2018年8月9日、3gooよりNintendo Switch用ソフト『フラッシュバック』が配信開始された。同作は、1992年にスーパーファミコンで発売されるや好評を博したアクション・アドベンチャーの移植作。西暦2142年の植民地化された衛星タイタンを舞台に、記憶喪失の若き科学者のコンラッド・B・ハートが、謎の敵が迫りくる中、さまざまな危険から身を守りながら、地球を脅かすエイリアンの陰謀を暴いていくことになる。

 当時、斬新なゲーム性が絶賛を浴びた名作が、新要素を追加して25年ぶりに復活。ここでは、『フラッシュバック』の生みの親にして、Nintendo Switch版のプロデューサーでもあるPaul Cuisset(ポール・キュイセ)氏に、書面にてインタビューに答えていただいた。そもやり取りを以下にご紹介しよう。

『フラッシュバック』の生みの親ポール・キュイセ氏に聞く、往年の名作アクションアドベンチャーが25年振りに蘇った理由_05

『フラッシュバック』という旅に、ユーザーさんに参加してほしい

――まずは、日本のゲームユーザーに、ポールさんの簡単なプロフィールや関わったタイトルをお教えください。

ポール 私は1985年からビデオゲームの開発に携わっています。ITを学んだ後、『スペースハリア』のATATI STへの移植版がゲーム業界での最初の仕事でした。そして、『Future Wars』、 『Operation Stealth』、『Cruise for a Corpse』、『Fade to black』、『Moto Racer』、『Darkstone』といったさまざまなプロジェクトに取り組みました。開発者としてつねに心掛けているのは、ゲーム開発という旅にプレイヤーに参加してもらうこと。これが大好きなんです。そして私にとって一番大切なことは、この旅で得られる感情や思い出たちです。

『フラッシュバック』の生みの親ポール・キュイセ氏に聞く、往年の名作アクションアドベンチャーが25年振りに蘇った理由_01

――そもそもどのような発想でオリジナルの『フラッシュバック』をお作りになったのでしょうか? コンセプトなどを教えてください。インスパイアを受けたものはありますか?

ポール 私はこの『フラッシュバック』を、ロードムービーを制作するように作り上げました。記憶喪失に陥った主人公のコンラッドは、プレイヤーとともにストーリーの舞台となる宇宙でさまざまな発見をします。少しずつ物事が組み立てられ、土星の衛星・タイタンから地球、そしてモーフスの惑星へと続く旅の局面で、さまざまな課題にぶつかりながらもそれらを克服していきます。ゲームの世界観は、『ブレードランナー』や『トータル・リコール』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などの1980年代のSF映画や、フィリップ・K・ディック、フランク・ハーバート、オーソン・スコット・カードといったSF作家たちに触発されています。

――当時、オリジナル版『フラッシュバック』をリリースされたときに、これだけの反響を集めると思っていらっしゃいましたか?

ポール 『フラッシュバック』の開発をスタートしたとき、このゲームがこのような成功を収めるとは想像できませんでした。まったく予期せぬことでした。そして25年後たったいまも、当時の熱狂が人々の記憶に残っているということに驚いています。

――いまだから語れる『フラッシュバック』の思い出話などありましたら、お教えください。

ポール  『フラッシュバック』は、当初16ビットの家庭用ゲームソフト(最初はセガメガドライブ向け)として開発しました。それは、私たちのようなヨーロッパの開発者にとってはとてもエキサイティングな経験だったんです。それまではマイクロコンピュータ(Atari、Amiga、 PC)向けのゲームを開発していましたので、家庭用ゲームの技術を学び、理解し、管理する時間が必要でした。
 『フラッシュバック』は私たちにとってある種アイデアを試す砂場的なもので、この制作は大変実りの多いものになりました。技術的な制限は私たちに最高のものを与えてくれると言えると思います。
 ゲームのテンプレートはありませんでしたので、最初からすべてを作らなければなりませんでした。そういう背景がありましたから、『フラッシュバック』は当時のほかの16ビットゲームの中にあって、異質な存在であったと言えると思います。

『フラッシュバック』の生みの親ポール・キュイセ氏に聞く、往年の名作アクションアドベンチャーが25年振りに蘇った理由_04

――今回、なぜ『フラッシュバック』を25年ぶりに蘇らせることにしたのですか?

