『スーパーマリオ オデッセイ』小泉Pに訊く、心に刺さる驚きを目指した“箱庭マリオ”の革新と、名作が続く任天堂開発の秘訣

2017年10月27日に発売されるNintendo Switch用ソフト『スーパーマリオ オデッセイ』。本作の開発秘話、そして込められた想いを、歴代“3Dマリオ”を手掛けてきた、本作のプロデューサー・小泉歓晃氏に訊く。また、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『スプラトゥーン2』などのヒット作が続く、任天堂の開発体制についてもお話をうかがった。

 2017年10月27日に発売されるNintendo Switch用ソフト『スーパーマリオ オデッセイ』。Nintendo Switchでついに発売される『スーパーマリオ』シリーズの最新作であり、シリーズとしては、15年ぶりの箱庭タイプの3Dアクションゲームとなる。本作では、“3Dマリオ”らしいアクションとともに、リアルな頭身の人間を登場させたり、ボーカル曲を採用したりと、これまでのシリーズとは異なる変化も大きく押し出しているのが特徴だ。発売前にして本作の評価は非常に高く、E3 2017では、世界38のメディアが出展タイトルから優れたタイトルを選出する“Game Critics Awards: Best of E3 2017”にて、“Best of Show”のほか、“Best Console Game”と“Best Action/Adventure Game”の3冠を授与している。今回、そんな本作の開発秘話、そして込められた想いを、歴代“3Dマリオ”を手掛けてきた、本作のプロデューサー・小泉歓晃氏に訊く。また、小泉氏と言えば、Nintendo Switch(以下、ニンテンドースイッチ)本体のプロデュースも担当。販売好調なニンテンドースイッチや、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『スプラトゥーン2』などのヒット作が続く、任天堂の開発体制についてもお話をうかがった。

プロフィール

任天堂
スーパーマリオ オデッセイ』プロデューサー
小泉歓晃氏(文中は小泉)

スーパーマリオ オデッセイ』のプロデューサー。また、ニンテンドースイッチ本体のプロデューサーのほか、任天堂のニンテンドースイッチ用タイトル全体を監修する役目も担っている。

予想以上に早かった、ニンテンドースイッチ需要の広がり

――今回、『スーパーマリオ オデッセイ』と合わせて、せっかくですので、小泉さんがプロデューサーを務めているニンテンドースイッチ本体のお話もお聞きしたいと思います。3月の発売から品切れが続いたりと、世界中で好評を得ていると思いますが、この状況は予想以上でしょうか?

小泉 たいへんうれしいことですし、たいへん申し訳ないことでもあって、いろいろな気持ちが入り混じっています。もともと、何年かかけて“こうやって遊んでほしい、こういう人に遊んでほしい”ということを想像しながらニンテンドースイッチを作ってきまして、理想の状態に徐々に近づいていくようにしたいと思いながら、あのソフトはこのタイミング、このソフトはここと出すように考えてきました。その点で言うと、遊んでくださっている皆さんが「こう遊ぼう」、「こういうところがおもしろい」と楽しんでいただいているので、我々が目指していたものはしっかりと伝わっているような気がしていて、その点はよかったなと思っていますが、ちょっと予想外だったことがありました。それは、1年や2年といった期間をかけて楽しさを伝えて、お客さんが増えていく流れを考えていたんですが、その広がる速度が予想以上に早く、それがうれしい誤算でしたね。

――ブームに近い状態になっていると思いますが、その要因は何だとお考えですか?

