが、いわゆる“相棒”にあたる彼女の存在が、ゲームプレイのモチベーションアップに大きな役割を果たすことになると思われる。そのエルの造型がとにかくお見事で、存在感いっぱい。このへん、まさにVRならではの醍醐味と言えるだろう。

とにかくエルが魅力的。

 試遊後、『VoxEl』の開発を担当したDeNA ゲーム・エンターテインメント事業本部ゲームコンテンツ事業部、永田峰弘氏と、開発を担当したあまた 代表取締役社長 髙橋宏典氏にインタビューするお時間をいただいた。おふたりに、プロジェクトの成り立ちや今後の展望などについて聞いた。

DeNA
ゲーム・エンターテインメント事業本部
ゲームコンテンツ事業部
プロデューサー(兼ゲームデザイナー・サウンドクリエイター)
永田峰弘氏(左)

あまた
代表取締役社長
髙橋宏典氏(右)

これまでのノウハウが活かされた!?

――そもそも、DeNAでVRのプロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。

永田 新しいテクノロジーに対する研究の一環として、です。部署の気風として、新しいことにはみんな興味があって、仕事と関係のないところで各自が個人的に新技術に触れていたりもするのですが、中でもVRには興味のあるスタッフが多くて、「VRをやってみたい」という機運が高まっていたんですね。社内でVRの企画を募るコンペがあったりもして……。そんななか、毎年4月に世界最大規模のAR/VRのイベント“LAVAL VIRTUAL”が開催されるので、そこで何かをお披露目しようということで、2017年夏くらいから具体的なプロジェクトが動き始めたんです。

――どのようなコンセプトで、プロジェクトがスタートしたのですか?

永田 これは個人的な意見なのですが、VRは最終的にははコミュニケーションツールになると思っています。『VoxEl』は、その思いがベースになっているんですね。そもそも僕の初めてのVR体験というのは、VR空間で楽しめるペイントツールでして、そこで、「絵って、けっきょく描いたら誰かに見せないと意味がない」という思いに至ったんです。そうすると、VR空間内で作る人と見る人がいる環境がきっとできるに違いないと発想したんです。そこがスタート地点になっていますね。

――VRはコミュニケーションツールであるという発想から始まったのですか? ちょっと意外ですね。

永田 コミュニケーションツールとしての可能性は、わりとあると考えています。最終的には、VRはSNSで発展すると思っています。ちなみに、ARは最終的にはメガネサイズになっていくと思うのですが、いずれはスマートフォンの代わりになっていくのかなと。僕は、VRは家の中で、ARは外で……という棲み分けができると見ています。いずれにしても、最終的にはコミュニケーションツールとして発達するとイメージしています。

――それだけVRに大きな可能性を感じているということですね。

永田 とはいえ、誤解しないでいただきたいのは、DeNAは基本的に企画ありきでプロジェクトが動きだすのであって、技術ありきではないという点です。“VRをやりたいから”ということで『VoxEl』が動き出したわけではないということです。取り組むべき事業や新規事業などがまずあって、その手段としてVRが使えるのだったら使う。新規技術に対してエンジニアには縛りを設けないで、各自が興味を持ったものを積極的に推し進めるというスタンスですね。

――なるほど。「DeNAがVR事業に取り組んだ」というのは、あくまでも結果として……ということですね。では、具体的にはどのような形で、『VoxEl』の企画は動いていったのですか?

永田 “VRはコミュニケーションをとる場所がいる”という認識から始まって、そこでサンドボックス的な要素やみんなで謎を解いたりする世界を作っていくといった“遊びの場”があれば、見る人と楽しむ人が成立すると思ったんです。で、ここからは僕の本職であり趣味でもある領域に入るのですが、ゲームをちゃんと作ってみようと。映像コンテンツでもよかったのですが、どうしてもゲームにしたかったんですね。まあ、会社の研究開発と僕の趣味が合致したのが、今回のコンテンツという側面はあるかもしれません(笑)。そこで、僕が元ネタを考えて、あまたの髙橋さんやディレクターの渡邉さん(渡邉哲也氏、あまたディレクター。取材は所要により欠席)と、「VRとして没入感があって、リッチな体験を作るのに必要なものは……」みたいな話をして、作っていくという感じでした。

――そもそも、DeNAさんはどのような経緯で、あまたさんに開発をお願いすることになったのですか?

