心、折れてませんか?
『DARK SOULS REMASTARED』(PS4版/Xbox One版/PC版)がついに発売した。シリーズファンはもちろん、『2』や『3』しか遊んでいない方や、実況動画で興味を持った方にもぜひ触れてみてほしい名作だ。
それにしても……。
ムッズいなあ~~~~。ガーゴイル、こんなに強かったっけ?
おい! やめろ! 火はずるいって!!
……。
お医者さんの力を借りよう
断言してしまおう。『ダークソウル』は難しい。これはもう明らかな事実だ。
凶悪なボス、殺意に満ちたステージ、切なく退廃的なイベントの数々、高い壁を前に膝をついてしまうことを“心が折れる”と表現したりするが、多くのプレイヤーにとって本作はまさに“心を折りにくるゲーム”といえるだろう。
だけどそんな壁を越えた先には、めちゃくちゃ気持ちいい景色が広がっている。屍を積み重ねた末にボスを撃破した達成感はひとしおだ。
“ボワァ~~~~ンンッ”という効果音にあわせて大量の経験値が手に入り、脳内麻薬もドバドバである。僕はもう、効果音だけで気持ちよくなれる身体になってしまった。録音した“ボワァ~ン”を通勤中にリピート再生しながらやる気をひねり出している。パブロフの犬だ。人間性を失う一歩手前。
だけど、まだ足りない。最後まで『ダークソウル』をクリアーできれば、僕はもっともっと気持ちよくなれる。
折れたくない……!
心、強くなりたい……!
というわけで、メンタルヘルス(心の健康)とゲームに詳しいお医者さんを迎えて、『ダークソウル』の中はもちろん、現実でも使える“心が折れない方法”をお聞きする。
鈴木航太先生
ゲームを心身のケアに活かす方法を研究している精神科医。
『ダークソウル』と開発元が同じ『キングスフィールド』シリーズに熱狂した過去を持つ。
※文中では鈴木先生
ゆうすけ先生
心が楽になる考えかたをつぶやくアカウント(@usksuzuki)が人気の内科医。
自身の大好きなゲームやマンガを例に出すことが多く、わかりやすくやさしい語り口で老若男女問わず勇気を与える。
鈴木先生今日は資料を作ってきたので、まずはこちらを使って説明していきましょう。
――ぶ厚い! わざわざ準備していただいて、ありがとうございます。
鈴木先生あははははは、フロム(・ソフトウェア)さんの作品ですからね。
鈴木先生こっちも本気です。
――心強い……!
ゆうすけ先生ぼくは『ダークソウル』シリーズ未経験でして。少し触ってみてもいいですか?
――ぜひ。遊んだうえでのお話もうかがいたいですから。
“心の回復力=レジリエンス”にステ振りしよう
鈴木先生さっそくですが、心が折れるのを防いだり、折れた心を回復させるために役立つのは“レジリエンス”という能力です。
――レジリエンス……?
鈴木先生簡単に説明するなら“心の回復力”のようなステータスですね。これは医療においても重要視されている概念で、ストレスを軽減したり、やる気が燃え尽きてしまうのを防ぐのに大切な要素だと言われています。
――回復力? 防御力とはちがうんですか?
鈴木先生“防御力を上げる”というと硬い鎧を強化して硬くしていくイメージですが、“レジリエンスを高める”というのはむしろ逆で、心を柔らかくて弾力のあるものにして、へこんでもすぐ元通りになるイメージというか。
ゆうすけ先生一般的によく使われるのは、ゴムボールとピンポン玉の例えですね。このふたつのボールをそれぞれ手で押し潰したらどうなりますか?
――柔らかいゴムボールはもとの形に戻るけど、硬いピンポン玉は潰れたまま……?
