ひふみんこと加藤一二三さんが大いに語る、『加藤一二三 九段監修 ひふみんの将棋道場(仮題)』の注力ポイントはココ!

ポケットがNintendo Switch向け『加藤一二三 九段監修 ひふみんの将棋道場(仮題)』を2018年に発売することを本日1月23日(ひふみんの日!)に発表。監修を担当するひふみんこと加藤一二三さんに聞いた。

 既報の通り、ポケットがNintendo Switch向け『加藤一二三 九段監修 ひふみんの将棋道場(仮題)』を2018年に発売することを本日2018年1月23日(ひふみんの日!)に発表した(価格は未定)。同作は、そのタイトル名からも明らかな通り、“ひふみん”こと加藤一二三 九段監修による初心者向け将棋ソフト。遊びながら将棋に親しみ、将棋の基本的なルールや初歩的な戦略などを自然に学べることを目指して開発が進められている。加藤一二三さん作成による新作詰将棋123題(!)が収録されているのも魅力だ。

 いまをときめく加藤一二三さん監修の将棋ソフトということで、大いに気になる『加藤一二三 九段監修 ひふみんの将棋道場(仮題)』だが、ファミ通ドットコムではそんな加藤一二三さんにお話を伺う機会を得た。その模様を以下にお届けしよう。

“ひふみん”監修のNintendo Switch用初心者向け将棋ソフト『加藤一二三九段監修ひふみんの将棋道場(仮題)』が発表

“ひふみん”こと加藤一二三九段監修のNintendo Switch用初心者向け将棋ソフト『加藤一二三九段監修ひふみんの将棋道場(仮題)』が発表された。

初心者向け将棋ソフトということで、使命にぴったり

――『加藤一二三 九段監修 ひふみんの将棋道場(仮題)』で、ゲームソフト監修のお話が来たときの率直なご感想を教えてください。加藤一二三さんの名前が冠された家庭用ゲーム機向けのソフトがリリースされるのは、19年振りくらいになるようですね。

加藤 私は、2017年6月に現役を退いてからも、将棋のおもしろさや奥深さを、ひとりでも多くの方に伝えていくことを自身の使命と考えていました。そんなときに、ポケットさんから、「初心者向けに重点を置いた将棋ソフトの監修を……」とのご依頼があり、「これは私の使命にぴったり!」ということで、快諾させていただきました。

――将棋の基本を学ぶチュートリアルモードでは、“ひふみん”というキャラクターがわかりやすく将棋を教えてくれるそうですね。テレビでひふみんのことを知って将棋に興味を持ったファンにも、ぴったりのソフトかもしれません。

加藤 まさにその通りなんです。とくに私が詰将棋を出題するというご依頼がたいへんうれしかったです。私は、詰将棋の問題を作るのが得意でして、喜んで引き受けさせていただきました。

――ほう! 詰将棋が将棋の上達に果たす役割は大きいのですか?

加藤 たとえば、3手詰めの場合は、第1手でいい手を出して、相手が守って、第3手でいい手を使って玉を詰めます。つまり、詰将棋の醍醐味、最大の魅力は、いい手ばかりを使って玉を詰めるということです。平凡な手は決して使いません。平凡な手を指したのでは、玉は詰まないように詰将棋は作られています。「将棋というのは、こんなにすばらしい手があるんだ」ということで、将棋の魅力がわかるんです。私は小学4年生のときに詰将棋の本を読んだのですが、そのときに「将棋というのは、こんなにおもしろいものなのか!」というのを初めて悟りました。

――珠玉の手が並ぶわけですね。

加藤 実戦ではプロは平均125手で勝負がつきますけれども、当然プロだからいい手ばかりを指していきたいのですが、実際の対局ではいい手を指すチャンスがあるのは、そうですね……多くて5回です。通常は着実な指しかたをしていって、何かのときにすばらしい手が指せる局面がある。詰将棋は、そんなすばらしい手ばかりなので、将棋のおもしろさを理解するには最適です。音楽で言うと、サビの部分を集めたメドレーのようなものです。

――おお、なるほど。今回、加藤さんの新作詰将棋が123題収録されるとのことですが、詰将棋はどのように作るのですが?

