バンダイナムコエンターテインメントより、プレイステーション VR専用ソフトとして発売中の『サマーレッスン』。コミュニケーションに特化したVRコンテンツとして発売され“キャラクターが本当に目の前にいるような体験”が話題を呼んでいる同作では、キャラクターの声を担当するキャストが、モーションキャプチャーも行っている。2017年10月12日には3人目の教え子となる『サマーレッスン:新城ちさと』の配信も開始された。
本記事では、宮本ひかり役 田毎なつみさん、アリソン・スノウ役 阿部里果さん、新城ちさと役 畑中万里江さんのキャスト陣に加え、モーションキャプチャーで演技指導を行った芝井美香氏、本作のプロデューサー兼ディレクター 玉置絢氏の5人に収録の思い出やキャラクターへの想いなどを語っていただいたインタビューの模様をお届けする。

――まず、『サマーレッスン』を体験された感想を教えてください。
田毎『サマーレッスン』では、モーションキャプチャーもやらせていただいたので、かなりグイグイ近づいていくということはわかっていたんですけど、いざ実際にプレイしてみると、思っていた以上に接近してきてビックリしました。あと、“ひかりちゃん”の動きを見て、「私って、そういう歩きかたをしていたんだ」という発見があったのは、とてもおもしろかったですね。
阿部私は『サマーレッスン』でVRを初体験だったので、“そこにいる”という感覚に驚きました。縁側に金髪の浮世離れした女性がギターを弾いているという“アリソンちゃん”のギャップが本当に堪らなかったです。「ここに帰ってきたい!」と思う気持ちがすごく強く思ったほど、幸せな経験でした。
畑中見た目は“ちさとちゃん”なんですけど、表情、動きの端々に自分を感じ、なんかすごく恥ずかしくて、終始ニヤニヤしちゃいました(笑)。私は“ひかりちゃん”もプレイさせていただいたのですが、なつみちゃん(※田毎さん)とは、ふだんからよく遊んでいて、よく知っているので“ひかりちゃん”を見たときに「“ひかりちゃん”なんだけれども、なつみちゃんの雰囲気を感じる」みたいな不思議な感覚でした。でも、それがリアルな実在感に繋がっているんだろうなと感じましたね。
――今回は声の演技だけではなく、モーションキャプチャーも皆さんが行われたということですが、難しかった点や楽しかった点はありましたか?
田毎ドラマや舞台のお芝居では、セットがある状態で演技を行うと思うんですけど、今回はセットが何もない状態で収録しました。「ここに台所があります」、「ここに扉があります」という感じで、イメージしながら実際にあるようにお芝居をしないといけなかったので、最初は戸惑いましたね。
阿部Tのポーズなど、いろいろと決まりごとがあったのですが、それを忘れて、リテイクになってしまうようなことが何度かありました(※モーションキャプチャーの最初と最後は、技術的な理由から、腕と左右に伸ばすアルファベットの“T”のようなボーズを必ず取らないといけなかったとのこと)。あと、モーションキャプチャー用のスーツは、けっこうピッタリ体のラインが出るので、スーツを着るのは羞恥心との戦いでしたね。動きについても「あっ、阿部さんのいつもやっている動きだね」と言われて、本当に恥ずかしかったです。

畑中撮影した動画のデータをいただいて、後から見るのがすごく恥ずかしかったですよね。私が覚えているのは、モーション収録のときにはセリフを覚えて演技をしなくちゃいけなかったんですけど、セリフを忘れてしまって。でも、演技を途切れさせちゃいけないと思って、ニュアンスだけは覚えていたので、勢いでセリフを言ったら、本来のセリフよりもひどいことを言ってしまいました(苦笑)。
芝井声優さんのアフレコは台本を見ながら演技をすると思いますが、モーションキャプチャーでは、セリフを暗記してもらわなくてはいけなかったんです。しかも、『サマーレッスン』はVR作品ということで、通常のモーションキャプチャーと違い、カット割りができないので、1シーンがすごく長いんですよ。それでも皆さんは、リハーサルまでにセリフと演技を完璧に覚えてきてくれました。
玉置セリフ忘れでリテイクになることはほとんどなかったですよね。その分をキャラクター表現や演技を作り込む時間に使うことができて、すごく助かりました。
芝井そうですね。今回はお嬢様である“ちさとちゃん”の薄目の演技のように、表情まで演じてもらわないといけなかったので。
畑中目の表情はこだわりましたね。
田毎表情をキャプチャーするためのカメラが前に付いたヘルメットも被りました。そんな体験は初めてだったので、距離感がまったく掴めず、振り向いたらカメラが先生役(※プレイヤー)のスタッフさんに当たってしまうということもあって、いろいろと新鮮でした。
畑中美香さんに先生役をやっていただいたこともありましたね。美香さんと見つめ合ったり……。
芝井ハグをしていただいたりしました。
畑中何十秒と見つめ合うのは、本当に恥ずかしかったです。
芝井でも、表情もキャプチャーしていて、照れている表情を出すこともできなかったので、たいへんだったと思います。
田毎本当に照れとの戦いでしたね。
畑中でも、それも次第になくなっていって……。
田毎最終的には何も感じなくなりました(笑)。
一同 (笑)。
芝井阿部さんもそうでしたね。
阿部本当ですか! よかったです。アリソンちゃんは、まだ日本に居たいのに、本国に帰らされるというような心の葛藤がある中でも、マイナスの感情が爆発する子ではなかったので、“私はまだ、日本に居たい”という彼女の感情の頂点の部分を出すのが、たいへんでした。涙ぐんで声が震えたり、泣いちゃうシーンもあったりして、そこはセリフよりはお芝居に集中して演じたので、すごく記憶に残っています。
――芝井さんから皆さんに共通して、アドバイスしたことなどはありましたか?
