『MH:W』『ニーア オートマタ』『仁王』で世界を制した開発者たちがディスカッション! 国産ゲームが世界で勝つには?【TGS2018】

2018年9月20日(木)から9月23日(日)まで、千葉・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ2018(20日・21日はビジネスデイ)。初日となる20日に行われた“グローバル・ゲーム・ビジネス・サミット”の模様をリポートする。

世界で成功を収めた三者が語る“勝因”とは?

 2018年9月20日(木)から9月23日(日)まで、千葉・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ2018(20日・21日はビジネスデイ)。初日となる20日に行われた“グローバル・ゲーム・ビジネス・サミット”の模様をリポートする。

 例年TGSの初日に実施される“グローバル・ゲーム・ビジネス・サミット”だが、いままでは海外のパブリッシャーやデベロッパーを招き、世界のゲーム事情を語ってもらうことが多かった。しかし今回は、近年世界でヒットし、多くのアワードを受賞するなど高く評価される日本産ゲームが続出していることを受けて、“日本発グローバル・ヒットタイトルに学ぶ、国産ゲームが世界で勝つ方法”をテーマに設定。世界的ヒットを成し遂げた国産ゲームの開発者たちが登壇し、あらためて世界で成功を収めた要因を分析する内容となった。
 登壇したクリエイターは、登場順に、『モンスターハンター:ワールド』プロデューサーの辻本良三氏(カプコン)、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』プロデューサーの齊藤陽介氏(スクウェア・エニックス)、『仁王』のディレクターの安田文彦氏(コーエーテクモゲームス)。モデレーターは、日経クロストレンド副編集長の降旗淳平氏が務めた。

『モンスターハンター:ワールド』プロデューサー
辻本良三氏(カプコン)

『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』プロデューサー
齊藤陽介氏(スクウェア・エニックス)

『仁王』ディレクター
安田文彦氏(コーエーテクモゲームス)

『MH:W』は日本で29%、海外で71%! 驚異的成功の要因は?

 まずは開発者3人が順番に登壇し、それぞれの作品が成功を収めるまでの過程を、開発とプロモーションの両面から解説していった。

 最初に登場したのは『モンスターハンター:ワールド』(以下、『MH:W』)プロデューサー辻本氏だ。『MH:W』では、企画の当初から、“世界で戦えるタイトル”というコンセプトがあったと語る辻本氏だが、世界水準のものづくりをする大前提として、「ユーザーの本能的な感覚は全世界同じだ」という観点があったという。「それを伝える方法は国ごとにあったやりかたがあるが、ワクワクする感覚や、怖い、気持ちいいといった本能的な感覚は、世界各国共通だというコンセプトがありました」(辻本氏)。

 では、その国ごとにあったやりかたとは? いままでの『モンスターハンター』シリーズでは、たとえば日本版をそのままローカライズした『モンスターハンターポータブル 2nd G』では、日本が86%、海外は14%の販売比率だった。それがチュートリアルを強化し、オンラインマルチプレイも提供した『モンスターハンター4G』では、日本が70%、海外が30%にまで改善された。

 そうした海外に適した届けかたという面で、今回『MH:W』では、全面的にワールドワイドのニーズに対応していった。つまり、国内外から上がっていた据え置き機への要望や、AAA水準のボリュームとクオリティー、といった要素だ。また、世界を意識するのであれば、“全世界同日発売”、“ワールドワイドマッチング”、“12言語へのローカライズ”といったポイントも外せない。

 いままでにないチャレンジをする以上、当然開発には大きな困難が伴う。それを成し遂げるためには、いくつかのポイントがあった、と辻本氏。まず“人”の面。最大200名規模のプロジェクトを効率的に運用するため、本作ではシリーズで初めてディレクターをふたり体制に。さらにゲーム内の要素ごとに開発メンバーたちをユニット化して開発を進め、定期的に各ユニットが何をしているか発表会を行って情報共有をする、といったスタイルを採ったのだそうだ。そして開発環境については、市販のゲームエンジンではなく、自社エンジンをベースにカスタマイズする手法を採ったことも、成功の要因だったという。
 またシビアな問題だが、そうした妥協のないもの作りのためには、相応のコストが必要になる。当然のこととしてコストダウンの努力はしつつも、前に進むために必要なチャレンジだとして、必要なコストをかけるリスクを取ることを選択。そのためには会社全体の協力を得ることが不可欠なため、定期的に成果物を提出し、会社の理解を勝ち取ることにも心を配ったのだそうだ。

