『ICEY』や『Muse Dash』などのパブリッシャー、X.D. Networkのキーパーソンに聞く、「とにかくいいゲームを提供したい」【ChinaJoy 2018】

『ICEY』や『Muse Dash』などのパブリッシャーとして日本でもおなじみのX.D. Network。インディーゲームの担当者にお話を聞いた。

 2018年8月3日~6日に行われた中国最大規模のエンターテインメントの祭典ChinaJoy 2018で、約1年ぶりに中国を訪れた記者。せっかく中国に行くんだったら……ということで、訪問してみたいと思っていたのが、『ICEY』などのパブリッシャーとしておなじみのX.D. Network。メタ視点が魅力の本作を知ったときは、「中国でもこういうゲームが出るようになったんだ」と驚かされたものだが、どんな方たちが関わっているのか、知りたくなってしまうのも人情というものだろう。

スタイリッシュアクション『ICEY』インプレッション、これはもはや下野紘を困らせるゲーム!? メタ視点ナレーションがおもしろすぎる

『ICEY』は美少女のアンドロイド“ICEY(アイシー)”を操って、立ちはだかる敵マシンを倒しながら“ユダ”に支配された世界を救うのが目的の横スクロールアクションゲーム。PCやスマートフォンなどではすでに配信済みだったが、ついにNintendo Switchでも2018年5月31日から配信開始となった。そのインプレをお届けする。

 そこでパブリッシュ営業担当(日本)の張誠氏(ニックネームはMakoto)にアポを取り付け、住所を聞くと、どこかで見たような見ないような……。そう、同時期に取材のお願いをしていたアプリストアTapTapの所在地とまったく同じだったのだ。「うーん、同じビルの中にあるのかなあ……。六本木ヒルズにオフィスを構えているようなものか」と思いつつ、当日に指定された住所に赴いてみると、やっぱりまったくの同じ建物。というか、よくよく聞いてみると、TapTapはX.D. Networkが出資して設立した会社なのであった。まあ、不勉強というものなのだが……。

 ますますX.D. Network(中国では心動網絡と言う)に興味が湧いた記者は、同社のディレクター・オブ・ビジネスデパートメント ブランディ・ウー氏に話を聞いた。

X.D. Network

ディレクター・オブ・ビジネスデパートメント
ブランディ・ウー氏

 立ち上げは2002年となるX.D. Network。当初はウェブサイトのビジネスを展開していたが、転機となったのは2012年にゲーム事業をスタートしてから。ブラウザゲーム『神仙道』がユーザー登録数1億6000万人を超える大ヒットを記録したのだ。以降、香港や韓国にも子会社を設立。2016年にはゲームプラットフォームTapTapに出資するなど、順調な成長を遂げていく。

 X.D. Networkは、ここ数年モバイルゲームを中心に展開しており、2017年に韓国Gravityからオフォシャルライセンスを得て開発およびパブリッシングを担当した『ラグナロクオンラインモバイル』が中国、台湾、韓国で大ヒットを記録(日本での配信日は未定)。『ドールズフロントライン(少女前線)』や『永遠的7日之都』も堅調。2018年にはスクウェア・エニックスと協力して『交響性ミリオンアーサー』を、日本を除く全世界でリリースし、成功させている。日本のメーカー絡みでいうと、先般Aimingとライセンス契約を交わし、『CARAVAN STORIES』を中国および韓国で配信することになっている。現時点で、配信しているモバイルゲームは30を超えている。

 X.D. Networkにとって、やはり『ラグナロクオンラインモバイル』は大きな自信となったようで、「(もともと韓国のIPである)『ラグナロクオンライン』を中国でリリースするときに、ゲームとしてだけではなくて、文化として中国のユーザーに伝えたいと思った」とブランディ氏。モバイル版のリリース前にコンサートを実施するなど、IPに惚れ込んで熱心に取り組んだようだ。「モバイル版のMMORPGは、このゲームで手応えをつかみました。今後、機会があればさらにすばらしいモバイル向けMMORPGを作ってみたいです」とブランディ氏は抱負を語る。

