ゲームファンの投票などにより、年間を代表するにふさわしいタイトルを選出する、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)主催による日本ゲーム大賞 年間作品部門。その2017年の優秀賞を受賞したタイトルのクリエイターに受賞時の感想を聞くインタビュー企画。今回は、『ペルソナ5』で優秀賞を受賞した、アトラスの橋野桂氏へのインタビューの模様をお届けしよう。

橋野桂氏

アトラス 『ペルソナ5』ディレクター&プロデューサー

「日本ゲーム大賞にはドラマ性がある」

『ペルソナ5』橋野桂氏に聞く、「おもしろいものは万国共通」【日本ゲーム大賞特集】_02

――『ペルソナ5』が日本ゲーム大賞 年間作品部門で“優秀賞”を受賞したときのご感想を教えてください。

橋野 うれしいのひと言ですね。

――日本ゲーム大賞にはどのような印象をお持ちですか?

橋野 賞を欲しいとかはあまり思わないほうなのですが、フューチャー部門はユニークだなという印象がありますね。ユーザー投票で決まるので、特別な思いはあります。東京ゲームショウに来場したゲーム好きユーザーのみなさんの熱気を、ダイレクトに受け取ったような気持ちになります。

――フューチャー部門も、喜ばれるメーカーさんが多いようですね。

橋野 まだゲームがリリースされていないのに表彰されるというのは、あまりないことですよね。とてもおもしろい賞だと思っています。『ペルソナ5』は、2015年にフューチャー部門を受賞させていただいたんですよ。これは、僕の開発人生でも、アトラスとしても初めてでした。アトラスでのゲーム開発は、どちらかというと好きにやらせてもらっていて、ユーザーのみなさんが求めているモノを作れるタイプではないのですが、フューチャー部門を受賞したときは、シリーズがうまく育っていって、ユーザーのみなさんや業界全体から“期待作のひとつ”というポジションを担わせていただいているような感覚でした。

――フューチャー賞を受賞して、その後発売されたタイミングで“優秀賞”を受賞するというのは、“ユーザーのみなさんからの期待にちゃんと応えた”という答え合わせのような感じにはなっていますね。

橋野 そうですね。やはりお客さんに喜んでいただけないとつぎが作れないので……。その期待の形としてフューチャー部門があって、ある意味で、その振り返りの結果として日本ゲーム大賞 年間作品部門があるので、そこはユーザーのみなさんとの一体感を感じます。東京ゲームショウはプレッシャーのかかる時期ですが、生でお客さんの反応が見られる場でもあって、開発者としては楽しみでもあるし、緊張もするイベントなんです。フューチャー部門で期待していただいて、ソフト作りに励んで、最終的に日本ゲーム大賞でユーザーのみなさんの期待値に対する反響がわかる。そういう意味では、日本ゲーム大賞には何かのドラマ性を感じますね。

――クリエイターからすると、東京ゲームショウに出展することは、プレッシャーがかかることなんですね。

橋野 かかりますね。それまでの宣伝的な関わりは、間接的なものばかりなので、ダイレクトにお客さんの反応が伝わってくる東京ゲームショウはお祭りみたいな感覚です。他社の新タイトルやメディアの方々の記事など、さまざまな意見や感想が出るので、いろいろと気になる時期ですね。

――東京ゲームショウの会期中に行われる日本ゲーム大賞の授賞式は、感慨もひときわかもしれませんね。

橋野 臨場感がありますね。事前の段階では、自分以外はどのタイトルが賞を取るか分からないのですが、受賞者席に座っていると、「あの人がいるから、あのタイトルが選ばれたんだ」ということがわかるんです。「あのタイトルはどうなんだろう? いないぞ」と思っていると、授賞式の開始ギリギリになっていらっしゃって、「やっぱりそれはそうだよな」とか思ったり(笑)。楽しいですね。

――ああ(笑)。年間作品部門の“優秀賞”ともなると、その年度をその年を代表するタイトルに関わるクリエイターが一同に介するわけで、その場に居合わせたときはうれしいものですか?

橋野 うれしいですね。緊張もしますし。今度、また違うゲームでも来られたらいいなとは思います。

『ペルソナ5』橋野桂氏に聞く、「おもしろいものは万国共通」【日本ゲーム大賞特集】_03
日本ゲーム大賞 2017授賞式の模様から。

――今回のインタビューは、日本ゲーム大賞と海外での賞を絡めたものになっているのですが、海外で賞を受賞されたことに関してはどう思いますか?

橋野 うれしいですね。アトラスは、伝統的に作り手が“おもしろい”と思ったものをリリースしているので、「どうしたら海外で受け入れてもらえるだろう」という発想ではあまりモノは作っていないんです。でも、日本ゲーム大賞で賞をもらったあとに、海外でもノミネートされたりすると、自分たちがおもしろいと感じたものが日本と同じように海外でも通じた喜びはあります。「おもしろいものは万国共通なんだ」という安心感はありますね。

――おもしろいものは洋の東西を問わず共通であるという認識が得られて……という感じですか。

橋野 アトラスのゲームは個性的なものが多いです。こだわりの部分は個性的ではあるけれど、受け取っていただくときは、どんな方でも個性的なものが好きな方なら遊んでほしいという思いがあるので、そういう意味では広く受け入れられたというのは、ものすごくうれしいです。『ペルソナ5』では、海外のお客さんがおもしろいと感じてくれた点が、日本のユーザーのみなさんが喜んでいるポイントとあまり変わらなかったんです。そういうのも本当にうれしいですし、すごく励みになります。

