2018年5月12日(土)、ポケモンセンターメガトウキョーがある池袋サンシャインシティにて、“『ポケットモンスター ウルトラサン・ウルトラムーン』ファンミーティング”が行われた。
ファンミーティングには、ゲームフリークより増田順一氏、大森滋氏、岩尾和昌氏が登場し、レインボーロケット団やウルトラネクロズマなどの『ポケットモンスター ウルトラサン・ウルトラムーン(以下、『ポケモン US・UM』)』からの新要素を中心に、作品に関する制作秘話が語られた。
本イベントは当初の予定では抽選制となっており、当日に集まったファンの中から当選した120名がファンミーティングに参加できる予定だったのだが、増田氏の粋な計らいによってなんと、その日集まったファン、総勢207名全員を参加可能に! 席には限りがあるため着席できる権利についての抽選のみが行われることとなった。そんな“神対応”によって開場前から大きく盛り上がるファンたちに向けて語られたトーク、そしてファンとの交流など、イベントの様子をさっそくご紹介していこう。
増田氏の“神対応”にファン歓喜!
12時から開始されるファンミーティング参加権の抽選を行うため、当日朝10時からポケモンセンター メガトウキョーのまわりには待機列が形成された。抽選開始前に、増田氏、大森氏、岩尾氏が視察に訪れ、ファンたちと会話をしたり写真を撮ったりと交流を行った。
外れても参加はできるということで、抽選は終始和やかな空気で進行。落選の報告をする人も、顔はにこやか。そうして全員分の抽選を終えると、皆でイベント会場へと移動。
大森氏が「増田さんらしい曲だ」という、増田氏作曲のバトル曲はどれ!?
ファンミーティング最初の話題は、ゲストのお三方が『ポケモン US・UM』の制作においてどのように役割を担ったかについて。岩尾氏は本作で初めてディレクターとしてクリエイティブの総指揮を担当。初めて任された大役に緊張したものの、いっしょに作っているメンバーの情熱を感じながら楽しく開発ができたとコメントした。
『ポケモン オメガルビー・アルファサファイア』、『ポケモン サン・ムーン』とディレクターを担当された大森氏は、本作では初めてプロデューサーを担当。岩尾氏が動きやすいように、まわりの環境を整えるなどのサポート的な役割を果たされたとのこと。
ちなみに増田氏も大森氏、岩尾氏に指示や意見を出していたそうで、本作からの新要素“マンタインサーフ”に関しては「やっぱりハワイにサーフィンは欲しいよ」という要望を出していたという。そのあと実際にサーフィン関連の団体にも接触し、サーフィンという競技がどのように行われるのかをヒアリングしてから企画をスタートさせたというのだから、そのこだわりと行動力には改めて驚かされる。
続いて、開発の関わりかたについて『ポケモン サン・ムーン』から変わった部分はどこか、という質問に。『ポケモン サン・ムーン』ではバトルディレクターを担当されていた岩尾氏は、本作からディレクターとなったことでバトルだけでなくシナリオやキャラクターの動きなど細かいところまで全体的な取りまとめをすることとなり、その役割対象の広がりがまさに変わった部分だと答えた。
『ポケモン サン・ムーン』でディレクターを担当されていた大森氏は、その役割を岩尾氏に“バトンタッチ”した形に。ウルトラビーストなど『ポケモン サン・ムーン』からもう少し掘り下げたい部分について岩尾氏と話し合いながら、岩尾氏に“新たなアローラ地方”を作ってもらえることを期待し、そのサポートに努めたと語った。
これまでの『ポケットモンスター』シリーズ作品でも数々のバトル曲を手がけられている増田氏だが、本作でももちろん作曲を担当。どの曲が増田氏による作曲かというのはこれまで公表されていないのだが、「どの曲を作曲したか、わかる人いますか?」とファンに向けて呼びかけ、なんと曲名を公表することに。
突然の未公表情報の発表にファンがどよめく中、実際に増田氏が作曲した2種類の曲をその場で聴いてみる流れに。まず流されたのは、日輪の祭壇(月輪の祭壇)でネクロズマ(たそがれのたてがみ/あかつきのつばさ)と戦うときに流れる曲。
この曲を作るにあたって意識したのは、ネクロズマの姿がまだ完成形ではないということで、不安定さ。"ドンドンドンドン”という低音の主張を強くしたかったため、ニンテンドー3DSで表現する際にもっとも音量が大きくなるような音の表現法を用いて調整したそうだ。「こういううるさい曲が得意」と語る増田氏だが、大森氏もこの曲を聴いた際に、「キター! 増田さんの曲だ!」と感じたという。
そして完成形であるウルトラネクロズマとのバトルで流れる曲も増田氏の作曲によるものだ。会場のモニターには実際にウルトラネクロズマとバトル中の映像が流されており、すでにクリアーしているであろうファンたちも初めてウルトラネクロズマとバトルしたときの興奮を思い出すかのように聴き入っていた。
作曲にあたっては、そもそも未完成形(ネクロズマ)の曲を作る際に「完成形の曲が先にないと作れないと思った」とのことで、まず完成形(ウルトラネクロズマ)の曲のメロディーから作り始めたそう。そのためこのふたつの曲には一部共通するフレーズがあるなど、よく聴くと気付きが生まれるような仕掛けが施されている。
ウルトラネクロズマの圧倒的な強さに触れると、増田氏から「なんでこんなに強くしたのー」、「ゲームにはバランスっていうものがあるんだよ」というツッコミが入り、会場からは共感の意がこもった大きな笑いが巻き起こった。
