スクウェア・エニックスから、2017年2月に発売されたアクションRPG『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』の楽曲をピアノアレンジして収録した音楽CD『Piano Collections NieR:Automata』が本日(2018年4月25日)、発売された。
『Piano Collections NieR:Automata』発売の前日には、東京・新宿にあるタワーレコード新宿店にて、コンポーザー・岡部啓一氏、帆足圭吾氏、ディレクター・ヨコオタロウ氏によるトーク&サイン色紙お渡し会が開催。本稿ではその様子をお届けする。
イベントには、約300人のファンが詰めかけ、店内はまさにすし詰め状態。そんな中、岡部氏、帆足氏、ヨコオ氏が登場すると、盛大な拍手で包まれた。温かい空気の中、3人のトークショーがスタートした。
――『Piano Collections NieR:Automata』リリースおめでとうございます。約1年前にもタワーレコード新宿店にてイベントをされたこともありましたが、本日の心境はいかがでしょうか?
岡部 いかがですか? 帆足先生。
帆足 いやー緊張しますね。
岡部 帆足先生はこのあと演奏もあるしね。
帆足 弾くときは緊張しないんですけど、家を出るときは緊張するんですよ。
岡部 ……。ぜんぜん意味がわかんない(笑)。
帆足 ピアノを弾くときって、基本的に会場にあるピアノを弾くので手ぶらなんですよ。家を出た瞬間に「いま手ぶらだけどこれだいじょうぶ?」って感覚になって。
岡部 まだわかんないな(笑)。「今日のピアノは自分に合うかな」ってこと?
帆足 いや、手ぶらだとその瞬間に不安になって、一旦家に帰ったりとかするんですけど。なので、大学のときは、手ぶらが怖かったので、シンセを担いで行ってたんですよ。
岡部 言ってたよね。すごい重いやつ。
帆足 そうです。本体が30キロで、ケースがさらに20キロくらいあって。それに音色を変えるペダルとかを持って歩いていたら、通行人から「それ何?」って言われたりしました。
ヨコオ このテンポで話してると4時間くらいかかっちゃうよ。
帆足 そうですね。では、今日は不安だったけどがんばります、という感じで。
ということで、トークイベントは挨拶からいきなり脱線モード。
――全編ピアノのみのアレンジアルバムは『NieR:Automata』では初めてですが、リリースが決定した際の率直な気持ちをおうかがいできればと思います。
ヨコオ はい。これは僕から。スクウェア・エニックスの音楽出版のご担当者さんが、ゲームがヒットするとサントラをバージョンを変えて何度も出したがる方なんです。今回もゲームのエキスをギューっと絞って、「1滴も出なくなるまでCDにするぞ」っていう意気込みを感じました。
岡部 いやいやありがたい話ですよ? ヒットしたんだなっていうのを実感しますね。こうやってアレンジアルバムが出せるっていうのは。
ヨコオ このサントラが売れたら、さらに別のサントラも作りたがると思うんですよ。つぎあたり筋肉パーカッションみたいな流れに向かうと思います。
岡部 どんどんネタっぽくなっていくっていう(笑)。
――なるほど。そちらも楽しみにさせていただきます。
ヨコオ 進行役の方もすごい適当ですね(笑)。
――本日お越しいただいている帆足さんを筆頭に、名だたるピアニストが演奏されていますが、その印象をお聞かせください。時間の都合もあるので、数曲かいつまんでお願いします。
岡部 僕は性格的にも、どれかを選ぶっていうのはできないんですよね~。
ヨコオ でも心の中にはあるんだよね? これは大好きだけど、これはちょっとみたいな。
岡部 ……ん? 全曲すばらしいからちょっと選べないですよね。
ヨコオ というわけで、僕のほうでチョイスしました。まずは、『Piano: 双極ノ悪夢/Bipolar Nightmare』から。
岡部 これは、ピアニストさんがすごくおもしろい方で。
ヨコオ どんな感じに?
岡部 自分にとって、帆足がいちばん身近なピアニストなんですけど、帆足はピアニストでもあり、コンポーザーでもあるので、純粋なアーティストって感じじゃないんですよね。でも、これを演奏されていた菊池亮太さんは、演奏時の空気感がすごく独特、かつエモーショナルで、“溢れ出る何か”みたいなものが感じられる曲になってますね。
ヨコオ 音だけで?