加藤 簡単に言うと、初めに構想があるんです。“こういう手順を使って玉を詰める”という構想を頭で練るんです。半分は頭の中で作るんですね。そのあとで、実際に盤でコマを動かして完成させるのです。

――詰将棋を一題作るのに、どれくらいかかるのですか?

加藤 だいたい、ふつうは5分です。

――5分ですか?

加藤 はい。かつてあるイベントで、来場者にコマを10枚握ってもらって、そのコマで詰将棋を作るという催しをしたことがあるんですね。それを“握り詰め”というのですが、司会を担当した将棋連盟の職員が、私が握り詰めに挑戦するのに相当時間がかかると想定して、私が考えているあいだにトークで間をもたせようとしていたんです。ところが私があっという間に詰将棋を作ったので、びっくりしていましたね。300人もお客さんがいるのに30分もお待たせしていたらアウトですからね。その職員の方は、いまだに「さすがは加藤先生!」って言ってくれます。

――ゲームでは、加藤さん謹製の新作詰将棋が123題も収録されているということで、楽しみですね。

加藤 詰将棋の雑学で言いますと、江戸時代に伊藤看寿という名人が作った611手の大長編があります。

――なんと! 611手というのはすごいですね。

加藤 ちょっと冗談めかして言うと、よっぽど暇だったのかなと(笑)。当時の名人はいまみたいに公式戦を戦わないから、相当時間があったんじゃないかなと。私たちが公式戦を1年間戦うようなことがないぶん、詰将棋の創作に励める。私だったら、「加藤さん、1年間で500手の詰将棋を作ってほしい」と言われてもお手上げ。ギブアップですよ。

「勝つことはえらいことだ」

――なるほど。ところで好奇心の赴くままにうかがってしまうのですが、プロの平均が125手で、いい手が5回とのことですが、いい手は“ここで指そう”という感じで持っていくものなのですか? それとも着実に指していって、ある瞬間にピンとくるものなのですか?

加藤 プロの棋士は、基本的にお互いが100点の手を指そうと思ってがんばっていますよ。とは言いながら、対局を進めていく過程で、棋士が想定もしてないところで、いい手が潜んでいることがあるんです。そういったことが1局に5回くらいありますね。

――いい手というのは閃くのですか?

加藤 いいご質問です! 数学者が言っているのですが、将棋の手の可能性は10の222乗あるのだそうです。簡単に言うと、将棋の手の可能性はほぼ無限です。プロは対局をパッと見た瞬間に、「これがいちばんいい手」というのは、だいたい浮かんできます。閃きますね。ちなみに、パッと見た瞬間に浮かんだ手がもっともいい確率は、私の場合で95%です。

――95%ですか?

加藤 大山康晴名人は85%だったと、本に書いてありました。パッと見たときに、これがいい手だという確信があるのですが、将棋には持ち時間というものがありますから、(思いついた手を)もう一辺頭の中で考えて検証するわけです。もちろん、持ち時間がない対局のときは検証しませんよ。

――加藤さんが歴代3位となる1324勝を記録されていますが、その閃きゆえの勝ち星と言えそうですね。

加藤 現役の1位は羽生善治さんで、1391勝。まさに“覇者羽生善治”。いい将棋を指した内容は、私は羽生さんと互角だったと自負していますが……。歴代最高勝ち数は大山康晴名人で1433勝。覇者という意味において、羽生さんと大山さんは互角かもしれない。

――いま話題の藤井聡太くんは、そんな片鱗は見えますか?

