2018年5月12日・13日に京都勧業館 みやこめっせで開催されたインディーゲームの祭典“BitSummit Volume 6”。同イベントの2日目に行われたセッション“AI and Consoles”に登壇したモリカトロン 代表取締役 森川幸人氏へのインタビューを実施した。
−−昨年8月にモリカトロンを設立されて、もうすぐ1年を迎えますね。設立後の状況を簡単に教えてください。
森川「いまはモリカトロンでは、ゲームのキャラクターにAIを組み込みたいという話をたくさんいただいています。あるゲームですが、プログラマーが組んだスクリプトを抜いて、そこにAIを導入するといった取り組みをしています」
−−その作品はもう市場に出ているんですか?
森川「まだ開発中です。ですので、まだタイトルを明かすことはできないんですよ。これ以外にも、ゲームの中にAIを組み込む作業を行わせてもらっています」
−−ちなみにBitSummitにはこれまで来られたことはありましたか?
森川「ずっと前から気にはしていましたが、ステージに立つのはもちろん、会場に来るのも初めてです」
−−会場で多くのインディー作品を目にされて、どのように思われましたか?
森川「正直に言うと、会場に来る前はインディーゲームって、よく言えばシンプル、悪く言うとチープな作品が多いんじゃないかなんて思っていたんですが、普通にパッケージ版として発売していないのが不思議なくらい、技術力のある作品がたくさんあったのは驚きでした。ただ、欲を言うと既存のジャンル・カテゴリーに入らないタイトルがもっとあるといいなと思いました」
−−たしかに森川さんが手掛けた『くまうた』(※1)が出たとき、「何だこれは!」って思いましたね(笑)。
森川「あの作品を出したのは、自分でもどうかしていたと思います(笑)。でも、ゲームの紹介記事を作られるとき、ジャンルが“ETC”となっていたのはうれしかったですね。どのジャンルにも属さない作品を送り出せたって、自分にとって勲章のように思っています。またあの当時、ファミ通の浜村さんがわざわざ取材に来ていただいたことも感激でした」
−−“くま”に演歌を教えていき、できた歌を“くま”が歌い上げる。当時もそうですが、いま考えてもぶっ飛んだ設定ですよね(笑)。ちなみにこの作品は何人くらいで製作されたのですか?
森川「10人未満でしたね。『がんばれ森川君2号』(※2)のときはプログラマーはひとりしかいませんでしたが、このときはソニーさん(当時のソニー・コンピュータエンタテインメント)のプログラマーが3人くらい投入されていましたね」
−−当時の制作環境って、ちょうどいまのインディーを作られている規模感と似ていますよね。
森川「まさにそうですね。ただ、ひと昔前はプラットフォームホルダーの力を借りないとタイトルを開発したり、販売することはできませんでしたが、いまはそうじゃなくてもゲームを作ってリリースできるというのは大きな違いですね。誰でもメジャーデビューの道が開けているというのは、すごく明るい未来を感じます」
−−インディー作品でも、AIは導入すべきだと思われますか?
森川「僕はインディー作品こそ、AIと相性がいいと思っています。僕らの時代はAIを使うと言ったらフルスクラッチで設計していましたが、いまはAPI(Application Programming Interface)も溢れていますし、低コストで気軽に導入できますよね。インディーの制作現場は予算もそれほどないでしょうから、いちばんのリソースはアイデアに持っていって、確認や調整と言った部分はAIに任せていく。このようにAIをうまく活用していけば、もっといい作品が生み出せるかもしれません」
−−いま、AIは囲碁や将棋に自動運転と、さまざまなところで取り上げられていますが、古くからAIに取り組まれている立場として、現状をどう思われていますか?
森川「やっと時代が来たかってところですよね。『がんばれ森川君2号』や『アストロノーカ』(※3)を作っていた頃はAIって言っても誰も見向きもしてくれなくて、一時期「これはもうダメかな」って思っていたんです。でも、ディープラーニングという技術が広がりだして、それからまたいろいろなお話をいただくようになったんですよね。結果的にAI専門の会社を起ち上げることになったのは、自分でも不思議に思っています」
−−今後、ゲームのAiはどう進化していき、またそれによってどんなゲームが登場してくると思いますか?