ゆうすけ先生そうですね。いくら防御力だけを上げたところで、強いストレスがかかれば心はダメージを負って潰れてしまい、もとに戻らなくなってしまいます。
鈴木先生いつ何どき受けるかわからないストレスを硬さや強さだけで防ごうとするのではなく、ダメージを受けても何度でも立ち直れる心を作ろう、そしてそのための回復力を高めようというのがレジリエンスの考えかただと思ってください。
――なるほど……。ゴムボールのように、“ダメージを受けてももとに戻れる回復力”を身に着けようということなんですね。
鈴木先生そういうことです。じゃあ具体的なレジリエンスの高め方、つまりダメージを回復するためのアイテムとか魔法はどうしたら手に入るのか、ご説明していきますね。
ゆうすけ先生鈴木先生、ちょっと待って。
ゆうすけ先生それは僕も教えてほしい。
鈴木先生鉄球が転がってった先です。
――夢中じゃないですか。
やっかいな毒状態は即治療
鈴木先生まず大切なのは、いきなりHPを回復するのは得策じゃないということです。
――え、どうしてですか?
鈴木先生なぜかといいますと、いくら回復魔法をかけたところで、心のダメージの原因となるネガティブな思い込みが残っているからです。
――毒状態でじわじわ体力が減り続ける、みたいな。
鈴木先生あ、そんな感じですね。やっぱり体力を回復させるなら、先に毒を治療したいじゃないですか。
――ネガティブな思い込みって、具体的にどういうものを指すんでしょうか。
鈴木先生そうですね。キツい状況……たとえば“同じボスに何度も負けてしまう”なんて場面を想像してみてください。
――いまのゆうすけ先生みたいな感じですね。
ゆうすけ先生やれる気がしません。
鈴木先生戸部さん(※筆者)だったら、こんなときどんなことを考えますか?
――えっと。「勝つまでやり続けなくちゃ」とか、「えっ、私の腕前低すぎ……?」とか、「ヘタクソが記事書くな! ってネットで叩かれる」とか。
鈴木先生それがネガティブな思い込みです。「~しなきゃいけない」と自分を縛り付けたり、失敗の原因を自分に求めたり、自分に厳しくしすぎるのは精神衛生にあまりよくないですよ。
――たしかに、自分で自分を追い詰めていたかもしれません。
鈴木先生こんなふうに、ネガティブな思考パターンを把握して、徐々にニュートラルな状態に戻すようにして、必要以上に傷つかないように改善していきます。
――それがいわば“心の毒状態を回復する”ってことなんですね。
ゆうすけ先生あとは、気晴らしになる日課や趣味があるといいですよ。カラオケとか運動とか。要は“精神的な落ち込みにストップをかける”という話なので。
――なるほど、辛い気持ちを忘れたり、楽しい気持ちで上書きしちゃおうという。それってゲームもアリなんですか?
ゆうすけ先生僕はしんどいことがあるとゲームに逃げちゃいます。
――先生もそうなんですね! ゲームのやり過ぎはよくない、みたいなイメージを持っている人も多いと思うんですけど……。
ゆうすけ先生うーん。むしろ、なにもかも忘れて作品に没入する時間ってすごく大事だなあ、と。
――どういうことでしょうか?
ゆうすけ先生いまって、スマホやSNSとかが普及して、世の中の情報量が膨大になって、コミュニケーションがものすごく高度化している。人が“ふつうに生きる”ために処理しなきゃいけない情報がどんどん増えているんですよ。いつでもコミュニケーションができるようになったけど、つねに人間関係で頭を悩ませなきゃいけなくなった。
――たしかに休みの日でも仕事のメールには返事しなきゃいけないし、逆に仕事に集中したいときにプライベートの連絡が来ることもあります。
ゆうすけ先生そういうストレスって、無自覚にどんどん溜まっていきますから。“現代人はふつうに生きているだけですごいんだ”くらいの感覚でちょうどいいというか。
――ふつうに生きているだけですごい……なるほど……。
ゆうすけ先生ゲームでも本でもマンガでも、作品に浸るということはひとりの世界に完全に入り込む行為です。忙しい世界との関わりを遮断して、脳と心を休めることも必要なんじゃないかと思ってますね。