ポール 『フラッシュバック』がユニークなゲームプレイ体験を提供し続けてくれる作品だからです。25年ぶりに本作を再び世に送り出すことによって、かつてのプレイヤーはもちろん、新しい世代のプレイヤーがその世界観やゲームプレイに魅了されることを願っています。この作品を現代に蘇らせるとができるのを、本当にうれしく思っています。

――なぜプラットフォームにNintendo Switchを選ばれたのですか?

ポール Nintendo Switchへの移植は瞬時に決断しました。理由はシンプルです。完璧なレトロゲーム体験をプレイヤーにもたらすために必要な要素をすべて兼ね備えていたからです。

――移植はオリジナル版のソースを活用したものとなったのでしょうか? それとも当時のソースはなく、完全に作り直しとなったのでしょうか?

ポール オリジナルのソースをベースに、1992年バージョンを忠実に再現しました。グラフィックスはPCとスーパーファミコン用に改善されていたものがベースです。昨今のデバイスはとてもパワフルですから、かつてパフォーマンスの面で苦労した部分はすぐに解決することができました。オールドゲームを現代に蘇らせるにあたってもっとも大変なことは、今日のゲームのスタンダードにどこまで適応できるか、という点だと思います。今回も、グラフィックやサウンドの改善はもちろん、チュートリアルやセーブ機能、難易度の設定や巻き戻しモードといった新しい機能を追加しています。

――Nintendo Switch版のオリジナル要素として、“アレンジモード”が搭載されていますが、このモードを搭載した理由を教えてください。“アレンジモード”でもっとも力を入れたポイントはなにですか?

ポール アレンジモードの搭載によって、主人公が死んだときに巻き戻しモードを使えばそこからすぐに戻ってリスタートすることができるようになりました。ただしゲームオーバーとなったときや、ある難易度に設定しているときにはこの機能を使うことはできません。また無限に巻き戻しできるわけではなく、戻れる時間は多かれ少なかれ限られていますので、“ノーマル”と“ハード”モードでプレイするとき、プレイヤーはより慎重にならなければなりません。とても難しい場面に遭遇した時のためにとっておかなくてはなりませんからね!

――今回のバージョンの新しい機能についてもう少し教えてください。

ポール ゲームは1992年のオリジナルバージョンのように見えて、新しい機能を追加しています。チュートリアル、セーブ、巻き戻し機能、そしてサウンドFWとリマスターされた音楽が入ったモダンモードです。また、グラフィックスの改善の一貫として、ピクセル化を削減するフィルタと、古いテレビでプレイしていたときの視覚的レンダリングを再現するためのブラウン管シミュレータを追加しました。
 しかし、これらすべてのオプションはただ追加されたわけではありません。臨機応変にかつ個別にオンまたはオフにすることができるということです。

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――オリジナルの『フラッシュバック』はプレイが難しいということで有名です。今回のNintendo Switch版はどうでしょうか。何か変更はありましたか?

ポール オリジナルのバージョンは実際のゲームの基準からすると難しいと言えると思います。しかし今作では巻き戻し機能のお陰でレトロゲームをプレイしているときのようなストレスは減らせると思っています。もちろん難易度そのものを変更することもできましたが、そこに手を加えてしまうとレトロゲームの体験に影響が出ると思いましたし、フランスの有名な小説家は「リスクのない勝利は称賛に値しない勝利だ」とも言っています。巻き戻し機能は、実際のレトロゲームの体験をストレスなくプレイできるのに最適な解決法だと思っています。

――最後に『フラッシュバック』を楽しみにしている日本のゲームファンに向けてメッセージをお願いします。

ポール 日本のみなさんの信頼に感謝しています。そして『フラッシュバック』が何年にもわたりみなさんの記憶に残っていることをとても光栄に思います。私はこの新しいバージョンが皆さんの思い出に忠実であることを願っています。私からの『フラッシュバック』への旅への招待状を、ぜひ受け取ってください。

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