アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスで、現地10月5日から8日にかけて行われたインディーゲームイベント“IndieCade”。
 既存の枠組みにとらわれないトリッキーなゲームが集まることの多いこのイベントの中でも、今年とくに注目を集めていたのが、HNRYによる『Fear Sphere』だ。

 『Fear Sphere』は、アシスト役の支援によりメインプレイヤーのダンジョンからの脱出を目指す、協力型のゲーム。
 DIY感あふれるドーム(※)の内側にメインプレイヤーが、外側にダンジョンの地図を持ったアシスト役がスタンバイし、「そこから何が見える?」「目の前が通路で、すぐ右に扉がある」「そうしたら目の前の通路を真っすぐ行って……」といった感じに通信でコミュニケーションしながらプレイする。(※外からは巨大なゴミ袋にしか見えないが、内側は加工してあったりして手は込んでいる)

ヘッドマウントディスプレイは使わないのに、かなりホラーVR。黒いドームの内と外、2人でプレイする脱出ゲーム『Fear Sphere』【IndieCade 2017】_01
怪しいバルーンの外側にいる人は協力者。施設の設計図を見て、内部の人の報告を元に助言する。『Keep Talking and Nobody Explodes』の変種といったところ。

 キモとなるのは、メインプレイヤーが持つ専用の改造フラッシュライトだ。実はミニプロジェクターとジャイロセンサーと処理系が仕込んであって、ドームの内側を照らし、向きを変えていくと、あたかも自分がダンジョンの中でそうしているかのように、“ゲーム中の視界”が浮かび上がる。

 そしてフラッシュライトの上部にはジョイスティックがついているので、これで移動を行える。VRヘッドマウントディスプレイこそ使用しないが、体験の構成要素としてはバーチャルリアリティとして成立しているというのがユニーク。

 また、“圧迫感がある中で不安定で不鮮明な明かりを頼りに周囲を把握するしかない”というのが、VR的に自分自身が全身で没入することで増幅されていて、ホラー体験としてのスリルもなかなかのもの(閉所恐怖症の人はマジでキツいと思う)。

ヘッドマウントディスプレイは使わないのに、かなりホラーVR。黒いドームの内と外、2人でプレイする脱出ゲーム『Fear Sphere』【IndieCade 2017】_03
中の人は専用の改造フラッシュライトを持ってプレイする。照らす方向を変えるとライトで映し出されるものも変わるという仕組み。
ヘッドマウントディスプレイは使わないのに、かなりホラーVR。黒いドームの内と外、2人でプレイする脱出ゲーム『Fear Sphere』【IndieCade 2017】_02
フラッシュライトには、“ゲーム画面”を映し出すプロジェクター(OPTOMA ML750)、移動をコントロールするためのジョイスティック、方向を検出するためのジャイロセンサー(MPU-6050)、そしてそれらの制御(Arduino Pro Mini 328)などが入っている。

 非対称の環境にあるプレイヤーが協力してゴールを目指すゲームデザインという点で言えば、本作は爆弾解体役とマニュアルを持ったアシスト役でプレイする『Keep Talking and Nobody Explodes』(こちらは製品版があり、VRヘッドマウントディスプレイ版もある)と共通する点も多い。実は記者が『Keep Talking and Nobody Explodes』を初めて見たのも、2014年のIndieCadeでのことだったりする(本誌で当時リポートしている)。

 その背景を説明しておくと、海外インディーの傾向的にはどちらも、“お互い近くでコミュニケーションを取り合うことに意味があるローカルマルチプレイ”という文脈にある作品で、『Fear Sphere』の場合は“専用ハードウェアによる発想の転換や拡張”といった文脈(※)も取り込んで、よりアトラクション的な方向性で実現しているという感じだ。(※『Fear Sphere』はIndieCadeより先に今年のGDCのAlt.Ctrlコーナーに出展されていたのだが、このAlt.Ctrlがまさにそういった専用ハードモノを集めたキュレーション展示となっている)

 ただし、いずれ『Fear Sphere』キットが発売されたり、このままどこかの施設で正式アトラクション化されるということは恐らく起こらないだろう。
 『Fear Sphere』は、IndieCadeやAlt.Ctrlに毎年いくつか出展される、ビデオゲーム周辺の“遊び”や“面白さ”を問い直す事が目的のプロジェクトのひとつであり、そういったプロジェクトは、チームの発想力や開発力の宣伝を兼ねていたりはするものの、そのまま製品化するためにやっているわけではないことも多いからだ(これを土台に発展させたものが形になる可能性はあるが)。こうした新しい提案を行うワンオフのレアなゲーム体験を味わえるのも、またIndieCadeの醍醐味のひとつと言えるだろう。