イイダのショルキー、『あさってColor』の演出。『スプラトゥーン2』ハイカライブに込められた数々のこだわりを、アレンジ担当の大山徹也氏にインタビュー!

シオカライブやハイカライブなどのアレンジを担当された、大山徹也氏に制作秘話やこだわりを聞く!

 そんな人はいないかもしれないが、『スプラトゥーン』が好きでまだ観ていない人は、とりあえず下の映像を観てほしい。

 上記のハイカライブを始め、『スプラトゥーン』は、これまでシオカラーズのシオカライブ、テンタクルズ&シオカラーズのハイカライブと、数々のライブが行われ、どれも観た人から称賛の声が挙がっている。シオカラーズ、テンタクルズのダンス、パフォーマンスはもちろんのこと、ライブならではの特徴のひとつが楽曲アレンジ。このアレンジを手掛けるのは、作・編曲家としてさまざまなアーティストの楽曲を担当してきた大山徹也氏だ。

 今回、2018年7月18日に発売されたCD『Splatoon2 ORIGINAL SOUNDTRACK -Octotune-』に、2018年2月に行われた闘会議でのハイカライブの音源が収録されることから、改めて、大山徹也氏にハイカライブの制作秘話、楽曲のアレンジの秘話などをうかがった。そこには、大山氏はもちろん、任天堂のスタッフなど、関わる人々の熱い想いとこだわりがあった。

 ちなみに、今回のインタビューの中には、たびたびWet Floor Shibuyaというワードが出てくる。Wet Floorは『スプラトゥーン2』の一部の楽曲を担当するアーティストで、2017年7月にタワーレコード限定でCD『Inkoming!』を発売した、イカ界の人気バンドだ。そのCDの中に収録されたのが、Wet Floorを人間界のメンバーで再現したとも言える、Wet Floor Shibuyaの演奏する楽曲で、彼らはCD発売記念にライブを開催。記者は幸運にもチケット付きのCDを購入できライブに参加したのだが、そのライブの盛り上がりはすさまじく、メンバーと観客の一体感など、本当にすばらしいものだった(観られた人の少なさから、一部では伝説的な扱いになっている)。

 大山氏は、このWet Floor Shibuyaのバンドメンバー集めやアレンジも担当。ハイカライブの一部の楽曲は、このWet Floor Shibuyaのアレンジをオマージュしたようなものもある。今回のインタビューの前知識として欠かせない要素でもあるので、ぜひ下のWet Floor Shibuyaのレコーディング映像と合わせて、チェックしておいてほしい。

プロフィール

大山徹也氏(おおやま てつや)

ベーシストであり、作・編曲家。シオカライブやハイカライブ、Nintendo Switch体験会2017の任天堂スペシャルロックバンドのアレンジなども担当した。Twitter:@OhyamaTetsuya

こだわり溢れるスタッフの想い

大山徹也氏。おなじみのイカポーズで!

――まずは、ハイカライブのアレンジのコンセプトを教えてください。

大山 テンタクルズの曲がEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージックの略称)の要素が強いので、バンドで行くという方向性に決まったところから、そのうえで何をすべきか考えたときに、自分の中で“EDMとバンドのライブ感を足す形がいちばんいいだろう”と思って。このテーマありきで進めたので、それがコンセプトと言えると思います。あとは、イイダのスタイルの確立が、もうひとつのコンセプトでしたね。

――アレンジのオーダーが来る時点で、ある程度の方向性が示されているものなのでしょうか? それとも、ある程度大山さんにお任せに?

