そうそうたるメンバーが熱いトークを展開!

 2018年8月22日~24日の3日間、神奈川県・パシフィコ横浜にて開催されたCEDEC 2018。2日目となる23日には、“ゲームグラフィックス20年の進化とこれから”というテーマのセッションが行われた。その模様をお届けする。

 同セッションはCEDEC運営委員フェローである植原一充氏がモデレータで、ゲストとしてセガゲームスの厚孝氏、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの山田裕司氏、バンダイナムコスタジオの岩永欣仁氏が登壇。ゲームグラフィックスの20年を振り返り、その技術進化やトピック、今後の展望などを語るトークセッションだ。

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コナミデジタルエンタテインメント 技術開発部 部長である、モデレータを務めた植原氏。
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厚孝氏はセガゲームス コンシューマコンテンツ事業部 第1CSスタジオ アドバンスト・テクノロジー開発チーム チームマネージャー。ドリームキャストや初代Xbox等のタイトル開発を経験したのちプレイステーション3/4版『龍が如く』シリーズのライブラリ開発に携わる。
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山田裕司氏はソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ JAPANスタジオ プロダクトテクノロジー部 次長。『サルゲッチュ』シリーズのグラフィックスを担当したのち、研究開発部門に移り、グラフィックスを中心としたライブラリ、エンジンの開発に携わる。
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岩永欣仁氏はバンダイナムコスタジオ 技術統括本部 技術第1開発本部 グローバルストラテジ部 テクニカルリレーション課。『ソウルキャリバー』シリーズの開発に携わり、現在はNintendo Switchプロジェクトのグラフィック周りを担当。

 なおセッションでは事前に、来場者の属性をウェブでアンケート。ゲーム制作歴や担当分野がスクリーンで紹介された。ちなみにもっとも多かったのは、制作歴が“~5年”、担当分野が“3Dグラフィックス系以外のエンジニア”。またリアルタイムでコメントも投稿でき、その一覧がセッション中に流されるシーンもあった。

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次世代機と呼ばれたハードの初期の状況は?

 セッションでは冒頭、植原氏が、この20年の据え置きゲーム機の歴史と、プレイステーションシリーズを例にしたグラフィックパワーの進化を紹介。以降は、各ハードの時代ごとに分け、グラフィック技術についてのトークが展開された。

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 まず最初のトークテーマは、“プレイステーション/セガサターンを経てドリームキャスト/プレイステーション2/Xbox/ゲームキューブの時代”。まずはプレイステーションの1から2への変化という点について、山田氏に話が振られた。
 「PS1は3D描写については足りない部分がありましたが、PS2になって、やっと3Dのものが作れるようになった感じですね。プログラマーとしては、どう他社と違う絵を作ろうかと考えたりもして、楽しいハードだったと思います」(山田氏)。
 続けて厚氏が、「いまどきの3Dハードの原点は、ドリームキャストではなかったかと自負しているんですけどね。数値的には、PS2がギョッとするような数字だったし、勝てないと思う部分はありました。でも半透明などの機能もあり、当時としては使いやすいハードだったと思います」と、ドリームキャストに対しての思い出についてコメント。また岩永氏は、「『ソウルキャリバー』はもともと、プレイステーションと互換性のある業務用基板だったのですが、それをドリームキャストで家庭用にするということで、いろいろと作り直しました。そしてつぎはプレイステーション2ということで、さらに作り直しに。そんな中でプログラマーが全力でキレイなグラフィックを目指した、そういう時代だったと思います」と、『ソウルキャリバー』シリーズを通じて、いろいろなハードで開発に携わってきた経験を踏まえたうえで、開発体験を語ってくれた。

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 ここで植原氏が、投稿コメントをチェック。「PS2は最初ハードウェアのマニュアルだけしかなく」というコメントに注目し、山田氏にコメントを求めた。
 「確かに、いまでいうグラフィックスドライバーのコマンドが、本で渡されるんですね。それを見ながら覚えるわけですが、当時はその本をもらえるのが嬉しかったです」と答える山田氏。それを受け岩永氏も、「黒本という、辞書のように厚いマニュアルを読み込んでプログラムから自分で作るという、覚えでのあるハードだったと思います」と、重ねて語った。
 植原氏は続けて、「ドリームキャストは、絵作りや色味がほかのハードと違うような印象ですが?」と厚氏に質問。
 厚氏は、「ドリームキャストって、すごく出力が明るい機械なんですね。たとえば起動画面の灰色が、RGB出力でテレビでみると真っ白になるくらい。それで色が鮮やかなハードだなという印象を与えたのかもしれません」と、理由を解説してくれた。

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第2世代となり表現力はさらに向上!

