『レイジングループ』制作者に直撃! 話題の“人狼”アドベンチャーはいかにして生まれたか【ネタバレ注意】

2015年12月にゲームアプリ版のリリース後、高い評価を得ながらさまざまな家庭用ハードでダウンロード販売を開始。2018年1月25日には、ついにプレイステーション4用パッケージ版が発売されたアドベンチャーゲーム『レイジングループ』。パッケージ版発売から1ヵ月が経った今回、制作者amphibian(あんひびあん)氏へのインタビューを余さず公開! 内容のネタバレも含まれるので、十分ご注意してお読みください。(本記事は、週刊ファミ通2018年2月8日号に掲載されたものに加筆、再編集したものです)

プロフィール

amphibian 氏(あんひびあん)

ディレクター/シナリオライター。『トガビトノセンリツ』や『D.M.L.C. -デスマッチラブコメ-』など多くのケムコ作品に携わる。ペンネームに使うamphibianとは“両生類”という意味。文中はamphibian。

柳澤義彦 氏(やなぎさわ よしひこ)

『レイジングループ』メインプログラマー。記事の後半から登場します。文中は柳澤

 2015年12月にゲームアプリ版のリリース後、高い評価を得ながらさまざまな家庭用ハードでダウンロード販売を開始。2018年1月25日には、ついにプレイステーション4用パッケージ版が発売されたアドベンチャーゲーム『レイジングループ』。パッケージ版の発売から1ヵ月が経ち、休水村に隠された謎の真実にたどり着いたプレイヤーも多いのではないだろうか。今回、制作者amphibian(あんひびあん)氏へのインタビューを余さず公開! ゲーム内容のネタバレも含まれるので、十分ご注意してお読みください。(本記事は、週刊ファミ通2018年2月8日号に掲載されたものに加筆、再編集したものです)

ディレクター・シナリオライターamphibian氏に直撃

 “ループする主人公が、人狼式のデスゲームに巻き込まれ、奮闘する”。キャッチーなコンセプトと、背筋がゾクゾクするような怖さ、ミステリー要素を両立した本作はどのように生み出されたのか。ディレクター・シナリオライターを務めたamphibian氏に直撃し、『レイジングループ』の制作秘話を訊くため、取材班はさっそく厳冬の広島へ飛んだ。

――まずは、本作の発想や開発、リリースまでの流れを教えてください。“人狼ゲーム×ループもの×ノベルアドベンチャー”というコンセプトがキャッチーかつ、この3要素が組み合わされるとすごくおもしろそうだなと思います。このテーマはどのように固まったのでしょうか?

amphibian まず、大前提としてノベルアドベンチャーを作ることは決まっていました。なぜノベルかというと、開発チームが非常に小さいため、ノベルしか作れないからです(笑)。ですが、“ノベル”ではなく“ノベルアドベンチャー”と銘打ったのは、“ノベル”だけでは、ゲーム中に選択肢がないものを想像されてしまうかもしれないと考えたからです。それから、ケムコのアドベンチャーというと『シャドウゲイト』や『悪魔の招待状』『ディジャブ』の3部作を想像される方も多いだろうと思い、その3部作とは違うということも伝わるようにしました。

――“ノベル”と“アドベンチャー”の中間を目指したと。小規模チームというと、だいたい何人くらい……?

amphibian 現状実働しているのは、私とプログラマーの柳澤で実質ふたりですね。レイジングループ開発時には3人でしたが、いまでは基本的に我々ふたりが中心になって開発を進めています。

――ふたり!? ゲームって、ふたりで作れるものなんですか!

amphibian もちろん、サウンドやグラフィックは別途スタッフがいるのですが、コアメンバーは私と柳澤(後ほど登場)のふたりなんです。ですので、作れるジャンルも自然とノベルアドベンチャーに決まるという(笑)。ちなみに前作では、ノベルではないものを作ろうとしたのですが、かなり早い段階で諦めてしまいました。全員が作業を担当していて取りまとめる人がいない状況なので、マンパワーが足りませんし……。2017年1月から配信されているプレイステーション Vita版からUnityで開発しているのですが、Unityのアップデートの間隔が短いため、アップデートしたら、ゲームが突然動かなくなるという問題も頻繁にあり、少人数で開発している我々は苦労しましたね。もちろんUnityはたくさんのプラットフォームに対応できるという大きな強みもありますが。

Unity……幅広いプラットフォームに対応している汎用ゲームエンジン。3D、2D問わず幅広いゲーム開発が可能。

amphibian ジャンルのつぎに、“人狼”をテーマにすることが決まりました。いままでケムコが作ったゲームには、デスゲームものが多いのですが、その中でも、人狼ゲームのように正体を隠匿するコミュニケーションゲームをベースにしたものも多かったんです。そこで、「人狼そのものをテーマにしてみてはどうか」という提案が挙がりまして。それから、近年人狼ゲームの人気が高まっていることもあり、人狼ゲームファンの層がすでに形成されています。そのファンの方々が、さらにユーザーを呼び込んでくれるような作品を作れるのではという意見もありました。

