グリーが家庭用ゲーム市場に参入、ゲームビジネスのキーパーソン荒木英士氏にその理由を聞く

グリーが家庭用ゲーム市場に参入することを決定。第1弾として、Nintendo Switch向けに『釣り★スタ』を2018年内に発売することを発表した。2004年の創業以降、ソーシャルゲームなどで一世を風靡してきたグリーが見据えるつぎなる戦略とは? 同社にてゲーム事業を取り仕切る、取締役 上級執行役員の荒木英士氏に聞いた。

 既報の通り、グリーが家庭用ゲーム市場に参入することを決定。第1弾として、Nintendo Switch向けに『釣り★スタ』を2018年内に発売することを発表した。2004年の創業以降、ソーシャルゲームなどで一世を風靡してきたグリーが見据えるつぎなる戦略とは? 同社にてゲーム事業を取り仕切る、取締役 上級執行役員の荒木英士氏に、家庭用ゲーム市場参入の理由や今後の展望などを聞いた。

グリーが家庭用ゲーム市場に参入、Nintendo Switch向け『釣り★スタ』を2018年にグローバル配信することを決定

グリーが家庭用ゲーム市場に参入することを明らかに。2018年内にNintendo Switch向け『釣り★スタ』をグローバル配信することを決定した。

グリーが決算説明会でNintendo Switch版『釣り★スタ』のビジネスモデルについて言及

2018年2月2日、『釣り★スタ』を家庭用ゲーム機に向けてリリースすることを発表したグリーは、同日に2018年度6月期第2四半期 決算説明会を実施。説明会では、決算概要と新たな事業戦略などが語られていったほか、コンソール事業参入に関する質疑応答などが行われた。

グリー
取締役 上級執行役員
Wright Flyer Studios事業統括
荒木英士氏(文中は荒木)

家庭用ゲーム市場への参入はユーザーとの接点を広げるという決意表明

――家庭用ゲーム市場に参入するにいたった経緯をお教えください。

荒木 グリーでは、これまでフィーチャーフォンからiOSやAndroidなどのモバイル端末向けを中心にタイトルを開発してきました。しかし、ゲーム事業の今後の戦略として、“より多くの方におもしろいゲームを遊んでいただきたい”と考えたときに、グローバルに地域を広げていくことと同じように、プラットフォームを広げるという意味で、家庭用ゲームに参入するというのは、自然な判断でした。

――これまでグリーは、家庭用ゲームへの取り組みは慎重だったようにも思うのですが。

荒木 ここ2、3年をかけて社内でいろいろ議論して改めて共通の認識として至ったのは、グリーとして“ゲーム事業はいままで以上に本気に、腰を据えてやっていかないといけない業界だ”ということです。IP(知的財産)を育てるという意味でもそうですし、開発力をつけるという点でもそうです。「いま盛り上がっているからやろう」というような判断で通用するような業界ではないことを改めて認識しておりまして、「ゲーム業界で長くやっていく」という思いも込めての家庭用ゲームプラットフォーム展開というのはあります。

――決意表明みたいな感じでしょうか。

荒木 ビジネス的な理由としては、世界的に見ると、家庭用ゲーム市場とPCゲーム市場が伸びているという事情もありました。もちろん、モバイル市場も伸びているのですが、それと同じか、それ以上に家庭用ゲームとPCゲーム市場は勢いがあって、これからグリーがゲーム事業をより大きくしていくことを考えるときに、家庭用ゲーム市場は外せないという判断はありました。

――一時期はスマートフォン向けゲームの勢いがすごかったように思うのですが、状況が少し変わった感じですね。

荒木 実際に数字を見ると、家庭用ゲームとPCゲームの市場が伸びていますね。おそらく、もともと一部先進国でしか売られていなかった家庭用ゲーム機が、全世界的に経済力が上がってきたり、流通網の発展に伴い、売られている国や買える人が増えていったということではないかと思います。

――プラットフォームとして、Nintendo Switchを選んだ理由はなんでしょうか?

荒木 家庭用ゲームへの参入を決意したのは昨年の春ころだったのですが、そのころはNintendo Switchが出たばかりのころで、まだブレイクしているという状況ではありませんでした。ただ、グリーもゲーム好きの社員ばかりなので、個人的にNintendo Switchを買って触ってみたところ、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を遊んで「これはすごい!」と衝撃を受け、「いいプラットフォームだ」と手応えを感じたんですね。

――グリー社員の皆さんがNintendo Switchを気に入ったのですね。グリーではVRにも取り組んでいますが、会社として「新しいものに取り組みたい」という気風があったりもするのですか?

荒木 そうですね。そこはかなり意識的に取り組んでいます。ゲーム事業において、ずっと同じプラットフォームであり続けるということはなく、そのときどきによって変わっていくという大前提がある。将来的に大きくなると自分たちが信じられる新しいプラットフォームに対しては、まだ市場が立ち上がっていないような、少し早い時期から参入して、きちんとノウハウを貯めていこうという気概ではありますね。

――たしかに、ゲーム業界で長くやっていこうと思ったら、複数のプラットフォームで展開していかないといけないわけで、そういった意味では、今回の家庭用ゲーム参入も、ある意味では自然のなりゆきと言えるのかもしれませんね。

荒木 我々としては、自然かなと思っています。自分たちが手掛けているゲームをより広く提供していくためには、モバイルだけではなくて、ほかのところも広げなければ……という気持ちがありますね。

――では、参入第1弾として、『釣り★スタ』を選ばれた理由をお教えください。

荒木 釣りゲームって世界的に見て、必ず一定規模の市場がありますよね。ニッチかもしれないけれど、絶対に存在すると思っています。これまで僕らは10年にわたって釣りゲームをモバイルで展開してきたのですが、これだけ多くのお客さまに親しまれている釣りゲームって、ほかにないと思うんです。だからこそ、「これは釣りゲームのナンバーワンプレイヤーになるしかない!」なと。とにかく全プラットフォームで釣りゲームを出して、釣りゲームのリーディングカンパニーになりたいと思っています。

――釣りゲームというIPにおいては、世界でナンバーワンのメーカーであるという認識がおありだと?

