マーベラスがインディーゲームに注力する理由

 『閃乱カグラ』や『牧場物語』などのタイトルを展開するマーベラスが、インディーゲーム事業に積極的に取り組もうとしている。2017年にはポーランドのインディースタジオEXOR Studiosが開発した『X-Morph:Defense』を国内向けにリリース。さらに、現在進行中のプロジェクトとして、『アスタブリード』を開発したえーでるわいすの新作タイトル『天穂のサクナヒメ』が明らかとなっている。そんなマーベラスのインディーゲームへの取り組みについて、コンシューマ事業部の事業部長を務める佐藤澄宣氏に聞いてみた。

マーベラスのインディーゲーム事業の取り組みを聞く、「海外デベロッパーと国内のユーザーを繋ぐ架け橋になりたい」_01

マーベラス
コンシューマ事業部
事業部長

佐藤澄宣氏

マーベラスブランドの拡幅のためのインディーゲームへの取り組み

――マーベラスのインディーゲームに対する取り組みについてお話をうかがうにあたって、まずは佐藤さんはインディーゲームのどのようなところを魅力に感じているのですか?

佐藤 クリエイターさんたちが、自身が納得するまでゲームを丁寧に作り込んでいるところです。ユーザーである私たちからするとクリエイターさんの想いや情念のようなものが伝わってきて、そこがいいです。どちらかというと“商品”というよりは“作品”というイメージが強く、そのあたりは私としては凄く魅力に感じています。

――いつぐらいからインディーゲームを意識されるようになったのでしょうか。

佐藤 いちユーザーとして『LIMBO』や『INSIDE』に感銘を受けました。「少人数で制作するインディーでも、これだけ魅力的なものが作れるんだ」と思ってから、興味を持ち始めました。ビジネスとしては、2年前からです。私がコンシューマーの事業部長をやらせていただくことになったのが2年前で、海外タイトルを国内で販売するビジネスを展開しようとしたんです。そのときにいくつかの作品に触れていたなかで、「じつはこれはインディーゲームなんです」というタイトルが多くて、興味をより強くしました。

――インディーゲーム事業に取り組むきっかけとなったの、そのような流れからですか?

佐藤 そうです。昨年、ポーランドのEXOR Studiosが開発した『X-Morph:Defense』というタイトルをリリースさせていただいたのですが、あのタイトルは私がプレイして惚れ込んでしまったんです。そんな『X-Morph:Defense』を、お客様へ届ける手助けができればいいなと思いました。

――『X-Morph:Defense』に惚れ込んだのが、インディーゲーム事業を始めるきっかけになった部分もあると?

佐藤 はい。完全にきっかけになっています。私にとっては影響が大きい体験でした。

――そもそもマーベラスが海外タイトルを日本で積極的に展開することになった経緯は?

佐藤 マーベラスは、コンシューマーゲームを始めとするゲームビジネス以外にも、さまざまな事業に取り組んでいる総合エンターテインメント企業です。そんななか、マーベラスのコンシューマーゲームに対して、お客様がどういったイメージを持ってくださっているのか、正しく伝わっていない部分もあるのではないかと感じていました。そのブランドイメージを少しでも高めたり、広げたりしていこうというなかで、インディーの優れた作品を国内のお客様にお届けして、ラインアップの幅を増やしていくというのが、今回の取り組みの主旨です。

――では、インディーゲーム事業に取り組むにあたって、どのような事業戦略をお持ちなのですか?

佐藤 今後のお話をさせていただきますと、マーケット的には日本を含めたアジア市場に展開したいと思っています。欧米のゲームを国内およびアジア地域に届けていきたいです。とくに海外インディーはこれまでPCが主戦場でしたが、アジアでもプレイステーション4やNintendo Switchが普及してきていて、市場を広げられる可能性があります。アジアのお客様に、欧米の良作をコンソールでお届けする架け橋になれればいいなと思っています。一方で、日本のインディーゲームタイトルは、マーベラスの子会社がアメリカと欧州にありますので、そことうまく連携して欧米のお客様に届けていくつもりです。ちなみに、『X-Morph:Defense』は、ダウンロード専売なのですが、日本以外のアジア市場でも私たちがパブリッシングを担当させていただいています。じつは、マーベラスがアジア圏でパブリッシングを担当させていただいたのは、今回が初めてなんです。そういった意味でも、記念すべきタイトルと言えます。

――そうだったんですね。ちなみに、パッケージ版のパブリッシングも今後アジアで展開する予定はありますか?

