土屋和弘(つちやかずひろ)
『ロックマン11 運命の歯車!!』プロデューサー 土屋和弘氏(文中は土屋) 『バイオハザード0 HDリマスター』や『アスラズ ラース』など、数々の作品を手掛けている。
小田晃嗣(おだこうじ)
『ロックマン11 運命の歯車!!』ディレクター 小田晃嗣氏(文中は小田) オリジナル版とHDリマスター版の『バイオハザード0』などでもディレクターとして活躍している。

2018年6月13日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスで開催されている世界最大のゲーム見本市“E3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)2018”。さまざまなタイトルがプレイアブルを出展する中、とくに注目を集めているのが、カプコンの最新作『ロックマン11 運命の歯車!!』(以下、『11』)だ。海外では『Mega Man(メガマン)』と呼ばれており、日本のみならず、世界中に多くのファンがいる。8年振りの新作ということで、聞きたいことが山積みだ! そこでプロデューサーの土屋和弘氏、 ディレクターの小田晃嗣氏に本作のお話しをうかがった。

ブロックマン&ヒューズマンのテーマとは
――E3でブロックマンステージをプレイアブルにした理由を教えてください。
土屋 基本的なロックマンの要素がひと通り網羅されていて、ロックマン特有のステージギミックが色濃く表現されているのがブロックマンステージなのでプレイアブルに選びました。本作は、各ステージのギミックがバラエティに富んでいて、かなり作り込まれていますが、まずは『11』というゲームを体験してもらうために、比較的スタンダードなステージをE3で公開しました。

――まだ公開されていないほかのステージのギミックも気になりますね。
土屋 ロックマンのよさであるステージごとの楽しみや、手強いボスがいっぱい用意されているので、今後の続報に期待していただきたいです。
――ほかのステージのボスの詳細は公開されていませんが、姿はパッケージイラストで確認できますよね。
土屋 ビジュアルだけは公開していますが、ブロックマンとヒューズマン以外の名前はまだ秘密です。でもボスの姿から名前を考察する人もいるんじゃないでしょうか。
――そもそもなぜ、ヒューズマンとブロックマンという名前になったのでしょうか? 現在のデザインに落ち着いた経緯もお聞かせください。
小田 この2体だけに限った話ではないですが、名は体を表すというところをいちばん大事にしたかったんです。属性をわかりやすくするなら、ヒューズマンではなく電気マンがいいのかもしれませんが、それだとあまりにもそのまま過ぎるので、さまざまな人が理解できるものは何だろうと考えた末、ヒューズマンとブロックマンという名前に落ち着きました。

――電気を表すものっていろいろありますけど、ヒューズなら何十年経ってもなくなりませんもんね。
小田 開発初期の段階では、ヒューズマンではなく、別の名前だったんですけが、おっしゃるとおり、それは数十年後に残っていないものがモチーフになっていたのでボツになりました。
――技術が発達していくことで失われていくものって多いですからね。
小田 そうなんですよ。たとえば“ビデオマン”って言われても、「何ですかそれ?」と言われる時代がすぐに来ると思うので(笑)。
――そういったことも考慮して名前を決めているんですね。ヒューズマンとブロックマンのデザインはどのように決めたのでしょうか?
小田 担当デザイナーいわく、「ブロックマンは、巨大化した後のギャップを出すために、あえて頭身低めのずんぐりしたフォルムにしました。そのうえで変形前のキャラクターとしてのまとまりと、変形後の顔っぽさとの両方から決めていきました。ヒューズマンはシリーズ初期から中期のオーソドックスなボスデザインをイメージして、シルエットの特徴は頭部のパーツのみにして詰めていきました」とのことです。

――個人的にはヒューズマンが好きです!
小田 ありがとうございます。とくにヒューズマンは、特徴がシンプルなだけに、担当デザイナーも非常に苦労したようです。顔については、『ロックマン』のボスの中に絶対必須の、“肌の出ているイケメンにする”と決めていたみたいです。

