『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)のサウンドディレクターを務める祖堅正慶氏が中心となって2014年に結成されたロックバンド“THE PRIMALS”は、『FFXIV』のアレンジアルバムの楽曲制作や、国内外で開催されるファンフェスティバルでのライブ演奏などを行ってきたが、このたびバンド単独のCDをリリースすることが決定。さらに、そのアルバムを引っ提げて、Zeppツアー(東京/名古屋/大阪/札幌)も開催されることが明らかになった。

THE PRIMALS Zepp Tour 2018 -Trial By Shadow-
2018年5月25日 東京公演(Zepp DiverCity Tokyo)
2018年6月2日 名古屋公演(Zepp Nagoya)
2018年6月3日 大阪公演(Zepp Osaka Bayside)
2018年6月24日 札幌公演(Zepp Sapporo)

THE PRIMALS Live Tour 2018 -Trial By Shadow-
2018年5月27日 韓国・ソウル公演(Yes24 LiveHall)

 1stアルバムとなる『THE PRIMALS』の発売を2018年5月16日に控え、バンドは都内のスタジオで早速レコーディングを開始。その初日にスタジオにおじゃまし、バンドメンバーに話を伺った。

『FFXIV』オフィシャルバンド“THE PRIMALS”のレコーディング現場に潜入! 「Zeppツアーはたぶんすごいことになる」_02

祖堅正慶(そけん まさよし)

スクウェア・エニックス所属。『FFXIV』サウンドディレクター。バンドではギターとヴォーカルを担当。

マイケル・クリストファー・コージ・フォックス

スクウェア・エニックス所属。『FFXIV』ローカライズディレクター。バンドではヴォーカルを担当。

GUNN(グン)

ギターを担当。THE PRIMALSのバンドマスター。さまざまなレコーディング、プロデュースに参加するほか、バンド“DEPTH”としても活動中。

イワイエイキチ

ベースを担当。スネオヘアーや椎名林檎、トッド・ラングレン、ACIDMANなどのレコーディングに参加。

たちばな哲也(たちばな てつや)

ドラムを担当。バンド“SPARKS GO GO”のほか、ソロユニット“ultraUB”としても活動中。

――まずは、Zeppツアーが決まったときの感想からお聞かせください。

GUNN 祖堅くんがF.A.T.E.(『FFXIV』プレイヤーと直接交流を行うリアルイベント)で全国各地に行くと、プレイヤーさんから「いつライブをやるんだ?」と毎回言われているのは僕も知っていたので、ツアーの話をもらったときは、もちろん僕らもうれしかったですけど、「これでみんなのところに行けるんだね」という気持ちのほうが強かったです。そんなみんなのために、レコーディングもそうですけど、ライブもいろいろな“仕込み”を考えています。

――やはり、各地に行けるというのはファンフェスで演奏するのとは違いますか?

GUNN そうですね。以前、アコースティックのミニライブを大阪でやったんですけど、そのときも、ものすごい感じで。「いつくるんだ? 大阪」みたいな。

――コージさんはどんな感想でしたか?

コージ じつは(ツアーについて)知らされたのがいちばん最後だったんです。韓国でのファンフェス(2017年10月21日開催)のリハーサルのとき、音楽出版部の担当が

音楽出版担当「あのー、Zeppが……」
コージ「…はい?」
音楽出版担当「決まってるんで」
コージ「……はい???」
音楽出版担当「あれ? 祖堅さんから聞いてませんか?」

みたいな感じで、誰も僕に教えてくれなかったんです。

祖堅 ガッハッハッハッハ!

コージ でも、聞いたときはうれしかったですよ。ファンフェスでのライブも楽しいですけど、ファンフェスは限られた場所で、限られた人しか来ることができないので。今回はいろいろなところに行けますから。私はローカライズ担当ということで、どちらかというと海外のプレイヤーとの距離のほうが近いんです。F.A.T.E.なんかも日本人開発スタッフが行くことが多いので、私としては日本のプレイヤーとの距離がどうしてもあるように感じていたんです。そういう意味では、日本のファンとふれあえる数少ないチャンスなので、楽しみにしています。

――ツアーが決まったのはいつごろなのでしょうか?