岡部 感じますね、すごく。
帆足 そうですね。
岡部 帆足ってクセなく弾く人なんだなって、今回の収録でわかったんですよ。
帆足 綺麗めな感じで弾くタイプではありますね。
岡部 一方で、菊池さんは、ひとつひとつの音よりも流れで聴かせるピアニストさんだなっていう印象で、いままで接したことのないタイプの方でした。
ヨコオ このくらい変化があると、新鮮に聴けるよね。原曲はそろそろ捨てていいかなと思っている人もいると思うんですけど(笑)、そういうときに、このアレンジアルバムはちょうどいいかもしれませんね、新鮮で。では、つぎに『Piano: 遺サレタ場所/City Ruins』はどうだった?
岡部 この曲は、すずきようさんが原曲の空気感を大事にしてくださった感じで。
帆足 音色に透明感がありますよね。
岡部 そうそう! もちろん演奏もすごく丁寧にしていただいてるんですけど、ミックスにもこだわってくださいました。
帆足 残響がキレイで「これピアノだけ? 本当に?」ってなりましたね。
岡部 じつは、レコーディングもほかの方たちとはちょっと違う手法も使っているんですよ。
ヨコオ どういう風に違うの?
岡部 ほかの人はあくまでもライブでもできるような、演奏を録音していく感じだったんです。この曲もベースはそうなんですけど、ミックスを想定して、エコー用のトラックも録ったりしています。
ヨコオ そういうのは素人の僕が聴いてもわかるの?
岡部 録りかたまではわからないと思うけど、ほかのとちょっと違う感じはわかると思う。
帆足 明らかに違いますよね。
ヨコオ 台本のおかげで、CDの発売イベントっぽいトークができてますね。これがなかったら、帆足さんの私生活をずっと話すことになってました。
帆足 やめましょう、それは(苦笑)。
ヨコオ じゃあつぎは『Piano: 依存スル弱者/Dependent Weakling』(編曲&演奏:田口真理子さん)。
岡部 この曲はMONACAの高橋(高橋邦幸氏)の曲なんですが、僕が作るものとは違ってクラシック寄りな曲を作るタイプなんですね。
ヨコオ 岡部さんは何っぽいの?
岡部 僕は、もうちょっとポップスっぽいのかな?
帆足 歌謡曲っぽい。
ヨコオ みんなが知ってる人で、まるで岡部さんが作ったなっていう曲を歌うシンガーっている?
岡部 え!? それ、めっちゃ難しいね(笑)。ただ、ヨコオが昔からよく言ってるのは、●●●●さんですね。
ヨコオ ●●●●さんの曲にオーケストラを乗せると岡部さんの曲になるっていう発見をしました。
岡部 確かに、昭和歌謡っぽいメロディの流れっていうのはあるかもしれないです。一方で『Piano: 依存スル弱者』は、ピアノにすることで、よりクラシックっぽくなったなって思いました。原曲に忠実なんですけど、新しい印象が与えられているっていうのはありますね。
ヨコオ 説明を聞いてから曲を聴くと、素人の僕でも味わいの違いがわかるね。今度、Twitterにそういうのを全部書いてください。
岡部 でも、まずは聴いてほしいよね(笑)。
ヨコオ その後なら解説するぞ、と。
岡部 今回は僕がアレンジをしたわけではないので、あまり僕がアレコレ言える感じでもないかなっていうのも正直ありますけど。
ヨコオ それ言うとね、今日、この場にいる僕はピアノといっさい関係ないから(笑)。では、つぎの質問お願いします!
――CDのブックレットで「同じピアノでも演奏者によって音色がまったく違うことに驚いた」と岡部さんもコメントされていましたが。
ヨコオ 同じ素材でも寿司職人が違うと味が違う、みたいなことかなって思ったんですが当たってますか?
岡部 う、うーん。まあ、ある意味ね。でも、そういうので語れない感じはあるかな?
ヨコオ でも……寿司も大事だよね。
岡部 そ、そうね(笑)。今回、3ヵ所のスタジオで録ったので全曲同じ環境、っていうわけじゃないですが、弾いていくと人によって音が違うんですよね。
帆足 そうですね。作曲家観点だと、ピアノってひとつの楽器として考えちゃって、「ピアノってこういう音でしょ?」って思ってるんですけど、弾いてもらうと人によってまるで違う楽器のように感じるんです。
ヨコオ この中でいちばん上手だったのって誰?