小泉 運がよかったんだと思います。

――いやいや、運だけでここまではいきませんよ(笑)。

小泉 任天堂っていうのは、そう思うことを大事にする会社なんです(笑)。そうですね、それにお応えするとしたら、皆さんに受け入れていただけるように全社で取り組んできたので、幸運にもその成果が早く出てきているのではないかと思います。その要因のひとつとしては、人に説明するときにすぐに伝わるシンプルなコンセプトがあるのかなと分析しています。“いつでも、どこでも、だれとでも”というひとつの言葉にゲームの遊びかたの広がりを込めることができました。それをお伝えすることで、ニンテンドースイッチをちゃんと遊んだことのない人にも特徴をお伝えできるというのが、よかったんじゃないかなと思います。

――なるほど。狙い通りではあるものの、ただ広がる速度は想定以上だと。

小泉 まずゲームが好きな方に遊んでもらうために『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を発売し、『マリオカート8 デラックス』でJoy-Conの“おすそわけ”を体験していただいて、新しい体験ができるゲームとしてJoy-Conを2個使った『1-2-Switch』と『ARMS』を出し、その後に多くの方に楽しんでいただけるわかりやすいソフトとして、みんなで持ち寄るローカル対戦の楽しさを伝えるために『スプラトゥーン2』を出し、その後に、『スーパーマリオ オデッセイ』、そして本格的なRPGの『ゼノブレイド2』が出るんですが、これは各ゲームがそれぞれの役割を持ってだんだんと遊ぶ人を増やしていくことを目指した流れだったんですね。とはいえ、まずはゲーム好きな方々を中心に手に取っていただけるのではないかと思っていたところ、思ったよりも早く家族でゲームを楽しむ方々にお買い求めいただけて。それは、我々から見ても予想外の展開でしたね。今回、年末ではなく、3月発売といういつもと違うスタートでもありましたので、おそらくスロースタートになるだろうと思っていたのですが、想定以上に多くの方が欲しいと思っていただけたようで……。お待ちいただいている方々にはたいへん申し訳ないのですが、現在もなるべく早く皆さんのお手もとに届くように生産をしていますので、もうしばらくお待ちください。

――いま、本体発売からここまでのソフトラインアップのお話がありましたが、以前インタビューをさせていただいたとき、ラインアップは数年先まで見越しているというお話があったと思います。今回の『スーパーマリオ オデッセイ』は、年末前の10月末の発売というのは、想定通りだったのでしょうか?

小泉 ラインアップについてはいろいろと話し合いをしまして、最初に『スーパーマリオ オデッセイ』を出すという話もありました。そういった話の中で、『マリオ』はどういう役割なのか、『ゼルダ』はどういう役割なのかと考え、最適なものを選んだ結果が現在の形になっています。ニンテンドースイッチの特徴をお伝えするためには、1本だけでは説明しきれない部分もありますので、複数のタイトルという流れで出すことを考え、このタイミングで『スーパーマリオ オデッセイ』を出すことにしました。その結果、このタイミングにしたのは自分としてはよかったかなと。

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2017年3月3日に発売を迎える、任天堂の新ハード“Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)”。任天堂の取締役であり、ソフト開発の全般を監修する高橋伸也氏と、Nintendo Switchの総合プロデューサーを務める小泉歓晃氏のおふたりに、Nintendo Switchへ込めた想い、開発秘話をうかがった。

驚きをテーマに、複数のアイデアでまとまった『スーパーマリオ オデッセイ』

――『スーパーマリオ オデッセイ』はいつごろから開発が始まったんですか?

小泉 『スーパーマリオ オデッセイ』は、もともと東京制作部と呼んでいた、東京にある第8プロダクションという、いわゆる“3Dマリオ”を手掛けてきたチームが作っています。前作の『スーパーマリオ 3Dワールド』が2013年に発売されまして、その後から企画を始めて、1年くらいかけていろいろな議論を重ねつつ試作をしていましたので、本格的に動き始めたのは2014年末くらいからですね。

――箱庭タイプのゲームデザインとしては、『スーパーマリオサンシャイン』から15年ぶりになりますが、企画の段階で「つぎは箱庭にすべきだ」とか「大きく見直すべきだ」といったお話が出ていたのでしょうか?

