アメリカ・サンフランシスコにて、2018年3月19日から23日まで行われる、ゲームクリエイター向けの世界最大規模のカンファレンス、“GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2018”。ここでは、会期3日目の3月21日に行われた“ARMS:Building Mario Kart 8 Insights into a showcase Nintendo Switch Fighter”の模様をお届けしよう。セッションは、『マリオカート8』と『ARMS』のプロデューサーである任天堂の矢吹光佑氏が、『ARMS』の制作課程を振り返りながら、どのように『マリオカート』の影響を受けたかを語り、引いては任天堂そのものの制作スタイルを明らかにするというものだ。「レースと格闘はジャンルが違うが、兄弟のようなものです」とは冒頭の矢吹氏の言葉。

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背後からの視点の格闘ゲームは作れるのか?

 レースと格闘というとかけ離れたように聞こえるが、『ゼルダの伝説』シリーズや『nintendogs』など、いろいろなジャンルに関わった矢吹氏からしてみたら、「格闘に関わっても不思議ではない。むしろ別のジャンルに携わっていたので、ユニークな発想になる」と考えていたという。

 ただし、『ストリートファイター』シリーズなど、世には格闘ゲームの名作が存在し、「そういった伝説のゲームのマネをしても劣化版にしかならない」と判断した矢吹氏は、ユニークな視点が必要だと考えたという。そして、“ユニークなこと”は、任天堂がもっとも大切にしているものだという。「宮本さんに、“ほかと何が違うのか?”と聞かれて、答えられなかったら私に未来はありません」とユーモアいっぱいに語り、会場を笑わせる矢吹氏なのだった。

 どんな格闘ゲームを作るかで、矢吹氏がディレクターの軸丸慎太郎氏と雑談していたのは、「背後からの視点の格闘ゲームが作れるのか?」ということ。「おそらく世界中の多くの開発者が話題にしたことではないか?」と矢吹氏は語るが、ご存じのとおり、ほとんどの格闘ゲームはサイドビューを採用している。それは、攻撃が届くかどうか距離が図れるからだ。それが背後からの視点にすると、距離が図りづらく、パンチが届くかどうかわからなくなってしまう。格闘ゲームにとっては、少し致命的なことと言えるだろう。

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 この段階で、矢吹氏は自身が開発を担当した『マリオカート』を振り返ってみる。『マリオカート』は遠くに何かが現れてハンドルを切る。たとえ距離がわからなくても、その“何か”に到着するまでのあいだに距離を図って避ければいいのだ。まさに発想の転換というやつで、「時間はかかっても、相手に届けば格闘ゲームとして成立するのでは?」と矢吹氏は考えた。パンチが届くかどうかの距離を、当たるか外れるかの全体の話に変えたのだ。

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 そこで、「こういうアイデアが出たときは試すに限る」ということで、プロトタイプを制作することに。その結果は、「近くの相手を倒すボクシングのようであり、遠くの敵を撃つシューティングのようでもあり」と感触は上々であった。片方のパンチを出して敵が避けそうだと思えばもうひとつのパンチを出すこともできる。何よりも、格闘を構成する要素を視覚化できるのではないか……と矢吹氏は考えたのだ。たとえば、攻撃中に腕が伸び切っていればスキができたように見えるし、アームの種類によって、弱い攻撃や強い攻撃かがわかるといった具合だ。「要素の置き換えは新しいゲームをデザインするうえで大切」と考えた矢吹氏は、“アームの視認性”と“覚えることを極力少なくする”ことをテーマに、『ARMS』の開発をスタートさせる。

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試作段階ではボーリングもあったようだが、すべて入ったわけではない。そして、任天堂は試作段階ではビジュアルは気にしない!
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 当時試作段階だったNintendo SwitchのJoy-Conとの相性もばっちりで、「格闘ゲームでは操作する際の遅延がないプレイが求められるが、Wiiリモコンからデバイスも進化しているし、私たち自身も進化している。いまの技術なら精密で誤動作のないゲームを作れる」とも判断した。さらには、Nintendo Switchはプレイヤーによってプレイスタイルが変わる。『ARMS』は好きなスタイルで遊べることを目指したという。