岡部 ……え? 皆さんお上手でした。
ヨコオ 本当に人に嫌われることを恐れてますね。
岡部 でもね、僕は自分があんまり弾けないので、ある程度以上になると、わかんないところはあります。
ヨコオ そう、岡部さんピアノ弾けないんですよ。ピアノ弾けないのに曲作れるってすごいよね。
岡部 そもそも、作れる人がみんな弾けると思ってるのが間違いよ。これまで、同じ環境でいろんな人の演奏を聴く機会っていうのはあんまりなかったので、びっくりしました。スタジオが変わると印象も変わって比べられないから、今回は比べることもできて、新鮮な体験ができましたね。
――本作の制作秘話はありますか?
帆足 僕は楽譜を作るのが苦手というか、ピアノの楽譜って作るのがすごくたいへんなんです。しかも、僕はフリースタイルで弾くほうが楽なんですが、そのときはレコーディングのときに岡部さんに怒られて。
岡部 レコーディングのときにエンジニアさんがどこを弾いているかがわからなくなっちゃったりしたんですよ。
帆足 そういうことがあったので、今回はしっかりとした楽譜を作りました。
ヨコオ 今日は帆足さんちらっと弾くんですよね? 楽譜はとくになくて雰囲気で弾くって聞いたんですけど、すごいですよね。
帆足 むしろ楽譜通りに弾くのが自分にとっては難しいんですよ。
ヨコオ じゃあ、ちょっと途中に『FF』のフレーズとか挟んでみましょうか。
帆足 えっ。でも、昔から『FF』の曲は家でピアノで弾いていたのでできますよ。
岡部 そうだよね。好きだもんね。でも、このCDでは、前回の帆足と同じように、何となく全体の流れだけメモ程度に書くタイプの人もいれば、しっかりと書く人もいたんですよ。
帆足 自分も昔は譜面がないと弾けないタイプだったんですが、ジャズ系の勉強をしてからは、逆に「譜面どおりに弾くの難しい!」ってなりましたね。
岡部 人によっていろいろありましたね。
ヨコオ 僕はレコーディングに参加してないですけど、制作秘話的な話をすると、ジャケットのアートディレクションはしました。このアートを手掛けてくださったのは、『NieR:Automata』でもアートを担当された幸田和磨さんです。「複製サレタ街や塔の内部のような白いところで2Bがピアノを弾いている」というイメージでお願いしたんですけど、9Sも描いていただいて、ジャケット裏面には9Sが立っているんです。表が2Bで裏が9Sっていうオシャレなアートになっているので、ぜひ注目してほしいですね。でも、幸田さんはフリーになってどんどん忙しくなっていて、仮につぎの音楽の企画が出てもイラストはお願いできないかもしれないので、その場合は岡部さんの写真になります。ハチマキとフンドシで、岸壁に立ってるっていう。
岡部 えっ!? ……一周回ってありかも。
ヨコオ 帆足さんと並んで。
岡部 いや、やっぱりナシだわ。ないない。
――ピアノ以外で今後やってみたいアレンジはありますか?
ヨコオ 演歌にしてって言ったら無理?
岡部 どうなんだろう……。
帆足 それはエミさんたちがこぶしを利かせて歌うっていう?
ヨコオ そうそう。できるかできないかで言うと?
岡部 でき………………る? ただ、そもそも聴きたいのかっていう話だよね。演歌はたぶん誰も望んでないだろうなって思うから(笑)。
帆足 演歌ならカセットテープで出さないとダメですね(※演歌はカセットテープでの需要もあるそうです)。
ヨコオ そうですね。
岡部 アナログもいいですよね。(『NieR:Automata』のオリジナルサウンドトラックは)アナログ盤(レコード)もありましたね。買ってくれた人いらっしゃいます?
(観客の一部が挙手)
岡部 けっこういらっしゃいますね!
ヨコオ あっ、あそこに持ってる人もいる!
岡部 (レコードは)ジャケットがすごくよくて、飾るだけでもかっこよかったですもんね。でもカセットテープは……。
ヨコオ カセットテープの表はやっぱり岡部さんの写真ですよね。
岡部 やっぱりそこ? カセットテープなら似合うかも。でも、皆さんが聴いてみたいところや僕自身が聴いてみたいかなって思うのは、やっぱりオーケストラのアレンジですよね。
ヨコオ オーケストラって“人形達ノ記憶”のコンサートの編成とどう違うの?
