主人公のアンドロイド3体のテーマは? rA9とは何だったのか? Quantic Dreamが改めて『Detroit: Become Human』を語る【『Detroit』特別企画】

多く反響を呼んだプレイステーション4用ソフト『Detroit: Become Human』。同作を手掛けたゲームスタジオ、Quantic Dream(クアンティック・ドリーム)のキーマン3人に、日本のファンへの想いや、シナリオに込めた意図などを語ってもらった。

 プレイヤーの選択が物語に影響を与える、インタラクティブなアドベンチャーゲーム『Detroit: Become Human』(以下、『Detroit』)発売から、約4ヵ月。世界中のさまざまなプレイヤーが本作に触れ、数々の物語を紡ぎ出した。

 本作を手掛けたのは、フランス・パリに拠点を置くゲームスタジオ、Quantic Dream(クアンティック・ドリーム)。開発スタッフは、発売後、多くの反響を得たいま、『Detroit』について何を思うのだろうか。

 本記事では、『Detroit』ディレクター兼シナリオライターのデヴィッド・ケイジ氏、シニアシナリオライターのアダム・ウィリアムズ氏、エグゼクティブプロデューサーのギョーム・ド・フォンドミエール氏のインタビューをお届け。日本のファンへの想いや、シナリオに込めた意図などを語っていただいた。

※本記事には、『Detroit: Become Human』のネタバレが含まれます。未クリアーの方はご注意ください。

『Detroit』は、自分がどんな人間かを決める選択についての体験なのかもしれません(デヴィッド・ケイジ氏)

デヴィッド・ケイジ氏
(文中はデヴィッド)
Quantic Dreamの創立者であり、CEO。スタッフをまとめ、率いながら、『Detroit』のディレクター兼シナリオライターを務めた。

――日本のユーザーからの『Detroit』への反響は、どのようなものでしたか?

デヴィッド日本からの反響は、信じられないほどすばらしいものでした。私たちのゲームは、これまでも日本では非常に好評だったのですが、『Detroit』は間違いなく圧倒的にナンバーワンの人気です。この作品への、プレイヤーやメディアの方々からの熱狂的な反応や創作されるファンアートの量には、ただただ感動しています。

日本流のアートスタイルで再創作されたファンアートの衝撃的なレベルの高さや多様性をクアンティック・ドリームのチーム全員が心から楽しんでいます。私たちは、リアルなビジュアルも好きですが、“マンガ”テイストのイラストや漫画自体も大好きなんですよ。とても美しい作品も心から笑える作品もありましたが、このような作品を作る才能豊かな方々が『Detroit』から刺激を受けてくれたのは、本当にうれしいですね。

――『Detroit』では、ユーザーがどのような選択をしたかをデータで見ることができますが、とくに印象的だったプレイ結果は?

デヴィッドプレイヤーのゲームクリアー率は75%以上と非常に高く、とてもすばらしい結果だと思っています。たくさんのゲーマーが、すべての選択肢を選んだ結果を見ようと何度もプレイしてくれていますが、これはストーリーを重視したゲームではかなり珍しいことでしょう。

ですが、もっとも興味深かったのは、『Detroit』によって国ごとの道徳観の違いが浮き彫りになっているところです。たとえば、ゲーム中には、ほかのキャラクターへのプレイヤーの共感を試すような場面がたくさんありますが、私たちにとって興味深いことに、日本のプレイヤーはほかのキャラクターへの共感を示す選択を、ほかのどの国と比べてもかなり高い確率で選んでいました。本作のプレイデータからは、そのような社会学的に興味深い傾向がほかにもたくさん発見できると思います。

――3人の主人公の中で、とくに誰に感情移入しましたか?

デヴィッド3人とも同じように気に入っています。どの主人公にも自分の一部が入っていますから。たとえばマーカスは現実との齟齬に立ち向かう理想主義者で、カーラは子どもを保護する親、コナーは大人になってゆく子どもといったように……。どのキャラクターにも心が動かされる瞬間があり、思わず共感してしまう瞬間がありました。キャラクターを書くためには、何らかの形で好きになっていなくてはダメなのだと思います。

3人に共通しているのは、全員がジレンマや困難な選択と向き合ってきたこと、そして、そのジレンマや選択が彼らを形作ってきたということです。私たちも皆、みずからの選択によって、みずからがどういう人間であるかを規定しているのでしょう。ひょっとしたら『Detroit』は、成長することについての体験であり、自分がどんな人間かを決める選択についての体験なのかもしれません。

――ご自身でプレイされたとき、どのシーンがとくに印象に残りましたか?

