本日よりアメリカのサンフランシスコで開幕したゲーム開発者向けの国際会議GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)。例年GDC会期中には、さまざまなメーカーのプレスカンファレンスや発表が行われる。初日となる現地2018年3月19日には、ゲームエンジンUnityの基調講演が行われた。

 一時間半以上にわたって行われたその内容は、2018年にリリース予定の3バージョンで実装予定の新機能や、すでに本誌で別記事としてお届けしたコンテスト企画など、多岐に渡ったもの。その概要をトピックをかいつまんでお届けしよう。

 2018年には、2018.1(4月リリース予定)、2018.2(夏リリース予定)、2018.3(秋リリース予定)の3バージョンが予定されている。なお2018.3の最終版などはLTS(ロングタームサポート)バージョンとして、それぞれ2年間の長期サポートが行われるという(2017年版も2017.4.0f1がLTSバージョンとして提供開始されている)。

 特に盛り上がっていたのが、2018.3の新機能として発表されたNested Prefab。これは、Unity上でゲームを作る際に欠かせないプレハブ(Prefab)と呼ばれる機能を入れ子状にしても使えるものを指す。これまで独自に機能を実装するアセットがアセットストアで販売されていたぐらいの待望の機能ということで、会場からは大きな歓声が挙がっていた。

 2018.1はすでにベータ版の提供が行われているが、その中で目玉のひとつとなっているのがスクリプタブルレンダーパイプライン(SRP)。これはゲーム画面などの描画を行う上での処理(レンダリングパイプライン)の処理や実行を、C#スクリプトで制御できるというものになる(Unity公式ブログに日本語の解説記事も公開されている)。

 SRPにはハイエンドであるHD RPと、VR/ARなどの高速な処理が求められるプラットフォームやモバイルを主眼に入れたLW RPのふたつのオプションがあり、HD RPはハイエンドPCはもちろん、PS4/Xbox Oneにも対応。壇上ではその機能紹介に加えて、“Book of the Dead”と呼ばれる技術デモと同じシーンを実際にPS4 Proで動かす様子も披露された。

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わざわざDualShock 4を使ってデモ。ちなみに30fpsでの動作。

 また2018.2で追加予定のGPU-based progressive lightmapperと呼ばれる機能も紹介が行われた。これよって影情報の焼き付け(ベイキング)を数秒で行え、ライティングアーティストなどが高速に試行錯誤を行えるという。

 「レンダリング技術とアーティストのワークフローの進化は並行して行われるべきだ」というのが強調されていたことのひとつで、2018.1の新機能である“Cinemachine Storyboard”についてもデモが披露された。

 Cinemachine Storyboardでは、作りたいイメージを参照するための絵コンテ(ストーリーボード)などをCinemachineのタイムラインに入れて、絵コンテ混じりにシーンを作っていったり、地図などを参照しながら仮素材でマップを作るといったことが行えるようになる。また“スプリットビュー”という参考資料と出力画面を並べて表示できる機能を使うことで、参考写真などと見比べながら色味を調整していくといったことも簡単になるそう。

 Unityでの機械学習についても紹介が行われ、2018年第2四半期リリース予定の浮遊系レーシング『Antigraviator』を使った例では、AIにゲーム画面から学習を行わせ、25秒の学習であまり壁に当たらないように走るようになり、5分の学習でプレイヤーとあまり遜色なく走れるようになるというデモ映像が。

 これに合わせて発表されたのが、Unity LiveTuneという最適化機能だ。これはモバイルゲームなどで機種により性能が異なるためにパフォーマンスにバラつきが出るところを最適化するというものなのだが、どうもそれをAIの助けを借りて行うということらしい。機械学習はそのほかにも、アプリ内課金のプロモーション(Unity IAP Promoとして英語ブログが公開されている)の最適化などにも使えると考えているようだ。

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左が人間のプレイヤーで、右がAI。最初はご覧の通り壁に激突していたのが、学習を重ねるに連れて当たらなくなっていく。5分でそこそこのプレイヤーになるって、大半の人間より進歩はえーよ。

 また新たな対応プラットフォームとしては、同日に開発者用SDKが公開されたMR(複合現実)ゴーグルMagic Leapのほか、スタンドアローン型VRヘッドセットのOculus Go、そしてLenovo Mirage SoloをはじめとするGoogleのDaydreamプラットフォーム対応のスタンドアローン型VRヘッドセットなどが発表。

 一方で、エントリーレベルのモバイル端末やIoT端末、ウェアラブル機器といった非力な端末や、小規模なWebコンテンツなどを念頭に入れた軽量なランタイムも発表に。Webベースの場合のランタイムのコア部分はなんと73キロバイトで、素材の最適化なども経てさまざまな環境で動作するコンテンツが提供可能となる。これにより“ちょっとだけゲームを遊べる広告”や、メッセージアプリ中で動作するゲームなども作れるそう。

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軽量でロードも高速。より小さな環境へのコンテンツ提供が可能となる。

 CEOのJohn Riccitiello氏による冒頭の挨拶では、Oculus Rift向けプログラムの69%、HTC Vive向けの74%、Gear VR向けの87%、Hololens向けの91%、そして世界のモバイルゲーム新作のなんと50%がUnity製であるという数字や、「ビジネス向けSNSのLinkedInで、新たな技能が求められる“Emerging Job”の求人としてUnity開発者が2017年の第7位にランクインした」といった数字が紹介された。

 また毎年恒例のUnity製新作ゲーム紹介のトレイラーも、特に海外インディー界隈を追っている人なら名前を聞いたことがあるだろうタイトルが数多く含まれている。ハイエンド向けの技術開拓だけでなく、VR/AR/MRなどの新興領域や、より軽量な小型コンテンツが求められる領域もサポート対象に入れていくということで、今後もUnityが標榜する「ゲーム開発の民主化」は拡大していきそうだ。

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CEOのJohn Riccitiello氏による冒頭の挨拶では、新作モバイルゲームの約半数がUnityで作られたという数字も。