永田 もともと、あまたさんとは弊社のアプリ『天華百剣 -斬-』の開発でお付き合いがありまして……。あまたさんのほうで、VR脱出アドベンチャーゲームのプロトタイプ『LAST LABYRINTH(ラストラビリンス)』を開発されていたことがわかり、弊社の担当から紹介してもらいました。

髙橋 あまたの業務のメインはモバイルゲームの開発運営なのですが、僕自身これまでずっとゲーム開発を手掛けてきたなかで、VRというプラットフォームの可能性には着目していました。それで、2016年に自主的に『LAST LABYRINTH(ラストラビリンス)』を作ったのですが、今回DeNAさんからVRのお話をいただいて、ぜひチャレンジしたいと思ったんです。

――実際に取り組んでみて、いかがでした?

髙橋 形にしていくのはたいへんでした。「エルとのコミュニケーションがすごく大事だよね」というところから入って、いかにゲームデザインとマッチされるかというところも含めて、かなり試行錯誤しました。そこで活きてきたのが前職での経験でして……。

――前職での経験ですか?

髙橋 はい。前職でも“仮想キャラクターとのコミュニケーション”というのは、ずっとテーマとして作ってきていたので……。『VoxEl』のディレクターの渡邉にしても、直近までコンシューマ向けの大型タイトルの物理演算を使ったギミック制作を担当していて、物理演算については深い知見があるんです。みんなのノウハウを駆使してVRに挑戦して、おもしろいものが作れたかなと。

――これまでのノウハウが活きたという感じですね。

髙橋  “仮想キャラクターとのコミュニケーション”は、僕自身も十数年くらい関わっているので、VRでも取り組み甲斐のあるテーマではありましたね。実際のところ、エルは『VoxEl』の企画には不可欠ですし。さらに言えば、さきほどお話した当社開発の『LAST LABYRINTH(ラストラビリンス)』も、じつは女の子のキャラクターといっしょに館を脱出するという内容だったんですよ。奇しくも……と言いますか。そういう意味で言うと、ネタとして重なるところがあったので、培っているスキルは使えるよねという話はしましたね。

――たまたま発想が親しかったわけですね。相棒となるキャラクターが存在することでもたらされるものは何でしょうか?

永田 コミュニケーションはもちろんですが、単純にVRの世界をひとりで冒険するのは孤独過ぎるんですね。それが、仮想のキャラクターがいることで緩和されるわけです。さらにいっしょに冒険をするという体験にすることで、“謎を解く”という行為も、より記憶に残りやすくなりますし。エルと自分(プレイヤー)の役割分担が明確に分かれているので、体験がより深くなるという一面もあります。まあ、キャラクターがいることによって、自分以外の視点を持たせられるというのも、大きなところかなとは思います。

永田 『VoxEl』に関しては、最初は女の子が動物に変わって、VR空間を移動する……みたいなアイデアもあったんですよね……。いずれにせよ、「かわいい女の子といっしょにいたほうが楽しいよね」というのが最初の発想ですね。

――では、肝心の女の子の造型はどのような感じで?

永田 だいぶ僕の趣味を反映させていただきました(笑)。

髙橋 かなり永田さんの趣味ですね(笑)。永田さんからいただいたオーダーをもとに、うちのアーティストがキャラクターデザインに落としています。

――ちなみに、どういう感じのオーダーだったのですか?

永田 えーとですね。基本チラリズムがいいなと思っていて……(笑)。これ、しゃべって大丈夫かな?

髙橋 いいんじゃないですかね(笑)。

永田 絵だとちょっとわかりにくいんですけど、エルって、お腹が見えているんですよね。チラリがいいという話は最初からずっとしていて。エルのデザインには、いたるところにチラリ要素があるんです。

――いたるところですか?

