スクウェア・エニックスより、2018年8月8日に発売された映像付きサウンドトラック『SaGa 1,2,3 Original Soundtrack Revival Disc』。本作は、ゲームボーイで発売された『サガ』3作( 『魔界塔士 サ・ガ』、『サ・ガ2 秘宝伝説』、『時空の覇者 サ・ガ3 [完結編]』)の楽曲とゲームプレイ映像を収録したBlu-ray Discだ。
本記事では、このBlu-ray Discで取り上げているタイトルのひとつ、『サ・ガ2 秘宝伝説』の音楽にまつわるインタビューをお届け。当時、ディレクターを務めた河津秋敏氏と、サウンドを担当した伊藤賢治氏(※『サ・ガ2』は、伊藤氏と植松伸夫氏のふたりが曲を手掛けた)に、約28年前の思い出を語っていただいた。また、河津氏からは、今後の『サガ』に関する言葉も!
なお、『SaGa 1,2,3 Original Soundtrack Revival Disc』は、東京ゲームショウ2018(幕張メッセにて2018年9月20日~23日の期間で開催中)のスクウェア・エニックス ミュージックショップ(9ホール 物販エリア)にて販売されている。伊藤賢治氏サイン入り商品も数量限定で用意されているので、欲しい方はお早めに。
右:スクウェア・エニックス 河津秋敏氏(文中は河津)
スクウェア初の新入社員、最初の参加タイトルは“メモリとの戦い”
――『サ・ガ2 秘宝伝説』(以下、『サ・ガ2』)は、イトケンさんがスクウェア(当時)に入社して最初に関わったタイトルとして知られていますよね。もう28年前になりますが……河津さんは、イトケンさんが入ったときのことを覚えていますか?
河津当時は赤坂のオフィスで、音楽制作用の部屋を作ってあったのですが、その部屋に入ったら、植松さん(植松伸夫氏)が「新しい人が来たぞ」とうれしそうにしていましたね。“ちゃんと音楽の勉強をしたことがある人”という触れ込みでした。
伊藤そういう触れ込みだったとは聞いていませんでした(笑)。ピアノをやっていた、とは言いましたけど。
――そして入社してすぐ、『サ・ガ2』の曲を作ることになったとのことですが……。
伊藤最初の1ヵ月間は機材がなかったので、それを揃えてもらってから参加することになりました。植松さんが関わる開発ラインがふたつ走っていて、ひとつが『ファイナルファンタジーIV』、もうひとつが『サ・ガ2』だったんです。植松さんからは『サ・ガ2』を半分手伝ってほしいと言われて、それが始まりでした。
――どのシーンの曲を作るかという分担は、植松さんが決めた?
伊藤そうだったと思います。メモリ不足のために、入らなかった曲もありました。
――『サ・ガ2』は、当時としては大容量の2メガビットロムでしたが、それでも入らなかったのですね。
伊藤第7世界に登場する、“おたま”のテーマを作っていたんですけどね。メモリがあれば入っていたと思います。
河津当時はメモリの関係もあって、シナリオに合わせてどの曲をどこで使うか、順番をしっかり決めた状態で、植松さんにリストを渡していたと思います。
――イトケンさんが最初に作った曲は何でしたか?
伊藤たしか『安らぎの大地』だったと思います。この曲、長いんですよ。
――ゲーム音楽ならではの“曲をループさせる”ことに慣れていなかったから、でしょうか?
伊藤そうですね。
――イトケンさんの曲を聴いて、河津さんは当時どう思われましたか?
河津開発中は、「これが植松さんの曲で、これがイトケンの曲」ということは最初は聞かされていなくて、こっちは全然意識していなかったんですよね。曲を聞いて、「植松さんらしくない」と思うような曲がなかったのは印象的でした。
――入社1年目から、高いクオリティーの曲を作れていたという証拠ですね。
伊藤そういえば、当時、社長に呼び出されたことを思い出しました。いきなり内線で呼ばれて、「クビか」と思って部屋に入ったら、秘書の方が招いてくれて、お茶も出してくれて。そこで初めて社長といろいろと話をして、「『サ・ガ2』の曲は、どの曲が植松くんのものか、伊藤くんのものかわからないくらい溶け合っているね。この調子でがんばりなさい」と激励の言葉をいただきました。
伊藤氏の入社時のエピソード、『サ・ガ2』制作時の思い出は、こちらの記事でも語られている。
『Save the world』には勝てないと思った
――曲の中で、とくに思い入れがあるのはどの曲ですか?
