記者一路ドバイへ……その目的は?

 3月中旬のこと……。記者はひとりドバイの地に降り立っていた。ドバイというと、言うまでもなくアラブ首長国連邦の首都ドバイである。で、アラブ首長国連邦といえば7つの首長国からなり……、などとつい書き連ねたくなってしまいもするが、脇道に逸れるとくだくだしくなりそうなので、ここはおもむろに本題に入らせていただくと、記者がドバイに降り立った理由はただひとつ、“世界最大規模のVRアミューズメント施設”と謳われるVR Parkを取材するためだ。

 プレイステーション VRやHTC Viveがリリースされた2016年を“VR元年”として、世界的に大きな広がりを見せているVR(仮想現実)。その需要はロケーションベース(いわゆるアミューズメント施設やゲームセンターのこと)と言われる分野でとくにニーズが高いようで、日本国内を見ても、バンダイナムコエンターテインメントが新宿に設置したVR ZONE SHINJUKUを筆頭に、数多くのVR施設が展開されているのはご存じの通り。

 VR Parkは、そういったVRの勢いに乗る形で、ドバイに設けられたVR専用のアミューズメント施設で、主導するのはStarVR Corporationだ。その名前を聞いて、「ああ」と思われる方もいるかと思うが、2017年12月よりセガ 新宿歌舞伎町のSEGA VR AREA SHINJUKU内にて『John Wick Chronicles』と『The Mummy Prodigium Strike』を展開している台湾の企業だ。同社が擁するのは企業名を冠したStarVR。210度の広視野角で、最高解像度5Kという業界最高水準のハイスペックを誇るVRデバイスだ。もともとロケーションベースでの用途を志向するStarVRにとって、同デバイスの高スペックを訴求するためにもアミューズメント施設での大々的な展示は必然の流れであったと言えるのだろう。

世界最大のVRアミューズメント施設VR Parkに、StarVRの本気を見た_01
入り口からして驚異的な感じ。

まさに世界最大規模のVR施設!

 で、率直にVR Parkの印象をお伝えすると、とにかく大きい! 「これはデカイ……」と呆気に取られるほかないスケールの大きさで、「百聞は一見に如かず」などと言うが、実際に行ってみるとわかる圧倒的な規模感。

 館内に入るとまずびっくりさせられるのが、天井からニョキッと生えたブルジュ・ハリファのオブジェ。ブルジュ・ハリファと言えば、ご存じドバイを象徴する世界一の高層ビルで、なんでこうなっているのかというと、VR Park全体がドバイの街が逆さまになったというモチーフになっているがゆえだ。よく見ると天井にはドバイの街並みが連なっており、その威容たるや……。まさに、“仮想現実”である。

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天井からぶら下がるブルジュ・ハリファも壮観。

 そして、施設内に設けられたアトラクションの数々。2フロア分にわたる館内には、これでもかとばかりに大小織り交ぜVRアトラクションが18も! その多くがVR Parkのために用意された世界初お披露目のアトラクションだというから、その気合の入り具合がうかがえる。さらには、VR Parkには“没入感のために世界観に親しんでほしい”とのコンセプトがあり、各アトラクションには、世界観に親しむための装飾が施されていたり、バックボーンを理解するための映像が流されたりと、ぜいたくな体験ができるようになっている。それは、“最先端のVRコンテンツはとにかくリッチな体験で楽しんでほしい”という、StarVR Corporationの方針のようだ。言ってみればVR ParkはVRのテーマパークというわけだ。

 以前の記事でもお伝えしたことがあるが、StarVR CorporationはスウェーデンのソフトハウスStarbreeze Studiosと台湾のPCメーカー、エイサーが合同で設立した会社。VR Parkは両社にとっても肝入りのプロジェクトなのだ……というようなことをつらつら考えるまでもなくVRコンテンツを楽しみにお客さんは訪れるわけで、「VRもビジネス的にここまで来ているんだなあ」というのが率直なところ。以下、いくつかのアトラクションを体験させてもらったので、簡単にご紹介していこう。実際のところ、ご紹介するアトラクションは、現状いずれもVR Parkのみで体験可能で、ほか地域での展開は未定となっているが、VRコンテンツの広がりを実感していただければと思う。

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The Walking Dead VR Outbreak