祖堅 えっとね、去年の初夏? もっと前かな? 拡張パッケージの『紅蓮のリベレーター』がリリースされる前(2017年6月20日がリリース日)かもしれないですね。

コージ (笑)。

イワイ そんな前だったんだ。

――なぜ会場をZeppにしたのでしょうか?

祖堅 これは、声をいただいたからです。「なにかやりませんか?」と。

――もしかして、Zeppの関係者の中に“光の戦士”(『FFXIV』プレイヤーの呼称)が?

祖堅 わからないですね。最初はまさかあのZeppとは思っていなくて。よく読むと“ジップ”とか“ジープ”なんじゃないかと、怪しんでいたんです。でも、どう見てもZeppと書いてあって、おかしいなと(笑)。

――たちばなさんは今回のツアーに関してどんな感想を?

たちばな 国内でライブをしようという話はけっこう聞いていたんですけど、立ち上がっては消え、立ち上がっては消え……みたいな感じだったんです。僕はSPARKS GO GOいうバンドをやっていて、そのファンがTHE PRIMALSのステージを見たくても、なかなか難しかった。今回、ツアーで回れるということで、SPARKS GO GOのファンにとってはうれしいのかなと。聞きたかった人が多かったみたいです。それで、SPARKS GO GOのファンが『FFXIV』に興味を持つとか、そういう広がりがあればいいですね。

――イワイさんはいかがですか?

イワイ ふつうのライブハウスで演れるというのは楽しみですね。自分の仕事では、Zeppで演ることはほぼないので。久々に演れて、うれしいなと。

――最初のアレンジアルバムである『From Astral to Umbral』のときは、コンセプトが“バンドの熱や勢い”で、2作目の『Duality』では“トーン”とおっしゃっていたと記憶しています。今回、何かコンセプト的なものはありますか?

GUNN アルバムとしても、“CDになる”ということも含めていままでと違いますね。ライブに向けて、“より楽しめる曲”にしようというところが大きいかなと。いかに楽しんでもらえるか、そして僕らもどれだけ楽しいか。コンセプトとまではいきませんが、そういうの多く盛り込んでいる気がしますね。

――アレンジの手法というよりも、ライブでの盛り上がりに主軸を置くというか。

GUNN みんなで楽しめるような曲になると、よりいいよな、というのはありますね。

――ということは、アレンジが変わる曲もあるのでしょうか?

GUNN 変わるものもあるでしょうね。尺(曲のサイズ)も違うので、いろいろと手は考えるとは思うんですけど。

――収録曲がとても気になります。たとえば、“ブルートジャスティス戦”は入るのかな……? とか。

GUNN やっぱり録っちゃう?(笑)

祖堅 確率半々くらいかな(笑)。試しに録ってみて、ダメかもしれないし。

――アレンジはスタジオで決めていくのでしょうか?

祖堅 一応“こんな感じにしたいです”というデモは持っていきますが、このメンバーが集まると、けっきょくその場で変わっていくので。そういう意味では、いつものようにやっているんですけど、新しいものを作っていっているという感じですね。

――アルバムの収録曲数はどれくらいでしょうか?

GUNN 20、20〜? うそうそ。

祖堅 でも、20弱くらい入るんだよね? 違ったっけ?

GUNN 40〜?

一同 (笑)。

祖堅 1曲30秒ぐらいで。

――新曲は入りますか?

祖堅 新曲は複数曲入ります!

――今回はライブを見据えたアルバムですが、ライブ自体の音源を収録したBlu-ray Discミュージックなり、CDはリリースされないのでしょうか?

祖堅 それはどうでしょう……。ちなみに、カメラは入るみたいですよ。ただの思い出記録用なのか、どこかで使うのかは現時点ではわかりませんが。

――それでは話題を変えまして(笑)。レコーディングは順調ですか?