永田 はい。たとえばコートの反対側の裾が切れていて、ちょっと中が見えるとか……。

髙橋 あと、ストッキングが破れているとかですね。

永田 ストッキングの濃さは30デニールがいいとか、そういう話もしました(笑)。

髙橋 そう。デニールの指定はありましたね。

――なるほど……。そちらの趣味ですか。「好きな女優さんに近い感じにしてほしい」とか、そういう感じじゃなかったんですね。

永田 それはなかったです。そういう意味で言うと、日本国内のVR市場のみではなく、最初から海外も見据えて展開することを考えていたので、「ある程度、海外で通用するデザインで」ということでお願いしています。最終的には顔つきもだいぶ日本人っぽくなっていますが……。けっこう紆余曲折しつつ、造型にはけっこう時間がかかっていますね。

――ところで、エルが足を鎖でつながれているのが気になりますが、これはゲーム性に迫られてのものなのですか?

永田 そうですね。このイメージ自体は、最初髙橋さんから提案していただいたものなんですよ。「女の子がふつうに動き回るとVR空間だと制御が難しいものがある」という。であれば、起点になるものがあって、その周辺を動くようにすることで、破綻をなくしてある程度制御できるという思惑がありました。そのうえで、“女の子が鎖につながれていて、その石の上に乗って飛ぶ”というイメージを出していただいたので、それはおもしろいという話になりました。

髙橋 石の上に乗って飛ぶというのは、ゲームデザイン上の要請もあるんですけど、チラリズムの見地からの要請でもあるかもしれません。

――あはは(笑)。あと、本作では謎解き要素も楽しいですが、それはどのようなプロセスを経て生まれたのですか?

永田 謎解きに関しては、渡邉さんのほうでベースとなるネタを考えていただいています。さきほどのエルの行動には制約があるというところから入って、“視界に入る範囲内で楽しめるものが大前提”ということで、いろいろと仕組みを考えてもらいました。で、組み上げては実際にプレイしてみて意見を言い合い、「ここの形がこうだとわからないから、こういう形にしてこういう色にしてみようか」みたいな話を、毎週のようにくり返して作り上げていきましたね。

――遊んでいると、謎を解く爽快感がとてもありますね。

永田 ありがとうございます。そのへんは渡邉さんにがんばっていただいて、相当いい物ができていると自負しています。

――ちなみに、没になったアイデアなんてあったりするのですか?

永田 そもそもで言うと、別バリエーションとして、以前はもっと広大な空間を冒険するものも作っていたんです。そのときはけっこう凝ったギミックも入っていて、相当難易度が高いものもありました。それが、“LAVAL VIRTUAL 2018”に出展するにあたって、「さすがに難し過ぎるよね」ということで、敷居を下げています。それでも難しいと思う方はいたようで……。VRコンテンツの難度調整は難しいです。そのあたりは、今後も詰めていかないといけない課題ですね。

――課題というお話が出ましたが、『VoxEl』は今度どのような形で展開していくのですか?

永田 いまはプロトタイプが完成したところで、これからどのようにして世に出していくかを模索している段階です。協力していただける方や企業様を募りながら、いっしょにどんどん進めていきたいと考えています。じつはボイスに関しても、今回はフランスのイベントでの出展が目的だったので、英語音声になっていますが、今後は日本語音声の収録も考えているんですよ。有名な声優さんにご相談させていただいたりしています。

――最終的には販売を想定しているのですか?

永田 最終的にはそうですね。世に出せるのがいちばんかなと思っています。より多くの人に、このゲームを遊んでもらうことが、ゴールです。

 インタビュー中でも再三言及されているように、同コンテンツの今後の展開は未定だ。ただし、今後国内外のイベントなどで積極的に出展していくプランがあるとのことなので、いずれ体験できる機会も増えそうだ。いずれにせよ、DeNAが『VoxEl』に求めているハードルは高い模様。「ハードを牽引するコンテンツに成長させたい」との上層部からの要望もあるようだ。クリエイター陣が熱意を持って取り組んでいる『VoxEl』は、その行く末が気になるコンテンツだ。

取材に同席していた開発陣で撮影。『VoxEl』の今後の展開が気になる。

■撮影/永山 亘