VR+ミュージカルで新たな体験を創造! 新感覚エンターテインメント『LITTLE PRINCE ALPHA』観劇リポート

VR・MR・AR技術を活かしたサービスの開発・提供を行っているアルファコードと、演技と音楽・ダンスを一体化したミュージカル作品を創り続けているエンターテインメント集団の音楽座ミュージカルが協力し、ミュージカルとVRを融合した新感覚のエンターテインメント『LITTLE PRINCE ALPHA』を公開した。本公演のリポートをお届けする。

 VR・MR・AR技術を活かしたソリューションビジネスや、ゲーム、 スマートフォン向けサービスの開発・提供を行っているアルファコードと、演技と音楽・ダンスを一体化したミュージカル作品を創り続けているエンターテインメント集団の音楽座ミュージカルが協力し、ミュージカルとVRを融合した新感覚のエンターテインメント『LITTLE PRINCE ALPHA』を8月3日〜5日に東京・未来館ホールにて公開した(3日はメディアイベント)。

※VR=:Virtual Reality仮想現実、AR=Augmented Reality:拡張現実、MR=Mixed Reality:複合現実


VRとミュージカルの融合で、さらなるエンターテインメントの没入体験を目指す

 『リトルプリンス』とは、フランス人の小説家サン=テグジュペリが書き上げた世界的に有名な児童文学小説で、これまでも絵本やアニメ、映画、演劇など、さまざまな展開が行われてきた。今回のイベントの主催者である音楽座ミュージカルは、1995年に『星の王子さま』の独占ミュージカル化権を世界で初めて獲得(初演は1993年)。以降、何度も上演が行われてきたことで、いまでは同劇団を代表する作品のひとつとなっている。

 今回のミュージカル劇は、ライブパフォーマンスの代表格のひとつともいえるミュージカル劇と、仮想現実を堪能できるVRという、相反するものを組み合わせることで、どんな効果がもたらされるのか。そんな試みからプロジェクトがスタート。昨年にトライアルという形で『リトルプリンスVR supported by VIVE』が行われたらしいが、全編を通しての実施は今回が初めての試みとなる。

 音楽座ミュージカルは、通常のステージと観客席という垣根を取り払い、会場全体をステージとして利用することで没入感の高い観劇体験を提供する演劇集団だが、今回はその没入感をさらに突き詰めるべく、VRとのコラボレーションを実施。『LITTLE PRINCE ALPHA』は、公演名にプラスアルファとあることからわかるように、これまでのミュージカルに、最新技術を駆使したVRを組み合わせたまったく新しいエンターテインメント体験となっている。

 公演が行われる未来館ホールは、半円形のステージを囲むように観客席が設けられているイベントスペースで、本公演では、VR観覧と一般観覧の2タイプのスタイルを用意。一般観覧は、通常の観客席で楽しむ従来のミュージカル劇と同じ鑑賞スタイルとなっているが、VR席は中央ステージ上に20席が設けられている。

 VRの機材は、2880×1600画素の高解像度有機ELディスプレイを搭載したHTCのVIVE Proを使用。VIVE Proは、ヘッドマウントディスプレイの位置を正確にトラッキングするベースステーションを用いることで、装着者の頭の動きと画面上の動きのズレ幅が小さいVR体験がもたらしてくれる、最新のVRデバイスだ。

今回のイベントで使用したHTC VIVE Proのヘッドセット。VIVE Proを作動させるPCとして、TSUKUMOのG-GEARが各VR席に用意されていた。

 公演中は、最初から最後までVRデバイスを装着するのではなく、指示があった場面でヘッドセットを装着し、それ以外の部分は通常のミュージカルがくり広げられる構成になっている。舞台上にいる演者が、「それでは、ゴーグルを装着してください」と説明した場面で、VR席にいる観客は一斉にヘッドセットを装着。以降しばらくのあいだ、VRでミュージカルの演目を堪能することになる。

VR席はステージ上に設けられているため、この近さで生のミュージカルを堪能できる。これだけでも、かなり貴重な体験と言えるだろう。

 本公演でVRを使用する場面は、全部で4箇所。いちばん最初の場面は公演が始まってすぐ、本作の主人公である飛行士(ぼく)が“うわばみ”の絵を書いた少年時代から飛行士に成長し、飛んでいる砂漠に不時着。その後、“ひつじ”の絵をせがんでくる王子さまと出会うところまで。物語冒頭の大事な場面が、いきなりVRで描かれているというわけだ。飛行機が墜落する場面は、コックピットに乗り込んでいるかのような視点が眼前にくり広げられ、砂漠への不時着後は地面に座り込んでいる飛行士(の頭上)の視点で、物語が進行していく。

