Nintendo Switch用RPG『ゼノブレイド2』の追加ストーリーとなる『黄金の国イーラ』を、本編を200時間以上遊んだライターがレビュー。『黄金の国イーラ』をエンディングまでプレイしたうえでの評価と感想とは。
好きな女の子の元カレ、死ぬほど気になる
好きな女の子に“昔の男”の影を感じると、どうしようもなく情けない気分になって、半開きの口で「タハハ」と虚空を見つめるしかなくなるそこのあなた。奇遇ですね。私もです。
タバコを吸い始めたきっかけとか、明らかに趣味じゃないドクターマーチンの出どころとか、やたら詳しい横浜のデートスポット事情とか。元カレが残した小さな爪痕を目ざとく見つけては、「そこも含めて好きなんだから」と自分に言い聞かせ、でも内心は穏やかじゃない。
だからといって「それって誰の影響なの?」なんて尋ねることもできない。卑屈なプライドが邪魔をするし、何より聞かれた彼女はどう思うだろうか。大切な思い出に土足で踏み込んで、傷つけてしまうのが怖い。
そんなわけで、『ゼノブレイド2』をプレイ中も「アデルって誰? ヒカリとの関係や年収は? 亡国の英雄ってどういう意味?」という疑問を飲み込んでいた私。しかし、本編ではついに最後まで詳細が明かされることはなく、根拠に乏しい推測を巡らせることしか許されなかった。
ところが、新たに配信される追加ストーリー『黄金の国イーラ』では、本編のおよそ500年前、すなわちアデルとヒカリたちの活躍が描かれるというではないか。
これで真実がはっきりする。好きな子の昔の日記を盗み読むような背徳感。追加ストーリーとしては最高の舞台設定だ。本当にありがとうございます。五体投地の姿勢でプレイできるのもNintendo Switchの利点ですね。
アデルって誰? ヒカリとの関係は? どんな仲間がいたの?
結論から言えば、アデルは想像していたようなミステリアスな二枚目ではなく、快活で面倒見のいい“頼れる兄貴”然とした男だった。ヒカリとのやりとりも兄と妹、あるいは姉と弟のような感じで、見ていて微笑ましい。“昔の男”と呼ぶには、あまりにカラっと乾いた関係性。もやもやしていたのが馬鹿らしくなってしまった。
しっかりと現実を見据えて行動し、さらには仲間への気遣いも忘れない”大人”の魅力と、“少年”のようなまっすぐで気持ちのいい性格を兼ね備えているアデル。欠点といえば、辛いものを食べるとお腹壊しちゃうことくらい。かわいい。欠点になってない。
そういえば『ゼノブレイド2』本編の主人公であるレックスも、伝承の楽園を夢見る16歳の“少年”でありながら、稼ぎ頭として村を支える立派な“大人”の考え方も持ち合わせていた。彼がさんざん「アデルに似ている」と言われていた背景も、『黄金の国イーラ』をプレイすることですとんと腑に落ちるはずだ。
ヒカリのほうはというと、目覚めて間も無いということもあり、本編以上に尖り散らかしている。素直になれずに仲間たちと衝突することもしばしば。子供相手のマジ喧嘩なども披露してくれる。
さて、『黄金の国イーラ』の骨子となるのは、“メツ”を倒す使命を負ったアデルとヒカリの戦いである。だが、その英雄譚を語るのは彼ら自身ではない。物語で主人公の役割を与えられているのは、シンとラウラだ。
シンといえば、レックスの前に幾度となく立ちはだかったライバルキャラクター。
本編はシリアス一辺倒だったシンだが、特技の料理を褒められてまんざらでもなかったり、クエストで必要な食べ物を大量生産するはめになったり、突然の料理対決にノリノリだったり、コミカルな顔をたくさん見せてくれる。もし今回の物語で彼を初めて知ったなら「流浪の覆面料理人ですも!」みたいに紹介されても信じた気がする。
そんなシンが大切に想っている“ラウラ”とはどのような女性なのか。実際に彼女の物語を追体験することで、500年後のシンの動機にますます深みが増すだろう。
最初は「なぜこのふたりが主人公?」と疑問に思ったりもしたのだが、考えてみれば至極当然。『ゼノブレイド2』がボーイ・ミーツ・ガールをテーマのひとつとするのであれば、スピンオフの主人公もシンとラウラにしかなり得ないのだ。
ところで、好きな女の子に“昔の男”の影を感じると、どうしようもなく情けない気分になって、半開きの口で「タハハ」と虚空を見つめるしかなかった私だが、本作をプレイして少しだけ変われたことがある。
どう変わったかまで書いてしまうとネタバレになるので詳細は伏せるが、永遠を生きるブレイドと定命の人間という設定は、こうした葛藤をことさらに強調している。ラウラが過去のシンとどう向き合い、未来のシンにどんな言葉を託すのか。恋愛ヘタレ男子たちは(もちろんヘタレ女子も)ぜひ着目してほしい。