――実際に“人狼”をノベルアドベンチャーゲームに落とし込むとなると、苦労も多かったのではないかと思いますが。

amphibian 人狼を主題に据えることが決まったときに、私が最初に言ったのが「和風でやらせてくれ」ということでした。なぜかと言うと、洋風にすると取材がたいへんだからです(笑)。ほかのゲームでそれほど現地取材をしているわけではないのですが、洋風にすると知らないことを調べるという作業が生まれてしまいます。一方、和風であれば、これまでの知識や、そのあたりの光景などからもゲームに入れ込める部分がありますから。

――おそらくもともとの『汝は人狼なりや』でイメージされている舞台というのは、ヒツジを飼っていたり、童話の『オオカミ少年』を意識した中世ヨーロッパ的な雰囲気の村だと思うのですが、それをそのまま舞台にしてしまうと作中に出てくる“プレハブ小屋”みたいなものひとつとっても、どう表現したらいいかわからないですもんね。

amphibian そうですね。やっぱり、もともとの人狼ゲームの舞台になっている村は、家畜を飼っていて、狼が敵として存在しているというような中世ヨーロッパにおける農村だと思うので、そこは変えたほうがいいだろうなと思いました。もうひとつの理由としては、個人的に和風ホラーが好きなので、これならやる気が出るだろうなと。

――自身のモチベーションを保つためでもあったと。

amphibian アドベンチャーゲーム制作においては、私がガリガリとシナリオを書いていく時間が、全体の中でかなりのウェイトを占めているので、何をするべきかと最初に考えました。その中で、“プレイヤーが人狼ゲームを遊ぶ”ということではなく“人狼ゲームのノベライズ”というイメージでやったらどうかという話が出てきまして。

――ノベライズですか。TRPGのリプレイ本のような?

amphibian それともまた違って“実際に人狼が行われている村の有様を描く”……という感じですかね。そもそも、もとの人狼ゲームというのが、けっこう理不尽なゲームだと思っています。人狼ゲームのルールとして“1日にひとり処刑してください”、“狼が1日にひとり殺します”というのがありますよね。でも、実際に“人狼”なる存在がいて、人間の集落に迷い込んだとき、悠長にひと晩にひとりずつ殺していくのかと。また、村人たちが一日ひとりくくるのは、なぜなのかと。物語的なリアリティーを考えたとき、狼はひと晩で何人も殺すかもしれないし、村人も何人だってくくっていいのではないかという疑問があります。なぜ村人たちがそういった理不尽な信仰をしているのかということがゲーム内ではまったく説明されてないんです。そういった、ゲームのルールの隙間について設定を僕の想像で作り上げ、物語に落とし込めばおもしろくなるはずだ、という考えですね。

――人狼ゲームが理不尽というのはゲームの難易度的なことではなく、コミュニケーションゲームであるから、細かな設定について説明がされていないということですね。そこが、人狼の要素を物語化する際のハードルでもあったし、可能性を感じた点でもあると。

amphibian そうなんです。そこで、主人公が訪れる休水では、特殊な人狼信仰が行われているという設定を考えました。また、人狼がひと晩でひとりしか殺せないのは、人間側といっしょのルール的制約があり、食べているからではなくて、競争しているという。これを土着宗教・信仰にからめて物語を作れば成立するのではないかなと。あとは、“どうやって夜のあいだ全員を閉じ込めておくか”など、細かい点の潰しかたも詳しく突き詰めて、それをゲームの中で紹介するというのが、いちばん最初のモチベーションでしたね。そして、陽明が“黄泉忌みの宴”を繰り返す中で、私が考える“人狼ゲーム”の本質というのを、『レイジングループ』では描けたと思います。

――個人的には、人狼ゲームの“自分が死んでも、自分の陣営の誰かが生き残れば自分も勝ち”という点が、人狼ゲームのルールで、頭ではわかるんだけれども勝ちを実感しづらいなあという部分だったのですが、『レイジングループ』では、やはり主人公は死んではいけないという描かれかたで、すごくしっくりきました。

amphibian “主人公が生き残らなければ勝利ではない”というのは、ふだんからチーム戦の人狼ゲームを遊んでいる方にとっては、『レイジングループ』の設定はギリギリ許せるか許せないかという非常にデリケートなところだと思うんですね。「自身の生き残りのみを考えるなら、それは“人狼”ではない」って言われるかもしれない。そこで、人狼ゲームのルールに則ったうえで、アドベンチャーゲームとして成立させるために、主人公の房石陽明は、いわゆる“狐”・“妖狐”にあたる役職、“最後まで生き残ること”が勝利条件となるという立場を割り振りました。

――ああ、なるほど。

amphibian それなら、どちら側かの陣営を生かして自分も生き残れば自分の勝ちだという役職だということで割り切っているので、人狼ゲームのファンの方にも納得してもらえるかなと。ただ、主人公は生き残るために動くのでセオリーに反する行動を取るんです。“人狼ゲーム”ではセオリーとされる通りの行動を選ぶと……

――だいたいの場合、陽明が死んでしまいますね。

ループする主人公、房石陽明。“人狼”セオリーを踏まえた行動を取ると、たいてい死ぬ。

amphibian そうです。でも、主人公が死んでしまった後、貢献した陣営はきっと勝つんです。陽明は、あくまで陣営に貢献しながら、生き残ることを目標に動いていましたから。