加藤 片鱗は見えています。彼はいま15歳です。15歳くらいの年齢で、将棋の研究を重ねた量においては、たぶん彼が1位だと思う。そのうえで、勝っていますからね。59勝しているんですよ。プロ棋士で1位の勝ち星。15歳の少年が59勝していますが、これは空前絶後で、この記録を抜く人はいないと思います。実際のところ、1年間に公式戦で55勝以上できるのは、最盛期の名人ぐらいしかいません。つまり、将棋界のトップが最盛期にしかできないことを、彼は15歳でやってのけているんですよ。これはすごいことです。将棋の世界では1回勝つのはたいへんなんですよ。塚田正夫という先輩名人の名言があります。「勝つことはえらいことだ」という。まさにそれですね。

――たしかに……お互いが勝ちたいと思っていて、それで勝つのはたいへんなことですものね。

加藤 単純素朴な言葉だけども、私は名言だと思っています。一方で、丸田祐三という、私の尊敬する先輩が若いころに言った言葉も印象的です。「加藤さんね、勝負は1勝1敗だ」というんです。これも私は名言だと思うのね。勝負というのは、1勝1敗なら互角ですから。2回負けているわけではないんだから、1勝1敗なら一流ですよね。

――うーん、深いですね。

加藤 さらに、谷川浩司さんが1000勝したときに、たしかこう言いました。「私はつねに若いころから2勝1敗を目標にしてきました。自分はこれで1000勝できました」と。私はそうではなくて、目標を立てないで1局1局戦っていけば、いつかは500や1000勝を達成すると思っているタイプ。要するに目標は立てない。目標を立てなくても、戦っていたらふつうに勝っていくと。

――いずれにせよ、基本勝負師はみんな負けず嫌いですよね。

加藤 僕はすべての棋士と戦っていますが、大山先生は負けず嫌いでしたね。私は負けず嫌いではないです。負けて悔しいという思いがないんです。

――負けて悔しくないと、将棋界では生き残っていけなくないですか?

加藤 程度の問題ね。大山先生は負けず嫌いだったんだけど、一方でものすごく冷静な方だったから、トップになれたと思います。大山先生の本を読んでいると、「意地でも」という言葉が随所に出てきます。「意地でも負けられない」「意地でも勝とうと思った」という。それはなぜかというに、大山先生は岡山からお父さんに連れられて大阪に出てきたときに、木見金次郎九段のところに弟子入りしたのですが、何人かの棋士と将棋を指した後に、「見込みがないから帰れ」と言われたらしいんですね。

――それはきびしいですね。

加藤 実際のところ、それだけのことを言われたということは、当時の大山少年はそのときは見込みがなかったんでしょうねえ。ところが大山先生はそこから踏ん張ったわけです。踏ん張って後に将棋界のトップに立った。そのときの経験から“意地”という言葉を学んだんでしょう。たぶん大山先生は、子どものときに「意地でも棋士になってみせる」と思ったんでしょうね。で、最近聞いてびっくりしたのが、羽生善治さんは将棋を覚えて1、2年は、勉強したけど勝てなかったというんですよ。だから、その時期に大先生が羽生さんの将棋を見たら、「お前は見込みがないから、プロになるのは止めろ」と言われたかもしれませんね。

――それは意外ですね。

加藤 このあいだ羽生さんとテレビで対談して、「先生、僕は子どものころ、あまり勝てませんでした」というんです。私はびっくりしてしまって……。私は子どものころは負けたことがなかったので。

――そう考えると少し不思議ですよね。いまでこそ天才と呼ばれせる人も、最初はそうではなかったという。何か転機があったのかしら……。

加藤 転機というより、やっぱりそういう性格だったんでしょうね。大山先生だって、ダメだと言われて帰ってしまったら、そのままだったわけですよね。それを帰らなかった。ある意味運もあるわけですが…。そういった意味では、将棋に対する思い入れも大きかったのかもしれないです。諦めなかった。そうでしょうね。その点では、私はそこまで負けず嫌いではないと思いますが、名人になることができました。人それぞれですね。

空前の将棋ブームは、「来たな!」という感じ

――いま、羽生善治竜王が国民栄誉賞を受賞したり、藤井聡太四段さんが話題になったり、そして加藤さんが大人気など、空前の将棋ブームかと思いますが、これについてはどう思いますか?