佐藤 将来的には検討していきたいですが、なかなか簡単なことではないとは認識しています。アジア流通に関しては、昨年からセガさんと組ませてもらっています。セガさんに当社の商品をお預けして、アジア圏でのパブリッシングを担当していただいています。

――いま、日本のパブリッシャーは中国や台湾などのアジア圏に力を入れていますが、マーベラスにとっても、そこは外せない市場ということですね?

佐藤 そうです。この先は東南アジアも視野に入れなければならないと思います。いままではマーケットの規模に対してローカライズしなければならない言語数が多かったりして、なかなかコストとマーケットが見合わないというネックがあって、二の足を踏んでいました。ですが、ソニー・インタラクティブエンタテインメントさんもプレイステーション4を東南アジアで訴求していきたいという戦略をお持ちですし、そこに私たちマーベラスも当然乗っていくべきだと思います。

マーベラスのインディーゲーム事業の取り組みを聞く、「海外デベロッパーと国内のユーザーを繋ぐ架け橋になりたい」_04
マーベラスがインディーゲームに取り組むきっかけとなった『X-Morph:Defense』。

開発の援助では無い形でインディータイトルをユーザーに届ける手助けを担う

――では、タイトルセレクトに関しては、どのようなスタンスなのでしょうか?

佐藤 いまマーベラスでは、開発体制はスタジオ制を取っています。1st Studioでは、バンダイナムコエンターテインメントさんの『GOD EATER 3(ゴッドイーター3)』や、先日発表した『DAEMON X MACHINA (デモンエクスマキナ)』を開発していますし、『閃乱カグラ』を中心に展開している、HONEY∞PARADE GAMESもあります。もうひとつが『牧場物語』シリーズを中心に手掛けているチームです。それとは別に我々のビジネスサイドの事業部があって、それぞれに責任者がいます。つまり、要は各スタジオのどこかがそのタイトルに惚れればゴーサインを出します。

――インディーゲームにしても、各スタジオにタイトルが紐付いている感じですか。

佐藤 そうです。別にインディーゲーム事業部というものがあるわけではありません。各スタジオが責任を持って、担当するインディーゲームの販売をサポートしていくという体制です。

――ということは、極論ですが、各スタジオで気に入ったタイトルがなければ、1年間で1本もソフトがリリースされない状況もあるということですか?

佐藤 はい。私の理想としては、年間5本くらいはリリースしたいとは思っていますが、何より作品のクオリティーを優先で考えています。とはいえ、もし各スタジオ付けにならなくても、私が統轄するコンシューマ事業部は海外とやり取りするローカライズチームを持っていますし、セールス&プロモーショングループもありますので、事業部サイドで展開することもできます。そのへんは臨機応変に対応していくつもりです。まだ発表はしていませんが、じつはそういうタイトルもすでに動いています。

――担当タイトルが各スタジオの判断ということで、広いジャンルの作品に対応できそうですよね。

佐藤 まさにその通りです。当社には『閃乱カグラ』もあれば『牧場物語』もあります。タイトルのカラーはあくまでスタジオごとに色分けされるのかなと思っています。ジャンルを限定するわけでもないですし、テイストを固定するわけでもなくて、純粋にゲームのクオリティーを見極めて、日本のお客様に届ける価値があるものをやらせていただきたいです。