デヴィッド正直、製品版になったときの映像のクオリティーは、私の高い期待をも超えるものでした。登場人物と表情のリアリティーには、とくに驚きましたね。場面の中では、マーカスが自由を求める行進をするところが個人的には印象深かったです。ネタバレしないように説明すると、静かなのに緊張感が張りつめている場面が、とくにユニークなものに思えました。ゲームでは、銃撃や爆発がたくさん出てくるシーンの方をどうしても気に入ってしまうものだと思いますが、群衆が静かに歩いているだけのあのシーンは、ゲーム内でも、もっとも印象的な瞬間のうちのひとつだと思います。

カーラとアリスの、感情を揺さぶるシーンも気に入っています。演技の質の高さが強烈な印象を残してくれましたし、ドラマチックな場面での感情の高ぶりも見事です。

非常に人気を博しているコナーとハンクの関係についても当然触れておかなくてはならないでしょう。脚本執筆の段階から、かなり楽しくなりそうなシーンがありました。セリフを書きながら笑ってしまったことも一度や二度ではありません。それから、ふたりの関係の変化もよいものになりそうでした。敵対的な状態から始まり、コミカルなシーンもあり、非常にドラマチックな形で終結へと向かう。皆さんがコナーとハンクを気に入ってくれたのはとてもうれしいです。というのも、ふたりを演じたブライアン・デッカートとクランシー・ブラウンは、本当にすばらしい演技を見せてくれましたから。

――とくに、どのチャプターのシナリオを書くのに苦労しましたか?

デヴィッドそうですね。全体的にとてつもなく苦労しました……。変化や分岐やバリエーションの量が執筆を非常に複雑なものにしていたので。いちばん大変だったのは、3部構成になっているうちの第3部(「交わる運命」以降のシーン)でした。ここでは全部で91のシーンがあるのですが、それぞれに変化や分岐がありますし、多くのキャラクターの生死が変わり、シーンによっては結果がほかのサブシーンに影響するんです……。それに、シーン間にロード画面が入らないようにして、映画のモンタージュのような印象を与えつつゲームのペースも維持したかったので、技術的にも大変な挑戦でした。これまで我々が開発したすべてのゲームの中でも、ダントツで複雑な作業でしたね。

――3人の主人公は、立場や目的が異なりますが、物語を語るうえで、3人それぞれにどんな役割を持たせたのでしょうか。

デヴィッド3人の主人公にはそれぞれテーマがあり、答えなくてはならない大切な問いがあります。マーカスが直面するのは、パワーを持つことの難しさです。仲間の未来に責任を持たなければならず、パワーを行使することについての内面の葛藤にも向き合わなければなりません。カーラは、小さな人間の女の子への共感を扱っており、みずからの感情について、みずから問いかけることになります。コナーは、自分が何者になりたいのかを決めなくてはなりません。

主人公たちについて気に入っているのは、さまざまな感情を扱うチャンスが生まれたことです。3人の物語が組み合わさることで、ひとつの大きな物語を伝えることができました。

――本作では、自己犠牲の精神が描かれているシーンが多いと感じます。これには理由があるのでしょうか?

デヴィッドHeavy Rain -心の軋むとき-』で、息子を救うために父親はどこまでできるのか、というテーマを取り上げたこともあって、自己犠牲の精神には非常に興味を引かれました。自分以外の人のために自分の命を捧げられるのか。信念のために命を捨てられるのか。自分の命以上の価値を何か――人であれ、何らかの考えであれ――に見出すというのは極めて人間的な現象だと感じます。アンドロイドが人間になる(become human)のであれば、そのような問題と向き合うことになるでしょう。これは非常に難しい決断であり、ゲームでプレイヤーがどうするのかをぜひ知りたいと思ったのです。

――rA9とは、何だったのでしょうか。また、“rA9”という名称にした理由は?

デヴィッドアンドロイドに自我が芽生えた時、あたかも神秘についての観念を持つことが人間の条件であるかのように、ある種の宗教心が芽生えてくる、というアイデアにとても惹かれました。誰しも死を恐れますし、それは人として自然な感情ですが、宗教はこの死への恐怖に対して、安堵させる答えをくれるものです。自我が芽生えたアンドロイドは死に対して恐怖心を抱くため、宗教心が芽生えるのは自然なことだと思いました。

rA9の正体は何か、そして、そもそもrA9は存在するのかという問いには、プレイヤーごとに異なる意見があるでしょう。現実世界の神と同じように……。

――“ジェリコ”という名前に込めた意味は?