小泉 つぎの『マリオ』をどうしようかという議論の中で出た話題が「『マリオ』は、共感のゲームだよね」というものでした。多くの人に共感していただけるものというのは、それだけ多くの人にわかりやすく、伝わりやすいということにもなるので、非常に大事なんです。ただ、ともすると、共感できるものはあって当たり前のものにもなってしまう。でも、『マリオ』シリーズはいろいろなことにチャレンジするタイトルでもあるので、多くの方に理解していただける“共感”は大事にしつつも、それだけではなく、ちゃんと驚きを与えることを肝に銘じて作るようにしようと。やはり、商品には心に刺さるという点があることが大事だと思っていまして。いまおもしろいというよりも、5年後10年後にも“あのシーンを思い出す”とか“あの手応えが忘れられない”と言ってもらえるような驚きを与えられるものを作ろうと、開発チームに伝えました。そのためのキーワードとして、「じゃあいったい『マリオ』はどう変えていったら、多くの人の心に刺さるのか」といったことを、たくさんの試作を通じて試していったというやりかたが、今回のスタートでした。

――驚きを重視すると、シリーズの枠から大きく外れるようなことがあると思います。たとえば、今回のキャプチャーでは、マリオが戦車になるといった、これまでのシリーズでは考えられないようなことが多くありますが、驚きを生むことと、シリーズの枠を重視することの基準などはどのように決めていたのでしょうか?

小泉 最初は、「場合によってはマリオじゃなくて、別のキャラクターになってしまっても構わない」というくらい自由に、自分たちの心に刺さる自信のあるアイデアを実装して試作をしていたんです。そのアイデアのひとつに、ティラノサウルスを動かすというものがあって。これまでだったら、マリオがティラノサウルスに乗る、といった形にしていたんですが、今回はそうではなく、リアルな表現のティラノサウルスを出して、それとは別で出ていた“乗り移る”という仕組みや、“帽子を投げる”アクションといった試作のアイデアをうまく融合させて、最終的にキャプチャーという形でまとめ上げたんです。

――バラバラに出たアイデアをまとめたんですね。箱庭形式を選択したのは、そういったアイデアをまとめ上げるため?

小泉 ひとつひとつのアイデアの中には、『マリオ』の世界とは異なるテイストで作っていたものもあって。これをまとめるとなると、キャプチャーといった機能面だけのまとめでは収まりきらなかったんですね。それで、別の世界を用意して驚きを感じてもらえるようにすれば、リアルなティラノサウルスがいてもいいし、森や砂漠があってもいいし、リアルな人がいるビルの街があってもいいと。それで、いろいろなアクションを活かせて、また、国の特徴をより濃く出せるということも相まって、箱庭形式の世界を作り、マリオが各国を旅するというテーマができたというわけです。

――順を追ってお話をうかがっていくと、“オデッセイ(旅)”というタイトルや、キャプチャーが生まれた経緯などがわかりますね。とはいえ、「『マリオ』にリアルな頭身の人間は出していいのか?」といった議論はありませんでしたか?

小泉 ありました。じつは、以前にも同様の議論はあって。『スーパーマリオサンシャイン』で人間を出す予定だったんです。『スーパーマリオサンシャイン』の開発中に近い試みをしたんですが、議論の結果、“リアルな頭身の人間を出すのはやめる”という結論になって、人からデフォルメしたキャラクターにしたんですね。『スーパーマリオ オデッセイ』でディレクターを務めている元倉(元倉健太氏)は、『スーパーマリオサンシャイン』にデザイナーとして参加していたので、そのことを覚えていたらしく、「今回はやりましょう」と(笑)。

――なるほど! 『スーパーマリオサンシャイン』ですと、モンテ族やマーレ族といったかわいい住人が出ていましたね。

小泉 それとは別に、人間の子どもも歩いてたりしていたんですよ。

▲『スーパーマリオサンシャイン』のモンテ族とマーレ族(任天堂公式サイトより)。

――そうなんですね。では、これも15年越しでついに!