伊藤『Save the world』は、「勝てない」と思いましたね、これを聴いたとき。冒頭の「うわぁぁん……うわぁぁん……」という音色のボリューム感とか。曲の中で、いろいろと飛び交っているんですよね。データを見て、「こうなっているのか」と驚かされました。
――イトケンさんは、植松さんの曲のデータを見ながら、ゲーム音楽作りを学んでいったのでしょうか。
伊藤当時は、そうやってものすごく勉強しました。『Save the world』は、ゲームボーイの曲の中で最高峰だと思います。それぐらい、「この曲にはぜったい勝てない」と思いましたから。
河津植松さんは、意図的に「『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)とは違う曲にしよう」と曲作りをしていたので、『FF』のバトル系の曲とは違うんですよ。
――『サガ』は、テンポが速い曲が多い印象です。
河津音符の数が増えるから、データ的にはキツいんだけど。
伊藤音を切るときの休符のデータも入れなくちゃいけないので、データ量が倍になっちゃうんですよ。
河津データが小さくなるようにがんばってはいたんですけど、それでもギリギリでしたね。
伊藤当時、安達景太郎さんという方がサウンドのデザインをしていたのですが、そのデータがあまりにもよくできていたので、『聖剣伝説 ~FF外伝~』にも活用しました。ですので、『サ・ガ2』と『聖剣伝説』の音色は同じなんですよ。
――河津さんのお気に入りの曲は、どの曲でしょうか?
河津ボス戦の『死闘の果てに』ですかね。曲の始まりから「うおっ」となりました。
伊藤ありがとうございます。
――ファンにも人気の高い曲ですよね。たとえばビーナス戦で、バトル画面に入る前の「いまのあんたがいちばんみにくいぜ!」の会話シーンから、『死闘の果てに』が流れるじゃないですか。そういった細かい演出も含めて、ファンの心に残っているんじゃないかと思います。
河津バトルに入る前からバトルの曲を流したい、というのは『FFII』のころから思っていたので、『サ・ガ』ではやろう! と安達さんと話をしていましたね。
――ノーマルバトル曲の『必殺の一撃』もイトケンさんが書かれた曲ですが、これも人気が高い曲です。
伊藤『必殺の一撃』は社内のスタッフにも褒められた覚えがありますね。
河津シリーズのイメージを崩さずにバトル曲を作るのは、なかなか難度が高いことだったと思います。
伊藤『魔界塔士 サ・ガ』(以下、『サ・ガ1』)の曲と、だいたい同じテンポにしようと考えて作りました。
――『必殺の一撃』、『死闘の果てに』、『Save the world』は、バトル曲としてすごくバランスがいいなと感じます。
伊藤ラストバトルで、その3曲が流れるじゃないですか。ああいう演出も含めての思い出もあると思います。まずは『死闘の果てに』から『必殺の一撃』が流れて、最後に『Save the world』……という演出がさすがだなと。ゲームのテストプレイをしているとき、「こういう演出もあるんだ」と驚きました。
河津当時、バトルの曲は、通常曲、中ボス、ラスボスというのが基本だったので、それをどうやって使い回そうかと考えていましたね。ラスボス曲は一度しか使えないから、どうやって中ボス曲を使おう、とか。
――『サ・ガ2』の曲は、19曲だったんですね。でも、少ないという印象は受けませんし、ゲーム自体のボリュームもかなりのものに感じられます。
河津『サ・ガ1』は削りに削っていたのですが、『サ・ガ2』はボリューム感的には、当時のふつうのRPGくらいあったと思います。『FF』が、『III』からすごいボリュームになっちゃったので、比べられないですけど。
伊藤『サ・ガ2』は、自分が関わった初めての作品だったので、いろいろと感動しながらプレイした記憶がありますね。シンプルなところもあるけど、そのシンプル加減も含めておもしろかったですね。純粋に。
――今回のBlu-rayでは、ゲーム画面とともに音楽を楽しめるので、どっぷり当時の思い出に浸れると思います。
河津ゲームをやらずに、ゲームが見れますからね。いまは実況動画がありますけど、昔は友達が遊んでいるのを、隣でお菓子を食べながら見て、ツッコミを入れるというのがひとつの娯楽でしたよね。ゲームボーイではそれができなかったので、今回のBlu-rayで、それができるのはおもしろいなと思います。「そうそう、こうだったよね」と、みんなで懐かしく思ってもらえればと。
伊藤家庭を持っている方も多いでしょうね。もし、お子さんといっしょに見てくださるのであれば、どういう会話をするのか楽しみですし、「子どもだったころに、これを遊んでいたんだよ」と熱意を語ってほしいですね。
『サガ』シリーズは2019年で30周年!