芝井やっぱり、距離感です。モーションキャプチャーのときに先生役の人間が座っていると、距離が近いので照れてしまうんですけど、「照れないでお芝居して」と、照れよりも距離感を大事にしてもらいました。皆さんはすぐにその恥ずかしさの壁を越えてくださいましたけどね。
畑中すごく近かったですもんね。
田毎ふだん、そんな距離でしゃべらないです(笑)。
阿部パーソナルスペースが少し崩れましたね。
芝井あとは、「あざとくならないくらいにかわいくしたいから、ここで小首傾げて」というようなお願いもしましたね。
阿部そうですね。芝井さんのおかげで、演技の引き出しが増えました。
玉置「このシーンどう演じようか?」というときは、皆さん芝井さんからアドバイスをもらっていましたね。あと、芝井さんが「表面的に悲しい表情やうれしい表情するだけでは、わざとらしくて心が伝わらないので、“このとき本人(キャラクター)はどう思っているのだろう?”というように、心理的なロジックを考えて演技しましょう」と、皆さんにいちばん最初に言っていたことを覚えてします。

芝井玉置さんの頭の中では、“こういう表情”というイメージがあるんですけど、それを「じゃあ、こういう表情をやってみて」とやると、それは形になってしまって、玉置さんが求めている表情とは違ったものになってしまうんです。でも、皆さんは演者さんなので、玉置さんのほしい表情に合わせて「こういう表情をしているということは、“ひかりちゃん”はこういうことがあって、こういう気持ちなのかな」とイメージできると自然とその表情になるんですよ。私はその橋渡し的なことをやらせていただいていました。ただ、“ちさとちゃん”は、ドSな雰囲気だったり、意地悪をしないといけなかったり、想像し辛いところもあったので、難しかったと思います。
畑中そうなんですよね。あと、デレるところも難しかったです。どこまでデレていいものかと悩みました。そのほかに、ポージングもこだわりましたね。足をどうしても組みたいとか、イスに手を掛けたいとか、スタッフさんにがんばっていただきました。
玉置足を組むと、スカートの布を足の間に巻き込んでしまい、物理シミュレーターが破綻する可能性があったんです。でも、なんとか実現したかったので、モーションキャプチャーの現場から、開発のプログラマーに電話をして、技術的に可能かどうかを確認したりしましたね。
畑中その甲斐があって、姿勢とか立ち振る舞いがイメージ通りの完璧な“ちさとちゃん”になっていて、すごくうれしかったです。
――『サマーレッスン』に登場する3人の生徒はすごく個性的だと思うのですが、演じる際に感情的な面で意識されたことはありましたか?
田毎私は、逆に何も考えないようにして演じました。収録前に、玉置さんといろいろなキャラクター像を話し合って、“ひかりちゃん”は、悩むよりも先に言葉が出るタイプだと感じたので、私が“ああしよう、こうしよう”と考えてしまうと、それはどんどん“ひかりちゃん”から離れていってしまうのかなと。だからこそ、あまり考えず、先生に言われて素直に出る感情を意識して演じました。
芝井田毎さんは、真面目で、実直で、努力家な方なので、考えて演じると“ひかりちゃん”が賢くなってしまうんですよね。だから、「考えず反射で話してみよう」というような話をしましたね。
田毎いままでの生活とは違う部分で演じてみました。だから、収録中は“ひかりちゃん”につられて、友だちとしゃべっているときに「明るくなったね」と言われたくらい影響力のあったキャラクターです。
阿部“アリソンちゃん”は、“ひかりちゃん”と対処的で、アメリカ人なんですけど、誰よりも大和撫子というか、ちょっと内気でおとなしくて、いつも先生の顔色をうかがっているという子だったので、あまり感情豊かではないんですよね。欧米人なので大きくなるのかなと思いきや、ちょっとウジウジしちゃうみたいな。そういうギャップのある子だったので、そこは意識しました。愛おしいというか、自然とこの子を守ってあげたいと思えるような子でしたね。
芝井阿部さんは、私から見るとすごい天才気質でしたね。“アリソンちゃん”は、“ひかりちゃん”に続いて、ふたり目のキャラクターだったので、「“アリソンちゃん”ってどんな子にしたらいいんだろう?」と、私や玉置さんが模索するところから始まりました。でも、阿部さんが演じているところを見て「あっ、これが“アリソンちゃん”だ!」となったほど、ナチュラルに“アリソンちゃん”でした。
阿部本当ですか!? 私は何も考えないノープランなタイプなんですけど。
芝井片言のセリフなんて、阿部さんがそのまま“アリソンちゃん”でしたよね?