――ボスの特徴を反映させた、特殊武器装着時のロックマンのデザインもたいへんそうですね。
小田 こちらもデザイナーのこだわりがあって、「特殊武器用のデザインはそれぞれ色やシルエットを差別化することに意識を集中させました」と言っていました。ボスの特徴を取り入れながら、一瞬で判別できる、かつコスプレにならないようなデザインを意識したみたいです。
――顔だけロックマンになるのもおかしいですもんね。
小田 まさにそうなんです。ボスのデザインが完成し、特殊武器を装備したときのデザインを作ろうとした際「ロックマンに合わない」ってなって、ボスのデザインをやり直したこともありました。
――絶妙なバランスのうえでデザインされているんですね。
小田 最初はわざとエッジを立てるためにシールドを付けているボスを作ったんですが、特殊武器にしたときに、シールドが被ってしまうとわかりづらくなるんですよ。“ロックマンの目線や表情は、見えていて欲しい”とデザイナーの中に想いとしてあったので、それを統一ラインにしました。

BGMやステージのギミックにも注目!
――ステージセレクト時のBGMはどこか懐かしさを感じたのですが、過去のシリーズのアレンジなのでしょうか?
土屋 サウンドチームには、“過去の曲に捉われずにカプコンのサウンドチームが全力で作ったらこうなります!”という心構えでやってもらいました。
小田 ステージセレクトBGMに関しては、アレンジではなくて、オリジナルなんですよ。恐らくみなさんの記憶の中にあるベストな曲とどこか紐づけられる要素があったので、そう聞こえたんじゃないでしょうか。
――初めて聴くBGMなのですが、ワクワク感がありますよね。
小田 そう思ってもらえると嬉しいです。タイトル画面は「これからがんばっていくぞ! という気持ちが感じられるものにして欲しい」とオーダーしました。ステージセレクトは、「タイトル画面で感じた気持ちをそのままステージ選択画面まで引っ張ってこれるようなBGMがいい」とオーダーしました。結果、あのような勇気を奮い立たせられるような、疾走感のあるBGMになりました。自分でもお気に入りの一曲ですね。
――ヒューズマンステージのBGMも非常に気になりました。
小田 ヒューズマンステージのBGMのイメージは、変電所です。施設、機器、電線といった冷たさや、無機質な感じを漂わせています。サウンドチームには、「敵そのものもたくさん登場するが、無機質な機械が整然と並んでいる様子や、仕掛けが淡々と動作する存在感と冷たさをカッコよさとともに表現してください」とオーダーしました。「それってどんな曲なんだ」ってサウンドチームの人は受け取ったかもしれませんが、結果的にイメージ通りのドンピシャなものが生まれました。

――はやくほかのステージのBGMも聞いてみたいです。
小田 ロックマンのシリーズに関してはBGMもかなり注目されますが、今回、コンポーザーを担当している方の汲み取りようがものすごくて、「こんな感じでしょ?」と言って、すぐに求めているレベルのものを出してくれたので非常に助かりました。私も『ロックマン』の曲が好きなんですが、本作のBGMは歴代のものと比べて違和感がない、ハイレベルなものが仕上がったと思います。
――こだわりのBGMはロックマンの伝統ですよね。伝統といえば、ステージセレクト画面の8分割も昔からあの形ですよね。
小田 そうですね。8体のボスに囲まれることによって、ロックマンがいかに立ち向かっていくかというところを表現しているんです。ボスをすぐに決めるのではなく、まずひと舐めしてから、どのボスの特殊武器がだれに有効か。そして、顔つきから見て、いまの自分ならこのボスに勝てそうかという選びかた、考えかたもできるんです。シリーズおなじみの覆われている図は、伊達に存在するレイアウトではないなと、今回の開発で再認識させられました。
――ボスの顔が全員見えるのがいいですよね。とりあえず全部のボスにカーソルを合わせてみたくなります。
小田 もし円形にしてしまうと、ボスが味方に見えるような錯覚に陥るんです。逆に四角だと不思議と圧迫感を感じるんですよ。
――レイアウトひとつでそれだけ印象がかわるのは驚きです。今回出展された、ブロックマンステージのテーマや特色を教えてください。
小田 “落石注意のアジアン遺跡風探検”がテーマです。降り注ぐブロックが雨あられのごとく積み重ねって、行く手を塞いでいく。それ自体が迷路みたいなものを形作ることもあり、破壊して強行突破するのか、ジャンプでかわしていくのか、そういったアスレチックのような遊びが生まれます。また、ベルトコンベア上での判断ミスは、死に直結することもあります。