ウルトラネクロズマは強すぎる!? ポケモンの個性を活用した攻略法を想定
ここで話題は、『ポケモン サン・ムーン』からテキスト量が約2倍にもなっているという本作において、とくにこだわった点についてへと移る。ディレクターの岩尾氏が本作でやりたかったことは、ネクロズマをとにかく“もの凄く”見せることだったという。ウルトラネクロズマと主人公が出会うという結果が先にあり、そのためにはどのような予兆や設定があるといいのかというのを逆算して作っていったとのこと。
ここで岩尾氏は、先ほども話に出た“ウルトラネクロズマが強すぎる”という話に触れる。ただでさえ強い“ぬしポケモン”がいる中で、ウルトラネクロズマはそれをさらに超える強さでなければならないという思いがあったそう。また、ポケモンは数多くの種類が存在していて、それぞれ異なる個性を持っている。その個性をうまく使えば、どれだけ強い相手にでも勝てるということを証明したかったと語った。
ここでは“イリュージョン”という特性を持つゾロアークを例に挙げ、そういった個性をうまく利用して倒すことは、意識して作っていると明かした。
※イリュージョン……ゾロア、ゾロアークのみが持つ特性。手持ちのいちばんうしろのポケモンになりきって登場するというユニークな効果を持つ。この特性とゾロアーク(ゾロア)のあくタイプを利用して、かくとうタイプなどのエスパータイプが弱点のポケモンになりきることでウルトラネクロズマにエスパータイプの技を使わせ、ウルトラネクロズマの攻撃を無効化しながらあくタイプの技で弱点をつくという攻略法が話題となった。
ウルトラネクロズマのデザインについては、岩尾氏の中で「凄いポケモンはドラゴンタイプを持っているというイメージがある」とのことで、『ポケモン サン・ムーン』でも登場したネクロズマが持つエスパータイプにドラゴンタイプを加えて、とにかく直球で格好いいデザインのポケモンにしようという思いがあったという。
大森氏が言うには「ネクロズマは『ポケモン サン・ムーン』のころから、からだのパーツは変わっていない」とのこと。もともとあったパーツがウルトラネクロズマの口の部分になっていたりというのは、『ポケモン サン・ムーン』のころから想定されていたのだという。
さらに大森氏からは、「噛めば噛むほどアローラ地方の味がより楽しめるような、スルメのようなゲームにしたかった」との思いが語られた。メインのストーリーだけを追って進めていてももちろん楽しめるものの、本当に観光をしているような気分でいろいろ見て回ってみると、たくさんのサブイベントが発生し、それによってアローラ地方のことをより深く知ることができる。そういったコンセプトをもとに制作されたことで、シナリオのテキスト量が倍になってしまったのだそう。
本作だからこそ実現可能な夢の光景、“レインボーロケット団”誕生の経緯とは
続いては、本作の目玉のひとつでもあるレインボーロケット団について。これまでに登場した悪の組織のボスたちが再登場するレインボーロケット団。再登場により、彼らに対して抱かれているイメージを壊してしまわないように注意を払ったと、岩尾氏は言う。
レインボーロケット団という要素を入れた理由について尋ねられると、そもそも各組織のボスたちは、バトルエージェントのボス的存在として出そうと考えていたと明かした。しかし、バトルエージェントのトレーナーたちはホログラムで登場するという設定。悪のカリスマたる歴代のボスたちが持つ個性は、ホログラムで表現できるレベルのものではないため、バトルエージェントではボスたちの魅力を活かしきれないと判断したと言う。そんなときに、ストーリーディレクターの杉中克考氏からレインボーロケット団のストーリーを提案され、いまの形になったとのこと。
ボスたちがそれぞれ手持ちに入れている伝説のポケモンについては、レインボーロケット団のエピソードがメインストーリーをクリアーした後の要素であるため、やりごたえを出したかったという側面もあったとしたうえで、アローラ地方に現れた彼らは、もといた世界でみずからの野望を成し遂げたというバックボーンがあると語った。それはもしかしたら主人公が負けてしまったのかもしれないし、そもそも主人公がいなかった世界なのかもしれない。そのため、本来なら主人公が仲間にするはずであった伝説のポケモンを、ボスたちが手持ちに入れているという設定があるようだ。
岩尾氏はさらに、歴代のボスが集結するという夢の光景は本作だからこそ実現できたと続けた。というのも、ウルトラホールによって異なる世界どうしが繋がるという、ある種"都合がいい”とも言える状況がなければ、レインボーロケット団は実現できなかっただろうと話した。
続いては、アローラフォトクラブの制作秘話に関する話題に。アローラフォトクラブにはシステム面で苦労があったようで、さまざまな大きさや姿をしているポケモンたちを、写真撮影のために画面の中に収めるというのは難しく、数々の問題を乗り越えた結果が製品版に収録された形だという。するとここで、ゲストのお三方がお気に入りだという1枚があるということで、モニターに映されることに。しかしその写真が映されるやいなや、会場は笑いに包まれてしまった。その写真がこちら。
ファンからの質問コーナーでこぼれた裏話 『ポケモン』に“Now Loading”がない理由とは?