玉置そうですね。
阿部私は事前にあまり声を作らず、お芝居もその場の感覚でやろうというタイプなので、そう言っていただけて本当によかったです。ありがとうございます。
芝井本当に素敵な“アリソンちゃん”でした。
畑中私の場合は、オーディションの時点で『サマーレッスン』のデモが発表されていて、リアルなものを追求されているということを知っていたので、台本を見たときは「リアルにこんな子いるのかな……?」と不安になりました(笑)。
一同 (笑)。
畑中「本当にこんな子がいたら、みんな怒っちゃうんじゃないかな?」と悩みつつ、オーディションに行きました。オーディションでは、けっこう上から演じてもいいということだったので、「もう、やってしまえ!」と、自分の中に眠るSな部分を目覚めさせて、思いっきり演じていたので、すごく楽しかったです。でも、やっぱり“ひかりちゃん”と“アリソンちゃん”のふたりとのギャップがあり過ぎて大丈夫かなと心配でした。
芝井畑中さんは、すごく頭がよくて、現場が何を求めているかを察知する能力がすごく長けているという印象でした。モーションキャプチャーが初めてということで、最初こそ「どういうところなんだろう?」という感じでしたが、求められるものを察知してからは、もう畑中さんのもので、どんどんこっちが心を揺さぶられて、「あぁ、この人になら踊らされたい」と思いました(笑)。
畑中いやいや、美香さんにはいっぱい助けていただいて、「ここ大丈夫でしたか?」といつも聞いていました。
玉置本当にたまたまなんですけど、3人ともバラけた方向性で独自のキャラクター性を作っていただけて、よかったです。オーディションでは、演技を見ることも少しありましたが、まずは声で選んで、演技は実際にやってみようという感じだったので。それが、結果的には体や表情の演技としてもそれぞれのキャラにピタッと合うキャスティングだったというのが、おもしろいですね。
畑中演技のオーディションもありましたね。私はいまでも忘れられないのが、そのときにスマホを落とすシーンをやることになったんですけど、玉置さんの私物のスマホを渡されて、「これを落とすの……」と(笑)。
一同 (笑)。
玉置大丈夫ですよ(笑)。
畑中落とせないと思って……。実際に落とせなかったんですけど、演技は続けました。
玉置じつはそのときは、顔の筋肉や表情がどれくらい豊かに動くのかをフェイシャル担当のエンジニアが見ていたんです。
――『サマーレッスン』では、いろいろなシチュエーションが登場しますが、お気に入りのシーンがあれば教えてください。

田毎私は、先生とひとつのイヤホンでいっしょに音楽を聴くシーンと花火のシーン(※『サマーレッスン:宮本ひかり エクストラシーン 花火大会(衣装&シチュエーション)』)が好きです。演じているときもすごく楽しかったですし、花火大会にしばらく行っていなかったので、お芝居で花火を感じることができてよかったです。ゲームをプレイすると“ひかりちゃん”と花火を見て楽しむこともできますし。そういう意味では、今度は遊園地に行ってみたいですね。あっ、あとじつは私は皆さんが『サマーレッスン』をプレイしている動画をこっそり見ていたりしているんですけど、ひとつお伝えしたことがあります。“ひかりちゃん”が喫茶店でメイド服を着てくれるイベントで、““回って”とお願いすると回って衣装を見せてくれるシーン(※『サマーレッスン:宮本ひかり エクストラシーン 喫茶店編(衣装&シチュエーション)』)で、皆さんは1回、2回くらいしか“回って”ってお願いしていないんですよね。でも、もっといっぱいできるようになっていて、セリフやリアクションも違うので、ぜひ見てみてください。ちなみに、私は収録現場で笑いを堪えるのが必死でした(笑)。
芝井収録時の思い出として、田毎さんは、バレエの経験あったので、回りかたが綺麗過ぎて、「もう少し雑に回って」とお願いしたこともありましたね。
阿部“アリソンちゃん”にもチア衣装(※『サマーレッスン:アリソン・スノウ エクストラシーン 応援編(衣装&シチュエーション)』)やスイカ割り(※『サマーレッスン:アリソン・スノウ エクストラシーン スイカ割り編(衣装&シチュエーション)』)など、見どころはたくさんあるんですけど、私は縁側で団扇を仰いでいる“アリソンちゃん”といっしょに座っていて、呼び掛けると「んっ?」と振り向いてくれるシーンが大好きです。ただの日常のワンシーンなんですけど、そこが美し過ぎてすごく癒されたので、イチオシです。
