この20年で多様な進化を遂げたゲームAI

 講演者は、三宅陽一郎氏(スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー)、森川幸人氏(モリカトロン)、斎藤由多加氏(シーマン人工知能研究所 所長)、長谷洋平氏(バンダイナムコスタジオ)の4名。セッションは前半では講演者の自己紹介とともにこの20年を振り返り、後半はこれからの展望を語るという構成で行われた。

 まず進行役の三宅氏が、簡単に自分の仕事を紹介したうえで、デジタルゲームAIの歴史を振り返った。同氏はもともと大学で人工知能の研究をしていて、2004年からゲーム業界に入り、開発や執筆などに従事。最近では、海外の文献にも投稿を行っているという。

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司会進行役を務めてセッションを仕切った三宅氏。
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 三宅氏によるとゲームAIは、黎明期、知識がたまっていく時期、ゲームエンジンに組み込まれる時期、大規模開発に応用される時期、学習・進化アルゴリズムにおけるAIという時期、いろいろな段階を経て進化。そのなかで、いろいろな研究コミュニティーも誕生してきた流れがあるという。
 最近の傾向では、2008年にプロシージャル技術が登場し、2010年の大型ゲームAIの完成をひとつの分岐点として、さらに多様に発展。ゲーム関連のカンファレンスで、ゲームAIのサミットが開かれる機会も多くなってきているし、研究者が交流するサイトもいろいろと存在する。

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 続けて三宅氏は、自分とほかの講演者が出会った時期などの接点を紹介。斎藤由多加氏との出会いは、意外なことに2017年と直近だ。現在では、雑誌のAI特集でインタビューしたり、寄稿してもらったりすることもあり、そいうきっかけで今回のセッションも、この顔ぶれになったそうだ。

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多彩なヒット作でゲームAIをゲームファンに知らしめた森川氏

 続いては、ほかの3名がそれぞれ、ゲームAIに携わってきた経歴を語った。まず最初は、森川幸人氏の番だ。森川氏はテレビ番組などでCGを作成しており、本格的にゲーム業界に関わるようになったのは、ちょうどプレイステーションが登場したころ。以降、ゲームAIを使ったゲームをいろいろと世に出してきた。
 「企画が通ったので、そこからAIを本格的に勉強し初めて、ゲームを作ることになりました」と、当時を振り返る森川氏。最初に世に出した作品は、ニューラルネットワークを使った『がんばれ森川君2号』(1997年)だ。「その後はどっぷりAIにハマり、このAIを使えるゲームは何だろう? と、本末転倒な感じでした」(森川氏)。
 その後は1998年に『アストロノーカ』、2000年には『ここ掘れ!プッカ』をリリース。2003年に出した『くまうた』では、歌詞とメロディーの自動生成と音声合成を実現した。またゲームのほか、AIの入門書的な書籍も執筆している。

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古くからゲームAIに携わってきた森川氏。
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 『くまうた』以降はしばらくゲームAIからは遠ざかっていたとのことだが、2014年あたりから、ゲームAIについていろいろ声をかけてもらうことが増え、2017年にゲームAIに特化した会社、モリカトロンを設立。現状に至るというのが、森川氏の経歴だ。
 「ありがたいことに、いろいろなオファーをいただけています。その7~8割は、ソーシャルゲームの会社さんですね。予算やコスト管理の関係で、AIで少しでも作業を軽量化したいという方が多いです」(森川氏)。

あくまで会話にこだわった斎藤氏の『シーマン』

 続いては斎藤由多加氏が登壇。斎藤氏が初めて手掛けたゲームAIを使った作品は、1994年の『TOWER』。エレベーターのラッシュを管理しながら、ビルを経営していくシミュレーションゲームだ。当時は、ゲームAIというものをとくに強く意識してはいなかったものの、「条件の異なる住民たちがどう行動するのか? そういったAI的な部分にはとても興味があった」(斎藤氏)そうだ。
 つぎに手掛けた作品は、1999年にドリームキャストで出した『シーマン』だ。このタイトルについては、とあるイベントで都知事だった石原慎太郎氏が見て気に入り、そのつながりで皇太子殿下までがご覧になりたいという話になったが、立ち消えになった……というエピソードがあるという。
 「おそらく、側近の方がプレイしたんでしょうね。『シーマン』の人面魚は、プレイヤーをオマエ呼ばわりするんですよ(笑)。これに愕然として、話がなくなったのだと思います」(斎藤氏)。

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『シーマン』で大ブームを巻き起こした斎藤氏。
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 なお斎藤氏によると、『シーマン』がオマエと呼ぶ仕様にしたのは、それ以外に2人称があまりなかったからだそうだ。
 「現在のように合成発話が発達していれば、「森川君」と、ちゃんと名前を呼びかけるようにできたとは思いますけど。ちなみにボイスは、時間がなかったので、僕が自分で演じていました。会議室で録音してたので、ときどきパトカーの音に邪魔されるし(笑)、なんで東京はこんなにヘリコプターの音が多いんだろう? と思ったことを覚えています」(斎藤氏)。

 また開発中には、言葉の意味を感じるルール性として、大事なのは文字づらじゃなくメロディーだと気づいたという。「オマエ昨日、ひろ子とデートしたの?」というセリフも、“オマエ”、“昨日”、“ひろ子”のどれに節をつけて強調するかで、何がいちばん質問したい要素なのかが変わってくるわけだ。
 「たとえば“こうか”という言葉にしても、熟語ごとに意味は違いますよね。それが「こうかを歌ったよね、ふたりで」なら、“校歌”とわかる。日本語は難しいので、根本的なところに向き合って理解しない限り、AIもなかなか、ちゃんとした日本語をしゃべってくれないのではと感じています。そんな部分もあって、シーマン人工知能研究所を立ち上げました」(斎藤氏)。

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最先端の現場で経験を積みゲームAIを習得

 最後に経歴を語ってくれたのは、バンダイナムコゲームスの長谷洋平氏。同氏は2009年に入社し、『エースコンバット』シリーズや『鉄拳』シリーズのプログラムを担当。現在はAIプログラマーとして、最新技術のリサーチやゲームAIエンジンの開発などを行っている。

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今回の講演者のなかでは若手となる長谷氏。

 ゲームAIという部分では、長谷氏は『エースコンバット アサルト・ホライズン』(2011年)で、CPU機が戦況を把握して行動するAIや、プレイログの分析などを担当。続いて『鉄拳タッグトーナメント2』(2012年)、『鉄拳 レボリューション』(2013年)、『タイムクライシス5』(2015年)の開発に関わる中で、ゲームAIに対する理解を深めていった。

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 長谷氏がまず、手掛けたゲームAIの例として挙げてくれたのは、BDIアーキテクチャという人工知能を応用した、『タイムクライシス5』における開発エンジンと、パラメータのオートチューニングだ。
 「乗り物に乗った敵の動きをかなり正確に制御するため、アクセルやハンドルをAIでコントロールしなければいけませんでした。その調整を、AI自身にやってもらったという例になります」(長谷氏)。

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 2015年に発売した『LOST REAVERS』では、何度も同じステージをプレイすることになるので、飽きさせないために、プレイヤーの状況に応じて、AIが分析して敵の出現数や出現頻度をコントロールするシステムを構築。また2016年に展開したVRコンテンツ『アーガイル シフト』では、キャラクターの表現などを担当するなかで、キャラクターとのインタラクションをいろいろ検証したという。
 そして現在は、ゲームタイトルの開発はもちろん、技術研究も行っている長谷氏。「根っこのリサーチという部分から、製品にするまで、一貫して手掛けているという感じです」(長谷氏)。

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