2018年8月22日~24日、パシフィコ横浜で開催される“CEDEC 2018”。ここでは、初日となる22日に行われたセッション“明快で軽快なUI Nintendo Switch本体機能の制作事例”の模様をリポートする。

Nintendo Switchが目指した“明快で軽快なUI”開発とは?

 2018年8月22日~24日、パシフィコ横浜で開催される“CEDEC 2018”。初日となる22日に行われたセッション“明快で軽快なUI Nintendo Switch本体機能の制作事例”の模様をリポートする。
 2017年3月の発売以降、家庭用ゲーム機において好調な売り上げを続け、ファミ通調べではまもなく累計販売台数が500万台を突破しようかという勢いのNintendo Siwtch(以下、ニンテンドースイッチ)に関する講演とあって、セッションが行われたメインホールには多くの受講者が集まった。
 登壇したのは、任天堂の企画制作部に所属する小野純和氏、瀧口貴悠氏、大西壮登氏の3名。ニンテンドースイッチの本体機能(※ゲーム機本体に、最初から内蔵されているソフトウェアを指す)の制作においては、小野氏がプログラムディレクション、瀧口氏がデザインディレクション、大西氏がサウンドディレクションを担当している。今回のセッションでは、ニンテンドースイッチの目指した本体機能のありかたについて、3人がそれぞれの制作事例を紹介してくれた。

小野純和氏(任天堂 企画制作部 プログラマー)
瀧口貴悠氏(任天堂 企画制作部 UI/UXデザイナー)
大西壮登氏(任天堂 企画制作部 サウンドプログラマー)
小野氏は、「こうした社外での発表は初めてで緊張するかと思いきや、会場の規模が大きすぎて逆にリラックスしています」と会場を笑わせた。

 前述したように、本体機能とはゲーム機本体に最初から内蔵されているソフトウェアのこと。任天堂の家庭用ゲーム機で初めて実装されたのは、2001年に発売された ニンテンドー ゲームキューブで、当時はセーブデータ管理などだった。以降、ニンテンドーDS、Wii、ニンテンドー3DS、WII Uとハードが進化するにつれ、さまざまなシステムやサービスが追加されていった。こうした多機能化に加え、任天堂のゲーム機以外でも多機能でゲームを遊べるデバイスがつぎつぎに出現。そうした状況の中、ニンテンドースイッチも同じ多機能化を目指すことの是非から考え直したそうだ。その結果、たどり着いた答えが“ゲーム機なので、ゲームで遊ぶに特化しよう”と、原点回帰したじつにシンプルなもの。「これがニンテンドースイッチに込められた思いです」と小野氏。つくるものを厳選し魅力を凝縮するとともに、ストレスを感じさせないことを目指した。その実現のためのコンセプトが以下の2点。

圧倒的にわかりやすく、明快にする
圧倒的にはやく、軽快にする

“明快にする”ポイントは簡単“そう”にすること

 瀧口氏が続ける。本体機能を“明快にする”にあたり、UI(ユーザーインターフェース)で意識したことは、“簡単そうをつくる”、そして“迷わないルール”。ゲームやサービス、システムの導線となり、さまざまなユーザーが使うことになるHOME画面について、歴代ハードでもニュートラルで安心感のある見た目を採用しているが、その根本はニンテンドースイッチも同様。しかし、メリハリをつけることで、まずゲームに目が行くようなデザインになっている。「ゲームで遊ぶために、ゲームを主役にしたデザイン」と瀧口氏は語る。同時に、多機能ではあるものの、“簡単そう”と思わせるように、(1)混ぜない、(2)サイズと密度、(3)上下の意識、(4)少なく見せる、という工夫が施されているのだ。
 これらをまとめると、重要なことは“整頓とメリハリ”となる。

(1)ゲームとサービス/システムを混ぜない。
(2)サイズに差をつけ、見た目の密度を上げる。
(3)優先度の高いものを上に配置する。
(4)レイヤーに分けたり、区切りを付けたりする。