畑中私は、ダウンロードコンテンツの歌謡ショウ(※『サマーレッスン:新城ちさと 歌謡ショウ編(衣装&シチュエーション)』)ですね。ディナーショウのように先生のそばに行って、踊りながら歌うという内容なんですが、私はダンス経験がなくて、収録日まで朝起きて踊る、帰ってきたら踊るというように、くり返しがんばって練習したので、印象に残っています。たどたどしいダンスで、後から自分で見て「もっと、キレよく踊れよ!」と、もどかしくなったりしたんですけど、そこも楽しんでいただければと思います。あとは、Sっ気たっぷりなセリフのバリエーションも楽しんでください。
玉置ひどい話ですよね。ダンス経験のない畑中さんに歌謡ショウをお願いして、バレエの経験があってダンスが得意な田毎さんには、“ひかりちゃん”がソフトボール部なので野球のバットを振ってもらうという(笑)。
田毎私はずっと素振り(※『サマーレッスン:宮本ひかり デイアウト(追加体験パック)』)をしていました。
玉置そして、阿部さんもギター経験がないにも関わらず、特技がアコースティックギターのシンガーソングライターという“アリソン”を演じてもらいましたし。
阿部今回の収録でギターに初めて触わりました。でも、“アリソンちゃん”にとって、ギターの演奏は本業で、余裕綽々と弾けなければいけなかったので、バンダイナムコスタジオのサウンドスタッフの方に、ギターの弾きかたを教えていただきました。
――先ほど、田毎さんからは「遊園地に行ってみたい」という希望が出ましたが、阿部さんと畑中さんは、今後やってみたいシチュエーションはありますか?
畑中私は、玉置さんが泣いちゃうと思うんですけど……3人にいっしょに先生と何かをやりたいです。
阿部それいい!
畑中ようやく3人揃ったので、ゲーム内でも会いたいです!
阿部アリソンは大人しい性格なので、“ひかりちゃん”と“ちさとちゃん”からパワーをいただいて、お祭りとかでもっとはしゃいでいる“アリソンちゃん”を見たいです。
田毎これは絶対に3人で会わなくちゃ!
玉置うーん……。VRで実現するのは難しいかもしれないですが、何かの形で実現できるように、前向きに考えたいと思います(笑)!
――最後にファンの方にメッセージをお願いします。
田毎『サマーレッスン』は、3年前の東京ゲームショウでプレイステーション VR(※当時はプレイステーション VRのプロジェクト名“Project Morpheus”と呼ばれていた)の技術デモとして始まり、3キャラクターも配信できるようなところまでこられたのは、皆さんが応援してくださったおかげだと思っています。本当にファンの皆さんには感謝をしていて、ありがとうございましたとお伝えしたいです。
阿部「ついにここまできたか!」と感無量です。じつは、昨年の東京ゲームショウで『サマーレッスン』のステージを見学していたので、今年はステージに立たせていただけて本当にうれしくて、ファンの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。VRは実際に体験していただかないと魅力をお伝えするのが難しいですが、ひとりでも多くの方に五感に語りかけるようなシチュエーションをぜひ体感していただきたいと思います。あと、個人的な要望として、“アリソンちゃん”にミリタリーの格好をしていただきたいです。迷彩のパンツに泥んこまみれの“アリソンちゃん”を見てみたいので、これからも応援よろしくお願いします。
畑中 最初にプレイステーション VRを体験して感じたのは、“本当に自分たちの暮らしている世界がもうひとつそこにある”ということでした。この感覚は、2Dの映像ではどうしても伝わらないので、ぜひ、実際にプレイステーション VRを付けて実在感を体験していただきたいです。そうすれば私たちが「会いに行きたい!」と言っていることや、『サマーレッスン』のキャッチコピーである“彼女は、本当にそこにいる。”という意味を理解していただけると思います。ぜひ、3人の女の子たちと、いっしょに過ごすという感覚を楽しんでください。そして、既に『サマーレッスン』を楽しんでくださっている方々には感謝の気持ちでいっぱいです。今後も彼女たちをかわいがっていただけたらうれしいです。よろしくお願いします。