 砂漠で“王子さま”に出会う場面は、まるで王子さまが自分に語りかけてくるような雰囲気でミュージカルが展開。出会ったばかりの王子さまはとても無邪気にひつじの絵をせがんでくるのだが、飛行士の周りを縦横無尽に駆け回るので、まるで自分に向かって王子さまが語りかけてくるような臨場感を体験できる。なお、サウンドに関してはステージを取り囲むように設置されたスピーカーから発せられる立体音響システム(※)によって、まるで本当に舞台上で役者たちが歌い、演じているような感覚が得られている。物語へ没入するという意味では、これ以上ない贅沢な設備といえるだろう。

※今回のために新開発した32ch立体音響技術とのことで、VR内の映像と合わせて音の方向や奥行きを感じることができる。


ヘッドマウントディスプレイを装着して、VRパートを視聴している様子。観客は思い思いに頭の向きを変え、舞台上の演技を堪能することができる。

ヘッドマウントディスプレイの中に映し出された仮想空間内では、王子さまがこんな至近距離で自分に語りかけてくれる場面も。このようなリアル体験を複数人が同時に体験できるのは、VRならではといったところ。

 その後、「ゴーグルを外してください」との指示があり、ヘッドセットを外した後は、先ほどまで仮想空間で体験していた雰囲気そのままに、目の前で迫力あるミュージカルがくり広げられる。とくに今回のVR席はステージ上に設置されているため、演者の息づかいや衣装の布ずれの音まで感じられるほどの近くで劇がくり広げられていく。先ほどまで自分に向かって語りかけてきていた王子さまを初めとする演者たちが、今度はステージ上を駆け回りながら歌い踊る様子が見られるというわけだ。
 なお、演者たちが歌い踊るステージは一般席にまで及ぶので、今回の公演ではどの席でも迫力の演技を堪能することができていた。

 以降も、ステージの中心で登場人物になったかのような気分が味わえるVRパートと、大迫力のミュージカルが眼前でくり広げられる鑑賞パートが交互にくり広げられ、物語は大団円のフィナーレまで一気に駆け抜けていく。

物語のカギとなる、王子が育てた“花”と決別する場面。この出来事がきっかけとなり、王子は地球へとやってくることになるのだが……。

地球で友だちになる“キツネ”との絡み合いのシーンは感動もの。「大切なものは、目に見えない」という、本作の大切なテーマが身に染み入ってくる。

地球でいろいろなことを知った王子さまと飛行士とのあいだには、いつしか友情が芽生えていく。そして王子さまは、自分の星に残してきた花のことを思いやり、星へ帰ることを決意する。しかし、星に帰るためには危険な蛇に身を委ねるしかなかった……。馴染みのある『星の王子さま』の名場面の数々が、迫力ある演技でくり広げられていく。

 一方、VRを装着しない一般席での観覧体験はどうかというと、VRパートの最中はステージの正面と左右に用意されたスクリーン上に、VR席の観客が見ているものと同じ映像が表示され、その映像を通して物語を追っていくというスタイルとなっていた。

VRパートのあいだは、ステージ上にスクリーンが登場。両サイドのスペースと合わせて、3面のワイドスクリーン状態でVR映像が映し出される。場面によっては、演者がステージに登場して実際に踊るという、映像とライブのコラボも実現されていた。

 また、新しい試みとして各座席に置かれているアイテムのLEDライティングボール(本舞台では、“粒子”と呼んでいる)が劇中の場面に併せてさまざまなカラーに明滅するといった仕掛けも用意。これは、IoT(Internet of Things)技術を利用したアイテムで、Wi-Fiを使って明滅のタイミング、カラーが制御されている。

 飛行士と王子が砂漠で水を探す場面では、観客席中央にある“粒子”が水色に光っており、そこが水場であるかのような効果をもたらしているなど、この演出によって、ホール全体が場面の雰囲気に合わせていろいろな表情を見せてくれるのだ。

各観客席の置かれている白いボールが、“粒子”と呼ばれるアイテム。場面にシンクロして、さまざまなカラーで点灯してくれる。この“粒子”は単なる飾りではなく、観客と演者を結びつけるアイテムとしての役割も担っており、一般席の観客も劇に参加しているような気分が味わえる。