 言わずと知れた大人気海外ドラマ『ウォーキング・デッド』をモチーフにしたVRアトラクション。主人公は動けないという設定で、車椅子に乗って移動。アウトブレイクに見舞われ、ゾンビが押し寄せる病院を、仲間(NPC)とともに脱出していくことになる。……と、お読みいただくだけでご理解いただけると思うが、これが怖くないわけがない! 薄暗い病院を車椅子で移動していくのは“恐怖”そのもの。車椅子を押してくれるのは仲間という設定もなかなかに秀逸で(つまり強制移動)、自分のペースで移動することができないもどかしさが恐怖心を煽る。壁の死角にぶち当たると、「ゾンビが出てくるかもしれん……」とビクビクしてしまうのは、ご理解いただけるものと思う(いざ出てくると、それはそれで怖いのだが……)。

 StarVR Corporationの親会社であるStarbreeze Studiosは映画界とも強いつながりがあり、本作『The Walking Dead VR Outbreak』も、その兼ね合いから実現したコンテンツと思われる。まあ、VRにとって最強のIPと言えるだろう。

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おどろおどろしい仕掛けが雰囲気を盛り上げる。
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ゲームの世界をしっかり再現した内装が、さらに没入感を促す。

Ape-X

 『The Walking Dead VR Outbreak』などと並ぶ、VR Parkの目玉アトラクションのひとつ。“未来のキングコングのVR版”と言えばわかりやすいであろうか……。ロボットに改造されてしまったApe(サル)が、未来の高層ビルで暴れまくるというコンテンツだ。腕にロボットのApeを模した“アーマー”を装着するというギミックがいかにも気分を盛り上げる(まあ、若干重いけど)。プレイヤーは、その“アーマー”を駆使して、迫りくる敵を撃ち落としたり、振り回して破壊したりすることになる。

 エンパイアステートビルを模したのではと思われるビルは360度ぐるりと移動可能で、高層からの眺めがとにかく圧巻。ふとした折に上空を見上げる開放感もけっこうなもので(あんまりのんびり楽しむ余裕はないけど)、これぞ210度の視野角を持つStarVRの恩恵だろう、とにかく視界が広い。足場が狭いので、ついつい柱にしがみついてのプレイとなってしまった。『The Walking Dead VR Outbreak』といい、『Ape-X』といい、VRの適正を判断しての考え抜かれたうえでの題材選びであり、ゲームプレイのチョイスであると感じた。

※『Ape-X』公式サイト

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VRと世界観がマッチしている『Ape-X』。

Construct

 ゲームではなくて、映像作品となるのが『Construct』。将来的には映画館などでVRによる映像も上映されるようになるのでは……とのビジョンのもとに試作された10分弱のコンテンツだ。“Construct”は、“建設する”という意味で、主人公となるのは大工のアンドロイド。主人公が建築現場に仕事に行くと、ほかの大工がよからぬ行為を働いており、なりゆき上バトルをくり広げることになるというストーリーだ。

 ビューはプレイヤー視点ではなく、ときに俯瞰から、ときにアクションシーンに寄り添い……と適宜切り換えられる。VRならではの迫力あるバトルが楽しめる。思わぬところで視点が切り替わるので、微妙にとまどわされたり、ストレスに感じたり……というのは、新しいコンテンツゆえの試行錯誤と言えるだろうか。映像は文句なくキレイで、映像としてのVRの可能性を感じさせた。

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The Raft

 “Raft”はズバリいかだのこと。プレイヤーはいかだに乗って河を下りながら、ガンを駆使して迫りくる化物どもを倒していくことになる。本作最大の眼目は最大4人によるマルチプレイへの対応。いかだのまわりをのべつ幕なしに襲ってくる化物どもを、役割分担しながら倒していくのは、めちゃくちゃ楽しい。

 ゲームプレイにアクセントを添えているのが、いかだに付属したエンジンに火がついたら消化器で消さなければならないことで(消さないとスピードが落ちてしまう)、右手でショットガン、左手に消化器と、かなりあたふたしてしまう。記者は施設の案内役の方といっしょにふたりでプレイしたのだが、おそらくプレイ人数による難易度の変更はないようで、相当激しいプレイになってしまった。それでも最後は何とか巨大ボスを倒し(これが見上げるほどにデカイ)、見事クリアーしたときは、いっしょにプレイした方と喜びを分かち合っておりました。協力プレイは達成感も倍増!

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正直、グラフィックはふつうなんだけど、とにかく協力プレイが楽しい『The Raft』。
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『John Wick Chronicles』と『The Mummy Prodigium Strike』は、映画館を模した設備でプレイ可能だった。
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中はゴージャスな雰囲気。
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FPS『PAYDAY: The Heist』をVRにアレンジした『PAYDAY:The VR Heist』。
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『VR SPORTS』ではテニスやゴルフ、バスケットボールなどが遊べる。
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世界中の観光地を回る『VR BUS』。
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本物っぽい施設がいかにも楽しげ。
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体感型のアトラクションとVRがドッキング。スリルも倍増!?