 続いては“迷わないルール”についての制作事例。ここでいうルールとは、UIの実装ルールのこと。本体機能を説明するためには、なんと約400もの画面の実装が必要だったという。それぞれが重要で、また異なる役割を持つが、見た目や使い勝手は同じほうが使いやすい。そのため、さまざまなルールを決める必要があるのだそうだ。
 UIの制作にあたり、開発者が迷えば当然ユーザーも迷うという考えかたのもと、「“迷い”を見逃さないように気を付けた」と瀧口氏。迷いやすい例として、カーソルの動きかたのルール、効果音のルールを挙げてくれた。
 カーソルの動きでは、デザイン上は、一列に並べる、グリッドに並べる、種類をわける、の3つ。プログラム上は、幅によるサーチ、距離によるサーチ、左上優先というボタン配置ルールが定義され、挙動に違和感のないカーソルの動きを実現した。

 大西氏が解説してくれた効果音のルールは、“音で状況をわかりやすく伝える”というもの。最終的に用意された効果音は、なんと約300種類にも及ぶそうだ。効果音の設定例として、案内したいときに鳴らす音、注意を促すときに鳴らす音、確認したいときに鳴らす音があげられる。しかし、その3種類では判断に迷う状況が出ることから、デザイン側の瀧口氏は、メッセージの出現タイプを正常系、エラー系、警告系の3種類に限定。呼応する形で効果音もその3タイプに設定し、見た目と効果音を揃える新たなルールになったとのこと。
 メッセージのダイアログ出現時以外も、本体機能全体で見た目と効果音を揃えるというルールを徹底し、ユーザーに伝えたいことは視覚と聴覚の両面で伝えることを重視したそうだ。

デザイン側が効果音に合わせたケースもあったそうだ。

 カーソルの挙動や効果音は、それぞれ別のセクションが作っている。その際、セクションごとのルールがあると不整合が生じることがあるので、ルールはセクションをまたいだチーム全員で磨いたほうが効果的という結論に達した。

“軽快にする”ための原点はファミコン?

 本体機能制作のもうひとつのポイント、“軽快にする”。本体機能を作る際に「ファミコンのようにならへんの?」とよく言われるそうだ。これは、電源を入れるとすぐにゲームが遊べたファミコンは、まさに軽快な本体機能そのものだったというわけだ。そこで、そのファミコンの原体験に迫るべく、UIにかかる時間で削れるものはなんでも削ることに!

左は、本題に入る前に小野氏が見せたスライド。この写真のようにゲームを並べて保管することは、本体機能の考えかたに近いと小野氏は言う。

 瀧口氏によると、クルマが停止するまでの距離はUIと時間の関係と類似しているそうだ。クルマが停止するには、危険を察知→ブレーキを踏む→減速して停止……という工程になるが、それがそのままUIの軽快さに当てはまるのだとか。つまり、ユーザーの理解→ユーザーの操作→システムの処理という工程になる。
 小野氏は、システムの処理時間は、ユーザーにとって待ち時間でしかないため、この時間を極限まで、0秒を目指して削減していった。しかし、ただ速いだけではユーザーには何が起こったのかが伝わりにくいため、処理や表現のバランスを取り、結果ボタンを押してから処理の終了までを約0.2秒という速さにした。