大山 今回のハイカライブは、任天堂さんからライブでやりたいことや方向性をメールでいただきました。2016年の最初のシオカライブのときは、綿密なやり取りを重ねて、相当細かい微調整もしたんですが、だんだん数を重ねるうちに僕と峰岸さん(峰岸透氏。任天堂のコンポーザーで、『スプラトゥーン』シリーズのサウンドディレクター)の中で何かが疎通してきているので、最近はざっくりとしたオーダーも増えてきましたね(笑)。

――ある程度のオーダーでお互いのやりたいことがわかるようになったんですね。

大山 そうですね。でも、曲によってだいぶ違います。最初のオーダーの時点で細かいところまで書いていただく曲もあれば、雰囲気を伝えてもらうような曲もあったりします。

――“EDMとバンドのライブ感を足す”といった方向性は、その時点で出ていたのでしょうか?

大山 その時点ではなかったですね。最初の話では「今回のライブはギターを入れないでやるのはどうだろう」というアイデアがあったんです。でも、僕から「ギターがないと、バンド感が出ないので入れたい」と伝えて。もう少し丁寧に言うと、ギターがいたほうがEDMとバンド感をつなぐ楽器になるかなと思ったのと、ライブにはシオカラーズの曲もあるので、テンタクルズとシオカラーズの差異が出すぎてしまうと、ひとつのバンドで演奏をするのが難しくなってしまうこともあって、全体をつなぐ役まわりとしてギターを提案したんです。

――なるほど。個人的な印象ですが、EDMはそのままだと、ライブならではの変化が出しづらいように感じるのですが。

大山 そうですね。ですので、僕がやったこととしては、EDMらしさを強く仕上げるというよりは、EDMの世界観をバンドが演奏するライブでやるという方向に寄せていったイメージです。デジタルロックと言うと語弊があるのかもしれませんが、そういったジャンルで使うギターの入れかたを持ってきたり、といった意識がありました。

――よりEDMのビートを強くするといったものではなく。

大山 ビートやダンス感を強くするよりは、デジタルロックというか、デジタルのバンドとしての要素をどう組み込むかといった部分を強く押し出せば、バンドのライブとしてカッコよくなるだろうと考えていました。

――シオカライブとハイカライブはどちらのほうがたいへんでしたか?

大山 かかった時間としては、ハイカライブのほうがたいへんだったかもしれないですね。というのも、峰岸さんも僕も思い入れが強くなっていったぶん、やりたいことが増えていったんです。たとえば、新しいボイスを入れるとか、当初からイイダに何かやらせたいという話があったので、ショルキーで出てくるとか。『あさってColor』の演出も、音が先にできあがって、そのあとあの演出ができたんですが、僕がシオカラーズに想い入れがありすぎて『あさってColor』はどうしても泣けるようにしたかったんです(笑)。だから、間奏でアオリとホタルのソロ曲のフレーズ昔が流れるところをより劇的な演出にしたいと思って、原曲よりもわかりやすく過剰にふたりの昔の曲が流れるようにして、対比を出しているんです。そういった部分を足して楽曲のほうで演出を増していったら、「だったら演出もこうしていきましょう」という話も生まれていって、そういった意味でやるべきことが増えていきましたね。

――本来ならば、回数を重ねて短縮できる部分も増えていくはずなのに……。

大山 ふたりとも、やりたいことが増えていく(笑)。

――(笑)。お聞きしていると、アレンジだけでなく演出にも関わっているんですね。

大山 ただ、演出は演出のチームがいるので、僕は最初に音を作るときと、途中で話をするくらいでしたね。峰岸さんやほかのスタッフの方々が音も演出も見ているので、僕から音を作って受け渡して、あとはそこから演出も作っていただいて、という感じです。ただ、演出や踊りを取りまとめているめろちん(ニコニコ動画などの踊り手として活躍。振り付けやDJなども手掛け、シオカラーズ、テンタクルズの振り付けのほとんどを担当している)を含め、皆さんと関わるようになって長いので、そこも意思疎通が取りやすくなっていますね。とくに、めろちんはDJをやっているから、こっちの意図を汲んでくれるだろうなと思いながら音を作ると、ちゃんと汲んでくれますし。

――ああ、信頼関係ができていて、お互いのメッセージを自然と拾えるというのはいいですね。

大山 シオカライブ、ハイカライブのチームは、そういうことがすごく自然にできていた印象がありますね。

イイダのショルキーの秘密

――ハイカライブより以前のお話ですが、最初にテンタクルズを見たときの印象はいかがでしたか?