荒木 比較がないので明確なところはわからないのですが、これほど長いあいだ釣りゲームを作り続けているところもあまりないと思うので、挑戦していきたいなというところです。あと、リアルな釣り自体にゲーム性があるじゃないですか。ルールもわかりやすいですし、異なる文化や地域でも、世界共通なので、受け入れられやすいかなと思っています。

――Nintendo Switchと、釣りゲームとの相性のよさも考えていますか?

荒木 そうですね。釣りとJoy-Conの相性はいいと思います。竿を振ったり、ルアーを巻いたり……という釣りならではの操作性は、Joy-Conに適しているかと。

――決算説明会で田中社長が、「家庭用ゲーム機向けに出すことで、モバイル版のユーザーが増える」といった趣旨の発言をされていましたが、そのあたりにも期待しているのでしょうか?

荒木 他社さんでも過去にそのような例がありましたし、相乗効果は期待しています。たとえば、Nintendo Switch版を出すことで、かつてモバイルで『釣り★スタ』を遊んでくれていた方が戻ってきてくれたらいいなと思いますし、Nintendo Switchで初めて『釣り★スタ』を知った方が、さらにもっとカジュアルに遊びたいということで、モバイル版『釣り★スタ』があるのもいいでしょうし。

2018年度6月期第2四半期 決算説明会の模様。田中良和社長の口から、改めて家庭用ゲーム市場への参入が語られた。

――モバイル版『釣り★スタ』は基本プレイ無料のアイテム課金ですが、Nintendo Switch版『釣り★スタ』は、売り切りスタイルでの販売とのことですね。

荒木 はい。私は、ゲームデザインとビジネスモデルは不可分だと思っています。モバイル版『釣り★スタ』はアイテム課金ですが、同一のIPだからといって、異なるプラットフォームでもアイテム課金に固定するつもりもないですし、かといって、家庭用ゲーム向けなら全部売り切りにすると決めたわけでもありません。あくまでプラットフォームの特性とゲームデザインの相性というもので、ビジネスモデルは選んでいけばいいかなと思っています。そもそも、Nintendo Switch版『釣り★スタ』は、モバイル版の移植ではないので、ゲーム性もまったく異なります。「Nintendo Switchでいちばん人気の釣りゲームを作る」というシンプルなミッションに向けて『釣り★スタ』という名前を冠していますが、中身は別物です。“いろいろな場所でいろいろな魚を釣って楽しむ”というコンセプトは変わらないのですが、遊びかたや操作方法、グラフィックなどは全部新規になっています。

――なるほど。さきほどおっしゃったビジネスモデルの補足となりますが、家庭用ゲーム機向けでも、必ずしも売り切りだけではないということですね? ゲーム性に合わせて変えるということでしょうか?

荒木 はい。プラットフォームがどういうタイトルを欲しているかは、そのときどきで違うと思うんです。プラットフォームの意向も大事かなと思っていますので、相談しながら判断していきたいです。たとえば、「この時期にすごい大作が続くので、大作の隙間に遊ぶ箸休め的なゲームがほしい」という時期もあるでしょうし、あるいは、「売り切りゲームが多いから、そろそろアイテム課金のゲームを試したいと思っている」ということもあるかもしれない。そこはプラットフォームの意思があると思うので、プラットフォームホルダーさんと話しながら、ゲームデザインと我々の持っているいろいろな各種資産を掛け合わせて、いちばんいい形を選ぶことにしています。

――グリーでは、いままでモバイル端末を中心に展開されてきて、家庭用ゲームにも取り組むわけですが、これまでの開発の方針に変更があったりしますか?

荒木 現在グリーでは、“エンジン×IP×グローバル”という戦略を掲げています。エンジンは、何でもかんでもいっぱい作るというよりは、自分たちが得意なゲームジャンルやゲームデザインに対して継続的に投資していって、エンジン資産というものを積み上げていくことです。IPというのは、自社IPだったり、他社との共同原作だったり、他社からお借りするIPだったりしますが、いずれにしてもいいIPを作る、育てる、活用するということをやっています。グローバルは世界展開ですね。この方針は家庭用ゲームでも変わらないです。

――ちなみに、エンジンというのは、グリーで独自のゲームエンジンをお持ちということですか?

荒木 我々が言うエンジンというのは、Unityやアンリアルエンジンといったレイヤーでの、ミドルウェアや開発環境、レンダリングエンジンといったエンジンとは異なります。たとえば弊社では『アナザーエデン 時空を超える猫』で開発した“2DコマンドバトルRPG”のエンジンの資産があって、それを拡張、進化させてつぎのタイトルを作っています。僕らのいうエンジンとは、ゲームデザインと技術スタック、アセットパイプライン、カスタマサポートツールといったものが渾然一体となったものです。

――『釣り★スタ』もエンジンがあったのですか?

荒木 『釣り★スタ』はもともとウェブブラウザゲームで、家庭用に展開するにはプラットフォームがまったく異なるため、今回はゼロから作っています。

2018年夏に配信予定のNintendo Switch版『釣り★スタ』。基本的に新規で作り直したものになるという。