 つぎのトークテーマは、“プレイステーション3/Xbox360/Wiiの時代”。ここでもさきほどと同様、まずは山田氏が、プレイステーション2から3になっての変化を振り返った。
 「ものすごい計算力を得たわけですが、それを何に使うかが難しかったですね。グラフィックに関しても、ピクセルシェーダが使えるようになってメモリも増えたし、作れる幅が広がったけど、逆に何を作ればいいのかという。大体のことはできるんですけど、そのディレクションがすごく必要になってきた時代だと思います」(山田氏)。

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 厚氏がこの世代の特徴として挙げたのは、シェーダという技術。
 「ちょっと前のXboxあたりから出てきた技術ですが、やはり自由度が全然違うんですね。固定機能を組み合わせて頑張って絵作りしていたのが、プログラムによりなんでもできるようになりました。とはいえ制限もあるわけで、現実的に使えるのはなんだろうと、模索した覚えがあります」と厚氏。また岩永氏は、「ひと世代前のゲームを遊ぶとと、解像度は細かくなったはずなのに違和感が出るんです。くっきりはっきりと映るため、絵作りも1段階上げなければいけない。そういう部分が出てきたと思います」と、世代交代についてのイメージを語った。

 植原氏がここで、「当時の海外タイトルで、スゴイと思ったタイトルは?」と質問し、各自が思い出のタイトルを答えた。まず厚氏が挙げたのは、ノーティドッグ社の一連の作品で、「ここまでやられちゃ困るな、という感覚で見ていた時期はありました」と当時を回想。同じく山田氏も、「かぶるんですけど、『アンチャーテッド』シリーズなどは、社内においても、ライバル視ではないのですが、インスピレーションを受けていましたね」と、ノーティドッグ社から受けた衝撃を語った。
 そして岩永氏は、「当時ではなく最近の話でいいですか?」と前置きをしたうえで、「『Horizon Zero Dawn(ホライゾン ゼロ・ドーン)』を見たときには、ムリ! って思いました(笑)」と、同作にかなりのショックを受けたよう。「でもなんとかやっていかなけりゃな、と思わされたタイトルでもありました」(岩永氏)。

 ここで再び、コメントチェックタイムに。植原氏がピックアップしたのは、半透明技術に関する投稿コメントだ。意見を振られた厚氏は、「セガは昔から、半透明は苦手だったんです。セガサターンでは使えなくてドリームキャストでは使えるようになりましたが、そのあたりはプレイステーションで鍛えられた皆さんとはノウハウの基本が違い、手間取った覚えがあります。永遠の課題になりつつありますね」と、半透明についての思いを語ってくれた。

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進化により画像表現はさらに細分化!

 最後のトークテーマは、“プレイステーション4/Xbox One/Wii U(Switch?)の時代”、つまり現状についてだ。植原氏はまず厚氏に、「プレイステーション3から4になり、どう思われました?」と、世代交代の印象を聞いた。
 厚氏は受けて、「PS3は自由度は高いけど、パフォーマンス的にきびしい部分もあり、みんなトリッキーなテクニックを駆使してがんばっていたと思います。それがPS4になり、素直に組んでも動く時代が来たのかな、と。本当の意味で、コンテンツ作りに集中できる時代になったのかなと思います」とコメント。また山田氏は、「グラフィックに関して言うと、PBR(フィジカルベースド・レンダリング)などが出てきて、それを突き詰めるのがひとつのトレンドなので開発としてはやりやすいのですが、物量がものすごくなってきたので、アセットを作って実機に落とすまでのフローを構築するのが難しくなってきたと感じています」と、進化した反面の苦労ものぞかせた。
 「いまはPC用ゲームと作りかたは同じなので、さばける物量が各ハードで違うだけです。なので元を1個作って、レベリングを変えて効率化を図っていくような時代がきちゃったな、という印象です」(岩永氏)。

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 グラフィックの表現力が高まったゆえ、どのメーカーも絵作りが似通ってきたという問題点もある。そこについて厚氏は、「とはいえ、フォトリアルが目指すべき到達点なんですよね」としたうえで、「そこからどんな方向に寄せるか、絵ができたあとにどう演出していくのかを考えるのが、ウチの方針です」と語る。
 この点について山田氏は、「どの絵もリアルになってくるなかで、どう差別化していくのか。コンテンツの力が重要になってくると思います」とコメント。同様に岩永氏も、「日本では、脳内で自分が考えたゲーム画面といいますか、マンガやアニメチックなものもあるわけで、リアリスティックな技巧を使いこなしたうえで独自のグラフィックを作らざるを得ないのかなと感じています」と、どこも同レベルの絵作りができるからこそ、独自の表現アイデアが重要になることをアピールした。