オフィス内には『ラグナロクオンラインモバイル』関連のオブジェがいっぱい。X.D. Networkを象徴するゲームということなのだろう(上の写真はオフィスの入り口にあったもの)。

『ラグナロクオンラインモバイル』の配信前に開催されたコンサート。演奏者は日本から招いたというこだわりぶり。

 そんなX.D. Networkが、近年力を入れている領域がインディーゲームで、ここ2年で20タイトル以上をリリースするという注力ぶり。なかでも成果を上げているのが冒頭で触れた『ICEY』と『Muse Dash』。『ICEY』はモバイル版だけで200万ダウンロード近く、6月にリリースされたばかりの『Muse Dash』も、日本のランキングで1位を獲得している。

 ブランディ氏によると、インディーゲームも中国では好調とのことだが、その牽引役となっているのがTapTapであるらしい。これまで海賊版が多かった中国ゲーム市場にあって、TapTapのような公式の有料コンテンツのみを扱うストアが人気を博するのは不思議な現象らしいが、それでも、「TapTapの存在が、中国のユーザーにもいい影響を与えたようです」(ブランディ氏)という。

 インディーゲームへの注力と合わせて見逃せないのが家庭用ゲーム機への取り組み。先述の『ICEY』や『Muse Dash』などは軒並み家庭用ゲーム機でもリリース(もしくは予定)となっている。“中国のパブリッシャーが自国のインディーゲームを海外に向けて家庭用ゲーム機でリリースする”というのはなかなかにアクティブな動きだ。時代が変わっているんだなあ……ということを実感させる。

日本でも好評を博した『ICEY』と『Muse Dash』。「当社のタイトルは日本のユーザーにも受け入れてもらえているようです」(ブランディ氏)とのことだが、たしかに日本のユーザーにも親しみやすいビジュアルだ。


 ちなみに、X.D. Networkはインディーゲームクリエイターのサポートも積極的に行っており、昨年は48時間でゲームを開発する“ゲームジャム”を自社で開催。200人を動員するほどの盛況ぶりだったという。そんな取り組みもあり、「X.D. Networkは、中国のインディーゲーム開発者のあいだでは頻繁に名前がでるくらいの存在になりました」とブランディ氏は語る。ちなみに、記者が取材した日の翌日は、インディーゲームデベロッパーを集めたパーティーの開催を予定しており、すでに300人以上が参加予定で、キャパシティーオーバー気味。「こんなに来るとは思わなかったので、どうしようかという感じです(笑)」(ブランディ氏)と、困惑しながらもうれしそうな表情だった。

インディーゲームクリエイターが参加してのゲームジャムも積極的に実施。

大いなる挑戦だった海外でのパブリッシング業務

――なぜインディーゲームに力を入れることにしたのですか?

ブランディ 近年中国では、内容はほとんど同じだけど見た目が違うタイトルが多かったんです。それを変えたいという思いがありました。中国のプレイヤーは海外ゲームに対してとても熱意を持っています。Steamのゲームも遊びますし、モバイルゲームも受け入れています。「海外の良質のインディーゲームを中国のユーザーに紹介したい」というのが入り口ですね。私たちが初めて配信したタイトルは『The Swords(説剣)』というゲームだったのですが、当時TapTapが存在しなかったにも関わらず、とても良好なセールスを記録しました。そこで、「中国のユーザーでも、いいゲームだったらお金を出してくれるのでは……」という手応えをつかんだんです。
 ただ売れればいいというわけではなくて、とにかくいいゲームを提供したい。この方針は当社のほかのゲームでも指針となっておりまして、『ラグナロクオンラインモバイル』もその遺伝子を色濃く受け継いでいます。私たちは「おもしろいゲームを作りたい」という思いでいて、おもしろくないと判断したゲームをリリースすることはありません。
 スタッフはみんなゲーム好きで、とくに創設者は熱心なゲームファンです。出張の荷物の中に、プレイステーション4やNintendo Switchを入れているくらい(笑)。

――インディーゲームをセレクトする基準はどのへんですか?