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 また、モーションコントロールならではの注意点として、「何となく動かしていれば勝てるときもあるが、最終的には上級者には勝てない」というバランスを心掛けた。いわゆる、“間口は広くて奥が深い”というやつだ。「『マリオカート』といっしょですね」と矢吹氏。そのうえで、トッププレイヤーどうしで対戦しても、モーションコントロールとコントローラーによる操作で同等に戦えることを目標にしたという。「新しい操作はピアノを習うのといっしょで、最初はうまくいきませんが、体が自然に動くと楽しくなります」(矢吹氏)。矢吹氏のモーションコントロールに対するこだわりのほどがうかがえる目標設定だが、結果として、モーションコントロールで世界のトップを取ったプレイヤーがいるとのことだから、そのへんのバランス調整はばっちりだったようだ。

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キャラクターへのこだわり

 ここで講演の話題はキャラクターの造型に移る。ゲームにおいても魅力的なキャラクターは成否のカギを握る。当然のこと『ARMS』でも『スプラトゥーン』同様にゲームに合ったキャラクターを検討。100体以上のデザインを作ってみたが、どれも決め手に欠けていたという。「ヨッシーの舌を伸ばすとか、リンクのフックなど、既存のキャラクターのアイデアもあった」(矢吹氏)というから、そこはかとなく試行錯誤ぶりがうかがえる。さまざまな頭身も検討したようだ。

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 そのときに試したのが、拳だけが伸びるキャラクターだが、アクションがこじんまりとしてしまい、動きが小さかったという。そこで、肩から先の腕全体を伸ばしたところ、これが突破口となった。さらにばJoy-Conを振ると、あたかも腕が伸びる感覚が味わえるものいい。とはいえ、通常は腕を伸ばすというあまり現実的ではない設定は避けがちなもの。それを「ゲームプレイにフィットしているからという理由で、腕を伸ばせるようにしたのは任天堂らしい」と矢吹氏。「なぜアームズが伸びるのかは、任天堂だからですね」と矢吹氏は笑う。

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 そして、腕が伸びるキャラクターということで、主人公のスプリングマンがすんなりと生まれた。さらに、“伸びる”をモチーフにキャラクターを考えたという。まっさきに浮かんだのがリボンで、「歌手のような華やかさが似合うだろう」ということで、空中を舞うリボンガールが誕生。リボンガールは実際の歌手に声を担当してもらったという。鎖と忍者は相性がばっちりだと思ったことから生まれたのがニンジャラで、「世界中の男の子に大人気のキャラクターになった」と矢吹氏。包帯と言えばミイラだが、単なるミイラだとユニークではないので、筋肉にこだわることに。「任天堂史上もっとも筋肉にこだわった」(矢吹氏)キャラクターが、マスターマミーだ。日本人はラーメン好きなので、ラーメン屋の娘でカンフーの達人ということですんなり生まれたのがミェンミェン。ただし、左腕だけが大きいというトリッキーなキャラクターだ。ヘビというと、ジャンルを連想するかもしれないが、あえてエクストリームスポーツを目指したのがキッドコブラ。素早い動きと力強さが特徴。

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 なかには突飛なアイデアもあり、その代表格がメカニッカ。彼女は腕が伸びることに憧れている天才少女で、格闘することや腕を伸ばすことの設定を考えることにつながったという。そして、ゲル状の人工生命体がDNAマン。身体が伸び縮みするキャラクターで、一部の熱心な『ARMS』ファンからはかわいいと評判だという。伸びる髪の毛が特徴なのがツインテーラで、腕が伸びないぶん優雅に見せられる。世界中から大きな反響があったキャラクターだという。そして、サポートキャラの犬とコンビで戦うのがバイト&バーク。ときどき駆けつけてくれるので、運の要素が強いキャラクターだ。

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 と、ここで説明しただけでもワクワクしてしまうくらい個性的なキャラクターが揃っているが、「個性を重視した結果、カラフルなファイターが揃いました」と矢吹氏も自信ありげ。キャラクターが固まったあとで、“腕が伸びるのがふつうの世界のスポーツの祭典”という形で、設定も固まっていった。

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ステージから細部に至るまでのこだわりが

 おつぎはステージ。後ろからの視点ということはステージを3Dにできる。それは『マリオカート』でやっていたことであり、あまりに複雑化したら話にならないので、少しずつ調整していったという。トランポリンでジャンプできる“スプリングスタジアム”、フロアからキューブが登場する“リボンリング”、6本の柱が特徴の“DNAラボ”といった具合だ。ちなみに、ギミックが何もない“スパーリングリング”は、ガチゲーマーに評判がいいというのは理解できる話だ。