StarVR Corporationのキーパーソンに聞く

 最後に、会長のボー・アンデルソン氏や副会長のジェリー・カオ氏、CTOでテクニカル担当のエマニュエル・マーキス氏など、StarVR Corporationの皆さんにお話をうかがうことができた。

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左端から、StarVR Corporation、グローバルブランドディレクター アウミール・リスト氏、CTO エマニュエル・マルケス氏、会長のボー・アンデルソン氏、副会長のジェリー・カオ氏、マーケティングディレクター ジェーン・スー氏、プロジェクトマネージャーのマーチ・リュー氏。

――どのような経緯で、VR Parkはできあがったのですか?

ボー そもそもStarVRは、“ハイエンドのVRデバイスを”ということで、プロトタイプも含めると6~7年前からプロジェクトがスタートしたのですが、スケールの大きなVRコンテンツとなると、アミューズメント施設での展開が適しているとの判断がありました。“5分~10分くらいの時間で、家庭では提供できないような体験”を考えていたんです。そんなとき、ドバイモールを運営するEmaar Mallsさんからお話をいただいたんです。Emaar Mallsさんも”集客のできる最先端の施設”を志向していて、世界最大のVR施設を、ということでVR Parkのプロジェクトが進行することになりました。

――VR Parkで注力したポイントはどのへんですか?

ボー 5分から10分の体験をより豊かなものにするために、環境に感情移入できることを念頭におきました。コンテンツを体験するにあたって、ストーリーを感じてもらうことです。個々のコンテンツに関しては、複数プレイができるものやアクション要素のあるもの、幅広い層のプレイヤーに楽しめるものなどを前提に開発しています。『Ape-X』や『PAYDAY: The VR Heist』など、VR Parkのために作ったアトラクションもたくさんあります。もちろん、このVR Parkをフラグシップとして、ほかでの展開も考えています。

――今後のStarVRの戦略を教えてください。

ボー デバイスを進化させたいとは、つねに考えています。あくまで将来的なプランですが、デバイスを軽装化して、esports用途でも活用できたら……と考えています。あとは、コンテンツパートナーを探すことですね。もちろん、日本の会社にも積極的にお声かけしています。

――手応えはいかがですか?

ボー いくつかの会社さんには興味を持っていただいています。アーケードゲームはゲーム産業の原点だと、個人的には思っています。日本のゲームデベロッパーさんは、“ロケーションベース用途のVR”のコンセプトを理解して、すばらしいコンテンツを生み出してくれるのではないかと大いに期待しています。

――StarVRの施設は、日本では2018年に計10店舗で展開すると発表されていますね。

ジェリー はい。その点はセガさんとお話しているところです。詳細が確定次第発表させていただきます。

――VR Parkのような施設を日本でも展開する予定はありますか?

ボー 行きますよ! 日本でVRのアミューズメント施設を展開することは、私たちの大きな野望です。

ジェリー 日本は最重要視している市場のひとつです。すぐにでも行きたいと思っています。

 文字面だけを追うと誤解されそうなので補足しておくと、VR Parkを日本でも展開したいというのは、現時点ではあくまでもおふたりの希望で、具体的なプランがあるというわけではない。日本展開に関して、それほどの強力な熱意を抱いているということだ。日本にVR Parkのような規模の施設ができたらどうなるんだろう……とは思うが、実際のところ実現するには高いハードルがあることは容易に想像される。とはいえ、StarVR Corporationでは、日本の開発会社にも積極的にアプローチしているとのことなので、今後日本デベロッパーが作ったStarVR向けコンテンツなどは大いに期待できそうだ。この夏にはStarVR向けの新しいSDK(開発キット)が配布予定で、そこでは「Unityへの対応なども使いやすくなりますし、ほかのプラットフォームへの移植もしやすくなります」(マーキス氏)と、開発がより容易になりそうなのも、StarVRへの参入を後押ししそう。

 そして、StarVRで注目したいのは、ゲーム以外の分野での活用が広がる可能性があること。「StarVRは高解像度で視野角が広く、トラッキングの精度が高いということで、クルマ産業や建設産業など、いろいろな分野から注目していただいます」(アンデルソン氏)というのだ。最先端ゆえに広がる可能性。StarVRの今後に注目したい。

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