祖堅 本当にこの人たち(バンドのメンバー)はどれだけ引き出しがあるの? と思いますね(笑)。僕らは楽譜がないので、曲をポッと聴いて、「あそこのアレをもうちょっとああしたい」みたいに話し合うわけですが、具体的に何ヘルツをどうしたいっていう話はしないんです。「ベースの音は◯◯風に」とか、「ドラムはもうちょっとコミカルなほうがいいですかね」というように、ニュアンスで全部やっていってしまうんですよ。

たちばな 日本語がヘタなのね(笑)。

一同 (笑)。

祖堅 そういう感じで進めていくので、バンドの楽譜はないんですよ、僕たち。『FFXIV』プレイヤーの方から「バンドスコアを出してほしい」とよく言われるんですけど、簡単には出せないなと。

――皆さん、そういうタイプなのでしょうか?

たちばな みんな、頭よくないからね(笑)。そもそも、耳コピして楽器を弾き出した人たちだから、そういう感じで話しながら進むよね。一応、進行がわかる譜面はあるけど。

祖堅 譜面を開いても、“おたまじゃくし”は書いてないんですよ。

たちばな そうそう。サイズだけね。

――聞くところによると、デモは昨日上がったのだとか?

祖堅 昨日はレコーディングのための素材を出す作業(ステレオ2mixの状態からマルチチャンネルのデータをバラバラに書き出すこと)をやって、それを聴きながら帰宅していたんです。そうしたら、ゲーム中で鳴っている曲ってループ(くり返し)するので、お尻(エンディング)がないんですよ。データを聴いていたらループのところで曲が唐突に切れてる。これには「おい!」と(笑)。そのまま会社に戻って作りました(笑)。

――それで今日を迎えられているわけですね(笑)。GUNNさんはレコーディングは順調ですか?

GUNN おふたり(イワイ氏とたちばな氏)とも、飲み込むのが早いので……。一度“こんな感じ”の状態ができたら、「このへんをゴリっと、ボワンと」とか、そういうやり取りのくり返しです。それでふたりも「わかったわかった、もっかいいこ」みたいな。そんな感じなんですけど、比較的順調だと思います。

――GUNNさんはいつも通り、サウンド全体のプロデュースもされているのでしょうか?

祖堅 そうですね。

GUNN ま、そんな偉そうな感じじゃないですけど(苦笑)。みんないろいろなパターンを出してくれるので、「キタキタキター、最高でーす! いただきましたー」といった感じで進んでいますね。

――イワイさんはレコーディングの手応えはいかがですか?

イワイ このバンドでレコーディングするときは、一応デモ音源が送られてくるんですけど、あまり聴かないようにしているんです。聴くには聴きますけど、「あ、こんな感じか」くらいです。それで、ここに来て初めて演るんですけど、毎回おもしろいことになるなあと。

祖堅 イワイさんに欲しい音のイメージを伝えるときに、「もうちょっと中学生っぽい感じ」とか、「町内でいちばんうまいやつ」とか言うんですよ。

GUNN そうそう。その町でいちばんベースがうまい高校生の感じでお願いしますって(笑)。

祖堅 で、イワイさん、注文通りにやるんですよ。

イワイ というか、そんなのばっかだ(笑)。

一同 (笑)。

祖堅 歴戦のプロをつかまえて、「高校生みたいにやれ」と。

――コージさんはここに歌を入れるわけですが、ゲームではけっこうテクノロジーを駆使していますよね。

コージ レコーディングではもちろん地声で歌いますけど、テクノロジーのマジックはいろいろと使うと思います(笑)。

祖堅 コージはいつも歌が入った曲の完成形を知らないままパッチ配信日を迎えているんです。

――コージさんはライブで歌う際、緊張するのでしょうか?

コージ 緊張します。でも、緊張するのはステージに立つ前だけですね。ステージに立ったら緊張していても始まらないし、すべてを忘れてやるしかないと。いちばんの救いは、最初は自分の出番ではないことですね。会場が温まったころに出番が来るので。それまでは、ステージ袖で吐き気と戦っています(笑)。

祖堅 コージは、こうしてしゃべっているとただの“おもしろアメリカ人”なんですけど、ステージに上がるとけっこうロックなんですよ。

――マイクの構えかたもさまになっていますよね。

たちばな 素人とは思えない(笑)。

コージ あれは、コンタクトレンズを外して何も見えないようにしているんです(笑)。

――コージさんが歌っていていちばん好きな曲は?