 VRパートの企画制作、会場演出を担当しているアルファコードのCEO兼VRコンテンツプロデューサーの水野拓宏氏のTwitterでは、LEDボールが動作している様子や、VRを20台同時に制御している様子が紹介されている。ヘッドセットの位置をトラッキングするベースステーションの配置にはかなり苦労していたようで、メディアイベントの日はVR席の前方と後方に設置されていたが、本番の公演日は前方側の高い位置に設置。結果、安定したVR視聴が実現していたようだ。

 終演後、飛行士役を演じた広田勇二さん、王子さま役を演じた森彩香さん、アルファコードの水野氏がステージ上に登壇。本公演の実施するにあたっての苦労話や手応えなどが語られていった。

 VRパート中はあらかじめ用意された映像に切り替わるため、演じる役者側の視点に立つと、一旦物語の流れが途切れてしまい、感情移入の面で不利になりかねないが、森さんは「最初、劇の途中にVRパートを挟むと聞いたときは、自分の気持ちが途切れてしまうのではという思いがありました。でも、ライブを作っている私たちも、VRパートを担当している水野さんも、皆が同じ思いを持って作り上げているので、実際にやってみたところ変わらないと実感しました」と、今回の特別な公演について率直な感想を吐露。音楽座ミュージカルの演出面も担当する広田さんは「VRを装着していない人にも同じように楽しんでいただくというのは、かなりの難題でした。まだまだ至らなかった点もあると思います」と、今後の課題点をあげていた。

 水野氏は、「この広い空間で、20人もの観客が同時に同じ体験をしていただくのは、技術的にも大きな挑戦でした。今回の舞台では、王子さまが目を合わせて歌ってくれますが、それを大勢の方が同時に体験するって、現実ではどうやってもできませんよね。そんな体験を提供でできるということには、大きな可能性を感じています」と、VR+ミュージカルの融合にしっかりとした手応えを感じていた。

写真左より広田勇二さん、森彩香さん、水野拓宏氏。写真右は、イベント進行などを担当されていた音楽座ミュージカルの藤田将範さん。

 なお、本公演のVRの雰囲気は、スマートフォン向けアプリ『Vrider DIRECT プレイヤー』で体験可能。同アプリをスマホにインストールすれば、VRパートで流れていた“ヒツジの歌”と、“星の旅”のシーンなどを見ることができる。アルファコードが提供している“VRiderグラス”を利用すれば、より没入感のあるVR体験がもたらされるが、単眼モードにも対応しているので、スマホ単体でも雰囲気を楽しむことができるはずだ。

Vrider DIRECT プレイヤー - App Store
Vrider DIRECT プレイヤー - Google Play

本イベント用に用意されていた“VRiderグラス”。写真のように、スマートフォンを挟み込んで使用すれば、簡単にVR映像が楽しめる。

会場では、『LITTLE PRINCE ALPHA』のTシャツやバッジといったオリジナルグッズも販売が行われていた。王子さまだけでなく、花もVRヘッドセットを装着しているかわいらしいイラストが描かれている。

 ミュージカル+VRによる新たな舞台劇『LITTLE PRINCE ALPHA』は、VRのメリットでもある“その世界に入り込んだかのような体験”で登場人物の気分を感じられるうえ、ミュージカルならではのライブ感も存分に楽しむことができる。現実(ライブ)と非現実(仮想現実)を行き来しながら、その連動によってもたらされる体験は、これまでにない贅沢な感動体験をもたらせてくれた。

 反面、劇中でVRヘッドセットの脱着時間を挟む必要があるため、どうしても劇の流れが途切れてしまうというデメリットも持ち合わせている。また、今回はVR席と一般席を設けての実施となっていたが、広田さんも言っていたように一般席の観客にも同じような体験を提供するという課題がある点も否めないだろう。

 こういった部分はVRデバイスの技術的な進化や、今後の試行錯誤によって解消されていくに違いない。それ以上に、VRという“+α”(プラスアルファ)がもたらせてくれる没入体験の大きさは得がたいものがある。『LITTLE PRINCE ALPHA』は、まったく新しいエンターテインメントの形として、ミュージカル界に新たな足跡を残したことは間違いない。次回公演の予定は見えていないが、さらに進化したVRミュージカルを早く楽しみたいところだ