 そしてプロモーションについては、開発者たちも“伝える”ことを意識することが大事だった、と辻本氏は語る。開発スケジュールを立てる際に、プロモーションのスケジュールも合わせて考えることで、たとえば体験版のリリースなども、適切なタイミングで、開発側も予定通りに対応することが可能になった。
 そのプロモーション計画もグローバルを強く意識し、E3やTGS、PGWなど世界各地のゲームイベントを起点に新情報を出していくことに。また、それらのイベントではなるべくプレイアブル出展し、開発メンバーを派遣することを心がけたそうだ。それは、反響をフィードバックすることはもちろんだが、ユーザーの盛り上がりや現地販社スタッフのがんばりを実際に見ることで、開発者自身のモチベーションアップにつながる効果もあったからだという。
 もちろん、そうしたイベントや、全三回実施したベータテストの結果、さらには欧米で実施したフォーカステストなどを通じて、作品を研ぎ澄ましていったことも、成功の要因として外せないポイントだ。

 結果として『MH:W』の販売比率は、日本で29%、海外で71%に。そしてシリーズ最高の1000万本出荷を達成する、未曾有の大成功を成し遂げたのだ。

前作で“及第点”の要素を“合格点”に押し上げた『ニーア オートマタ』

 続いて登壇したのは、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』(以下、『ニーア オートマタ』)プロデューサーの齊藤氏。

 国内外で大ヒットとなった『ニーア オートマタ』は、齊藤氏の説明によると、グローバルで累計出荷・ダウンロード販売本数の合計が300万本を突破(2018年6月6日現在の数字)するとともに、関連音楽商品の累計出荷は20万枚(DLふくまず)、関連書籍の累計発行部数20万部(国内)を超える人気を誇る。

 『ニーア オートマタ』をこれだけのヒットに導いた齊藤氏だが、講演冒頭でいきなり「マーケティングにおける戦略はない」と断言。その真意は後述……としつつ、やはり何もしていないわけではない、と『ニーア オートマタ』での施策を解説してくれた。

 まず開発にあたっては、前作『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』の反省から始めたという齊藤氏。同作においてとくに高く評価されたのは、“ヨコオタロウ氏の考える世界観・物語・キャラクター”と、“岡部啓一氏をはじめとするMONACAスタッフが作曲する音楽”だったと語る。齊藤氏いわく、ゲームの売上は「そこそこ」だったが、音楽CDはとても多く売れたのだそうだ。
 一方で、“及第点”レベルで、まだまだ伸ばせると考えたのは、“アートワーク、おもにキャラクター”と、“アクションゲームとしての完成度”。齊藤氏の分析では、前者は、新規タイトルということであえて認知度の低いデザイナーを起用し、新しい世界観を構築することはできたが、世界市場という点では、及第点止まりだった。後者も、多くの時間を割いて操作性の向上に努めたものの、マルチプラットフォームの対応に時間を要したこともあり、まだまだ伸ばせる余地を残したものになっていた。
 そこで齊藤氏は、『ニーア オートマタ』では、それらの要素を“合格点”に引き上げることを考える。まずキャラクターデザイナーには、著名デザイナーの吉田明彦氏を起用。そしてアクションゲームでは世界屈指の技術と知名度を誇るプラチナゲームズに開発を委託することで、世界中のメディアやユーザーの注目を集め、高い評価を得ることに成功した。

 齊藤氏は、こうした“決してダメだったわけではないが、結果的に及第点だった”部分を、合格点に引き上げることに尽力するやりかたは、続編だからこそできたことではあるものの、「何かひとつが秀でていたわけではなく、全体のバランスが取れた結果の成功だと考えています」(齊藤氏)と、高水準でバランスのいい作品作りに有効だったと語った。