 この処理の前提条件には、“ユーザーへの信頼と端的な操作”があるとのこと。とかく、誤操作を防止するため、たとえば「データを消去しますか?」という処理に対し、最初に「いいえ」にカーソルが合うのが一般的な考えかた。しかしニンテンドースイッチでは、ユーザーの“終了したい”に対し、本体側も「はい!終了します」と作動する。「本当に終了しますか」とメッセージを出すことは、ユーザーを信頼していない疑問形というわけなのだ。
 ただ、この“信頼と端的”では、誤操作の可能性を排除しきれない。それでニンテンドースイッチが取った方法が“わかりやすいUI”ということになる。本体機能には多くの文章が必要となるが、その際いわゆる“ななめ読み”でわかりやすくなるような工夫が取られているそうだ。ナビゲーション部分にアイコンを設置していないのは、アイコンを置くとどうしてもまずアイコンに目が行ってしまうため。文章の左上にメインの“ソフトを消去します”→右下に“消去する”と配置するだけで、確かにわかりやすいし、誤作動も起こりにくい配慮だと感じた。最初と終わりを読めば、内容がほとんど誤解なく伝わる工夫と言えるだろう。
 小野氏は、ユーザーがUIにかける時間は、理解+操作+処理の合計時間だが、どれかひとつを削っただけでは軽快にできないという考えかたをもっとも大事にした、と語る。

これらの画面を見れば一目瞭然だろう。左の直線的でわかりやすい表現に比べ、右の画面は丁寧ではあるが、全文を読まないとその内容が伝わりづらいという欠点が。

 また、興味深い施策として、“ロムフェス”なるイベントを開催しているそうだ。“ロムフェス”は、制作に携わるチーム全体が、セクションを超えて参加し、全員でロムを触って意見を言い合うイベント。いい点、悪い点を上げることで、現状をチーム全体で共有でき、課題や問題点をつぎの“ロムフェス”開催までに解決することをくり返し、最終的に成果物がよりよくなっていったそうだ。

 ここまで、“明快にする”と“軽快にする”の制作事例が示された。明快=わかりやすくする、軽快=速くすることに加え、両方に共通する文字の“快”へのこだわりが紹介された。これまでの制作事例はユーザーの不快を減らすための追及。しかし、同時に心地よさや楽しさといった“快”を増やすことも、商品の魅力を高めるために必要なこと。
 “快”を増やす制作事例として挙げられたのは、サウンドデザインについて。ニンテンドースイッチでは、HOMEメニュー画面でBGMが流れないことにお気づきだろうか。これは、“ゲームで遊ぶ”に特化していることが根底にあり、UIデザインを工夫したことと同様に、サウンド面でもBGMによる演出を避けたことによる。逆にニンテンドースイッチでは、操作音の心地よさの表現にこだわった。具体的には、移動・決定・遷移の3つで、それらがテンポよく鳴ることでつながりができ、それが心地よさにつながっているわけだ。

 快が多くても不快が多ければストレスになり、不快が少なくても、快がなければ娯楽商品としての魅力がないことになる。限られた開発期間において、どちらを大切にするか。迷ったときにはどうするのか、その考えかたが最後に示された。それは……
“さわりたい”をつくる
 コントローラを持ったときに、“さわりたい”と感じることができれば、快と不快のバランスが取れている状態なのだそうだ。

 最後に小野氏から、ニンテンドースイッチの本体機能を制作してきて得られたことが紹介された。明快で軽快というコンセプト自体は決して特別なものではなく、どんなプロジェクトでも目指すもの。しかし、徹底的に磨き、突きつけることができれば特徴にすることができる。→“あたりまえ”も磨けば特徴になる
 いままでも“あたりまえ”を意識して作ってきたが、どうして今回は手応えのあるレベルにまで磨くことができたのか。小野氏はその要因を、職種をまたいだチーム全員で同じことを体験して、共通の認識を持てたことだと分析した。「チームの方向が揃っていないと感じたら、コストを掛けてでもチーム全員が同じ体験をしてみるべき」とは小野氏の弁。→全員で体験して、共通の認識へ

 こうしてセッションは終了したが、最後に動画が公開された。ある親子がニンテンドースイッチを初めて触ったときの模様だったのだが、子どもが本体をいじっているうちにひょんなことから本体の言語設定がロシア語に変わってしまったというもの(笑)。磨きに磨き抜いたはずの本体設定だったが、ユーザーの予想外の操作によって思いもよらないことが起こることもある。やっぱりゲーム開発の奥は深い! 小野氏は「開発は苦しくもあり、楽しい。だからこそ続けていけるのだと思う」と締めくくった。