ブランディ 斬新さや話題性など、いろいろな角度から分析します。でもいちばん気になってしまうのは、やはりグラフィックかもしれません。何といっても見た目のインパクトは大きいので。『Muse Dash』を最初に見たときは、とても短いデモとグラフィックがあるだけでした。それでもピンときたんです。

――いまの事業で、海外のタイトルを中国にもってくるのと、中国のタイトルを海外に持っていくのとでは、どちらのほうが比率が高いのですか?

ブランディ いまは、やはり海外から中国へというタイトルが多いです。その要因としては、ひとつには全世界の優れたタイトルを中国のユーザーに紹介したいという高いモチベーションがあります。私たちの任務のようなものです。まあ、中国の良質のタイトルを海外でリリースするにしても、勢い数が限られるということはありますね。

――海外のタイトルを持ってくるときは、中国人の好みそうなものセレクトすることになるかと思うのですが、どのようなタイトルが好まれやすいのですか?

ブランディ そのへんは世界のどのユーザーとも変わらないかもしれません。基本、海外で人気の高いゲームは、中国でもヒットする傾向があります。

――『ICEY』や『Muse Dash』のヒットで、中国開発者の作ったゲームが世界で通用するという手応えを得るようになりましたか?

ブランディ そうですね。中国のインディーゲームのクオリティーが上がっていることは間違いないです。だんだん世界レベルに近づいていると思います。ただ、中国国内でインディーゲームを訴求しようと思ったら、プラットフォームフォルダーさんの協力は不可欠になるかもしれません。中国で公式のゲームを売ろうと思ったら、プラットフォームフォルダーさんのサポートは欠かせません。

――だからこそのTapTapの存在感の大きさというのはあるのかもしれませんね。

ブランディ 中国のインディーゲームは始まったばかりです。可能性は大いにあると思っています。いい環境を作っていって、だんだんいい結果が出せるようになるのではないでしょうか。

――自社パブリッシングで、『ICEY』を日本市場で展開することにした理由を教えてください。

ブランディ もともと『ICEY』は開発元のFantaBlade Networkさんから、当社が全世界でパブリッシングする許諾をいただいていたんです。そういった経緯もあり、勉強のつもりもあって、初めて海外でのパブリッシングをさせていただいたのですが、いろいろと学ぶことは多かったです。当社が全世界に向けてパブリッシング業務を行うことになった大きな理由は、世界中のゲームファンにX.D. Networkという名前を知っていただくためです。全世界でパブリッシングをすることは、正直赤字のこともありますが、X.D. Networkの知名度アップと中国のインディーゲームの訴求のために、これからの続けていきたいと思っています。

――インディーゲームをコンソール向けに積極的に展開している印象がありますが、なぜですか?

ブランディ 中国国内と海外を問わず、インディーゲームといえば、コンソールが欠かせないという認識があります。プレイステーション4やNintendo Switchにインディーゲームユーザーが多いという印象があるので、知名度アップのために。

――中国市場では、コンソールはまだまだこれからの印象もあるのですが……。

ブランディ 海外のハードで遊んでいる人も多いですよ。市場はこれからかもしれませんが、これからどんどん大きくなると思うので、先行投資の意味合いもあります。

X.D. Networkの社内。IT企業などが入るおしゃれな一角にオフィスはある。

『ICEY』の続編は凍結中、クオリティーが保てない限り出したくない

――せっかくの機会なので、『ICEY』のことを少し聞かせてください。そもそも最初に『ICEY』を見たときは、ここまでヒットすると思っていましたか?

ブランディ ここまで大きくなるとは思っていませんでした。『ICEY』の話を最初にいただいたときは、ふつうの2Dのアクションゲームに見えました(笑)。デモをいろいろなところに出展しているうちに、クリエイターさんの思いつきで、ネタ要素を入れることにしたんです。そこからですね、手応えを感じ始めたのは。最初はモバイル版を作っていたのですが、プレイステーション4の話が持ち上がってので、そちらにシフトしたんですよ。

――開発は何人くらいですか?