 またプロモーション施策については、「きっちり段取りは踏んだが、とくに目新しいプロモーションをした記憶はない」と齊藤氏。そんな中で効果的だったのは、“開発者を前面に出した告知”と、“体験版のリリース”だったと振り返る。とくにヨコオタロウ氏には、開発と並行して、プロモーションにも多大な協力をしてもらったと語る。体験版については、プラチナゲームズによって優れた操作性のアクションを作ったものの、口頭でのプレゼンで伝えるのは難しい。その点で、発売の3ヵ月前に体験版を配信したことは、売上に大きく貢献したのではないかと分析した。
 さらに発売後にも、ゲーム実況の制限撤廃、出演声優を起用したネタバレ座談会番組の配信などのプロモーション施策を実施。とくにネタバレについては難しいところだが、ユーザーがネタバレに配慮してSNSなどで話題にすることを躊躇してしまい、口コミが広がりにくくなることを懸念して、という意味合いもあったのだそうだ。公式がみずから一定範囲のネタバレトークを配信することで、ユーザーが「ここまでは話していいんだな」と安心して話題にできるようになり、SNSなどでの拡散を促すことができる……というわけだ。
 そのほか、関連グッズや、楽曲のコンサート、舞台公演なども展開され、いずれも好評を博している。齊藤氏は、こうした継続したプロモーションが、ファン層の拡大や、売り伸ばしにつながっていると説明した。

 こうして『ニーア オートマタ』の成功を振り返ったうえで、改めて齊藤氏は、「いままでの内容をトレースしても成功できるかはわからない」と語る。いまやゲーム開発は数年間かかることが当たり前で、数年後の市場を予測して開発することが成功につながる、とは断言しづらい。そんな中で、じつはその数年の開発期間を、開発者当人たちがテンションをキープしつつ、楽しく有意義にできるかが重要なのではないか、と齊藤氏。楽しいものを、より楽しくしようとすればするほど、開発はキツくなる。でもそれをわかったうえで、それでもできる限り楽しい現場にしようとするべきだ、と齊藤氏は力説した。
 また最後に補足して、個人的な考えだとしつつ、やはりアイデアには旬があるものだ、と齊藤氏。いい物を作ろうとすると再現がなくなりがちだが、「プロモーション期間も含めたベストな時期でのリリースは重要だと思います」と語った。

大胆な体験版施策が奏功。“仁王先輩”のストーリーも後押し

 最後に登壇したのは、『仁王』ディレクターで、現在開発中の続編『仁王2』ではプロデューサーを務める安田文彦氏。安田氏は、本作がグローバルで200万本以上を販売するヒット作になった要因として、海外の主要メディアから非常に高い評価を受け、それが追い風になったことが大きいと語る。では、なぜ高評価を得ることができたのか? そこで重要な役割を果たしたのが、体験版の施策だったと安田氏は語る。

仁王』における体験版施策はかなり特殊だ。一般的な体験版と言えば、完成したゲームの一部を切り出し、発売直前に遊んでもらう、といったものだ。『仁王』では、そうした従来型の体験版も“最終体験版”として配信しているが、それ以外にも、発売10ヵ月前に“アルファ体験版”を、発売4ヵ月前に“ベータ体験版”を配信している。これはユーザーの意見を取り入れて改善するという目的があってのことだが、同時に、ユーザーが「俺たちの出した意見を取り入れてくれた」と感じることで、応援する気持ちを持ってくれることにもつながったという。また、そうした取り組みはグローバルで大きな話題となり、プロモーションの観点でも効果が高かったと安田氏は分析する。また、そうして世界で話題となったことで、プラットフォーマーのソニー・インタラクティブエンタテインメントとパートナーシップを結び、大規模なプロモーション展開をしてもらうことにもつながり、いい流れを生み出すことができたのだそうだ。

 また安田氏は、これはあくまで個人的な分析だとしつつ、“『仁王』にはストーリーがあった”というユニークな考えも披露してくれた。
 というのは、『仁王』は2005年にタイトルが発表されたものの、その後動きがなく、発売までに12年がかかったという希有な作品だ。ネット界隈では、“仁王先輩”、“なかなか卒業できない”などとネタ的に扱われてきた経緯もあった。しかしそんな“ネタゲー”だと思っていたタイトルが、発売前後に世界的高評価を得たことで、「これ意外におもしろそう!」、「じつは本気で作っていたんだな」などと、いい意味でユーザーの予想を裏切ることになる。「それがひとつのストーリーになったことが大きかったのではないかと思います」(安田氏)。
 また、本作を手がけたコーエーテクモゲームス内の開発チーム“Team NINJA”は、『ニンジャガイデン』などの作品で長らく世界的に評価され続けてきたが、近年では少し存在感が薄れてきた感もあった。そんな中で『仁王』が大きな成功を収めたことで、世界のメディアに“Team NINJAのカムバックストーリー”として取り上げてもらえることもあったのだという。