esportsのプロ選手を育成する専門学校に潜入、esports大国の中国の想像を絶する熾烈さ【ChinaJoy 2018】

中国esportsの現状の一端をうかがうべく、ファミ通ドットコムでは“King Zone”というesports 専門学校を取材する機会を得た。ここでは、その模様をお届けしよう。

 2018年8月3日~6日、中国・上海新国際博覧中心にて開催された、中国最大規模のエンターテインメントの祭典、ChinaJoy 2018。会場にて、昨年にも増して存在感が際立っていたのがesports。各メーカーのブースでは、軒並みesports関連のイベントが催されていたほか、インテルではIEM(Intel Extreme Masters)Shanghai 2018を開催。ChinaJoy主催によるesports大会も、連日会場を賑わせていた。中国は、esports大国というのは、周知の通りであるが、それが一層加速したとの印象だ。

 そんな中国esportsの現状の一端をうかがうべく、ファミ通ドットコムでは“King Zone”というesports 専門学校を取材する機会を得た。場所は、近年中国IT企業などがオフィスを構える一角で、同じビルにはesportsオンライン配信大手のVSPNや、VRの会社なども入っていた。

 話をうかがったのは、King-Zone COOの王翔(Turbo)氏。もともと王翔氏はゲーマーで、2005年『ニード・フォー・スピード』のチャンピオンになったほどの実力の持ち主。当時大会に優勝したときは、光栄に感じたという王翔氏だが、そのころ中国ではいまほどゲームに対する理解がなく、周囲からは、「時間を潰しているだけでは」と捉えられていたという。就職に際しては、いまでならプロゲーマーという選択肢もあったのかもしれないが、そのころは当然そんな進路は考えられず、ゲーム関連の仕事を……ということで、VSPNやテンセントのPRなどを担当することになる。

 その後、中国市場における“ゲーム大会”に対する状況は一変する。王翔氏によると、昔からゲーム大会は人気があったそうだが、政府の管轄の兼ね合いなどで、テレビ放送ができず、なかなか知名度が上がらなかった。それがオンライン配信会社によって人気が一気に爆発し、テンセントなどの大手企業が投資し、それによりオンライン配信会社が潤い、ゲーマーに高額の賞金を出せるようになり……と、エコシステムができあがったのだという。

 この状況をチャンスと見た王翔氏は、esportsプロ選手や解説者のマネジメント会社King-Zoneを2017年2月に設立。「選手がesportsの試合に専念できるように」という体制を整えるようになる。これは、王翔氏は一切口にしなかったが、時代背景もあり自身が叶えられなかった“ゲームで食べていく”という夢を、精神的な後輩たちに託したようにも思われる。と、書くと少しマスコミが好むようなストーリーを作り過ぎと言われるのかもしれない。

 現在、『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』8人、『League of Legends』7人、『王者栄耀』12人、解説30人などのマネジメント業務を行っているというKing-Zoneだが、プロ選手に関しては、すべての経費負担などをする変わりに、賞金の40%をKing-Zoneに入れてもらっているという。となると、いったい中国のプロ選手がどれくらいの収入を得ているのか気になるところだが、率直に聞いてみたところ、「さすがに金額はお答えできませんが……」とのことながら、大会での賞金などを除いても、「50万~60万元(約800万~960万円)は稼いでいますよ」(王翔氏)とのことだ。

King-Zone COOの王翔(Turbo)氏

 そんなKing-Zoneが2017年10月から取り組み始めたのが、プロゲーマーを育成するためのesportsの専門学校。まあ、わかりやすく言うと芸能事務所が俳優を養成するための学校を開設するようなものであろうか。ただし、このKing-Zoneは誰でも入れるというわけではない。入学のためには明確な基準があって、それは特定のゲームの上位5%のランキングに入ること(女性の場合は全ユーザーの10%以内)。そのうえで、誰かの推薦を得ることによって、ようやく入学をすることができるのだ。その代わり……といっては何だが、授業料などは一切免除される。つまり、プロ選手になったら出世払いしてもらうという発想だ。ちなみに入学可能なのは18歳からとなる。

 カリキュラム自体は3ヵ月で行われ、授業は試合に際しての戦略や技術に関することや立ち回りの仕方などをカバーしつつ、哲学やロジック、コミュニケーション、数学、幾何学、心理学など多岐にわたる。授業は現時点では8教科らしいが、今後は12教科にする方針で、歴史やパフォーマンスなどを考えているという。“プロ”ということで、トータルでの人間性の育成を考えているということなのだろう。王翔氏は老子の影響を受けているということなので、そのへんの影響もあるのかもしれない。「ちゃんと“道”があるので、文化として教えています」と王翔氏。

練習に勤しむ学生さんたち。

実際の試合に近いシチュエーションで練習できるようにということで、5人ひと組による配信を想定したブースでの練習スペースも設けられている。ちなみに、見えづらいが、壁に張ってあるのは『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』のマップ。「マップを覚えるのは基礎です」と王翔氏。

講義室。戦略や立ち回りなどをここで勉強するようだ。

 興味深かったのは、脳波を測定する部屋があったこと。ここで、実際に脳波を調べて、その学生たちの属性をチェックするのだという。「興奮しやすいとか、プレッシャーに弱いといったことを調べます。そういった人たちは腕があってもプロには向いていませんので、実況主コースを推薦しています」(王翔氏)とのこと。伝えそびれていたが、King-Zoneにはプロ選手を目指すコースのほかに、実況主や解説を目指すためのコースも用意されており、プロ選手の適正がないと判断した場合は、適宜実況者や解説になるコースを薦めているのだという。

脳波モニタールーム。残念ながら中は撮影禁止だった。やはりプロ選手たるものメンタルの占める部分は大きいようだ。

ダンスルームもある。

実況者のコースを教える、Dido Dido先生の部屋にして配信室。提供してもらった機材や衣装がずらり。

こちらも実況者コースの先生の部屋。

 1クラスは20~30人からなり、卒業時まで残るのは7人程度というから、相当スパルタな授業であることが予想される。さらには、前述の通り学校は2017年10月からスタートしており、すでに2クラスのカリキュラムが終了しているが、現時点ではプロ選手は誕生しておらず、4人の解説者が活躍しているという(王翔氏によると、その評判は極めていいらしい)。

 そこでふと思ったのだが、特定のゲームの上位5%しか入学を許されない専門学校で切磋琢磨して、生き残ったプレイヤーにしてもプロになれないとは……。何たる狭き門過ぎる。いま世に出ているプロ選手たちがいかに凄まじいかがうかがいしれる。まさにプロ野球選手やプロサッカー選手といっしょ。中国esportsプロ選手事情の凄みの一端を見た気がした。

 それにしても、2017年2月にマネジメント会社を設立して、10月に専門学校を開校とは、何たるスピード感で動いていることか。王翔氏によると、現状20~30人の学生をゆくゆくは300人規模にしていきたいという(ちなみに、この9ヵ月ですでに1度引っ越しをしている)。中国esports界は想像を絶するスピードで進化し続けているようだ。