入門編にもオススメしたい! 魅力が凝縮されたシンプル&コンパクトな『ゼノブレイド2』
さて、ここからは刷新されたシステムを紹介していく。
特徴的なのは戦闘だが、通常攻撃でゲージを貯めてアーツ(技)を使い、アーツで溜まったゲージを消費して必殺技を放つという基本の流れは変わらない。大きく異なるのは、以下の2点だ。
・パーティーメンバーが固定されている
・ドライバーとブレイド間で前衛/後衛を切り替えて戦う
まずは前者のパーティー固定について。『黄金の国イーラ』ではラウラ、アデル、ユーゴという3人のドライバーに対し、それぞれふたりずつの固定ブレイドが同調しており、最終的には合計9人のパーティーで行動することになる。
これによって、アタッカー兼ヒーラーのラウラチーム、純アタッカーのアデルチーム、タンクのユーゴチームという役割が明確になっているのが特長だ。
さて、一見すると攻撃・回復・防御のバランスが取れたパーティー構成に見えるが、じつは回復についてはかなり手数が足りていない。ヒーラーを担うラウラチームだが、回復技を使えるのはカスミひとりだけだからだ。
そこで重要になってくるのが、前衛/後衛の切り替えである。
『黄金の国イーラ』の時代には、ドライバー主体の戦闘がまだ確立されておらず、ブレイドも積極的に前衛に出て戦うことになる。ゲーム的にいうなら、操作キャラクターの切り替えができるのだ。
前衛と後衛を切り替えたタイミングでHPが大きく回復するので、このシステムをうまく活用しながら立ち回るのが、強敵と戦ううえでの基本戦術となる。
2人のブレイドを切り替える、「ブレイドスイッチ」。
ブレイドが前衛の時にはアタッカーを切り替えられるし、後衛の時には使ってくれるサポートアーツが変わりますも!
「アタッカースイッチ」と組み合わせて、ぐるぐる回していくも!… https://t.co/JYXsowrxzB
— ゼノブレイド2 (@XenobladeJP)
2018-09-03 16:03:08
パーティーが固定され、育成や編成がシンプルになったぶん、立ち回りの面で頭を使う要素が増えている。絶妙な調整だと思う。
また、アタッカー・ヒーラー・タンクという役割分担が重要な『ゼノブレイド2』において、基本に忠実なパーティーを最初から使えるのはうれしい(本編ではランダム要素の都合で序盤から理想のパーティーを作れない場合があったので)。
本編を持っていなくても『黄金の国イーラ』が遊べるパッケージ版も発売されるので、シリーズに初めて触れる方への入門編としてもオススメしたい。布教用にもどうぞ。
戦闘以外の新要素“ヒトノワ”にも触れておこう。
ヒトノワとは、シンとラウラが人々と築いた信頼のこと。サブクエストを達成することで増えていき、しだいに家紋のような美しい文様を描き出す。
要するにクエストの達成率を視覚化したシステムなのだが、私がすばらしいと感じたのはその意味づけだ。
「ヒトノワの広がりはラウラやシン達がどう生きたかの証です」
こんなにもエモいチュートリアル文をかつて見たことがありますか。開始15分でちょっと泣きそうになった。
というわけで、じっくり世界を探索しながら、人々との交流も楽しんでみて欲しい。『黄金の国イーラ』には大きくふたつのマップが存在するが、どちらもロケーションが豊富で、絶景スポットを探す隠し要素も健在だ。シリーズ恒例の名前付きゴリラもあなたとの遭遇を待ちわびている。
エンディングまでにかかった時間は20時間程度と、ちょっとしたRPG並のボリューム。イージーモードも搭載されているので、物語をサクサク追いたい方にもやさしい。
ストーリー、キャラクター、戦闘、探索。『ゼノブレイド2』の魅力をどこに感じるかはプレイヤーによってそれぞれだと思うが、『黄金の国イーラ』はその全てをぎゅっとコンパクトに凝縮している。
相変わらずUIは痒いところに手が届かないし、ステレオタイプな表現が気になることもあるのだけど、そうした不満点も本編と比較すればコンパクトになっていると感じた。不満を魅力が十分に上回る。『ゼノブレイド2』に心動かされたプレイヤーなら、きっと楽しめるはずだ。
さて、本編にも穏やかじゃないアップデートが実施されたようなので、私はそろそろ500年後に戻ろうと思う。皆さんと入れ替わりになってしまい残念だが、本編では語られなかったもうひとつの英雄譚、もうひとつのボーイ・ミーツ・ガールを、ぜひ味わっていただきたい。