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 また、格闘技としての説得力をもたせるためのこだわりも。ひとつには、格闘着のロゴだが、これは『マリオカート8』で架空のロゴをたくさん作ったのが生かされたようだ。一方で、ファイターの鍛え抜いた体にもこだわったが、これはさすがに『マリオカート8』のノウハウにはなかった部分のようだ。

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結果として『ARMS』のキャラクターは人気を博し、「開発者としてはうれしい」と矢吹氏。今後は世界観を楽しむためのコミックも用意しているという。スプリングマンがじつは3代目だったなど、ゲームでは語られない物語が描かれるという。

 さて、発売後、『ARMS』は数多くのアップデートをくり返してきた。とにかく念頭にあるのはバランスのことで、「何回遊んでもおもしろくなるように、つねに確認してきた」という。『マリオカート』は、どんなアイテムをもらえるかで順位が変わる運の要素が強いゲームだ。「何があるかわからないのはまさに人生そのもの」(矢吹氏)だが、『ARMS』ではそこまで運頼みではなくて、テニス程度を想定したという。右を狙うか左を狙うかで多少運の要素はあるが、テニスも最終的には力のある者が勝つことが多いように、『ARMS』でも実力のあるプレイヤーが勝利を得られる。競技性の高いものだと考えたというのだ。

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 「ワンパターンの戦術が通用するのが好きではない」という矢吹氏は、いろいろと考えてバランス調整をしてきたという。ファイアーとアームズの組み合わせは極めて多く、AIどうしの対戦データなども参考にするという。ユーザーの上位3%の対戦データなども算出して、参考にするようだ。「マスターマミーはニンジャラやキッドコブラは得意にしているが、リボンガールやミェンミェンは苦手」といった具合だ。とはいえ、「5%くらいの差なら許容範囲内かなと」と矢吹氏。このように、上位3%の数字や地域差など、いろいろな切り口で対戦成績を見て参考にしているというから徹底している。もちろん、データだけではなくて、開発者は実際にオンラインプレイをして、肌で対戦状況を確認することも忘れてはいない。

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 先日、『ARMS』ではオンライン公開スパークリングと題して公式のオンライントーナメントを開催したが、こういう取り組むをしたのは任天堂で初めてだったらしい。そのとき、弱いと言われていたメカニッカが優勝して衝撃が走ったのだとか。「対戦ゲームの主役はユーザーさん。ユーザーさんといっしょに『ARMS』を成長させているという実感があります」と矢吹氏はしみじみと語る。先日開催された格闘の祭典EVO Japanでは、ベスト8に進出したキャラクターが全部異なっていて、「キャラクターのバランスが成熟しているのではないか……」と矢吹氏。

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▲日本以外のプレイヤーにも驚かされたという矢吹氏。今後は、アメリカでもオンライン対戦を予定しているという。

 一方で、『ARMS』は上級者のためだけのゲームというわけではない。ミニゲームを搭載したり、バッチを収集する楽しみを用意したりと、間口を広げる努力もしている。「ファイターの腕を鍛えるのはもちろん、ゲーム自体を長く遊んでもらえるように」というのが、『ARMS』の方針だ。“家族で楽しめるように”というのは、『マリオカート7』のプロデューサーだった紺野秀樹氏の方針で、矢吹氏の根幹になっているという。「思えば、“家族で楽しめるように”というのは、私のまわりにある任天堂のどのゲームにも当てはまります」と矢吹氏。『nintendogs』や『どうぶつの森』もそうで、「コミュニケーションを促すのが任天堂のDNA」ということだ。もちろん、『ARMS』も目指すところはコミュニケーションを促すゲーム。「言語や地域を超えて、世界中の人たちにコミュニケーションを提供していきたいです」と矢吹氏は語る。

 最後に矢吹氏は聴講している開発陣に対して、「『マリオカート』の経験を活かして、『ARMS』を制作しました。ジャンルが違ってもなんとかなるものです。いままでの経験を活かして新しい挑戦をしていくはずです。皆さんが作るゲームを楽しみにしています」とエールを送って、講演を締めくくった。

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