デヴィッド名前に関してはたいてい直感を信じています。最初に思いついた名前が正しい意味を持っていることがほとんどなんです。ジェリコは聖書に出てくる名前で、ヨシュアが最初に征服する町で、たいていの欧米のプレイヤーにとって、正確な理由はわからないにしても心に響く名前です。私自身にとっては、神秘的で、秘密や謎に包まれた砂漠の中の町を連想させてくれるため、私の求めていた変異体が身を隠す場所のイメージにとても合っていました。

――本作では、1週間のあいだに起こった出来事が描かれますが、1週間という期間にした意味はあるのでしょうか?

デヴィッド緊張感やペース、ドラマ性を高めるために、短い期間で物語を展開させたかったんです。つねに時間が続いているという感覚があると、プレイヤーの緊張感も増えやすいですし。ギリシャ悲劇では、連続した時間と空間が必要とされます。私はつねづね『Detroit』をギリシャ悲劇のような物語として思い描いていたため、なんとなくこの法則を意識し、物語が一箇所で一度に起こるようにしました。エウリピデスからソフォクレスまで、多くのギリシャ悲劇作家の作品を読み続けていますが、たいていは悪役が存在せず、皆ただ立場や目的が違うだけで、それらが衝突した結果ドラマが生まれる、という要素がとくに気にいっています。それこそ私が『Detroit』で再現しようと思ったテーマです。そしてこれはまた、最新技術を使ったインタラクティブな体験が、2500年も前のギリシャ悲劇作家からインスピレーションを受けることがあるということでもあります。

――今後、『Detroit』に関して、やりたいと思っている施策はありますか?

デヴィッドDetroit』の世界は非常に豊かな設定を持ち、たくさんの物語を生み出す余地があると思っています。ご存じかと思いますが、我々は21年の間、一切続編を作ったことがありません。シリーズ物を制作するとしたら、伝えなくてはならないパワフルで新しいテーマがあると信じられたときだけです。

クアンティック・ドリームのファンの皆さんには心から敬意を払っています。ですから、続編を作るとしたら、皆さんの心を動かすことができると確信できたとき、少なくとも『Detroit』と同じレベルの体験を提供できると確信できたときだけでしょう。

――『Detroit』の世界観で、さらに新しいコンテンツを作る予定はありますか?

デヴィッド前述のとおり、クアンティック・ドリームでは21年の間、続編を制作したことはありません……が、どんなことでも「絶対にない」とは言わない方がよさそうです……。ひとつ言えるのは、本作の開発は非常に楽しかったということです。特に、素晴らしい出演者と仕事ができたこと、それに、プレイヤーの皆さんの反応。そして、『Detroit』の世界には語るべき物語がまだたくさんあるように思います……。

――ところで、週刊ファミ通2018年5月31日号(2018年5月17日発売)の内容はいかがでしたか?

デヴィッドただただ感動しましたよ! 私たちの作品が、あそこまで膨大なページ数で雑誌に掲載されたことはこれまでありませんでしたから、掛け値なしにうれしかったですね。ファミ通さんの取材チームはパリまで来て、開発チームにインタビューをして、たくさんの質問をしてくださったのですが、あそこまで情熱的で、熱心な方々と話せたのは本当にすばらしかったですね。“魂について”、“人形とロボット”、“人間であるとはどういうことか”、などなどの本当に深い話をゲームメディアの方とできる機会なんてほとんどありませんから。

簡潔にまとめると、ファミ通さんに『Detroit』を取りあげていただいたことを本当に光栄に思っていますし、深く感謝しています。日本のプレイヤーの方々に本作を知っていただくにあたって、大きく貢献してくれた特集だと思います。

※週刊ファミ通2018年5月31日号では、52ページにわたるクアンティック・ドリーム特集を掲載。スタジオ密着取材を行い、コアスタッフへの大ボリュームのインタビューを中心に、同スタジオのクリエイティブに迫った。気になる方はぜひ電子版をチェック!

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『Detroit』を手掛けるスタジオQuantic Dreamへの業界初の密着取材が実現! 52ページの大特集でアドベンチャーゲームの開発思想を公開【先出し週刊ファミ通】

週刊ファミ通2018年5月31日号(2018年5月17日発売)では、開発会社Quantic Dreamに密着取材を敢行し、52ページの大特集を掲載! コアスタッフへの大ボリュームのインタビューを中心に、最新作『Detroit: Become Human』開発の裏側を辿ります。