――さきほどスタンダードとおっしゃっていましたが、ブロックマンステージは、ロックバスターで破壊する、ジャンプで登っていく、スライディングで切り抜ける、ギアを使い分ける、そういった遊びがバランスよく散りばめられていますよね。
小田 ブロックマンステージは、“今回のロックマンはこうやって遊んで欲しい”という『11』のベースとなるステージとして作りました。癖が強くならないようにしつつ、スピードギアとパワーギアの使いどころを明確にしたギミックを用意して、特徴を付けました。
――ヒューズマンステージはどうでしょうか?
小田 ヒューズマンステージは、危険な電流が飛び交っていて、施設丸ごと“電流イライラ棒”というのがテーマです。とっさの判断と精密な操作が重要になります。
――電気のステージは過去の作品でもありましたが、本作では電源がオンオフするヒューズらしいギミックがおもしろいと思いました。
小田 発せられる電流そのものに注意しないといけないところと、電流の先にある危険を予知しないといけないところ。さまざまな危険が用意されているので、タイミングよく切り抜けるのか、スピードギアを使うのか、状況に応じた戦略が取れる仕掛けになっています。

――そういった演出は、最新ハードだからできるのでしょうか?
小田 そうです。ハードの性能が上がり、表現力が大幅に向上したので、利用しない手はないだろうなと思いました。ほかのステージにも従来の『ロックマン』ではできなかった、大きな仕掛けを入れています。もちろん、ゲームのテンポや操作感をジャマすることなく、本来のおもしろさを体感できるように意識しています。
――ほかのステージにもボスをイメージさせるギミックが用意されているんですよね?
小田 もちろん用意しています。各ステージは、ボスの特色を前面に押し出したデザインやギミックを用意しています。ですので、どのステージにも、ほかにはない特徴的なギミックがあるので、楽しみにしていてください。
――ギミックのほかに、メットールやバットンといった、シリーズではおなじみの敵が出現しますよね。これらの過去シリーズから参戦した敵はどうやって決めたのでしょうか?
小田 印象的で人気がある、かつ正式名称を知らなくても見たことがある、そういった敵キャラクターをいくつか厳選して、最後まで話し合いながら決めました。
プレイアブルの予定と読者へのメッセージ
――ちなみに国内でのプレイアブルの予定はあるのでしょうか?
土屋 現在調整中なので、詳しくはお話しできませんが、E3 2018からそれほど月日が離れていないタイミングで体験してもらえる機会を設けたいと思っています。
――E3 2018で出展されたことでファンの期待が高まっていると思います。最後に『ロックマン11』の発売を心待ちにしている読者の方に向けて、メッセージをお願いします。
土屋 たしかに『ロックマン11』ではありますが、11番目の『ロックマン』として作っている訳ではなく、30年目の記念として作った『ロックマン』であることを大事にしています。シリーズをずっと愛してくれているファンにとっては、いい『ロックマン』になりつつありますし、本作で初めて『ロックマン』に触れて、好きになってくれるであろう未来のファンたちにとっても、とてもいいアクションゲームになっていると思います。ファンの方々がニヤっとする要素もあれば、知らない人でも楽しんで遊べる、そんなすべてのユーザーが同じスタートラインに立てる要素もちゃんと用意されています。本作の魅力は、今後の情報でもお伝えしていきますのでご期待ください。
小田 ファンの方々には、おまたせして申し訳ありませんでした。『11』は、『ロックマン』の発売を待ち望んでくださった方への、カプコンからの“新たな挑戦状”になると思います。皆さんの期待をいい意味で裏切る仕上がりになっているので、ぜひ遊んでもらいたいです。最新作ではありますが、『ロックマン』というアクションゲームの原点的な楽しさを凝縮したものになっていますので、シリーズのファンだけではなく、『ロックマン』を遊んだことがない人にも手に取っていただけるとうれしいです。