2018年5月12日・13日に京都勧業館 みやこめっせで開催されたインディーゲームの祭典“BitSummit Volume 6”。新作『トラヴィス・ストライクス・アゲイン:ノーモア★ヒーローズ』の出展でBitSummitに訪れていた須田剛一氏(グラスホッパー・マニュファクチュア)に、ゲーム業界を20年間走り続けてきた現在の率直な気持ちや、インディーシーンに対する思いを聞いてみた。

−−今回のBitSummitですが、須田さんはステージイベントの出演予定はないんですね。

須田「今年はないんですよね。昨年、一昨年と出ていたから、お前は出過ぎだってことで、BitSummitのオーガナイザーを務めているベン(DANGEN Entertainment代表のベン・ジャッド氏)が入れなかったみたいなんですよ。来年は来るのやめようかな(笑)」

注)ステージ登壇の予定はなかったものの、ステージイベント“Let’s Play”に飛び入り参加している様子が、グラスホッパー・マニュファクチュア公式Twitterにて紹介されていた。

−−グラスホッパー・マニュファクチュアですが、1998年3月の設立から数えて今年で20周年を迎えました。激動のゲーム業界で20年、さまざまな苦労もあったかと思いますが、あらためていまの率直な気持ちをお聞かせください。

須田「僕はいつも新しいチャレンジに取り組んでいるので、見ているのはいつも未来なんです。いま作っているゲームや、これから作るゲームがあって、その積み重ねで過去ってできていくものだと思っています。でも今年は20周年ということでファミ通さんにも特集を組んでもらったりと、久しぶりに振り返る機会が多かったです。こういった機会がないと過去ってなかなか振り返らないですからね。この20年間は、グラスホッパー・マニュファクチュアがどんな作品を作っていくのかというイメージを持ち続けながら走り続けていました。いまは10年後に30周年を迎えられるように、これからも未来のゲームのことを考えていこうと考えています」

グラスホッパー・マニュファクチュアの20年の歩みとインディーゲームへの思いを須田剛一氏に訊く【BitSummit Volume 6】_01
グラスホッパー・マニュファクチュアの20年の歩みとインディーゲームへの思いを須田剛一氏に訊く【BitSummit Volume 6】_02
週刊ファミ通2017年4月12日号に掲載した特集“グラスホッパー・マニュファクチュア 20周年”の誌面。全16ページものボリュームで、同社のこれまでの歩みと、今後の野望について紹介されていた。

−−つねに未来を見ながら走り続けれこられたということは、この20年はあっという間だったんじゃないですか?

須田「あっという間でしたね。その間には辛いことやうれしいこともたくさんありました。でも、それらは過ぎた瞬間に全部つぎのステップになっています。そうした経験が糧になって、いまの自分があるわけです」

−−この20年、ゲーム業界ではインディーシーンも目まぐるしく変化し続け、市場も大きく成長してBitSummitのようなイベントも開催されるようになりました。須田さんにとってインディーゲームとはどのような存在ですか?

須田「言葉で説明するのは難しいですが、あえて言うなら“忘れもの”みたいなものです。僕らがゲーム業界に携わり始めた25年くらい前って、1本のタイトルを3人くらいで作っていたんですよね。当時のゲーム制作って人員はもちろん、予算も開発期間もそれほど取れなかった時代でした。その後、ハードのスペックアップとともに、ゲーム開発ってどんどん大規模開発になっていきましたが、あの頃の情熱や思いってどこかに置き忘れてしまっていたんですね。そんな“忘れもの”を、いまのインディーゲームは思い出させてくれます」

−−たしかに、いまのインディー開発って制作スタイルも規模感も、’80〜90年代のゲーム制作事情に通じるところがありますね。

須田「『ファイプロ』(※)も最大で5人くらいでがんばってやっていましたからね。自分たちががむしゃらにやっていた時代の雰囲気をいま感じられるっていうのは、素直にうれしいです。インディー作品のなかには、我々がやっていた時代の作品にインスパイアされたゲームが大量にありますが、それって我々がゲームを作り続けてきた中で忘れてきたものを、若い世代のクリエイターがしっかりと拾ってくれていることだと思います。過去に我々がやっていた経験を手本にしつつ、そこに自分たちの発想を加えていき、それがうまく融合して市場が成熟していく。だからいまのインディーシーンは優れたタイトルが多いんでしょうね」

※…ヒューマンより発売されていたプロレスゲーム『ファイヤープロレスリング』シリーズの略称。須田氏は同社に入社後、『スーパーファイヤープロレスリングIII FINALBOUT』(1994年)でディレクターデビューを果たしている。

−−現在のゲーム制作はハリウッド映画のような予算も人員もかける超大作もあれば、小規模開発でもしっかりと受け入れられる作品も登場している。こういった棲み分けがきちんとできているのは、市場にとってもクリエイターにとっても理想的な状況ですよね。

須田「本当に理想的です。マーケットだけでなく開発環境も整っていて、いい状態になってきていますね。昔は仲間と集まって何かを作ろうとしたら、ギターを持ってきて音楽をやるくらいがせいぜいでしたが、いまはそれと同じノリでゲームを作って、メジャーシーンに打って出ることができるんですから。インディーゲームというマーケットができあがったことによって、世界中のクリエイターがゲームを作り、発信できる環境ができている。これって本当に素晴らしいことだと思います」

グラスホッパー・マニュファクチュアの20年の歩みとインディーゲームへの思いを須田剛一氏に訊く【BitSummit Volume 6】_03

須田剛一氏(文中は須田)
グラスホッパー・マニュファクチュア 代表取締役CEO
1993年、ヒューマンに入社。『スーパーファイヤープロレスリングIII FINALBOUT』や『ムーンライトシンドローム』などのゲームを手掛けた後、1998年にヒューマンを退社。グラスホッパー・マニュファクチュアを設立し、代表取締役に就任。“SUDA51”の愛称で世界にその名を轟かせている。
待望の新作『トラヴィス・ストライクス・アゲイン:ノーモア★ヒーローズ』は、2018年の発売に向け、現在鋭意制作中。