ブランディ 最初は8、9人だったのですが、いまは15人くらいですね。メインのクリエイターは、そもそもはX.D. Networkの兄弟会社に所属していて、独立したときに当社がサポートしたんです。グラフィックを担当しているのも内部のデザイナーで、スタッフは大学を卒業したばかりの若者が多いです。

――声優の下野紘さんが評判ですが、どなたが起用を決めたのですか?

ブランディ クリエイターと当社の運営担当ですね。みんな日本の声優さんに詳しくて、「ぜひ下野さんに……」ということになったようです。ゲーム業界にいる人は、だいたい日本のカルチャーに興味があって、アニメやゲームが好きなので、自然と声優さんには詳しくなるようです。

――スタッフが15人ということは、もしかして続編を作っているのですか?

ブランディ 当初は続演を作りたいと思っていたのですが、1作目と同じ水準を維持するのが難しいので、いまは続編の開発は断念して、別のプロジェクトのモバイルゲームに専念しています。

――あら、それはもったいないですね。

ブランディ そうですね。将来もし可能であれば、『ICEY 2』は出したいですが、『ICEY』がユーザーさんから支持していただいたこともあり、下手なものは出せないと思っています。1作目のクオリティーは維持できないという判断で、続編の話は凍結しています。

――なるほど……。『Muse Dash』はBitSummitでも話題になりましたが、Nintendo Switch版も控えていますね。こちらはいつごろに?

ブランディ 『Muse Dash』の開発者は美術学校の講師が多いのですが、中には大学生もいます。若手が主体ということもあって、なかなか技術的な部分で追いつかいないところが多くて、遅ければ年末くらいになってしまうかもしれません。ちなみに発売が延びているということでいうと、当初は昨年のクリスマスにリリース予定だったんですね。ところがやむなく延期することになり、それで開発者のひとりがイベントで女装をしてお詫びすることになったんです。そうしたら、その模様をアップしたweibo(中国のSNS)の記事が大反響で……。一気に『Muse Dash』の人気が上がりました。

――(写真を見せてもらって)かわいいですね! なんかインディーゲームらしいブレイクの仕方だ(笑)。

ブランディ メインとなるクリエイターは、大学を卒業したあとにとあるゲーム会社に就職したのですが、その会社でゲームが完成しなくて、自分で独立してチームを率いてゲームを作ることにしたんです。現在スタッフは10人なのですが、10匹の猫がいます(笑)。

――『ICEY』のクリエイターさんといい、若手が主体であるということと、自分が作りたいゲームのためは会社を辞めることも辞さないという点が共通しているようですね。いまの中国のインディーゲーム業界を象徴しているような気もしますね。いずれにせよ、こうやって作り手の人となりをうかがうと、親近感がわきます。

ブランディ X.D. Networkは、今年も東京ゲームショウに出ます。これで4年連続となるのですが、今年は『Juicy Realm』と『Muse Dash』、『ICEY』をプレイアブルで出展するつもりでいますので、ぜひ遊びにきてください(クリエイターが来日するかどうかは未定)。

――最後に、日本のゲームファンに向けて、メッセージをお願いします。

ブランディ はい。私たちにはふたつの目標があります。ひとつは中国の優秀なインディーゲームを海外に向けて発信すること。あるいは、海外の有名なタイトルを中国に輸入すること。これはずっと継続していきたいです。もうひとつが、X.D. Networkという会社の名前をさらに訴求していくこと。ひとりでも多くの日本の方にX.D. Networkのことを知っていただけるように、これからもがんばっていきますので、これからもよろしくお願いします。

開発室。X.D. Networkのスタッフは600人で、その4割が開発部隊だという。

クリエイティビティの赴くままに、絵筆を取る方もいらっしゃるようです。

書籍が置かれたスペースも。本好きな記者としては気になる……。

ちょっとした運動できる設備も。「ストレス解消のためにサンドバックを使う人はいるかもしれないけど、運動する人はほとんどいないのでは?」と担当の方に聞いてみたところ、どうやらそのようです。まあ、さもありなん。