ここからは、ファンミーティングに参加したファンの皆さんから事前に募集した質問を、お三方が選んで答えていくことに。
“これまででいちばんのいい思い出はなんですか?”との質問に対して、増田氏が岩尾氏を指して「先日結婚しました」と報告すると、ファンの皆さんから温かい拍手が。これには岩尾氏も照れながら「ちょっとこういういじられかた苦手なんですけど」と抗議する場面もありつつ、次々に質問に答えていった。
“Zワザのアイデアはどのように生まれたのですか?”という質問には、大森氏が「『ポケモン X・Y』から登場したメガシンカは、どうしてもメガシンカできるポケモンが限られてしまうので、より多くのポケモンを活躍させたいという発想から作りました」と回答した。さらにZワザのポーズに関しては、ミズZの波のポーズの発想が最初にあったうえで、「ほかのタイプのポーズも全部考えよう」という話になり、“Zワザポーズ会議”という会議が開かれ、スタッフがひとつひとつポーズを考えながら写真を撮り、それをもとにモーションをつけたのだという。会議の中では、「ほのおはもっと揺らめくような動きがないとダメだろ!」などといった熱い言葉が飛び交ったそう。
続いて“新作のご予定はあるでしょうか? 楽しみにしています”という質問を受けると、「新作の予定はあります」と答えたうえで、増田氏から「Nintendo Switchを持っている人?」と呼びかけが。さらに「持っていない人は買ってください」と続け、会場がどよめいた。なかには「買いまーす!」との声も。
また、“岩尾さんへ、増田さんの好きなところはどこですか?”という質問が読まれると、会場中からその日いちばんの爆笑と拍手が巻き起こる。増田氏のもとでゲーム制作に携わる機会がこれまでもたくさんあったという岩尾氏は、増田氏からの指示や伝えたい言葉がたまにふわっとしている、と前置きしてうえで「ゲーム制作に対するこだわりが非常に強く、どんなことを大事にしているか、どんなことを考えて指示を出そうとしているかということが話せば話すほどわかるスルメみたいなところが好きです」と真剣に回答。
増田氏は「俺、(スルメのように)噛まれた記憶はないし」とおどけて見せつつ、「ゲームを作るときに、ユーザーが遊んでいる様子をイメージする」と語った。どんな場所でどういうふうに遊んでいるんだろうという場面を想像し、「じゃあその遊んでいるものは何か」といったように考えていくのだという。それがすべて頭の中で作られていくため、人に伝えるのが難しいとのこと。音楽についても、メロディーを作る際に頭の中でベースやコーラス、ドラムがいっしょに鳴っていくと語った。ゲームも同じで、いろいろなアイデアがくっついていることが多いという。しかし、増田氏の中ではくっついていることが前提なので、その中のメインの一部しか説明しないことにより、相手にうまく伝わらないことがあると漏らした。
そんな増田氏の特徴に対して大森氏は「増田さんが"アレ”と言ったことがなにか、即座に理解できるのが僕の特技です」と。たとえば、増田氏がゲーム内でドアの出入りを何度も何度もくり返し始めたら、なにを気にしているのかすぐに察してドアの暗転を0.1秒短くするという、ツーカーっぷりの例を教えてくれた。「それでみんなの人生がO.1秒長くなるからね」、「ドアも多いしね」などと言いつつ、「『ポケモン』はバックグラウンドでつぎのデータを読み込んでいることが多い」とシステムについての話を続けた。
ポケモンやトレーナーなどのデータを読み込みは、野生のポケモンと出会ったときなどに、草がワサッと飛び散ったりする演出のあいだに読み込んでいるという。『ポケモン』では常にバックグラウンドで読み込んでおり、いわゆる“Now Loading”の画面を作らない工夫をしているとのこと。
ハードの進化によってグラフィックなどの表現の質が高まってくると、それだけデータの容量が大きくなり、読み込みの時間がかかってしまう。そんな話の中で「ドットは良かったねぇ」というゲーム業界あるあるとも言える発言が飛び出し、会場の笑いを誘った。とくにゲームボーイアドバンスはかなり作りやすかったそうで、「もう(次回作は)アドバンスにしませんか?」などといった言葉が漏れる場面も。