――ちなみに、これはとても聞きたかったのですが、陽明の性格はamphibianさんの投影なのでしょうか?

amphibian そんなことはないです(笑)。私はあわてん坊でうっかり者なので、あんなに無神経かつ頭のいいキャラクターではないですね。彼はできる限り背伸びをして、頭のいいキャラクターにしようと考えていたので。ただ、「過度に理屈っぽい」と周りから言われることがあるので、意図せずとも似ているのかもしれません。

――あまり主人公らしい主人公ではないというか、言葉は難しいのですが、主人公が変化球というのはなかなか珍しいですよね。

amphibian そうですね。でも、陽明にはじつはモデルがいて、弊社の『鈍色のバタフライ』というゲームに出てくる桐生つばさというキャラクターが下敷きになっています。“道徳的な枷がない”という部分を描いたことで、最終的には違うキャラクターになっていますが。

――陽明は人狼陣営についたとしても、不自然ではないキャラクターになっています。ちなみに、“房石陽明”で検索すると、“房石陽明 サイコパス”ってサジェストに出てきました。

amphibian あなたさっきそれでよく「陽明の性格はamphibianの投影ですか?」って聞いてきましたね(笑)。展開に応じて立場をガラリと変えられること自体、ふつうはあまりないので、彼のキャラクターが立つだろうなと。そして、ゲームを作り始めたときに、主人公をいちばん人気のあるキャラクターにしようと考えたのですが、主人公をヒーローとして目立たせるにはどうしたらいいだろうと悩みまして。そこで、善悪の倫理観が欠如しており、他人への思いやりがないサイコパスという要素を取り入れられないかと考えた結果、ああいうキャラクターができあがりました。おかげさまで人気投票では、毎回1位をいただいているので、大きな成果だったなと思います。

――そんな主人公を始め、さまざまなキャラクターが参加する“黄泉忌みの宴”ですが、人数は最初から16人と決まっていたのでしょうか?

amphibian 既存の人狼ゲームから考えて、人狼サイドが3人になるような人数ということと、予算の兼ね合いで、人数は16人と決まりました。それに加えて、村というコミュニティーを表現したかったので、多彩な年齢層をカバーする必要があり、そのためにはこのくらいの人数が欲しかったんです。だから、まずは年齢層と性別を設定して、それに加えてこういう性格の人物が欲しいなと考えながら付け足していった感じですね。

――16人もいると、誰が誰を疑っているのかなど、人間関係の相関図を描くのが難しそうです。

amphibian おっしゃる通りなのですが、実際の人狼ゲームでも、ゲームを率先して進める人と、人の意見を聞いたうえで自分の意見を決める人がいると思うんですよ。だから『レイジングループ』でも、まずは議論を牽引しているキャラクター数人を設定し、それ以外のほとんどは、何らかの陣営に属しつつ、自分ではあまり考えていないという、わかりやすい状況になっています。

――そうして人狼をアドベンチャーに落とし込みつつ、以前にamphibianさんが手掛けた、ケムコのノベルアドベンチャーとしては前作にあたる『D.M.L.C. -デスマッチラブコメ-』との世界設定でのつながりも描かれていますよね。

amphibian 我々としてはファンサービスのつもりで、前作のキャラクターの過去を描けたらいいなと思っていました。

めー子。年齢不詳、正体不明の幼女。房石陽明のことを、誤って“ふさゆきさん”と呼び続ける。

――めー子のいた牧場の設定が『D.M.L.C. -デスマッチラブコメ-』の設定とつながっていたり、あくまで“知っていればより楽しめる”程度ということですね。

amphibian はい。「『D.M.L.C. -デスマッチラブコメ-』を遊んでいなければ『レイジングループ』は楽しめませんか?」と聞かれたりするのですが、そんなことは全然なくて、それぞれ別個のお話です。『D.M.L.C. -デスマッチラブコメ-』にはめー子の成長した姿である美弥が登場するのですが、『レイジングループ』の中で使われる異能の力など、たくさんの能力を持っているので、異能力ものが好きな方は前作も楽しめるはずです。ただ、ここはちょっと本作の反省点でもありまして、最終的にめー子がひと肌脱ぐことで全体の解決がなされるという形にはなっているのですが、めー子がいなくても、あるいはめー子の能力がなくても、『レイジングループ』の事件は房石陽明の理知と行動力で解決されたろうと思っているんです。そこに余計なものを足したため、最終的解決を既存キャラに頼ったような形に見えてしまった。

――ファンサービスのつもりが裏目に出てしまった。

amphibian あともうひとつ想定外だったのは“千枝実が崩れ落ちるエンド”が重要に捉えられてしまったというのもありますね。このあたりについては、公式サイトなどでも説明させてもらいました。

――今回の取材にあたり僕も見ましたが、公式BBSの雰囲気って、すごくいいですよね。昔の掲示板の空気があって。

amphibian プレイヤーの皆様がすごくあたたかく迎えてくださって、ありがたいです(笑)。