 そういった意味では、トゥーンシェイドやノンフォトもひとつの大きな可能性となる。そうした手法についての取り組みについてはどうなのか、植原氏が問いかけた。まず答えたのは山田氏だ。
 「ウチの場合ですと、『GRAVITY DAZE(グラビティデイズ)』あたりですかね。ノンフォトでも、フォトリアルの技術を活用して、新しい表現を作り出せる可能性はまだ十分あると思っています」と山田氏。続けて厚氏は、「ノンフォトと言っていいのかわかりませんが、かつて『ジェットセットラジオ』というゲームがありまして、まさにそれがトゥーンレンダリングの元祖なのではと思っています(笑)。でも昔と違うのは、いまは裏にキッチリとしたリアルな素材があるうえで、味付けとしてアニメ調にしたりできるんですね。なので、下地の知識が昔とは変わってきているとも感じています」と語った。

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つねに新技術が生まれる刺激あるジャンル

 3つの世代に分けて、ハードの変遷とともにグラフィックの進化を語ってきた同セッション。ラストはまとめとして、今後の展望についてのトークが交わされた。まず話題に上がった技術が、レイトレーシングだ。先日、NVIDIA社が同技術に対応したグラフィックボードを発表して注目を集めた。
 「NVIDIA社のRTXとかを見ていますと、ピンポイントでその技術を使うと、できなかった部分ができるようになるかもしれません。これから我々も研究しないとな、というところです」(厚氏)。
 「NVIDIA社の発表は驚きでした。レイトレーシングがゲームに入ってくることは、開発者としても楽しみです」(山田氏)。

 もうひとつ、エンジンについても話題となった。商用エンジンを使うか、自社エンジンを開発するのかの選択は、大きな問題だ。
 エンジンについて厚氏は、「ウチはまだ独自エンジンでがんばっているクチで、それは元プラットフォームベンダーだったという誇りもありますし、コアな部分を握られたくないという部分もあるんですよ。どこよりも先んじて何かをやろうとしたとき、外にコアを握られているとやりようがないので。そこは自分たちで押さえておきたいですね」と、ポリシーを明言。
 山田氏は「どのエンジンを選ぶかはタイトルしだいですが、技術力を高めるためにも、自社エンジンを作っていきたいと思っています」と、また岩永氏も「商用エンジンでできるのなら問題はなく、ダメならオリジナルエンジンを作る。それを作れる会社であるためには、自社エンジンがまったくない状態はまずいという感覚で、作っていかなければという状況にあります」と語り、いずれもが自社エンジンを持つことの重要性を強調した。

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 さまざまな話題が飛び交ったセッションも、ここでタイムアップ。最後に登壇者が、ゲーム業界を目指す若い人たちにメッセージを述べて幕となった。コメントを紹介してリポートを締めくくろう。

 「ゲームが2Dから3Dになったときに、作り手も世代交代があったと思うんですよ。今後、たとえばレイトレーシングのようなこれまでと違う概念が出ててきたときに、もう1回そんな波が来るのかなと感じています。そこで若い力と新しい考えを持った人が、世代交代できるチャンスなのかなと。いろいろ勉強して、よく知っている人たちが育ってくれると、私がラクできていいなと思っています(笑)」(厚氏)。

 「こうして20年を振り返ると、昔は数十ポリゴンを描いていたのが、いまは何十万ポリゴンをレンダリングと、オジサンとしては少し疲れてきた感じがありますね。最近はゲーム機と映画などの映像の境目がなくなってきていて、ものすごく最先端の技術が毎年開発されています。とても刺激の多いジャンルだと思いますので、どんどんこの世界に入ってきてもらえればうれしいです」(山田氏)。

 「お話を聞いて、覚えることがいっぱいでたいへんだなとも思うかもしれませんが、恐れずに学んで立ち向かってきてほしいです。ゲーム会社としても、レンダリングができる人はもう、引く手あまただと思いますので。ぜひいろいろな会社で、すばらしいグラフィックを作っていってほしいなと思います」(岩永氏)。

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ゲームグラフィックスの未来は、きっと若い世代が拓いていく。