加藤 来たなって感じです。私たちの先輩も、勝つための棋士としての生活を送ってきたわけですが、そういった積み重ねが花開いたという感じがしています。将棋のいいところは年齢差があっても和やかに戦えるところ。将棋の効用というのはいろいろとあって、子どもたちに対する教育という観点から見ても、非常に有効だと思っています。頭を使うのはもちろんですが、礼や物事を考える力も学べますから。この前、青山大学 駅伝の原晋監督と対談したのですが、「加藤先生、この状況からすると、スポーツよりも将棋を指す子どものほうが増えてきますね」って心配していました(笑)。

――ところで、将棋のコマでいまは飛車がお好きなんだとか?

加藤 縦横無尽に大活躍しますから。華麗な動きをするのが大好きです。将棋のファンは、ほとんど飛車が大好きです。とても人気にあるコマで、コマの中では最強です。飛車を使ってピシッと勝ったときは爽快な気分になりますね。ちょっと前までは、好きなコマは銀と言っておりました。

――いつくらいから飛車がお好きに?

加藤 1年くらい前からですね。心境の変化です。とくに理由はありません。銀もいまだに好きです。私は43歳のときに名人になりましたけれども、そのときの最後の手は3一銀でした。もっとも大きな勝負で勝ったときの手が銀だったんですね。銀は……わかりやすく言うと、営業部長。収益拡大のために前線に出る。敵陣突破の最大の功労者です。将棋では銀がないと突破できません。攻めの要ですね。

――銀が営業部長というのはわかりやすいですね(笑)。将棋を一般の人にわかりやすく伝えたいという気持ちが溢れているなあ。その段で言うと、飛車は何に?

加藤 飛車ですか……。飛車は会社で言うと何だろう……。私は、ドコモのコマーシャルに会長役で出演させていただいていますが、飛車は会長かな。

――飛車が会長ですか?

加藤 社長か会長。

――社長は王将ではないのですか?

加藤 玉というのはね、けっこう難しいのですが、社主かなあ。社主は仕事はしないわけですよ。

――(笑)。『加藤一二三 九段監修 ひふみんの将棋道場(仮題)』の発表を記念して、無料スマホアプリ『ひふみんRUN すすめ!棒銀一直線』が配信されるのですが、ゲームの宣伝を別のゲームでするという試みはとてもユニークです。しかも同作はまさに、加藤さんが得意だった棒銀戦法をモチーフにしていますね。

加藤 とてもいい感じですね! 気に入りました。ただ、ひとつだけ、変更をお願いしてしまったんですよ。当初ハブさんというヘビのキャラクターが登場することになっていたのですが、「変えてください!」と。

――あら、なぜですか?

加藤 とにかくヘビが苦手で……。

近日配信予定の『ひふみんRUN すすめ!棒銀一直線』。

――あら(笑)。名残惜しいですが、そろそろお時間ということで、最後にNintendo Switch用ソフト『加藤一二三 九段監修 ひふみんの将棋道場(仮題)』を楽しみにしている読者に向けてひと言お願いします。

加藤 “ゲーム”というジャンルに挑戦できることに、胸をワクワクさせております。本作は、初心者の方でも気軽に楽しめるということで、将棋をご存じでない方は、このゲームをプレイして将棋を勉強してみてください。基本を学ぶためのモードや、初心者向けに細かくレベル分けされたコンピューターとの対局モードに加えて、私が新たに作る詰将棋が123題収録されていますので、ぜひとも挑戦してみてください。詰将棋にトライすることによって、将棋のおもしろさがさらにわかりますよ。本作によって、将棋の魅力がさらに浸透していくといいなあと期待しています。

■撮影:堀内剛



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