「もはや仕事と思っていない」ゲーム音楽交響楽団JAGMOが語る『UNDERTALE』愛と、文化を想うプロ意識

プレイした人以外は来ないでください。『UNDERTALE』の世界を完全再現していて、すぐにもう1周したくなってしまいます。

 ゲーム音楽プロ交響楽団JAGMOをご存知だろうか。

 作品への深い理解が紡ぎだす編曲や演出には、絶大な信頼を寄せるゲームファンも多い。2018年3月17日に公開を控えている『UNDERTALE』単独公演は、情報が公開されたとたん「プログラムだけで泣ける」とSNSで話題を呼び、そのチケットはわずか1日で即完売したほど。

 今回はそんなJAGMOを運営するおふたりにインタビューを実施した。ゲームと音楽。ふたつの文化への愛と造詣は、どのような未来を描こうとしているのか。『UNDERTALE』公演への期待が膨らむお話も含めて、じっくりお伺いしている。

――よろしくお願いします。この記事ではじめてJAGMOさんを知る読者のために、どのような団体なのかご紹介いただけますか?

山本和哉氏(以下、山本)ゲーム音楽を専門に演奏するプロオーケストラ集団です。本格的に活動を開始したのは2015年で、それからオーケストラの公演を中心に定期公演を運営しています。それ以外にも、ゲームイベントに呼んでいただいたり、NHKさんといっしょに番組を作らせていただいたりと、幅広く活動しています。

――ありがとうございます。演奏する作品はどのように選んでいるのでしょうか?

山本そうですね……。一番大事にしているのは、

山本自分たちが好きなゲームの、自分たちが聴きたい曲であることです。

――なるほど。JAGMOさんの公演は「ゲームへの愛がやべえ」と評判ですからね。

山本ジャンルとしては、RPGとか、アクションアドベンチャーとか、プレイ体験や物語が心に深く根差すようなタイトルが多いかもしれません。そうしたファンの思い出を喚起できるように、人気曲だけじゃなくて、色々な曲をストーリー性のあるメドレー形式に編曲して演奏します。初めから終わりまで聴いていただくと、ゲームプレイをなんとなく追体験できるように。

――2017年8月公演の『ファイナルファンタジーX』を例に挙げるなら、人気曲『ザナルカンドより』を筆頭に、「あのシーンの曲だ!」と直観的に思い浮かぶような曲を選んでいますよね。『襲撃』とか。

山本ほんとうは演奏したい曲ばかりなんですけどね。ひとつの公演で複数のタイトルを横断的に扱うことが多いので、1メドレーあたり15分~20分で世界観を構築しなきゃいけない。もう、身を切るような思いで選曲しています。

ーー“ただ演奏するだけ”ではないんですね。

山本はい。たとえば電子音で作られている懐かしのゲームサウンドだったら、どんな構成ならお客様のノスタルジーを呼び起こせるかだったり、どうオーケストラにリアレンジしたら新しい発見を与えられるかだったり、そういうところにこだわっています。

2017年8月公演『旅人達の追想組曲』より一部を抜粋

ゲームミュージック=“未来のクラシック音楽”、その源流となるために

――そうした活動の裏には、どのような想いがあるのでしょうか。

山本ゲームミュージックを“未来のクラシック音楽”にしたいんです。この素晴らしい文化を、100年後、200年後に残していきたい。

ーー未来のクラシック音楽! 素敵ですね。それだけのポテンシャルがゲーム音楽にはあると。

山本ゲーム音楽って、オーケストラはもちろん、ロックとか、ジャズとか、民族音楽とか、ものすごく多様なアプローチで作られてるんですよ。ゲーム音楽を聴いているだけで、世界のあらゆるジャンルの曲に触れられちゃうくらい。芸術としても、エンターテインメントとしても、唯一無二の文化だと思っています。