森川「いまのAIの状況って、コンピュータやインターネットが普及し出したときと同じような状態ですよね。コンピュータで何ができるの? インターネットが使えると、どう便利になるの? といった感じで、いずれどの分野にも入り込んでいくだろうということはわかっていても、どうなっていくのかいまいちわからない。この中で、ゲームの世界でのAIの使い道は大きくふたつあります。ひとつは、キャラクターの行動パターンなどに用いるAI。AI業界では、(ゲームの)“中のAI”という言い方をしていますが、キャラクターの動きやパラメータの変化を司るものがこれにあたります。もうひとつの使い道ですが、これは(ゲームの)“外のAI”と言いまして、ゲーム全体のバランスを管理したり、デバッグを担当するといった、開発環境のアシストをするものになります」
−−一般的にゲームでAIと言うと、NPCの行動パターンや敵キャラクターの対応といったものがすぐに思い浮かびますが、開発の分野でもAIが活用されているんですね。
森川「よくあるスマートフォン向けのゲームだと、つねに新しいカードが登場し続けたりしていますが、このゲームを長い期間運営しているとアイテム数が多くなり過ぎて、ゲームバランスの調整がものすごく大変になるんですよね。リリース時に登場したキャラクターと、最新のキャラクターで整合性を取る必要性もありますが、人間の作業では限界に達しつつあると思っています。膨大なデッキの組み合わせや成長パラメータで変なことをしてしまうと、バランスを壊してしまいますからね。こういった部分の作業は、AIの得意分野なんですよ。また、働かせすぎても辛いと決して言わないのもAIのいいところだと思います(笑)」
−−たしかに、AIはブラックだなんて言いませんよね(笑)。いずれ効率を重視する作業はAIにとって変わられるなんて話もありますからね。
森川「そうなんです。特定のルールに則った作業はAIに任せたほうが合理化できますからね。AIの最後の課題は、“おもしろいもの”を作り出せるのかだと思います」
−−AIにマンガや小説が書けるのかという議論ってよくされていますね。
森川「書かせることはできますが、全然おもしろくないですよね」
−−そんな森川さんがAIの道に入られたきっかけは何だったのでしょうか。
森川「とくにきっかけといったものはありませんでした。プレイステーションが立ち上がるときに、ソニーさんから「ゲームを作りませんか?」と言われたのがきっかけと言えばそうですが、そのときにたまたまAIという言葉を目にし、このAIを使ってキャラクターが自分でパズルを作り、それを解いていったらおもしろいんじゃないかって考え、企画書にして出したら通ってしまったんです(笑)。だから、その時点ではAIって言葉以外の知識はありませんでした」
−−ゲーム制作が決まってから、本格的にAIに取り組まれたんですか?
森川「そうなんです。でも、やっている途中で段々おもしろいと思ってきて、『がんばれ森川君2号』を作った頃には完全にはまっていました。ですので、それ以降の作品は、このゲームを作るためにどんなAIを用意するかではなく、このAIを使うにはどんなゲームを作ればいいのかという、本末転倒な発想になっていましたよ(笑)」
−−AIありきでゲームを考えられていたんですね(笑)。
森川「『アストロノーカ』はその典型的作品です。遺伝的アルゴリズムというAIを使いたくてしょうがなかったんですが、でもそれだけでは誰も出資してくれないので、このAIにゲームを被せるにはどうしたらいいのか? そんな考えで生まれてきた作品です」
−−いまのAI技術を使って、もう一度『がんばれ森川君2号』や『アストロノーカ』を作ってみようという考えはありませんか?
森川「過去に出した作品をバージョンアップするだけではつまらないですからね。どうせチャレンジするなら、世界の設計からキャラクターの行動、パラメータ生成まで全部AIが行う、フルAIのゲームをやってみたいです。ユーザーは「こんな風になってほしい」というお題を出すだけ。こんな冒険をしたいって言えば、AIがそれに合わせた世界を設計してくれる。そして、キャラクターの行動やパラメータも、AIがすべて生成して賄ってくれるというわけです」
−−普通はプレイヤーがコントローラで操作して、その補助をAIが行うのが普通ですが、それすら無くしてしまうということですか?
森川「徐々にAIを利用する部分を増やしていくのは自然とそうなっていくでしょうけど、いまこの時点でこうやって振り切ったものを作ったらおもしろいじゃないですか。僕の役目は、このようなアイデアを見せることですからね。そうやって何か新しいものをお見せして、つぎの世代の人がそこからちょうどいい落としどころを見つけてくれればと思っています」
−−正直、考えが先を行きすぎていて創造もできないですが、何かすごいものができそうですね。
森川「また、いまゲームを作るのであれば、AIに作らせてみたいと思っています。RPGのようなストーリー性の高い作品は難しいですが、いまのパズルゲームって割とアイデアが出尽くしていますよね。大半が3マッチルールをベースにして、あとはその応用といった感じで、クリエイターも必死に新しいものを考えていますが、AIには人間の想像力を突破してくれる可能性があります。ひょっとしたら、まったく新しいパズルゲームの潮流が生み出されるかもしれませんね」
−−AIにゲームを作らせるなんて発想、思いつきもしませんでした。森川さんのアイデアには驚かされてばかりです。
森川「そのせいで、誰もついてきてくれないんですけどね(笑)。いま話したようなことが当たり前になるのに、また20年くらいかかるのかなぁなんて思ってしまいますからね」
−−技術革新って加速度的に速まっているので、もしかしたらつぎの10年で追いついてくれるかもしれませんよ。
森川「10年後なら、まだ現場にいて「ほら、そうだったでしょ」って言えるかもしれませんね(笑)」