大山 “カッコいい”という印象でしたね。最初はトレーラーで観たんですが、「カッコいい」というのと同時に「これでライブやるなら、どうする……?」っていうのは、やっぱり最初に考えちゃいました(笑)。でも、『フルスロットル・テンタクル』は最初から好きな曲だと感じていたので、ライブでやれるんだったら楽しそうだなとも思っていました。

――シオカラーズとはかなり方向性が違って、驚きましたよね。

大山 そうですね。予想はしていなかったです。「こう来たか!」っていうのはありました。

――大山さんの中にあるシオカラーズ、テンタクルズのイメージをそれぞれ教えてもらっていいですか?

大山 僕としての解釈ですが、シオカラーズはどこまでいっても王道アイドルでいたいという想いで、意識して作っている気がします。僕の中でテンタクルズはアーティストらしいアーティストで、ヒメがああいう自由な立ち位置でいて、イイダはマルチに何でもできて歌もうまい、ハイカライブでもそういう見せかたができたらいいなと思ってやっていました。

――ハイカライブではイイダがショルキーを持って演奏する部分がありましたが、あれはどういった経緯で決まったのでしょうか?

大山 順序立てて言いますと、最初の打ち合わせのときに、イイダはDJセットありきで考えていたので、「DJセットはマストだと思うので、DJソロがなければおもしろくないと思うんですよ」といった話をしていたんです。で、あとはイイダがずっと歌うというのもあまり想像しづらかったので、「キーボード持って出てきたほうがおもしろいですよね」みたいな話もして。そういう話を、たくさんの人がいるシーンとした大きい会議室で、僕と峰岸さんだけがめっちゃ盛り上がってやっていたんです(笑)。

――(笑)。

大山 けっこう早い時期の打ち合わせでいろいろ盛り上がって「こんなことやれたらいいですね」といった話をしたので、その時点で、ボイスを新しく収録することやイイダがある程度動くことなどを決めていた気がしますね。

――ゲーム内ではショルキーを使っているパートもないですから、完全にライブ用に作ったわけですよね。

大山 そうですね。結果的には大正解だった気がします。テンタクルズは、アレンジしながら「これは何のソロにしようかな」と考えて、DJソロを頭とお尻に入れれば盛り上がるかなと。それで、最初の『ウルトラ・カラーパルス』と最後の『フルスロットル・テンタクル』に入れて、真ん中をショルキーにしようと『レッド・ホット・エゴイスト』に入れました。

――ショルキーを弾くイイダの動きは、ある程度曲に合っているようにも見えました。そういった動きの監修もされているのでしょうか?

大山 いえ、僕は一切していないです。スクラッチの動きとかは、めろちんが理解しているでしょうけど、キーボードもある程度合っていましたよね。だから、あれは映像担当の方ががんばって作られたんだと思います。

――そうなんですね。譜面ができあがってそれを渡したら、あとは演出のチームがそれを見ながらやっていくと。

大山 いやー、この動きをつけている時点ではたぶん譜面は渡してすらいないと思います。

――えっ!?

大山 だから、たぶん音だけで判断してやっていると思いますよ。

――す、すごい。いわゆる“耳コピ”に近い状況なんでしょうか?

大山 そうだと思いますね。僕も詳しいことはわかりませんが、テンタクルズの動きは指まではモーションキャプチャーできていないはずなので、あのショルキーの指の動きは映像制作時点で音を聴きながらがんばったんじゃないかなと。

――じゃあ、実際に演奏と合っているような動きを見て、大山さんも驚きました?

大山 リハーサルの前に一度スタジオでデモをやるんですが、そこで見たときは感動しました。「おお!」と(笑)。