――さて、ここからは『サガ』シリーズの今後について伺いたいと思います。『サガ スカーレット グレイス 緋色の野望(2018年8月2日に発売)』ですが、無事に完成したとのことで。※本インタビューは、2018年7月に実施
河津はい、マスターアップしました。予定よりもちょっと時間がかかっちゃったんですけど。
――イトケンさんも、新曲を書かれたんですよね。
伊藤はい、何曲か。数は少ないですけど、新しい主題歌も含めて、ある種「新タイトルの曲を作る」という意識で書きました。野々村彩乃さんの新しい曲を作れたのもうれしかったですね。「歌をメインで作りたい」という気持ちは前からあって、『サガ スカーレット グレイス』のときから、河津さんに「主題歌を作りたい」とアプローチしていましたから。
――前回の主題歌に引き続き、河津さんが作詞を担当されているそうですね。
河津前回の主題歌はエンディングで流れるものだったので、人によっては聴けないものだったのですが、今回はオープニング曲です。野々村さんの歌を、前回泣く泣く聴けなかった方にも聴いてもらえるかなと。
――『緋色の野望』の後には、舞台『SaGa THE STAGE ~七英雄の帰還~』も控えていますね(2018年9月21日より全国3都市で上演)。今回の舞台では、イトケンさんががっつり曲を書かれると伺っています。
伊藤これまでもいくつか舞台の曲を書いたことはありますが、今回ほどがっつり書くのは初めてです。これだけ続いているシリーズで、初めて体験することがまだあるなんて、珍しいですよね。
――『ロマンシング サ・ガ2』の曲が、舞台でどう蘇るのか楽しみです。
伊藤『ロマンシング サ・ガ』を作った後、一度燃え尽きて灰になってしまって(笑)、『ロマンシング サ・ガ2』の曲は苦しみながら作ったんですよ。皆さんの思い出の中にあるのは、そんなスーパーファミコン版の音かもしれませんが、いま舞台でやるならこういう形で……と、構想はあるので、楽しみにしていてください。
――楽しみにしています。そして、年を越えると、いよいよシリーズ30周年イヤーになりますが……。
河津移植やリメイクは当然やっていきたいと思っていますし、『サガ スカーレット グレイス』のつぎのタイトルにも、当然手をつけたいと思っていますので、期待していただければと。音楽関係の企画もやりたいですね。
伊藤アレンジCD『Re:Tune Romancing SaGa Battle Arrange』のような、アコースティックなテイストのライブをやってみたいですね。
――個人的には、『サガ フロンティア』で幻となってしまったヒューズ編※が見たいです……。※『サガ フロンティア』のヒューズは、もともと8人目の主人公として考えられたキャラクターだった
河津ヒューズ編を真面目に作ったら、すごいことになっちゃうので(笑)。ほかの全主人公のイベントをなぞる、という設定で企画していたので、難しいですね。それこそ、『サガ スカーレット グレイス』のレオナルドみたいなものですから。
伊藤いまふと思ったんですけど、今回のBlu-rayで見られるゲームボーイの世界観と、『ロマサガ』や『サガフロ』の世界観、『サガ スカーレット グレイス』の世界観って、『サガ』の名前はついているけど、似て非なるものですよね。個性が成り立った世界なんだなと思います。
河津過去作のイメージは引きずらないようにしよう、と考えて作っているので。技術者としては、いまある技術のなかでモノを作りたいという気持ちがあります。今後、ストリーミングが主流になると、ハードに挑戦するというおもしろさがなくなっちゃうのは、つまらないなと思いますね。ハードに挑戦することで、新しい発想のゲームができたりするので。
――それこそ、ゲームボーイ時代はメモリが少ないからこそ、いろいろな工夫が生まれたわけですからね。
河津スマートフォンのゲームのおかげで、ドット絵風のタイトルが親しまれたりして、「リアルタイム描写の超美麗グラフィックだけがゲームじゃない」という考えがちゃんと根付いたのはよかったです。リアルタイム描写のすごいゲームだけになってしまったら、狭くなってしまうので。そうではないゲームを作っても市場として成り立つのか、作り手がごはんを食べられるのかという点は非常に重要なので、今後も生き残れるように、我々もがんばらなければと思います。
――『サガ』シリーズからも、多様なゲームが生まれることを期待します。
河津時間とお金次第なんですけれども、VRもやってみたくはあります。横に見知ったキャラクターが立っていたりだとか。白薔薇姫とか、どうやって3Dで作るのか、というのはありますけれど、楽しそうだなあと。
――ぜひその企画を実現させてください! それと、開発中の『ロマンシング サ・ガ3』リマスター版も楽しみにしています。
河津進んでいるものはいろいろとあるので、順番通りにやっていきます。お待ちいただければと思います。
※東京ゲームショウ2018初日、『ロマンシング サガ3』が2019年初頭に全8プラットフォームで配信予定であること、また、『ロマサガ3』の300年後を描くスマートフォン向け新作『ロマンシング サガ リ・ユニバース』が開発中であることが発表された。詳細は下記の関連記事にて。