続いての質問は“仕事の原動力になっているものはなんですか?”というもの。これに対して大森氏は「『ポケモン』は通信プレイによるおもしろさを重視した作品なので、それによって新しいコミュニケーションが生まれたらいいなと思って作っているんです」と語った。さらに、大森氏自身もあまり人と話すのが得意ではなく、ゲームを通じて友だちを作ってきたと続け、そういう人が増えて、実際に『ポケモン』を通して出会いがあるといいなと思っているので、発売後に『ポケモン』で遊んでいる人どうしが交流しているのを見るとうれしく、そういうものが原動力になっていると語った。この話に観衆の多くは、うんうんと頷きながら聴いていた。
交換、そして対戦と相手がいなければ成り立たないコンテンツが多くある『ポケモン』では、オンライン上での交流はもちろん、公式非公式問わず、オフラインのイベントも日ごろから多数行われている。このファンミーティングもまさにそういった交流イベントのひとつであり、参加者の中には海外の方の姿も見られたが、仮に母国語が異なる相手だとしても『ポケモン』という共通言語によってコミュニケーションが取れる。『ポケモン』が持つこの優しくて大きな力は、やはり作り手の強い思いが種となり、そしてファンたちの確かな愛が栄養となって花開くのだと、そう認識させられるお話、そして会場の雰囲気だった。
ここでファンからの質問コーナーは締められ、再びレインボーロケット団についての話題に。全国のポケモンセンターで行われていた“レインボーロケット団の野望”キャンペーン中に寄せられたボスたちへの手紙を事前に読んだというお三方は、想像以上の人気に驚きを隠せない様子。
“お三方の好きなボスはずばり誰か”という質問が投げかけられると、増田氏はサカキ、大森氏はマツブサとアオギリのふたり、岩尾氏はフラダリと回答。とくに岩尾氏はフラダリに対する思い入れが強い様子。しかし、フラダリはそのきわめて特徴的な外見などによってファンからいじら……親しまれており、ゲームフリーク社内でも、“フラダリが好きというと負け”というような空気があるらしい……。それでもやはりフラダリが好きな岩尾氏は、ゲーム内でフラダリと初めて遭遇するシーンを挙げ、「この人なにかすごい機械を発明したとか言っているけど、どう考えてもボスだろうという感じがたまらなく好き」と語った。
ここでイベント終了の時間が近づいてきたため、最後に、それぞれ締めの言葉をいただいた。岩尾氏は「発売してから時間が経っているタイトルではありますが、クリアーして現実時間が進むと、“グラジオがポケモンリーグに挑戦しにくる”などといった楽しんでいただける要素も用意してあります。対戦環境もまだまだ変わりつつありますし、ぜひこれからも遊んでください」と述べ、「グラジオのポーズよかったよねぇ」などの会話も。大森氏は「ゲームフリークがニンテンドー3DSで作る集大成ができたと思っています。これからもこれを超えるようないいゲームを作っていきたいと思います」とコメント。最後に、増田氏から「ニンテンドー3DSの魅力を詰め込んだタイトルになっています。味がしなくなるまで深く遊んでもらいたいですね。今年の映画にも登場する“ゼラオラ”にも注目! これからも『ポケモン』を楽しんでください」と締めた。その後全員で記念写真を撮影し、いよいよイベントは終了に。
これまで語られなかった開発の裏話がいろいろ飛び出したファンミーティング。今後もこのように、開発者とファンが直接交流するようなイベントは行っていきたいとのことなので、今回は来られなかった方も、ぜひ次回があれば参加してみてはいかがだろうか。自分が好きなものを同じように好きな人がたくさん集まる中、その好きなものを作っている人の話を聴く、交流するというのは純粋に楽しいし、特別な空気感を感じられるので、ぜひ積極的に参加してみてほしい。
なお、『ポケモン ウルトラサン・ウルトラムーン』の秘話はこちらの記事にも掲載されているので、本記事で本作について気になった方は要チェックだ!