小泉 そうなんですよ。『スーパーマリオサンシャイン』はひとつの島の中にいろいろな人がいたので、しっくりくる説明が難しかったんですけれども、今回は別の国に行ったら、すごく身長の高い人間がいたり、頭身の低いキャラクラーがいたりするという、国ごとの違いという設定にして説明できたのがよかったなと思っています。僕らも外国に行くと、身長差を感じたりしますし。

――お国柄ですね。『スーパーマリオ オデッセイ』では、現実でも見たことがあるようないろいろな国が登場していますが、各国はどのように作っていったのでしょうか?

小泉 まず、キャプチャーを含めたマリオのアクションを先に考えていて、そのアクションで遊べるコースはどういうコースにするかというレベルデザインをして、その後にどういった絵柄でまとめるかという話し合いをして、「足を取られる場所だったら砂だよね」、「じゃあ砂漠でしょ」という流れで考えています。ただ、今回はそういった考えにひとつスパイスを加えて、砂漠だけどよくあるエジプト風ではなくて、メキシコ風にする、しかも砂漠なのに寒い、といった考えかたを少し変えるようにして、驚きが生まれる工夫をしています。

――キャプチャーは、本作でもいろいろな種類がありますが、やはり収録されているもの以外にもいろいろなアイデアが出たのでしょうか?

小泉 使われなかったアイデアは今後のためにナイショにしておきたいのですが、採用しなかったものもあります。キャプチャーという仕組みそのものが、ネタを無限に広げてくれるので、いろいろなアイデアが実現できるんですね。ただ、やればやるほど、ボリュームが増えてゲームが発売できなくなっちゃうんですけど(笑)。3Dアクションゲームの特徴として、敵がいると避けることが多くなるんですが、このキャプチャーによって、敵を見つけると近寄って乗り移れるかどうかを試したくなる、乗り移ることによって新たなアクションが使えるという、プレイヤーに大きなメリットがある。いままでのようなザコ敵の場合は、デメリットが大きいと適切に配置するのが難しいのですが、今回は敵との距離感を変えることができた点がすごく大きいと思っています。

――キャプチャーによって、敵もより活きるようになったわけですね。キャプチャーの影響で、これまでのマリオではできなかったアクションがたくさん生まれましたね。

小泉 生き物じゃないものにも乗り移りますしね。ポールとか、マンホールとか。ズルズルと動くだけだったりして(笑)。

――確かに何でもアリだなと思いました(笑)。ちなみに、小泉さんのお気に入りのキャプチャーはなんですか?

小泉 ティラノサウルスですね。それ以外だと、バブルかな。これまでに「バブルになりたい」なんて思ったこともありませんが、バブルになったら「火の海、このままいけるやん」という発想が浮かんだりしたのは、けっこう驚きでしたね。それを使ってコースをクリアーするというレベルデザインもできているので、キャプチャーによる楽しみかたの広がりを象徴するもののひとつだと思います。バブルって、基本的には倒すことができないジャマな敵で、とくに嫌われる対象でしたが、いちばん嫌いな敵からいちばん好きなものになる可能性もあるという意味では、バブルはいいですね。

――今回、キャプチャーが入ったぶん、ファイアーマリオなどの変身マリオはなくなりましたが、併用するというアイデアもあったのでしょうか?

小泉 キャプチャーの話が出た時点で、変身マリオを作るかという議論もしました。変身マリオを作るときにいつも悩むのが、どういうアイテムで変身をさせるか、どういう性能なのかをいかに理解してもらうか、ということなんですね。今回は、キャプチャーに集約させることで、敵の特徴的な動きを見れば変身後の性能もすぐに理解できるというガイドを兼ねていることが大きく、変身のいくつかの課題が解消されたので、変身をやめて、すべてキャプチャーにまとめました。