*だが
*そのまえに…
*まずは…

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 “オーケストラコンサート”“応援上映”――より「現代っぽさ」さを感じるのはどちらだろう。

 「コンサート会場だと思って入ったら、いきなり異種格闘技戦がはじまった」みたいな気持ちにさせて申し訳ないのだが、ちょっと考えてみてほしい。

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*がめんの中のひとって ついおうえんしたくなるでしょ?

 まあ、大半の人は「応援上映」と答えるんじゃないか。サイリウム振ったり、叫んだりしながら映画とか観るやつ。あれ楽しいよね。

 万人が発信者となるSNS全盛期、応援上映のような“わかりやすく楽しいエンタメ”の価値が高まってきている。「泣けたよねー」とか「笑ったよねー」とか、ただただ「わかる……」とか、みんなTwitterやFacebookに言葉を垂れ流したくてしょうがない。うんうん共感してくれる仲間を探したいのだ。

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 だけど、応援上映以上に現代らしいオーケストラも存在する。たとえばゲーム音楽交響楽団JAGMOのコンサートがそうだ。

 JAGMOの公演には、SNSを開かせる魔力がある。水色の鳥が呟いてほしそうにこっちを見ている。同じ時間を過ごした観客と感情を共有したくてうずうずするのだ。彼らの作るエンターテインメントは、音楽の素人にもわかりやすくエモい。

 この世には2種類の人間がいて、それは金管楽器をトランペット・ホルン・トロンボーンと名前で呼ぶ人種と、全部まとめて「らっぱ」と呼ぶ人種なわけだけど、JAGMOのコンサートは後者でも楽しめるようにできている。証人は僕だ。

 そんなわけで、「ゲーム音楽コンサートって俺でも楽しめるんだろうか?」 と不安がってる人に向けて、強い気持ちで公演の感想を書いていく。強い気持ちとは「いいから早くチケットを買いなさい」という気持ちである。

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*わかりやすい感動と、おれだけがわかるジョーク

 JAGMOのコンサートは、とにかくまあわかりやすい。まずは曲目を見てみよう。一度でもプレイしたことのある人なら「はいはいはいはい! ストーリーを曲順で再現してるのね!」と、頸椎がぶち折れんばかりに頷いてしまうはずだ。自分のゲーム体験とリンクして、おのずと期待もふっくら膨らむ。

 しかもよく見ると、さらなる隠し玉が控えているのがモロバレである。約束されたサプライズの予感に、期待値はもっとぱんぱんになる。お前、まだ膨らむ余地を残していたのか。

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公式サイトより。実際の公演では、各章のタイトルがちがったり、曲目にない楽曲が演奏されたりした。

 こうした構成は、「UNDERTALE』の物語はめちゃめちゃ好きだけど、曲はあやふやに覚えてます」みたいな人にもうれしい。たとえば『Another Medium』という曲名だけで、どこで流れた曲か答えられるだろうか。

 今回のセットリストを見てみると、『Another Medium』はメタトンの曲とマフェットの曲に挟まれているから、ホットランドのBGMであることを簡単に推測できる。「あれ……これどこで流れた曲だっけ……あれ……?」なんて、モヤモヤしちゃって演奏に集中できない問題は起こりえない。

 それに、演奏とは関係のない部分にも、反応しやすいポイントが設けられている。

 たとえばチケットの名前がうざいイヌの席(A席)本物のヒーローの席(SS席)になっていたり。アンコール前にこんな(↓)映像が出てきたり。

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 めちゃめちゃあざとい。

 でも、「あらゆる手段で楽しませる」という意気込みが心底伝わってくる。悔しいけど嬉しくなってしまう。満面の笑みで拍手している自分に気付く。

 “オーケストラ”というハイコンテクストな(鑑賞に知識を必要とする)形式を取りながら、その責任を受け手に押し付けずに、全身全霊をかけて観客をもてなそうとするJAGMOのあり方は、まさにエンターテイナーの鑑だ。