――インディーゲームスタジオがマーベラスさんと組みたいと思ったら、けっこう難易度が高そうですね。

佐藤 そこはとてもシンプルで、要はゲームのクオリティーありきですし、それが本来のあるべき姿なのかなと思います。ひとつ明確にしていることがあって、私たちはごいっしょするデベロッパーさんに対して、その内容に関しては口出ししないということです。もちろんサポートを求められればお手伝いしますが、私たちが扱うからといって、「ここを変えてください」といった口出しはしたくありません。そもそも、私たちが関与することでインディーらしさみたいなところが失われてしまっては本末転倒なので……。私たちはあくまでも“架け橋”になってお客様にお届けするというスタンスです。

――たとえば「日本市場はこちらのほうが売れそうだけど」みたいなことに対しても、何も口出しはしないということですか?

佐藤 本当に細かいところだけです。タイトル名が英語表記のみであれば、「ロゴはカタカナを併記しましょう」とか、「キービジュアルを調整しましょう」とか、それくらいです。先日のBitSummitに出展させていただいた『天穂のサクナヒメ』に関しては、歌うキャラクターがいて「キャラクターに声優さんを付けたい」というお話をいただきまして。そこは、求めていただければ私たちのノウハウを提供します。タイトルによってはサポートの仕方もひとつではなくて、臨機応変に対応して、デベロッパーさんが望むものには応えていきたいです。

――BitSummitでは、「国内タイトルは家庭用ゲーム機で発売するためのサポートを行っていく」とコメントされていましたが、国内タイトルはすでに発売されているタイトルのコンシューマー展開のサポートがメインになるのでしょうか。それとも、何も決まっていない状態からマーベラスさんと手を組んでタイトルを出すことは考えているのですか?

佐藤 そちらもありえます。『天穂のサクナヒメ』もそうですが、もともとえーでるわいすさんにはマーベラスUSAのスタッフがアプローチをして、「つぎのタイトルをいっしょにやりましょう」ということで生まれていますし、ゼロべースから始まることは可能性としてはあります。ただ「こういうタイトルを作ってください」と、こちらから企画を依頼することはありません。

――ちなみに、『天穂のサクナヒメ』はどのような開発体制なのですか? 開発はHONEY∞PARADE GAMESで?

佐藤 いいえ。『天穂のサクナヒメ』の開発には、マーベラスは一切関わっていなくて、HONEY∞PARADE GAMESは責任を持ってパブリッシングをするという形です。いわば、プロデュース業ですね。開発はあくまでえーでるわいすさんのほうで担っていただきます。先ほどお話した声優面のサポートは、HONEY∞PARADE GAMESのスタッフが協力していますが、それはあくまでサポート的な部分です。

マーベラスのインディーゲーム事業の取り組みを聞く、「海外デベロッパーと国内のユーザーを繋ぐ架け橋になりたい」_03
HONEY∞PARADE GAMESがプロモーションを全面的にサポートする、えーでるわいす開発の『天穂のサクナヒメ』。

――なるほど。各スタジオがサポートするということであれば、各スタジオのテイストに合ったインディーゲームが出たり、各スタジオならではのサポートが実現できるということですよね。

佐藤 そうですね。ここ数年たくさんのメーカーさんがインディーゲームに取り組んでいらっしゃいますが、そこが当社と他社さんとの差別化に直結してくる部分だと認識しています。それぞれのスタジオの個性を持ってサポートするという体制があるということは、さまざまな選択肢があるということでもあります。スタジオごとにカラーがぜんぜん違うので、バラエティーに富んだタイトルを展開して、幅広い層に合わせることができるんです。

――逆に言えば、そうやってインディーゲーム開発者とやり取りする中で、各スタジオにも化学反応が起きることもありそうですね。

佐藤 インディーゲームのクリエイターさんたちは “作品として作り込む”ことに真摯に取り組まれているので、そういうところから受ける影響はあると思います。

――いずれにせよ、基本タイトルは厳選して出していくといった感じになりそうですね。

佐藤 はい。私たちとしては「マーベラスからリリースされるインディーゲームはクオリティーが高い」、「マーベラスが選んできたタイトルはおもしろい」と思っていただけるようなブランドイメージを目指しています。