岡部 単純にもっと大きな編成になるよね。
ヨコオ 何人くらい?
帆足 60人とか……?
岡部 フルオーケストラだとそれくらい。
ヨコオ 60人! オーケストラの人ってひとり1日呼ぶのにいくらくらいかかるの?
岡部 ひとりというより楽団単位だと思うけど……。でもすごく高いと思う。逆に僕が聞きたい(笑)。
ヨコオ スクウェア・エニックスさん、いくらくらいかかるの? オーケストラコンサートやりたいなって思ったら。あ、おもしろい顔してごまかしてる。
岡部 さっきも言ったけど、アレンジ自体もヒットしてるなっていう状況にならないとやれないんです。今回、ピアノアレンジを出させていただいて、イベントもたくさんの人が来てくださってってなると、スクウェア・エニックスさんが「そろそろオーケストラやってもいいかな」って思ったりしないかなと(笑)。
ヨコオ 皆さんの情熱があればスクウェア・エニックスさんも……?
(会場内が大拍手)
岡部 聴いてみたいですよね。僕も聴いてみたい。
帆足 そうですね。
ヨコオ 僕はその大金をスクウェア・エニックスさんが払っているところを見てみたい。お客さんが入らないと大赤字になるので、そのときのスクウェア・エニックスの担当さんの顔も見てみたい。
岡部 逆に言うと、それ以外はやらせていただいたというか。
帆足 けっこうやりましたもんね。
ヨコオ え? でも、演歌まだやってないですよ?
岡部 それは、そもそもやりたい枠に入ってないから!
ヨコオ トランスミックスとかは?
岡部 前回はありましたよね。ただ、「『NieR』はそうじゃない!」っていう意見もあったりして。
ヨコオ あれは、僕がやろうって言ったんだよね。
岡部 僕も「だってあれはヨコオさんが!」って思ったりした(笑)。
ヨコオ シナリオもそうなんですけど、何回か「こんなの『NieR』じゃない」って(作り手の)僕自身が言われたりもするんですよね……。
岡部 『NieR』はね、ユーザーさんが育ててくれた側面もあるから。
ヨコオ そうですね。『NieR:Automata』では、いろいろCDも出せたり、さまざまな賞をいただくこともできましたけど、そこまでに至ったのは、ファンやメディアの皆さんからの声が積み重なったからで、本当にありがたいなって思ってます。
岡部 僕、いままでそういうことを言ってる人をメディアで見たときに、「あー、そういうテンプレを言っていい印象を与えようとしてるな」って思ってたんです。でも、大きな声でアピールしてくださる方が多いと、偉い人が動いてくれる部分を『NieR:Automata』ですごく感じて、皆さんに育ててもらったなっていう実感が本当に強いんですよね。
ヨコオ スクエニミュージックのTwitterアカウントに「よかったです」ってリプライすると、すごく喜ぶと思うのでよろしくお願いします。聴いてなくてもよかったですって言ってください。
岡部 「ちゃんと買いましたよ」って言ってくださったらオーケストラにも繋がるかもしれませんね。
ヨコオ いま、皆さん暖かい空気感になっているので、ここでトークは締めておいたほうがいい気がします。
――では、最後に今後の活動などあればおうかがいできますか?
岡部 3人ともいろいろありますが、言えることも少ないので、とりあえず明日(4月25日)にニコニコ生放送で1曲ずつ聴きながらお話させていただく予定なので、ぜひ見てください。
ヨコオ 今年の初めにあったヨルハの舞台のBlu-rayの編集作業があって、僕はその番組には出られないんですが、Blu-rayは出来がいいので期待していたけるとうれしいな、と思います!
ヨコオ氏のムチャ振りに翻弄されたトークショーが無事(?)終了すると、来場者も撮影可能なフォトセッションに。その後、帆足氏が『Piano: 曖昧ナ希望/Vague Hope』の生演奏が披露された。最後にヨコオ氏、岡部氏が再登場し、参加者にサイン色紙が手渡された。タワーレコード新宿店では、『NieR』関連商品のコーナーも充実しており、もはや聖地化しておる。ニーア担当者さんの愛も変わらず。『NieR』ファンの方はぜひ一度はお立ち寄りを!
取材・文:堤教授
編集:杉原貴宏(週刊ファミ通編集部)
撮影:永山亘