コージ 『魔神セフィロト討滅戦』ですね。あれは大好きです。歌詞も、自分で書いておいてなんですが、カッコいいですし。「Say my name」のところはきっと盛り上がるだろうと思って書いた部分です。英語圏の方はともかく、欧州、日本、そして韓国の人も歌詞を覚えて歌ってくれるのは、すごくうれしいですね。

――それならば、1曲目は『セフィロト』でもいいのでは?(笑)

祖堅 じつは、セットリストはもう決まっています。でも、何回見ても「これ、体力的に大丈夫かなあ」と。だから、コッソリ筋トレしているんですよ。

GUNN 言ってたね。

祖堅 やんないとやばいよ? ホント。知らないよ、コージ?

コージ やってますよ。駅から帰るとき、腰をひねりながら歩いてます。

GUNN そんな外国人いやだな(笑)。

――セットリストはどんな感じで組んだのでしょうか?

祖堅 お客さん目線で、盛り上がる順番や組み合わせはどれだろうと考えていますね。ファンフェスのときは、ゲームのことをいちばんに考えて決めているんですけど、今回はゲームはちょっとだけ脇に置いて、THE PRIMALSとしてのセットリストを考えているんです。とにかく、「ロックのライブとは?」という感じですね。常日頃、バンドのメンバーには言っていることがあって、THE PRIMALSはべつに僕らが主役じゃないんです。もっとも重要なのはプレイヤーのゲーム体験です。そこをわかったうえで、ステージの上に立つ。それがTHE PRIMALSなんです。今回、そこのタガが若干取れることになる。それでどうなるのか楽しみではありますね。

――アルバムのタイトルについてもお聞かせください。『THE PRIMALS』と、バンド名をストレートにタイトルにしていますね。

祖堅 それしか考えていなかったです。わかりやすいのがいちばんいいので。THE PRIMALSの『THE PRIMALS』です。それにしても、僕らワールドツアーもやっているのに、CDを作ったことがなかったという。

たちばな 夢が叶うね(笑)。

祖堅 やっとですね。

――ちなみに、ライブ会場でグッズなどは販売されるのでしょうか?

祖堅 グッズは作っていますよ。

たちばな 作ってるんですか?

GUNN 麻雀牌とか? 100万円のペットボトルからフタまで?

祖堅 コンタクトレンズを捨てるためのケースとか?

――まじめに答えてください!(笑)

一同 (笑)。

祖堅 現時点ではまだ言えませんが、バンドらしいグッズを用意するつもりです。

――それでは最後にライブへの意気込みやメッセージを。

GUNN レコーディングも順調ですし、いい楽曲を届けられるんじゃないかと思います。それをしかと聴いていただいて、僕らはその感じをライブ会場にて炸裂させられればいいなと思っています。お待ちしておりやす!

コージ いままではファンフェスという場で、みんながファンという状況だからこそ安心してステージに上がれたんです。今回は、もちろんファンの方も来てくださるでしょうけど、初めて観にくる人もいるかもしれない。いい音楽を聴くために来るわけです。そこを念頭において、緊張感を持ってがんばらなきゃな、と思います。

たちばな “光の戦士”と“ふつうのロックファン”が会場でどういう化学反応を起こすのか、楽しみですね。ぜひ足を運んでいただきたいなと。

イワイ たぶんすごいことになると思うんで、ぜひ来てください!

祖堅 初心に戻りますと、僕は、サウンドディレクター、ゲーム開発者です。そんないちゲームのサウンド担当が、なぜZeppツアーをやるのかいまだにわからない感じですが、せっかくやるんだから、楽しんでやりたいなということと、来てくれた人が楽しんで帰ってくれるように最善を尽くそうと考えているので、ぜひライブ会場に来てほしいなあという気持ちですね。もちろんCDも買ってほしいですけど、やっぱりライブに来てほしいです。THE PRIMALSのライブ、けっこういいんですよ(笑)。Zeppという音楽に特化した箱(会場)でやれるというのは本当にありがたいと思っているので、また声が掛かるようにがんばろうと思います。

『FFXIV』オフィシャルバンド“THE PRIMALS”のレコーディング現場に潜入! 「Zeppツアーはたぶんすごいことになる」_01