――賞を受賞されるということは、“自分たちのおもしろいと思うものが認められた証”という意味合いが強いんですね。

橋野 そうですね。賞をいただけたことで改めて取材を受けたり、意見交換もできますからね。開発室と外とのつながりというのはあまり持てていないので、賞というのは、ひとつのきっかけになります。これはアトラスの特徴だと思うのですが、外世界とあまりつながるということをしないので……。

――言ってしまうと、賞というのは、外とのコミュニケーションの手段というか、つながりのパイプみたいな一面もあるのかもしれませんね。

橋野 そうかもしれないです。他のクリエイターとも、たまたま授賞式とかでお会いすると、「お互いに同時期にリリースして、同じようにお客さんに評価された」みたいな仲間意識が芽生えたりするんです。同じ時期をがんばった仲間というか(笑)。

――それは、ほっこりします(笑)。ところで、近年日本のタイトルが海外の賞でたくさんノミネートされたりと、一時期に比べてさらに注目を集めている印象がありますが、この状況をどう分析されますか。

橋野 いまは、「どうしたら海外のユーザーのみなさんにも受け入れてもらえるだろう」ということを分析して試行錯誤する時期が過ぎて、日本の開発者が海外の市場のニーズを掴みつつ、日本のお客さんにも喜んでいただけるという、両方が叶っている時期になってきているのかもしれません。マンガやアニメ、映画、ゲームなど、海外でも評価される“日本ならでは”のコンテンツはどんどん出てきています。日本の賞もいただいて、同時に海外の賞もいただけると思うんです。僕らは海外で……というのはあまり考えていないので、『ペルソナ5』の場合は謙遜しているわけではなくて、本当にたまたまなので、これはあくまで一般的な話ですけども(笑)。

――『ペルソナ5』は海外をあまり意識していなかったとのことですが、結果として海外で成功した要因はどこにあると自己分析していますか?

橋野 そうですね……。海外の一般的なRPGとはシステムや描いている物語が違うので、珍しさはあったとは思います。“日本人ならではのゲーム”というところを評価していただけたのかなと。

――出来上がったタイトルが海外で受けいれられるかどうかは予想されますか?

橋野 当然します。自分たちは「海外を意識しない」という意識のしかたかもしれません。海外にアトラスや『ペルソナ』シリーズファンがたくさんいることも知っていますし。まあ、海外のヒーローものは、あくまで社会の中で罪を犯した者と正義を標榜する者との対立が描かれることが多いです。『ペルソナ5』は怪盗活劇として、いわゆる勧善懲悪ではない点が、海外の人にもヒーローモノとして受け入れられるかもしれないなとは思いました。

――日本と海外のお客さんとの違いはどのへんにあると分析しています?

橋野 育ってきた環境やモノの好みの違いはあるでしょうが、基本的には「いままでにないモノをやりたい」と感じているハズだと思っています。いま僕はファンタジーRPGを作っていますが、ファンタジーRPGって海外にたくさんありますよね。その中で、「海外の方が好きなファンタジーRPGって何だろう」という発想で作ると、海外の方に向けたものになってしまいますが、「いままでにないファンタジーRPGって何だろう?」という発想だと、これまでにないものなので、日本のファンの方も喜ぶし、海外の方にも喜んでいただけるのではないかと思っています。

――ちなみに、海外で賞を取ったことで、日本市場に何か影響があったりしました?

橋野 影響というよりは、スタッフの中では「ノミネートされたらしいですよ!」、「すごいね!」といった話になったりはします。わりとみんな海外でノミネートされることに対して他人行儀というか……。「そんな大それたゲームじゃないのに」って謙遜するスタッフが多いです。たぶん、変なプレッシャーをもらいたくないんだと思います(笑)。そこがアトラスっぽいですけどね。

――たとえば、賞を取ることによって、開発チームどうしで「これから開発をがんばろう!」とか、一致団結のきっかけになったりなんてことは?

橋野 ないですね(笑)。結果としてトロフィーをいただいたりはしますけど、みんなでそれを眺め合うというようなことはしませんし……。なんかカッコつけているというか、そこまで一喜一憂はしないけど、内心は、本当は嬉しいという感じだと思います。

――それでは最後に、ユーザーのみなさんに向けてひとことお願いします。

橋野 『ペルソナ5』に限らず、アトラスのゲームはすべてユーザーのみなさんに支えられてきた実感がとてもあります。『ペルソナ3』のときに世界観をガラリと変えたときは周囲の反応もあまりよくなくて、危機的な状況に陥ったタイミングは何度もありました。その度にユーザーのみなさんが盛り上げてくださって救われたんです。その延長線上に『ペルソナ5』があって、“優秀賞”にも推していただいて、ユーザーのみなさんのおかげで何とか生き延びているというのが実感です。今後も、いまの姿勢を貫いていきたいと思っているので、よろしくお願いします。

『ペルソナ5』橋野桂氏に聞く、「おもしろいものは万国共通」【日本ゲーム大賞特集】_01

 というわけで、お気に入りのクリエイターにとって大いに励みになるかもしれない日本ゲーム大賞 2018の“年間作品部門”の一般投票ですが、そろそろ締め切り間近(投票は2018年7月20日いっぱいまで!)。2017年4月1日から2018年3月31日までに日本国内でリリースされた、「これが好き!」というタイトルにぜひとも一票を!