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 愛にあふれるホスピタリティの一方で、「気付けるもんなら気付いてみな」と観客を挑発するかのような、暴力的なまでの小ネタの数々もまたJAGMOの特色だ。

 たとえばゲーム序盤と終盤の曲には、印象的な鐘の音をきっちり入れてくる。メタトンの『イッツ・ショータイム!』はドラムロールでバラエティ番組っぽさマシマシだし、果てはバリアのうなりや鳥のさえずりすら生音で再現してしまう。

 演奏がすばらしいのはもちろんなんだけど、アレンジの節々までリスペクトがゆきとどいていて、何気ない音のひとつひとつにまで意味があるんじゃないかと耳を澄ませてしまう。

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『UNDERTALE』に特徴的な“ライトモティーフ”(※)も、がっつりアレンジされていた。
※キャラクターや場所、感情などのテーマを持たせたメロディを、複数の楽曲に跨って使用する技法。

 こうした小ネタは、イージーモードじゃ物足りないコアな観客に「おれだけがわかったんじゃないか」という優越感をもたらしてくれる。

 前述したような「感動を共有したい」願望だけじゃなくて、「自慢したい」とか「マウント取りたい」みたいな欲求もSNS時代に顕著だと思うんだけど、そっち方面までケアしてくれる懐の広さがJAGMOにはある。要はオタクを甘やかしている。

 

*ゲームが好き という気持ち

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パンフレットの曲紹介ページ。考察がびっしりで読みごたえがすごい。

 こうした公演の根底にあるのは、ひとえに作品への愛だ。愛がヤバいプロデューサーが公演を企画して、愛がヤバい編曲家が曲をアレンジして、愛がヤバい指揮者がタクトを振る。

 「らっぱ」側の人間である筆者が聴いても、彼らの演奏の土台に、作品への深い理解があることくらいはわかる。耳に届く音はそれだけエモーショナルだ。感動的な場面はしっとりと。楽しい場面はご機嫌に。ゲーム体験がもたらす感情の波とぴったり波長を合わせながら、観客の琴線をふるわせる。

 今回の公演で特に愛を感じたのは、“ふたつめのエンディング”が終わったタイミングだ。 

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ハッピーエンドで終わりたいなら、ここで帰っていただいて構いません。というカウントダウン。

 一見すると、これも観客を楽しませるために用意された演出のように思えるし、実際に笑い声も上がっていたのだが、パンフレットに吐露されたプロデューサーの想いを読んでしまうと「あ、これマジのやつだ」と気付かされる。

 戦闘曲は鎮魂歌のように切なくアレンジされているし、鬼気迫る演出も「自分で選択して残った」という逃れようのない事実を突き付けてくるようだ。そこには苦しい葛藤と、“大切なのは自ら選択したこと”という『UNDERTALE』のひとつのテーマへのリスペクトが感じられる。

 そもそも、JAGMOの行動原理の一番上にあるのは「そのゲームが好き」という気持ちなんだそうだ。

 好きという気持ちが根っこで繋がっているから、聴きに来たゲームファンのツボをごりごりに刺激できる。でも、ごりごりされる側は決して不快ではない。掌の上をみんなで転がされながら、その一体感を楽しんでいた人は僕以外にもいたんじゃないかと思う。

 もちろんすべての演出が完璧にうまくいっているわけではなくて、斬新すぎてうまく噛み合っていないように感じられる部分もあったりもしたが、更なる進化の余地が残っていることにむしろ期待を寄せてしまう。これからも、JAGMOは新しいエンターテインメントの形にチャレンジしていくのだろう。

 恐がって手を出さないのはもったいない。「そのゲームが好き」という気持ちがあれば、JAGMOの公演は必ず楽しめる。

 以上、強い気持ちで感想を書いた。ここまで読んでくれたあなたと、いつか同じ感動を共有できたならうれしい。

<書いた人:戸部マミヤ
好きなキャラクターはバーガーパンツ。