――皆さん、そういう志のもとに集まっているのでしょうか。

山本どうでしょうね、様々なジャンルの音楽の話は飛び交ってますが(笑)でも運営メンバーは何かしら楽器をやっている人ばかりで、マリンバが好きすぎて工場で楽器作りながらJAGMOの運営をする強者もいます。僕自身は、幼少期からゲームと音楽に携わる仕事に就くことを目標にしてきました。今はお金のためというよりも、芸術や文化に貢献したいというのがライフワークみたいになっちゃってますが。中学生ぐらいの頃にはもう親には諦められていたと思います(笑)

ーー演奏者さんはどんな方たちなんでしょうか。

山本第一線で活躍されている方にお願いしています。あとは、比較的若い方にお願いすることが多いですね。

――若い方ですか?

山本というよりは、ゲームに慣れ親しんでいる世代の方ですね。おこがましい話ではあると思うのですが、音楽って作曲者と同じ時代を生きていた人が演奏してこそ正解だと思うんです。バッハやベートーベンを完璧に理解するには、その時、その国の空気を肌で感じていなきゃいけない。後世の人は想像することしかできないんです。“正解の音”を源流に、新しい文化は派生していく。

――ゲーム音楽を未来に残すためには、それがベストだろうということですね。

山本はい。作曲家と同じ時代を生きて、リアルタイムで「ゲームって楽しい」と感じている自分たち世代が、そのエネルギーで演奏しなくちゃ、と。この想いはすぐに花開くものではありませんけど、100年200年と時が流れて、“ゲーム音楽黎明期”、“ゲーム音楽時代”みたいな言葉ができたときに、「この人たちがいてくれてよかったな」と思ってもらえれば嬉しいですね。

公式サイトより(画像クリックで該当ページへ)

“マリオ”や“ティーダ”は音楽記号、ゲームの世界観を構築するために

――曲(ゲーム)への理解度で、演奏の質はそんなに変わってくるものなんでしょうか?

山本たとえばオペラの戯曲って、ちゃんとお話を読み込んで、物語を理解してから演奏するのが当たり前なんです。「この曲は主人公とヒロインが出会うシーンで流れる曲だから、もうちょっと色っぽくお願いね」みたいな指示を直観的にイメージできるじゃないですか。

――ああ、なるほど。RPGだって同じですよね。

山本はい。特にうちの場合、世界観を再現するためだったら、普通じゃやらないような演奏法にも平気でチャレンジするので。たとえば『スーパーマリオ64』を取り上げたときには、チューバの方にマウスピースでクッパの叫び声を表現してもらったりとか。『ICO』ではエンディングで海辺のシーンがあるので波の音を再現したりもしました。

――たしかにゲームを知らないと「何でこんなことするの?」って思っちゃいそう。

山本楽譜に載ってる指示も“マリオが飛び跳ねるように”みたいな感じですから。いっそ“ティーダ”とか単語だけ書いちゃう場合もあります。フォルテやスタッカートの記号みたいな感覚で。

――その楽譜、めちゃめちゃ見たいです。

山本絶対に公開できないです(笑)たまに「#おもしろい楽譜」「#おもしろい音楽用語」みたいなハッシュタグがTwitterのトレンドに入ったりするんですけど、そのたびにツイートしたくてうずうずしてます。

――約束されしバズツイートじゃないですか。

JAGMO公式Twitterアカウント

――お話を聞いていると、やっぱりイノベイティブな精神というか、若いエネルギーのようなものを感じます。

山本あまり偉そうには言えませんが、音大を卒業した身として後輩世代に活躍の場を与えたいという思いもありますね。クラシックを学んだ音大卒業生の中で、すぐ音楽の仕事だけで生きていける人の割合ってどれぐらいだと思いますか?

――すみません、わかりません。20%くらいですか?

山本肌感だと1%あるかないかだと思います。

――そんなに低いんですね……。

山本はい。運に恵まれなかったり、コネクションがなかったり、そんな理由で埋もれている優秀な奏者が多すぎるんです。結果的にそうした人材に活躍の機会を与えられているとしたら、業界への貢献にもつながるのかなと思っています。