――先ほど、年間5タイトルが目標とおっしゃっていましたが、そのへんが責任を持ってユーザーさんに届けられるギリギリのラインという思いもありそうですね。

佐藤 そうですね。いろいろとご紹介いただいているタイトルはたくさんあります。私たちとしても扱いたいなと思っていても、まだ完成に1年とか2年くらいかかったりというものもありますし。

――「マーベラスさんとだったら、やりたい」という反応もあったりするのですか。

佐藤 はい。ありがたいことに、BitSummit以降、お話をいただく機会が増えました。もちろん、こちらからアプローチしているタイトルもあります。国内のローカライズのチームもコネクションを持っていますし、マーベラスUSAも独自に動いています。

――ちなみに、インディーゲームを展開するにあたって、とくに力を入れるプラットフォームはありますか。

マーベラスのインディーゲーム事業の取り組みを聞く、「海外デベロッパーと国内のユーザーを繋ぐ架け橋になりたい」_02

佐藤 タイトルバイタイトルになると思っています。作品のテイストやジャンルによって適しているプラットフォームはありますし、特定のプラットフォームに特化するということは考えていません。ただし、国内で売らせていただくからには、ダウンロードだけではなくて、パッケージビジネスとして展開したいという方針はあります。

――パッケージにこだわるのですね。

佐藤 われわれ自体がパッケージで発売したいという想いは当然ありますが、すでに海外で配信されているダウンロード専売タイトルですと、リーズナブルな値付けがされている場合が多く、パッケージとしての発売が難しいというケースも当然あります。

――パッケージ化を喜ぶインディーゲームの開発者は多いですしね。

佐藤 “形ある物になる”という感覚は、作り手として喜んでいただけるかもしれません。それ以上に、マーケット的に見ても、IP(知的財産)を知ってもらうという意味で、全国のお店で商品が並んでいるというのは意義のあることだと私たちは考えています。とくに日本においては、パッケージビジネスはとても重要だと認識しています。

――さきほどおっしゃっていたとおり、コンシューマーに対するこだわりもある?

佐藤 はい。基本的にはコンシューマーを中心に展開したいです。とはいえ、そこに固執するものでもありません。たとえば、新しいPC系のプラットフォームなどは、我々がそこにタイトルを提供できるようにルートを作ることで、デベロッパーさんにとっても販路が増えてメリットになると思います。

――佐藤さんとしては、今後のインディーゲームシーンの盛り上がりにも、大いに期待するところがある?

佐藤 はい。それはBitSummitでも感じました。今後はさらにリッチな作りのゲームも増えてくると思います。私たちのようなインディースタジオをサポートするメーカーも、今後はさらに増えてくるかもしれませんが、少なくともマーベラスとしては、いい意味で口出しはせずに、インディーゲームらしさをデベロッパーさんに貫いてもらう姿勢でいます。私たちはインディーゲーム市場の邪魔をすることなく、あくまでお客様との架け橋であるというのは貫きたいです。

――それが、マーベラスのインディーデベロッパーに対するスタンスであると?

佐藤 私たちは、インディーゲームデベロッパーの皆さんに開発費を支援するということはしない方針ですが、プロモーション費はきちんとかけて、しっかりと売り出していきます。インディーゲームデベロッパーさんから預かったタイトルを、より多くの方に訴求するために、プロモーションやローカライズ費用などを負担して、「大切に売っていく」という点で協力していきたいです。

――わかりました。最後にマーベラスのインディーゲーム展開に期待しているファンに向けてメッセージをお願いします。

佐藤 私たちとしては、マーベラスがもっとお客様から期待していただけるように、インディーゲームはもちろんのこと、これからもどんどん良質なラインアップを揃えていきたいと思っています。そのうえで、新しい“マーベラスのブランドカラー”をより鮮明に打ち出していきたい。まだ、発表していないプロジェクトも多数ありますし、今年は自社ブランニュータイトルの発表も複数控えています。マーベラスの家庭用ゲームでの新たな展開に期待してください。